Phase1-カギ-
あれから5年。もう5年もたった。でも、諦めきれていない自分がいる。大学最後の夏休みも、あと半分。「ちょっとジュン、紅茶がぬるいのだわ」「・・・」「ジュン?聞いているの?」「ん?あぁ、ごめん。なんだっけ?」「人の話くらいちゃんと聞きなさい。全く使えない下僕なのだわ」僕をこき使う、この女王気質の女性の名は真紅。関係上、彼女と言うことになる。「・・・ジュン?」「ん?どうした?」夕立ち。感傷に浸っているだけ、と言われればそれだけかもしれない。だが僕にとっては何よりも大切な-隣にいる女性よりも-思い出へのカギ。「なんだか悲しい顔をしているわ」「気のせいだろ?」「そうかしらね?」「・・・」「クッキー、あなたも食べる?」「あぁ、もらうよ」「私の自信作よ。心して食べなさい」 こいつの料理ベタはかなりもの「だった」。塩と砂糖をおもっきし間違えるなんて、まだかわいい方だったし。それが今では・・・「どう?」「うまいよ。クッキーは妙にウマくなったな」クッキーだけは、妙にウマくなった。「当然よ」「そうか」「雨」「ん?」「あがったわね」「あぁ」「散歩でも行こうかしら?」「そうだな」外に出ると、打水の効果は抜群にあった。心地よい風と、冷却された地面。「いい風ね」「そうだな。いつもこれくらいだと助かるんだけど」「本当ね」蜩が鳴く。「ジュン?」「・・・」「ジュン!」「あぁ。ごめん・・・」「一体どうしたっていうの?説明して頂戴」「何でもないよ」そう、何でもないなんて嘘に決まってる。彼女に、真紅に自分の過去を話したことはあまりない。高校時代の話は特に。何もない淡白な高校生活だった。としか伝えてはいない。まぁ、彼女はその点に深く疑問を抱いているが。それでも、そうとしか僕は伝えるつもりはない。理由は簡単。本当は、未だに彼女のことを愛し続けているから。翠星石は、今頃どこにいるのだろうか?知ったところでどうすることもできない、弱い自分がいる。こんなんじゃ、彼女は振り向いてはくれないのに。Phase1Fin.
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