第五十八話 JUMと全員リレー
「一つ屋根の下 第五十八話 JUMと全員リレー」
「おはようみんな!担任の梅岡だよ!!」朝一で何時ものように登場する我らが担任、梅岡。何でこいつは分かりきってる自分の名前を毎朝言うのだろうか。自分が印象薄いから印象つけてるつもりだろうか。実際濃すぎるくらいなんですが。さて、学校祭最終日。もちろん、体育祭も最終日。ある意味今日で僕の貞操の運命が決まる。生存か滅亡か。現在ウチのクラスは学年2位だ。もちろん、応援合戦の結果次第だがなるべく上位を狙うに越した事はない。また、3位、4位もそれぞれ真紅姉ちゃんとキラ姉ちゃんのクラスが追ってきてるので油断は全く出来ない。「今のところ1-Dは1-Bに次いで2位。でも、今日の競技で逆転は充分に可能だと思うんだ。それには先ず全員リレーを勝たないとね。クラスみんなでバトンを繋いで友情を確かめる競技。先生思うんだ。友達ってのは学校生活で……」梅岡の毎度お馴染みの話が始まる。まぁ、コイツは放って置いて全員リレーだ。これは学年対抗競技で、得点もデカイ。内容はその名の通り、クラス40人全員が走るリレーだ。グラウンド1週200mを120mと80mに割り、全部で20週することになる。基本的に男子が120、女子が80となっている。もちろん、不足分は誰かが2週すればOKだ。ウチは40人キッカリなのでみんな1週ですむ。先頭は男子の120m。アンカーが女子の80mだ。ちなみに、僕はあまり走るのは早くない。よって、走る順番も27番目と微妙なトコだ。「……他のクラスのアンカーは……知ってる限りで…巴と真紅ときらきー……手ごわい……」隣で薔薇姉ちゃんが言う。薔薇姉ちゃんはウチのクラスのアンカーだ。ちなみに、先頭ランナーはべジータになっている。どの道、楽に勝たせてもらえる気配はない。柏葉は知っての通りスポーツは万能だ。1-Bがトップを走ってる要因の一つでもある。真紅姉ちゃんも基本インドア派だが、あれで相当に負けず嫌いだ。キラ姉ちゃんは目的のためには手段を選ばない節がある。油断はできない。「よし、それじゃあ最終日だ!!気合入れていこうぜ!!」一人で黒板に話している担任を置いて僕らは運動場へ出て行った。
「きゃーーー!!カナ頑張ってええええええ!!!!」カナ姉ちゃんが一生懸命走っている。一歩一歩は小さいけども動かすペースは早い。なかなかの快足だ。みっちゃんさんが大騒ぎでカメラのシャッターを切りまくっている。元気な人だな、ホント。現在3年生のクラス対抗リレーが行われていた。順番的には3年、2年、1年なので僕らはもう少し先だ。『さぁ、いよいよアンカーへのバトンが渡されようとしています!現在トップは3-E!!アンカーは御存知我らがアイドル水銀燈だあああああああああああ!!!!』うおおおおおおおお!!!と男の声があがる。「はは、すげえ人気……」「銀ちゃんは……綺麗だからね……」銀姉ちゃんはいかにも余裕な顔をしている。まぁ、得点もトップだしこのまま適当に走っても3年の学年優勝は銀姉ちゃんの3-Eで確定だからだろう。銀姉ちゃんにバトンが渡されると同時に姉ちゃんは地を蹴る。パッと砂が舞い体が風を切る。下ろしたままの白銀の髪が風に揺れる。その真紅の眼はゴールを見据えて。その姿はただただ……美しかった。もっとも、一般的(?)な評価はと言えば「おっぱい!!おっぱい!!」とバルンバルン揺れてる銀姉ちゃんの胸に視線が言ってるようだが。ああ、めぐ先輩。貴方までその踊りに参加しないで下さい。銀姉ちゃんは最下位のクラスを1週遅れにして2位との差も広げダントツで1位でゴールした。「ふぅ……まぁ、こんなモノよねぇ。」息も上がってない。汗もかいてるようには見えない。文字通り、『余裕』だったんだろう。「ん~……銀ちゃん早い……あれでも本気じゃなさそう……」薔薇姉ちゃんが言う。確かにまだまだ底が知れない。銀姉ちゃんが凄いと思うところはまさにそこ。僕はもしかしたら銀姉ちゃんの本気ってのを見た事がない気がする。本気になる必要がないのかもしれない。『続いて、2年生の全員リレーです!!選手は入場して下さい。』2年生の全員リレー。現在得点トップは翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんの2-C。多分これも余裕で確定だろう。だが「えっ……翠姉ちゃんがアンカー……?ってことは……」「……蒼星石がアンカーの前……120走るみたいだね……」正式なところ、男子が80でも女子が120でも問題は全くない。全員で走ればいいのだから。ただ、体力面とかで女子は自然と80に回されてるだけであって。男子の事実上のアンカーであるラスト前にいる蒼姉ちゃんはある意味、異形だった。
『それでは、2年生の全員リレーを始めます!!位置について………』パーン!!と競技銃の音が響き渡る。先ずは120m。よって、全クラスが男子の走者だ。続いて、80m。全クラス女子生徒がバトンを受け取り次の走者に向かって走っていく。そして、バトンを渡してようやくグラウンド1週だ。合計20週回る計算になるね。「JUM、そろそろ準備運動くらいしとけよ。筋肉を温めるのは大事だぞ。」べジータがグッグッと伸脚をしながら言う。気持ち悪い言い方だが、ベジータは脳味噌まで筋肉だけあって、凄い体をしている。う~ん、何か言い方が気持ち悪いけど……「うん……JUMが怪我したら……大変…」薔薇姉ちゃんもぐ~~っと筋肉を伸ばしている。グッグッと体を前に倒し、手を腰に当てて体を後ろにそらす。突き出された胸にドキドキしてしまう。僕はそれを誤魔化すように屈伸運動をした。うん、前屈みごまかしね。「よし、そろそろ集合だ。行こうぜJUM、薔薇嬢!!」無駄に熱い男、べジータが僕等を先導する。と、その時場内から歓声が沸き起こる。「きゃーーーー!!!蒼星石せんぱ~~~い!!!!」蒼姉ちゃんに向けられる黄色い歓声。何時の間にか2年生の全員リレーも最終盤だ。「蒼星石~~!!頑張るですよ~~~!!」翠姉ちゃんが蒼姉ちゃんに声をかける。現在蒼姉ちゃんは3位。それもあっと言う間、すぐ前にいた男子をインから抜きさる。これで前に居るのは一人。「蒼星石早い……!!多分、前の男子も抜くよ……」「うっひょーーー!!さすが蒼嬢!!俺の嫁……はぶしべっ!?」とりあえずべジータをグーで殴る。そうこうしてるうちに、残り距離半分くらいで蒼姉ちゃんは男子を抜き、トップに躍り出る。加速は止まらない。それは一陣の蒼い風。差を広め翠姉ちゃんにバトンタッチする。「翠星石、任せた!!」「合点ですぅ!!」翠姉ちゃんがバトンを受け取りゴールに向かって加速していく。僕は正直見くびってた。翠姉ちゃんも案外早い。「……翠星石は大人しいだけ……あまり運動しないだけで……能力は高いよ……蒼星石と双子なんだし…」薔薇姉ちゃんが解説してくれる。なるほど、それなら合点がいく。『ゴーーーーーーーーーール!!!一位は2-Cだああああああああ!!!』翠姉ちゃんが少し息を弾ませながら蒼姉ちゃんにグッと拳を向ける。蒼姉ちゃんも拳を握り向け返した。
『それでは、1年生のクラス対抗全員リレーを行います。』僕らは入場し終わり、27番目に走るのを待つ。やばい……何だか心臓がドクドクいってる。反対の出発点を見ると、アンカーである薔薇姉ちゃんと真紅姉ちゃん。さらにキラ姉ちゃんと柏葉までもが睨み合っていた。「JUMは……絶対渡さない……JUMに一番近いのは私なんだから……」「愚問ね。貴方達に私とJUMの深い関係を改めて教えるチャンスを逃すわけにはいかないのだわ。」「私、明日のデートプランまで立てておりますの。精を付けるまで食べて夜は……きゃっ♪」「無駄にならないといいね、そのプラン。私だって雛苺の為に負けられない……ボソッ…そして私のために…」すげぇ、文字通り火花が散ってる。正直、1-Eのアンカーの女子が可哀想だ。今にも棄権したそうな顔をしている。多分、4人とも彼女は目に入ってないのだろう。「……なぁ、JUM。俺お前を殺したいくらい羨ましいぞ。」「実際僕の立場になってから言ってくれ。その考えきっと変わるから。」べジータとボソボソ話す。それと同時にスタートの合図がかかる。べジータがスタートラインに立ち、クラウチングの姿勢をとる。目がマジだ。相変わらず負けるのは一番嫌いみたいだな。『それでは、位置について、よーーーい……』パーンと音と共にべジータが驚異的なダッシュを見せる。微妙に地面がえぐれてる。その脚力を生かし、グングンと差を広げていく。そして、ダントツトップでバトンを2走の女子に渡す。こうして、僕等の決戦が始まった。
「雛苺、頑張って!!」20走者目のヒナ姉ちゃんが懸命に小さな体を走らせている。金色の巻髪が上下に揺れる。現在ヒナ姉ちゃんは2位。それでも、トップのウチのクラスの走者にはなかなか届かない。そのまま順位は変わる事なくバトンは21走者に。そして、そろそろ僕の出番も近い。さっきより心臓の鼓動が早くなる。落ち着け、クールにいこうぜJUM。先ずはバトンをしっかり貰うんだ……後は懸命に走れ。そしてキチンとバトンを渡す。それだけじゃないか。それだけなんだけど、益々緊張は強くなっていく。現在25走者。いよいよ、僕もスタートラインに立つ。周りを見ればみんな早そうに見える。大丈夫か?リードは守れるのか?追い抜かれたらどうしよう……そんな事ばかりが頭の中をグルグル回る。「JUM!!落ち着いていけですぅ!!!」「JUM君!!大丈夫だから、しっかり!!」
「JUM、しっかりなさぁい!!」
「JUM、いいトコ見せてかしら!!」姉ちゃん達の声がする。ただ、それだけで随分落ちついた気もする。「桜田君!!!」26走者の桑田さんからバトンを貰う。しっかり握る。よし、後は走るだけ。僕のゴールに向かって…
心臓が高鳴る。息が苦しい。それでも、体は前へ前へ。ゴールでは姉ちゃん達が何か叫んでる。聞こえない。何も聞こえない。聞こえるのは風と己と心臓の音のみ。脚が体についていかない。それでも、前へ。後ろから足音が聞こえてくる気もする。それでも、振り返らない。振り返れば僕は前に進めない。ゴールはまだ先。だから、僕は前に進む。「JUM!!!もう少し!!!」ようやく声が聞こえるようになる。薔薇姉ちゃんの声かな?一歩。一歩。また一歩。その積み重ね。そして、僕がバトンを渡す相手がしっかりと手を広げている。僕は力を振り絞り、それを渡す。ゴール………最後にはどうか、幸せな記憶を……「JUM、やったよ!!トップ守ったよ!!」薔薇姉ちゃんにガクガク揺さぶられる。危ない、危うく昇天しかけた。「まぁまぁの走りだったわね、JUM。」「素敵でしたわ、JUM。」「お疲れ様、桜田君。」四者四様の言葉を投げかけてくれる。いやさ、120mってこんな長かったのかと再認識。はぁ~~っと、体力を回復させていると、いよいよ39走者がアンカーに向かってくる。トップは以前ウチのクラスのまま。しかし、差はかなり縮まっており1-E以外は混戦だ。1-Eもある意味戦いに巻き込まれなくてラッキーかもしれない。「薔薇水晶さん!!」薔薇姉ちゃんがバトンを受け取りゴール目掛けて快足を飛ばす。しかし、次々と真紅姉ちゃん、キラ姉ちゃん、柏葉がバトンを受け取りそれを追いかける。たった80m。されど80m。秒換算で10秒あるかどうかだろう。そのたった10秒の激闘の幕が切って落とされた。先ずは薔薇姉ちゃんに挑む前に3人が激突する。疾走する赤い風と白い風と黒い風。紫の風に挑戦するのはどの風か。「はっはっ……悪いわね、雪華綺晶、巴……勝ちは…私が貰うわ!!」抜け出したのは赤い旋風。まだ脚を残していたのだ。一気に真紅姉ちゃんは薔薇姉ちゃんに追いすがりあっと言う間に並ぶ。インドア派のくせに信じられない脚力だ。「さすが胸がない分走りやすいのね。」どっからか銀姉ちゃんの声が聞こえた気がしたが無視。キラ姉ちゃんと柏葉は事実上脱落だ。「やっぱり真紅……決着つけよう……」
『さぁ、勝利の女神はどちらに微笑むのか!!1-Aと1-Dが白熱のデッドヒィィィィト!!!!』場内は大盛り上がりだ。残り距離は20mないか?後数秒で決まるだろう。なびく紫がかった髪と金色の髪。懸命に走る二人の乙女。それは何よりも美しい絵ではなかろうか。ゴールテープは手を伸ばせば触れるくらい。二人は最後グッと胸を突き出す。ゴールの基本らしい。そして、同時にテープを切った。。『ゴォォォォォル!!しかし、これは肉眼では確認できません!!ビデオ判定を行います!!』競馬じゃあるまいし……無駄にウチの高校は何でもあるよな。パッと得点板がビデオに切り替わる。あれって大型スクリーンだったのか。スローでゴールシーンが再生される。同時だ。全く同時。しかし……何て言うか微妙に……そう、10cm分くらい薔薇姉ちゃんが早いような……『判定です……ご覧の通り微妙な所ですが……胸差です!!胸差で1-Dの勝利です!!!』「……胸…胸…胸……胸…胸…」真紅姉ちゃんがうな垂れてる。それはもう、周りが一気に深夜になったかと思うくらい暗い。どこからか銀姉ちゃんらしき人の大笑いが聞こえてくる。騎馬戦では有利に働いた胸はリレーでは最後の最後に不利に働いたようだった。『それでは、先ずは学年優勝の発表を行います!!3先生、3-E!!!』歓声が上がる。3-Eと言えば銀姉ちゃんのクラスだ。手ごわい人が残ってる。『続いて2年生。2-C!!』翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんのクラスだ。そして、残るは一年の学年優勝……トップだったヒナ姉ちゃんのクラスの1-Bではリレーで勝利した。後は応援合戦がどう影響したか……ドクドクと心臓が高鳴る。『1年生の優勝は……1-D!!!』うおおおおおおと声が近くで上がる。1-Dって事は……「JUMやったよ!!学年優勝!!!」薔薇姉ちゃんが僕にバッと抱きついてくる。僕は思わずそれを抱きとめる。こんな嬉しそうな薔薇姉ちゃんはそうそう見れない。近くからは真紅姉ちゃんやキラ姉ちゃん。ヒナ姉ちゃんやカナ姉ちゃんの溜息が漏れる。『さぁ、今年も3クラス出揃いました。続いて、学校優勝を決めるスウェーデンリレーを行います!!』そう、僕等の戦いは終わってない。まぁ、最も……僕は見てるだけなんだどね。END
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