第九十八話 JUMとコタツ
「一つ屋根の下 第九十八話 JUMとコタツ」
「ふぁぁっ……眠い…」ギシギシと音を立てて僕は階段を降りる。時間は朝の8時少し過ぎ。眠いのなら寝とけよ、と言われそうだが生憎喉が渇いててこのままじゃ寝れそうにない。そんな訳で僕は台所へ向かっていた。「何か飲み物はっと…コーラあるな。」僕はコーラをコップへ注ぐ。シュワワワワ!とお馴染みの音を立ててコップがコーラに満たされていく。僕はそのコップを持ちリビングへ向かう。誰か起きてるかな?とドアを開く。すると、そこには……「す~……す~……」コタツで寝ているキラ姉ちゃんと薔薇姉ちゃんが居た。コタツのテーブルの上にはPS2。多分、二人で深夜アニメでも見た後遊んでたんだろう。僕はテレビのリモコンを握りコタツの中に足を入れる。お、温い。「何かテレビやってないかな……今日は平日だからニュースくらいしかやってないか?」ちなみに、言うまでもないが平日だけど冬休みではある。適当な番組にチャンネルを合わせてコーラを一口。「んん~……むにゃ……」声からして薔薇姉ちゃんだろうか、少し大きな寝息。改めて二人を見ている。寝るときだから二人とも眼帯はしていない。ツーサイドアップの髪も今はストレートだ。そしてお互い抱き合って寝ている。僕は思わずその髪に触れて見たくなって手を伸ばす。薔薇姉ちゃんの紫がかった髪が手の中でサラサラと流れる。そのまま少し手を伸ばしてキラ姉ちゃんの髪も同じように触る。綺麗だ、本当に。「んん…JUM……?」声の元を見れば、薔薇姉ちゃんが少しだけ目を開いていた。起こしちゃったかな?「あ、ごめん薔薇姉ちゃん。起こしちゃった?」「んん~…大丈夫……JUMも……ここ入る?」薔薇姉ちゃんが目を両手でゴシゴシと擦る。その子供っぽい仕草の後バッと両手を広げる。「ここって……まさか二人の間に?」「うん…えーと…姉妹さんどいっち?」要するに、二人の間に挟まれる形で一緒に寝るか?という事らしい。「やめとくよ。変な気持ちになりそうだし。」「変な気持ちになればいいのに……む~……やっぱり眠い……」薔薇姉ちゃんは再び目を擦る。本当に眠そうだな…何時に寝たんだろう。
「やっぱり…3時間くらいしか寝てないと…眠たいね……きらきーと深夜アニメみて…連ザ2やってたら…」3時間って言うと、朝の5時までゲームしてたのか。そりゃあ眠いに決まってるな。キラ姉ちゃんなんて起きる訳がない。あの人は6時間は寝ないと体の電源が入らない仕組みになってるらしいし。「ほら、薔薇姉ちゃん。寝るなら部屋で寝なよ。そろそろ姉ちゃん達起きて来るだろうし。」「うん…そうする……JUM…きらきーを部屋まで運んであげて…じゃあお休み…ふぁあ…」薔薇姉ちゃんはそれだけ言うとフラフラしながら部屋に向かっていく。途中ゴツン!と音がしたけど大丈夫かな。「さって…僕もキラ姉ちゃん部屋に運ぶかな……よっと!!」とりあえず僕はキラ姉ちゃんのワキを持ってコタツから引きずり出す。無論、起きない。そうきっと何しても……「そう思うと余りに無防備な姉に性欲を持て余しているJUMは息を荒げた。」「ハァハァ、キラ姉ちゃん…ぼ、僕は………って!銀姉ちゃん、変なナレーション入れないでよ。」「あらぁ、JUMもノリツッコミなんて朝からご苦労様ねぇ。」後ろを振り返るとネグリジェ銀姉ちゃんが立っていた。所々髪が跳ねているのは寝癖だろうか。「まぁ、そろそろみんな起きて来るから動かしてあげないとね。銀姉ちゃんも少し手伝ってよ。」僕は銀姉ちゃんにそう言うとキラ姉ちゃんの首と膝の裏に手を回して持ち上げる。まぁ、お姫様抱っこだ。「いいわよぉ。本当に性欲に駆られたJUMがきらきー襲わないように監視しないといけないしねぇ。」いや、ないし。多分……しかし本当軽いな。キラ姉ちゃんの食べた物はドコに消えてるんだろうか。「しょっと……銀姉ちゃんドア開けて。後キラ姉ちゃんの部屋のドアも。」銀姉ちゃんは分かったわぁと言って先ずリビングのドアを。そして階段を登りキラ姉ちゃんの部屋のドアを開けに。僕はなるべくキラ姉ちゃんを起こさないように慎重に運ぶ。なるべくキラ姉ちゃんを見ない様に。と、言うのも…寝苦しかったのかパジャマの胸元のボタンが開いてる訳で。下を見れば豊かな胸の谷間が目に入っちゃう訳。階段を踏み外さないようにゆっくり慎重に登っていく。登りきるとキラ姉ちゃんの部屋の前で銀姉ちゃんが小さくアクビをしながら待っていた。そのままキラ姉ちゃんの部屋に入る。そういえば、キラ姉ちゃんの部屋に入るのは案外久しぶりな気がしなくもない。キラ姉ちゃんって、あれで案外ファンシーなんだよ。可愛らしいヌイグルミが飾ってあったり。ベッドには抱き枕もある。「こぁら、あんまり女の子の部屋を舐めるように見たらダァメ。」ぺシっと銀姉ちゃんに叩かれる。案外図星だった僕はキラ姉ちゃんをベッドに寝かして毛布を掛けると部屋を後にした。ちなみに、薔薇姉ちゃんの部屋の様子も見ると、ドア開けて5歩程度で力尽きたのか床でそのまま寝ていたのでベッドまで運んであげたのは別のお話。
「はぅ~…オコタで蜜柑は最高ですねぇ~。」「うん、お茶も美味しいし。日本人でよかったなぁって思うよ。」お昼過ぎ。リビングに行くと翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんがコタツで軽くお茶会を繰り広げていた。「お、JUMイイトコに来たです。台所から蜜柑持ってきやがれです。」「はぁ?自分で取りに行けばいいじゃないか。」「嫌です。寒いです。まだコタツに入ってないJUMが取りに行くのが一番効率がいいんですよ。分かったらちゃっちゃと取りに行きやがれですぅ。3秒で持ってくるですよ?」僕は翠姉ちゃんに圧されて渋々台所へ行く。蜜柑蜜柑っと……あった。網に入ってるって事は買ってきたばかりかな。僕はついでにコップにコーラを居れて蜜柑と共にリビングへ戻った。「遅いです!3秒はとっくに過ぎているですよ。罰として翠星石の隣に~…」「気にしないでいいよJUM君。あ、コタツ入る?よかったら…」ちょいちょいと蒼姉ちゃんが手招きする。何かギャーギャー抗議する翠姉ちゃんは華麗にスルーしてテーブルに蜜柑とコップを置いて、蒼姉ちゃんの隣に座る。コタツの中に足を入れると足から体が温まってくる。「ん~、温かい。いいよね、コタツって。」「うん、冬の代名詞だよね。僕もコタツ好きだよ。」蒼姉ちゃんが蜜柑をむきながら言う。さっきまで一人イライラしていた翠姉ちゃんも疲れたのかムッツリしながら蜜柑を半分に割り、そのまま丸呑みしている。「…………し………らぁ~………」ふと。どっからか今にも消えそうな小さな声がする。翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんにも聞こえたのかキョロキョロ辺りを見回している。しかし、その声の主は全く見当たらない。「……かぁ~……しぃ~……らぁ~……」「カナ姉ちゃん!?どこ?」「かしら」何て言うのはカナ姉ちゃんくらいだろう。消えそうな声というより、どこか死にそうな声な気すらする。そしてどっか篭っているような……篭る?まさか……「うわぁ!!カナ姉ちゃん!!ちょっと、しっかりして!!」僕はバサッと布を捲る。その中でカナ姉ちゃんは顔を真っ赤にして目を回していた。僕は慌ててカナ姉ちゃんを引きずり出す。「ちょ、ちょっと金糸雀?えっと…とりあえず僕水持ってくる!翠星石、その雑誌で扇いであげて!」蒼姉ちゃんがバタバタと台所へ。翠姉ちゃんも言われるままに雑誌でカナ姉ちゃんを扇ぎだした。「熱を逃がさないと……JUM!ちょっと部屋から出ろです!この馬鹿の服脱がすですから!!」ガーッと僕を捲くし立てる翠姉ちゃん。服を脱がすなら僕はいたらマズイ。そんな訳で僕はリビングを出た。
「で?何でコタツの中なんかにいたのさ?」それから約20分後。ようやく意識を取り戻したカナ姉ちゃんに尋問が始まった。「えっとね…雛苺とかくれんぼしてて…いい場所ないかなぁっと思ってたらコタツがあって…そのまま寝ちゃった…」何とも簡単な理由である。翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんがコタツに足入れても気づかなかったのも、ひとえにカナ姉ちゃんの体が小さくて、さらに丸く縮こまってたからのようだ。で、二人がコタツのスイッチを入れたから中で茹でカナになったと。そういう事らしい。「はぁ…こいつが次女だと思うと翠星石は頭が痛くなるです。」さすがに翠姉ちゃんも頭を抱えている。春から大学生がかくれんぼするのがある意味素晴らしい。「うぅ~…カナ死ぬかと思ったかしら~。」「一回死んだ方がいいです。死んでもおめぇの馬鹿は直りそうにないですけど。」「翠星石、言いすぎだよ。でも金糸雀も注意不足だよ。」でもまぁ、カナ姉ちゃんが無事でよかったよ。これで最悪の事態になってたら、新聞の見出しを見るのが怖い。『18歳の才女、コタツの中で死亡!!』とかもう笑えそうにない。そんな事思ってたら、リビングのドアがギイイと開いてヒナ姉ちゃんがやってきた。「あっ、かなりあ見つけたの~!じゃあ次はカナが鬼なのよ~。」「ちょ、ちょっと雛苺。カナはもうかくれんぼしないかしら。」「うゆ…じゃあかなりあは約束どおり罰ゲームなのよ。今から不死家でうにゅ~買って来るの~!」かくれんぼで賭けでもしていたんだろうか。先にギブアップした方が負け、とか。さすがのカナ姉ちゃんも、先の失敗のせいか大人しく苺大福を買いに行くのを余儀なくされたようだった。
「あっははははは!そぉんな事あったのぉ?金糸雀ったらほんとにほんとにお馬鹿さぁん。」夜。コタツの上のテーブルに乗っているホットプレートを囲んで僕等は夕食を食べていた。今日は焼肉だ。「うぅ~、そんなに笑わないでよぉ。カナは本当に大変だったんだからぁ。」「それは貴方のミスでしょう。全く、お行儀が悪いわよ?レディとしては少し情けないわね。」今日のカナ姉ちゃんをネタに銀姉ちゃんと真紅姉ちゃんが容赦なく言う。「でも、金糸雀の気持ちは分からなくはない……私もきらきーも本当は部屋に戻るつもりだった……」「そうですわね。そうしたらついついウトウトしてしまって…薔薇しーちゃんとコタツで寝てしまいました。」そう言えば、二人は朝コタツで寝てたな。まぁ、カナ姉ちゃんのように体ごと中に入ってはいなかったけど。「まぁ、僕もたまにコタツでうたた寝しちゃうしね。」「そうですねぇ。蒼星石はこの前コタツで宿題してたらそのまま眠ってしまって……」「ちょ、ちょっと翠星石!!それは~……」「あ、ヒナも知ってるの!蒼星石のお顔に漢字が沢山写ってたのぉ~!」蒼姉ちゃんにしては珍しい事だなぁ。そういえば先日必死に顔を洗ってるのを見かけた気がするけど…それかな。でもまぁ、何にしてもコタツっていい物だ。冬には欠かせない。蒼姉ちゃんの台詞じゃないけど、日本人でよかったなぁなんて思ってしまう。コタツを発明した人に乾杯。
「ふぁ……そろそろ寝るかな……っと、その前に…」時間はすでに深夜1時ごろ。リビングに居るのは僕だけだ。僕はコタツに近づくとカチッとスイッチを切る。「今日もご苦労さん、コタツ君。また明日も宜しくな。」一言、コタツに労いをかけてやると僕は部屋へ戻っていった。END
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