第三十四話 JUMと喫茶ラプラス 後編
「一つ屋根の下 第三十四話 JUMと喫茶ラプラス 後編」
「ん~……ねぇ、JUM君。真紅ちゃんのドレスのここはどうしたらいいと思う?」「真紅姉ちゃんは、ここをこんな感じで……後、ヘッドドレスとかも似合うかも。」「ふむふむ……きゃー!想像の中でも真紅ちゃん可愛い~!!」僕は喫茶ラプラスのとある部屋でみっちゃんさんと紙と布に埋もれていた。ちなみに、姉ちゃんたちは今はまだ普通のメイド服でお店に出てるようだ。白崎さんに言わせれば、イベント前の客集めに最適だそうで。実際、姉ちゃんたちが入ってから客の入りは伸びているらしい。「ねぇ、JUM君。JUM君はさ、お裁縫とか、お洋服のデッサンとか嫌い?」ふと、みっちゃんさんがそんな事を聞いてきた。「……何ですか?急に。」「うん。カナが言ってたんだけどね。JUM君って小さい頃はドレスやお洋服のデッサンとかお裁縫得意だったって。でも、大きくなるに従って全然しなくなったって聞いたんだ。」「そりゃまぁ……僕は男ですから。」急にみっちゃんさんは神妙そうな顔で言ってくる。「そっかぁ……でもね。私率直に言うと、その考え方は勿体無いと思うんだよ。」みっちゃんさんがペンをクルクル回しながら言う。「勿体無い?」「うん、勿体無い。いいかな、JUM君。私は君には才能があると思うんだ。ドレスのデッサン一つとっても、作る技術一つとっても。私が思いつかないような事をしちゃう。それは才能だと思うんだ。」「……みっちゃんさんだって、僕は凄いと思いますよ?」実際、みっちゃんさんは凄い。細かい部分は僕では到底及ばない事ができる。「私のは専門学校で得た技術だからね。でも、JUM君は天性だと思うんだ。」
みっちゃんさんはそう言うけど、僕には正直苦い過去があった。小学校の時だったか……それが原因で軽い虐めを受けた事がある。それ以来、僕はこれは男のする事じゃないと思ってしなくなったんだ。「例えばね、ほら。カナ達のドレスのデッサン一つとってもね。何て言うのかな…カナ達への愛が伝わって来るって言うのかな?JUM君は本当にカナ達をよく分かってるんだなって。そんな気持ちになるの。」なかなか恥ずかしい事を言うみっちゃんさん。「そんな大袈裟な……僕はただそういうのが似合うかなって思って…」「そこなのよ!そこに閃き。実際にそのJUM君の閃きは私が考えてた物より遥かにいい物になるんだから。」「……買い被りすぎですよ。それに、やっぱりこういうのは男がやる事じゃないんじゃ……」僕がそう言うとみっちゃんさんは僕の口をスッと指で押さえた。「例えばだよ、JUM君。テレビとかに出てる料理人や、お菓子作りの人…パティシエだっけ?あれで、女の人って見る?私、テレビでは不思議と男の人ばかりな気がするんだけど。」僕は記憶を張り巡らせる。確かに、ああいうのは男の人が多い。いや、それどころか男の人のほうが向くとかも聞くな。料理やお菓子なんて一般的に女の子の趣味なのに。「あれと同じだよ。男も女も関係ないと私は思うな。だから、その才能を埋めとくのは勿体無いって。私はそう思うよ?まぁ、JUM君の人生だから私が言っても仕方ないんだけどね。」みっちゃんさんはアハハと笑う。でも、僕は少しだけ衝撃を受けた。確かにそうなのかもしれない。これは男のする事。これは女のする事。そんな決まりは世の中にない。だったら……僕はしたい事、好きな事をしたらいいんじゃないかって。あの虐め以来敬遠してたけど……やっぱり僕は好きなんだ……
それから数日後。明日にはお盆休みになろうかと言う日に、ようやくドレスは完成した。「やっほ~、JUM君。見に来たよ。」「私も雛苺に呼ばれて……」店内には僕と白崎さんとみっちゃんさん。そして、見学に銀姉ちゃんの親友の柿崎めぐ先輩と、柏葉が来ていた。「みなさん、着替え終わりましたか?それじゃあ……水銀燈さんからお披露目してもらいましょうか。」「はぁい、分かったわぁ……」カーテンが開き銀姉ちゃんが出てきた。銀姉ちゃんは漆黒のドレスに、髪には同じ色のレースのリボン。背中には羽毛で黒い羽をつけてみた。ドレスには逆十字を入れてみたり。「ぶふっ……可愛いわ、水銀燈……JUM君GJ!」めぐ先輩がグッと親指を僕に向ける。とりあえず、鼻血を拭いてください。銀姉ちゃんを皮切りに、次々に姉妹が出てくる。描写が面倒なので、原作通りの服と思ってくれて全く問題ない。ドレスに身を包んだ姉ちゃん達は僕が言うのもなんだけど、凄く綺麗で人形みたいだった。「きゃぁーー!!もぉ、さいっこぉーーー!!JUM君のセンスは最高よ~!」みっちゃんさんが、キャーキャー言いながら写真を取り捲ってる。「凄い……桜田君がデザインしたの?」「いや、僕はそんなのにーー」「そうなのよトモエ!JUMがデザインしてくれたのよ~。JUMったらとっても凄いの~。」ヒナ姉ちゃんが中学以来のリボンを頭にして言う。フワフワとリボンが揺れる。「やっぱりJUMの指は魔法の指ね。上出来よ、JUM。」真紅姉ちゃんがヘッドドレスを調整しながら言う。「うんうん、素晴らしいですね。それでは、夏のドレスフェスタと行きましょうか!!」そして、ついにドレスは解禁された。
それから一週間ほどはラプラスは大盛況だった。僕も裏で料理を手伝わされたくらいだ。「貴方ったらほんとにほんとにおばかさぁん……」銀姉ちゃんはその妖艶な魅力とカリスマ性で、多くのファンを獲得していた。「お待たせかしら~!森と兎のハンバーグ……きゃー!転んだかしらー!」カナ姉ちゃんはそのドジっ子性からか、そっち方面の人に大人気だ。「おめぇは肉ばかりじゃなくて野菜も食えですぅ。べ、別にお前の為に言ってるじゃねぇですよ?勘違いするなですぅ、このオタク人間!!」普通なら間違いなくクビになりそうな翠姉ちゃんだが、清楚な外見とは裏腹に毒舌とツンデレっぷりで一気に人気者になっている。「はい、お待たせしました御主人様。お召し上がり下さい。」蒼姉ちゃんはその真面目さがウリのようだ。蒼姉ちゃんの接客に癒しを求めて今日もべジータを筆頭に列ができている。「貴方、紅茶を淹れなさい。」客に命令するという暴挙を行っているのは真紅姉ちゃんだ。だが、その女王様気質がイイという人も結構いるらしい……世の中分からないね。「は~い、じゃあヒナと遊ぶのよ~!」ヒナ姉ちゃんは当然のようにロリロリ路線で行っていた。まぁ、狙ってる訳じゃなく素だからいいんだろうな。「では、私と競争いたしましょう。勝ったらキスして差し上げますわ。」キラ姉ちゃんは客が注文した商品を食っている。が、みんなキスに釣られてついつい頼んでしまうらしい。「……薔薇しーじゃんけん……じゃんけんぽん……うふふふふふふ♪」薔薇姉ちゃんは元々この店で働いてるし、固定ファンが多い。まぁ、新規も獲得したようだが。
そんなこんなで怒涛のバイトの日々が終わり……我が家には新型のテレビ君がやってきていた。「じゃあ、チャンネルつけるわよぉ?」銀姉ちゃんがリモコンで電源をいれる。ブブッと少しなった後超大型の画面に映像が映し出される。「奥さん、あーたね、あーたね。」みの○んたが映る。無事にチャンネルも入ったようだ。「はい、これ余ったお金。みんなで9等分よぉ~?」銀姉ちゃんが封筒に入ったお金を切れに9等分する。結局、相当に繁盛したお店から特別ボーナスも出たらしく、テレビを買ってもまだまだお釣りがあったのだ。尚、白崎さんから暇ならいつでもどうぞと、伝言もあったとか。「へへへっ・・・みんなで働いて買ったこのテレビ君は・・・宝物だね・・・」薔薇姉ちゃんが言う。そう、このテレビは宝物。僕達みんなの汗が詰まってるから。「あらぁ?テレビもだけど、こっちも宝物よぉ?」銀姉ちゃんがバッとそれを見せる。それは、あのドレスだった。「ぎ、銀姉ちゃん。それは……」「JUMが私達に似合うように作ってくれたんだものぉ。宝物に決まってるわぁ。」よく見れば、姉ちゃん達はみんなドレスを持っていた。僕は、なんだか嬉しくなる。確かに、小学校のときは理解されなかったかもしれない。でも……今の僕には理解してくれる人がこんなにいるんだから……END
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