病室のひだまり
「綺麗ね…」白い部屋で白いベッドの上に居る血の気の失せた病的に白い肌をした黒髪の少女は、僕の手元を見ながら心地よさそうに目を細め、感極まったため息混じりで言葉を発し、うっとりとしていた。「そ、そんな大袈裟な反応しなくてもいいだろ…」顔が熱くなる感覚に戸惑いながら、僕は素直に思った事を口に吐いた。そんな僕の反応が面白いのか、くすくすと彼女は笑いを溢すばかり。「あら、だって本当に綺麗よ…。いったい、何になるのかしら」笑うのを止めて口を開いて、そっと僕の手にある作りかけの刺繍をそっとなぞりながら、またふふっと笑う。そんな彼女を見ながら、また頬が熱くなるのを感じた。そして手元にある、作りかけである刺繍入りの布を見る。
―何になるのか、か…。正直、何を作るとは考えてはいなかった。ただ彼女と談笑しながら、その間にちょこちょこと刺繍を入れているだけなのだから。「ねえ、ジュン」「…あ、なんだ」突如かけられた言葉に、色々と考えを巡らせていた脳が一気に現実に引き戻された。彼女と顔を合わせれば先程の微笑んでいた表情とは違い、真剣な瞳で僕の瞳を見つめている。ドキッと胸が高鳴った。しかしふと表情が緩まり、いつもの儚さを添えた、しかし悪戯っぽい微笑みを見せた。不覚にも、また胸が高鳴った……。「これ、完成したら私に頂戴な」「えっ…」「だめ?」いきなりの申し出に驚きが隠せず、声を発していた。透かさず、彼女は眉を下げ、瞳を潤めておねだり攻撃をしてきた。いや、可愛いな…なんて思いながらも、また「だめなの?」と聞いてきた。だめじゃないけれど………
「…僕が作ったものでいいのか……?」一抹の不安があった。こんな安物で僕が作ったものより、光り輝く魅了する"素敵"なものがある。まだまだ未熟なものより、洗練されたものの方が……「ぷっ、あははっ」吹き出したと思えば、お腹を抱えて笑い続ける彼女。何が可笑しくて笑っているのかが、わからず挙動不審になる。一通り笑い終えると目尻に溜まった涙を人差し指で拭き取り、落ち着こうと大きく息を吸い込む。まだまだ笑い足りないのだろうか、微かな笑い声が漏れる。「な、なんで笑って…」「だって、そんな事で不安そうな顔してるんだもん。あー、お腹痛い」笑い過ぎたせいなのか、頬を赤く染めてこちらを見て、にっこりと微笑んだ。そんな彼女を見て、一気に脱力感に見舞われた。
「私はね、無機質な大量生産品よりも例え見ず知らずの人間が心を込めて作ったとしても、ジュン、まだまだ未熟だけど、あなたが作ってくれたものが何より私は大好き、素敵だと思うわ」か細い腕でぎゅっと抱き締めてくれる、温かなきみの存在が…、とても愛しい。「―――……うん、めぐのために"素敵"なものを作るよ…」時はあっという間に過ぎて、夕日が白い部屋を茜色に染め上げる。そして、看護士さんが面会の終わりを告げた。名残惜しそうに彼女に別れを告げれば、吸い込まれそうな程純粋なにっこりとした微笑みを返され、「…楽しみにしてるから」頬にそっと口付けを落とされた。夕日が僕の顔を朱に染め上げた。終わり
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