きらえもんⅢ
僕にとって永遠とも思える時間──僕は布団の中で、窓辺から射し込む鋭い月明かりを浴びていた。細めた視界に下りたまつ毛が月の光を細く切り裂く。
すー。すー。
暗闇の中、僕の傍から聞こえる規則的な寝息だけが静寂を破っていた。
そう。つまりは── きらえもんさん。何故貴女は僕の隣で寝ているのですか?…ということなんです。
きらえもん/Ⅲ
仮にも僕は今日知り合ったばかりの男のはずです。何故、ここまで発展しているのでしょうか。文明開化どころの騒ぎではありません。…僕は思います。
うわぁーっなんかいいにおいがするぅーっ。
…健康的な中学生男子の思考なんてそんなものです。暴徒と化した吉田議員(28)の振るう凶刃に、脳内警察官の方々(理性)が倒れていくのを黙って見ているしかありません。
──さぁ少年ッ!自らを解き放て!下らないストッパーをぶち壊せッ!
流石にそれはマズいのではないでしょうか…。
──その娘は君の妻となることを望んでいる!迷うな!感じるんだ!
…こういう時は…円周率を数え…て凌ぐ…んだ、桜田ジュン……ッ!3.14159──っ!?
「うわっ!?」「むにゃ… ジュン様ぁ……」
何の前触れも無く僕の身体に絡められた腕は、言うまでもなくきらえもんのもの。これには僕だけでなく、吉田議員(28)も飛び上がりました。……飛び上がったとは言っても、身体はガッチリと抱き締められているのですが。
ぐるるるる…。ぐるるるる…。
吉田議員。一つだけ言わせて貰いましょう。
──何だい、少年。
『不可抗力』って僕は嫌いなんです。…だから、今からすることは『あなたの命令でしたこと』じゃなく、『僕がしようと思ってした』ってことを忘れないで下さい…!
──非常に男らしい立派なセリフじゃないか。
僕はグッと目を閉じ、そこで会話(?)を終えました。そして、腰に回されているきらえもんのか細い腕を丁寧に手繰り寄せ、お互いに正面を向く形に。5cm先の唇。吹き付けられる寝息。───それらは僕の理性の残滓を跡形もなく消し去ってしまいました。
「きらえもん…いや、雪華綺晶さん。ごめんなさい。僕、我慢できそうにないです…」
欲望のままに雪華綺晶さんの唇を貪る。貪る。貪る。舌が触れ合う度に僕のまじゅう(13さい)が反応します。…そんな時でした。
「………んむっ゛!?」
何の前触れも無く、僕の舌が雪華綺晶さんの舌に絡め取られたのは。驚いた僕は思わず顔を離してしまいました。
「ま、まさか……」「何がまさかなのですか?」「うわっ!?え、その… いつから起きて…」
月が静かに雪華綺晶さんの朱く染まった頬と潤んだ瞳を照らしていました。
「いつから……?私はずっと起きていましたよ?寝込みを襲…ゲフン。 ジュン様の寝顔を拝見させていただこうと…。──それより」
ギクンッ。
「ジュン様… 『そういうこと』をなされるのなら──」「ごめんっ!本当にごめんっ!」「…私に一言言って下されれば」
………雪華綺晶さんの口元が緩む。…いや、歪む。その瞳には怪しげな光が宿っていて、僕は身体中が竦んでしまい──
「いつでも──ね?」
まじゅう(13さい)に雪華綺晶さんが手を伸ばしたところで、僕はようやく気付きました。不可抗力とは、こういうことを言うのだと。
「不束者ですが、宜しくお願いします」
翌朝、顔を洗う時に鏡に映った僕の顔は酷くやつれていました。……脳内議員の吉田さん(28)は自首したそうです。
…僕の未来はどっちだ。
To be continued...
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