エピソード013 圧倒的な力
「蒼星石……コイツです……あの馬鹿みたいな魔力放ってるのは。」「うん、僕も感じる。コイツだけはヤバイ……」チャキっと音を鳴らして剣を構えなおす蒼星石。二人の目の前には、黒く長い髪の女が立っている。その女は口では表現できないほどの威圧感を誇っていた。下手に動けばあっと言う間に殺される。「……おめぇがあの魔法使った奴ですね?一体……何を取り込んでやがるですか?」「そう、貴方達魔力を感知できるの?耳、尖ってないけどエルフなのね……ふふっ…」その女、ケレニスは二人を見て微笑する。氷のように冷たい笑い。蒼星石の背中がゾクッとする。「お前は通さない。通せば、ギランは落ちる。」「あら、賢い。貴方達がボーダーラインと言う事?いいわ、丁度退屈してたの。雑魚ばかりでね……」ケレニスを中心に魔力を帯びた風が舞う。その風は触れるものを切り刻むかのような烈風に姿を変える。「じゃあ、殺り合いましょうか……トルネード……」ギュオオオオと大きな音を立てて、ケレニスを中心に竜巻が巻き起こる。「っ……トルネードを詠唱なしで使うって意味わかんねーですぅ!!」「……トルネードを唱えて減った魔力がすぐに補充されてる?これは一体……」翠星石と蒼星石は、ケレニスを囲むように二手に分かれる。そして、竜巻が収まったのを見計らい攻撃をしかける。蒼星石が、ケレニスに接近する。ヒュンと大きな剣が振り下ろされる。ガツッと音を立てて大地が削れる。そのまま横に剣を薙ぐ。ケレニスは魔術師とは思えない身のこなしで、ギリギリで剣撃をかわす。「そう動くのはお見通しですぅ!!」しかし、翠星石がケレニスの移動先を予測して矢を放つ。風によって作り出された白い矢がケレニスに向かって飛んでいく。しかし、それも駄目。ケレニスが矢を見ずに手を向けると5本の炎の矢を放つ。ファイアーアローで弾幕を張ったのだ。そして、それは翠星石への牽制にもなる。「無詠唱で5本……チビ苺が詠唱した数と同じ……本当に化け物です……」
「はぁああああっ!!!」蒼星石は果敢にケレニスに向かってレンピカを振り回す。しかし、それは風に舞う木の葉のようにかわされていく。「元気ね……でも少し疲れたから離れてくれないかしら?コーンオブコールド!!」ケレニスが蒼星石に手を向ける。掌から大きな円錐形の氷の剣が作られ、飛ぶ。「早い!?うわっ!?」ガン!!と音を立てて蒼星石が、レンピカで氷の剣を受け止めるがその衝撃に大きく吹き飛ぶ。「蒼星石!!調子に乗るんじゃねぇですよぉ!」瞬時に3本の矢を放つ。エルフの弓術トリプルアロー。ケレニスは今度は翠星石の方を見て、笑った。「ふふっ、その程度?矢と一緒に燃えつきなさい……ファイアーボール……!!」ケレニスが巨大な火球を作り出し放つ。その火球は矢を巻き込むと、そのまま翠星石目掛けて飛んでいく。「ぐっ……翠星石!!かわして!!」蒼星石の声に言われるまま翠星石が、真横に飛び込みながら回避行動を取る。しかし、これは不味かった。火球は翠星石の居た場所で爆発すると、小さな火球を幾つも生み出し翠星石を襲った。「!?しまっ……」「さよなら、エルフのお嬢さん……」ケレニスが蒼星石の方へ振り返り……そしてもう一度翠星石の方を見た。火球が爆発したせいだろう。砂埃が舞っている。その砂埃の先。3つの影がケレニスの方を見ていた。埃が晴れる。そこには、見覚えのある顔が二つも並んでいた。「あっちぃ……無事か?性悪。」「JUM……?それに真紅も……」ファイアーボールから翠星石を守ったのはJUMの盾だった。エルフ族の盾は、ケレニスの魔法をも防いだ。「あらぁ……?どこかで見た顔と思えば。桜田の坊やとお姫様じゃない……ご機嫌麗しゅう?」「そうね、貴方のお陰で麗しくないわね、ケレニス!!」「まぁ怖い。でも、本当に生きていたのね……報告だけは聞いていたけど……」「覚悟なさい、ケレニス。貴方は残念だけどここで死ぬわ。」
真紅、JUM、翠星石、蒼星石が4方向から囲んでケレニスと対峙する。「私が?ここで?随分大きく出たわね、世間知らずのお姫様は……」「貴方こそ、4人を相手に勝てると思って?まさか、卑怯とは言わないわよね……」ケレニスが、順々に4人を見回す。そして笑った。「あっはははははは!!卑怯?たかだか4人くらいで?ふふっ……お姫様?貴方は私を甘く見ているようね。丁度いいわ……2人だろうが4人だろうが関係ない事を……」ケレニスが両手を真横に広げる。右には翠星石。左には蒼星石がいる。「教えてあげるわ!!コーンオブコールド!!」片手ずつ、2本の氷の剣を作り出し放つ。そして、そのまま90度体を動かし真紅とJUMにもコーンオブコールドを放つ。そして、間合いが離れたのを見ると詠唱に入った。「死を運ぶ冷たき風よ 罪深き者を無慈悲に葬れ……ブリザード!!」それは幻想的ともいえる光景だった。アデン王国には、一部の地域を除けば雪というものとは無縁だった。雪に無縁なら、吹雪に縁があるわけがない。ケレニスの魔力は、極寒の吹雪をも作り出した。魔力の宿った冷気が、広い範囲で真紅達に襲い掛かる。「さむっ……いたっ……からだが……」冷気に晒され、真紅は体の自由が利かないでいた。ホーリエを持つ手もガタガタ震えている。足を動かそうにも、足の筋肉が完全に麻痺している。「ぐっ……真紅……真紅……!!うああああああああああああ!!!」それでも、無理矢理体を動かしたJUMはケレニスに襲い掛かる。ケレニスはそれを見てクスッと小さく笑う。「頑張るわね、坊や。でも寝てなさい。大地よ隆起せよ 汝は荒れ狂う地霊の咆哮…イラプション。」ケレニスの足元を起点に大地が盛り上がりJUMに襲い掛かる。「これ…くらいで……ぐああっ!!」JUMは盾を全面に押し出して突進して魔法を迎え撃つ。しかし、ブリザードでダメージを負った体はイラプションを防ぐには余りに脆かった。隆起した大地にJUMは大きく吹き飛ばされた。
「チビ人間!!くっ……何で翠星石の体は動かないですか…?動くですよ…チビが……チビがっ…」翠星石が懸命にJUMに治癒を施そうと体を動かそうとするが、全く動く気配がない。それどころか、翠星石は意識すら今にもブラックアウトしそうだった。「あっけないわね、坊や。さ……後はお姫様も殺って終わりね……!?」膝をつく真紅に向かうケレニスが横からの気配に体を捻る。その刹那、大きな剣がケレニスの長い黒髪を数本舞わせる。その眼光の先には、蒼星石。「真紅はやらせない!!」上段から振りかぶってケレニスの頭目掛けてレンピカを振り下ろす。決まった、かわせない。「なっ………」しかし、それは完全に振り下ろせればの話。ケレニスの手は蒼星石の手首を片手でしっかり握り、剣を振り下ろさせないでいた。そして、もう片手で蒼星石の腹部に触れる。「邪魔よ……爆ぜよ残酷な太陽 灼熱の光を発せ。サンバースト…!!」掌から発せられた膨大な火の魔力。それは、小さな太陽をも思わせる熱量。目も眩むほどの爆発と一緒に蒼星石は宙を舞った。「JUM……蒼星石……翠星石……」「死んだわね。さ、お待たせしましたお姫様?」コツコツおケレニスが足を進める。真紅の目はケレニスを鋭く睨んでいた。「ふふっ、いい目ね…その目を潰せると思ったら……ふふふっ、こんな快感ないわね…」ケレニスが真紅に掌を向ける。その顔は狂気に滲んでいた。「ケレニス……私がここで倒れても…残った意志が貴方達をきっと倒すわ……」「そう……じゃあ、それを期待して待ってますねお姫様?では、死になさい?」真紅はギュッと目を瞑る。ケレニスの掌から今に魔法が放たれる。その時だった。地中から現れた薔薇の蔦がケレニスの体を体を羽交い絞めにする。棘のある蔦は、ケレニスの皮膚を突き破り傷を負わせる。「なっ……!?一体誰がこの私に傷を…!!」「う……それ以上真紅達を苛めたら……絶対絶対許さないの!!!」To be continued
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