第二十六話 JUMと海
「一つ屋根の下 第二十六話 JUMと海」
「JUM、いくのよ~。」ポ~ンとビーチボールが飛んでくる。僕はザバザバ音を立てながら落下地点へ向かいボールを打ち返す。「ほい、真紅姉ちゃん!」「え、わ、私!?」フワフワと打ち上げたボールを真紅姉ちゃんが若干オロオロしながら追っていく。てか、ビックリしすぎ。この場にいるなら参加してるんじゃないんだろうか。「ええっと…蒼星石!」パシッと何とかボールを触り、真紅姉ちゃんが蒼姉ちゃんの方に飛ばす。「は~い、いっくよ~。金糸雀。」飛んできたボールを蒼姉ちゃんは少し強めにカナ姉ちゃんに向けて叩く。少しだけ今までより早く直線的なボールをカナ姉ちゃんが迎え撃つ。「任せるかしらー!ちょあーーーー!!ぷぎゃ!?」自信満々でボールを打ち返そうとしたカナ姉ちゃんだったが、手が当たらずボールは顔面にぶち当たる。カナ姉ちゃんはフラフラしながらドボーンと音を立てて海に倒れた。「ああっ!?ご、ごめん金糸雀。大丈夫?」「気にする事ねーですよ。金糸雀がニブチンなだけですぅ。」ごもっともです。カナ姉ちゃんは少し涙目で赤くなった鼻先とオデコを擦っていた。「うぅ…痛いかしらぁ……JUM、ナデナデして~。」カナ姉ちゃんに涙目でそう言われたら無視できない。年上なのにほっとけないと言うかね……「きぃー!!蒼星石!翠星石にも思い切りスパイクするですよ!」「え?まぁ、別にいいけど。いくよぉ~……チェストー!!」「へ!?そんな思い切りじゃなくても!?きゃうあー!!」ああ、何やってるんだろ。翠姉ちゃんは。目ぇ回して倒れちゃったよ。しばらく再起不能だな。これは。
「ぐすっ…最近蒼星石はどっかヒデェですよ。」「だから御免って。でも、翠星石がしろって言ったんだし。」僕らはビーチバレー(?)を終えて砂浜を歩いていた。未だに翠姉ちゃんはブーたれてる。でもさ、あれはどう考えても蒼姉ちゃんに非はないだろ。言われた通りなんだし。「うよ?水銀燈が誰かとお話してるのよ。」ヒナ姉ちゃんが指差す先。そこには3人の今風の男と話してる銀姉ちゃんがいた。もっとも、その顔にはあからさまに「鬱陶しい」と書かれてあったが。僕らを見ると銀姉ちゃんは近づいて、僕に抱きついた。「あぁ~ん、JUMどこ行ってたの~?水銀燈寂しかったぁ~。そんなわけで、ほら彼氏。」銀姉ちゃんは僕の腕を抱きしめ、男ドモに僕を見せた。ああ、どうせナンパ断るのに彼氏と来てるとか言ったんだろうな。すると、男ドモは僕をジロジロ見ながら言う。「はぁ?こんなダセェ奴が?嘘はいけねえって~。ほら、こんなオタクセエ奴より俺らとさ、ね?」男の一人がそう言いながら銀姉ちゃんの手を引っ張る。悪かったね、こんな奴で。僕がムッとする前に銀姉ちゃんは掴まれた腕を捻り上げ逆間接を決めた。あ、これは怒ってるな。目付きが鋭い。「汚い手で触らないでぇ。それに、JUMがダサくてオタ臭くてチビで眼鏡で童貞ですってぇ?」そこまで言ってません。いや、合ってるけどさ。捻られた男は悲鳴を上げる。「てめ!女だと思ってよぉ・・・・なろお!」仲間の男が銀姉ちゃん目掛けて拳を振るう。しかし、それは銀姉ちゃんに当たる前に、蒼姉ちゃんの手で遮られる。蒼姉ちゃんはその手を引っ張ると、引かれた男の体をかわしながら足を払い盛大に投げる。「情けないな。思い通りにならないと女の子にまで手をあげるわけ?JUM君は絶対にそんな事しないよ。君らみたいな最低な奴らと違ってね。まだやる?僕が相手になるけど…女の子に負けて生き恥晒す?」おっと、こっちも怒ってます。普段は優しい蒼姉ちゃんの目が怖いくらいに目が鋭いです。銀姉ちゃんがパッと手を放すと、男ドモは「覚えてやがれ!」と哀れなくらい三下の台詞を吐いて逃げていく。「きゃぁー、JUM。水銀燈怖かったわぁ。だから、今からホテル戻って慰めてぇ~。」嘘をつけ。そして、ドサクサで抱きつかないで下さい。いやでもさ、ある意味僕も情けないよね……
「こうして海の家で食べる焼きソバや海の幸はなかなか風流なのだわ。」真紅姉ちゃんがお昼を食べながら言う。金髪で風流って何か変な感じがするな。「まぁ、こういうトコで食べると何故か美味しいってのはあるよね。ん?ありゃなんだ?」僕が同意しながらホタテを頬張る。うん、美味。そんな折、何だか人が大勢集まっている。看板には『暑い夏を吹き飛ばせ!真夏の大食い大会!!賞品は商店街のお食事券!』とあった。僕は、いや僕等はそれを見て一人ひたすら別行動をしていた姉妹がいる事を悟る。「続いて、エントリーNo7番!唯一の女性の参加者です。雪華綺晶さんです!」ああ、やっぱり。舞台を見ると本当にニコニコしながらキラ姉ちゃんが椅子に座っていた。「キラキー…どこ行ってもあの子は同じですね…」「まぁまぁ、雪華綺晶らしいじゃない。僕らも応援に行こうよ。」僕等は近くに行き、キラ姉ちゃんを応援する。でもさ、あの人に応援なんていらないよね。食べモンを目の前にして、キラ姉ちゃんの目に僕等は映ってないだろうし、耳には僕らの声は届いてないと思う。「さぁさぁ、ご覧下さい!焼きソバ、海の幸の焼き物、ラーメン、カレー、カキ氷!どれも超大盛りです!これを最初が食べきった方が優勝です。それでは、準備はよろしいですか?レディー・・・GO!!」結果が見えた試合が始まった。他の参加者は多分順番を考えて食べてるんだろう。伸びたら厄介なラーメンから食べてる人が多い。しかし、キラ姉ちゃんは目に付いたものから食べてる。相変わらず優雅に、幸せそうに。そしてマッハで。あの人ならラーメンは伸びたほうが量が多くなっていいですわ。とか言いそうだ。他の人を尻目にキラ姉ちゃんは最後のカキ氷をかきこむ。そして、ダントツで優勝した。「おめでと、キラ姉ちゃん。それで街の飲食店食えるね。」キラ姉ちゃんが大事そうに賞品の袋を持って僕らのトコにやってくる。「ふふ、儲けですわ……んっ……」キラ姉ちゃんが、ふと僕にもたれかかるように倒れる。僕は思わずキラ姉ちゃんを抱きしめる。「!?キラ姉ちゃん!?」「あうぅ……カキ氷は効きますわ。キーンとしてますわ~。」さいですか。要するに心配損ですね。
午後。僕等は相変わらず海で遊んでた。どうして海って、適当に遊んでるだけでも楽しいんだろうか。「えへ~……とうっ!」薔薇姉ちゃんが僕に飛び掛ってくる。全く身構えてなかった僕は薔薇姉ちゃんに押し倒されるままに二人で海中に沈む。薔薇姉ちゃんは海中で僕を抱きしめる。水の中で感覚は分かりにくいけど何気に出るトコ出てる薔薇姉ちゃんの体にドキドキしてしまう。「ぶくぶく……ふぇふぇふぇ…ひゅん、はいふひ~……」水中で何て言ってるか分からない。ただ、普段はなかなか見せない笑顔を薔薇姉ちゃんは見せてくれてた。「ぶはっ!はぁ~、息きっつ~。」僕と薔薇姉ちゃんが海から顔を出す。水中で結構流されたのか、よく見れば結構深いトコまできていた。「……JUM!……薔薇水晶!………津波……危ない……!」少し離れたトコからそんな声が聞こえてくる。僕が辺りを見回すと、何か叫んでる銀姉ちゃんらしき人が見える。ああ、陸は結構遠くだなぁ。そんな悠長な事を思ってた時だった。「JUM!後ろ!!」後ろを向く。そこには、ドデカイ津波が僕らを飲み込もうと大口を開いていた。「!?薔薇姉ちゃん!うわ!!!?」僕はとっさに薔薇姉ちゃんを抱きしめる。そして、僕はその波に完全に飲まれ、意識を失った。END
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