エピソード001 旅立ち
朝日が差し込む。太陽の光が少女の顔を照らした。その光で意識が覚醒した少女は体を起こすと懐中時計を見る。いつも通りの時間だ。寝巻きを脱ぎ去り、部屋着に着替える。その時ドアをノックする音が聞こえ、続けて彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。「真紅ちゃーん!起きた~?」どこか間の抜けた声だ。彼女・・・真紅は言葉を返さずドアを開ける事でそれに答える。「お早う、のり。朝食の準備はできているかしら?」「お早う、真紅ちゃん。うん、ばっちりよぅ。頑張っちゃったんだから。」少し間の抜けた声の主。桜田のり。かつて、アデン王国軍の親衛隊長桜田の長女であり、真紅とも幼馴染にあたる。5年前の反王、ケンラウヘルの反乱により共に逃げ延びてきたのである。「そう、期待しているのだわ。」真紅は父親譲りの長い金色の髪を揺らしながら食卓へ向かう。「おはよ、真紅。寝れたか?」「お早う、JUM。当然よ。別に緊張する事でもないのだわ。」食卓ではすでに、一人の男がいた。桜田JUM。5年前の反乱の際に、真紅の守護を国王と父親から言い渡され、それ以降彼女を守り抜きここ『話せる島』に到着。今に至るのであった。「さぁさぁ、食べましょう。今日は真紅ちゃんの誕生日だから花丸ハンバーグよぅ。おめでとう、真紅ちゃん。」朝食にも関わらず食卓にはなかなかヘビーなメニューが並んでいた。「ああ、18歳おめでとう真紅。」「ありがとう、二人とも。18歳・・・私もついに成人なのだわ。そして・・・・」カチャリと音を立ててフォークでハンバーグを口に運ぶ真紅。それが一段落すると言った。「いよいよ反王から国を取り戻すために旅立つ日がやってきたのだわ・・・」
「ああ・・・遂に来たな。僕は最後まで真紅と一緒にいるよ。」「あら、当たり前なのだわ。貴方の使命は私の守護。期待してるわ。」真紅が口元を行儀よくふく。この辺はさすが元、いや今も王族か。「うぅ・・・やっぱりお姉ちゃんも一緒にぃ・・・」「はぁ、姉ちゃんは剣も、弓も、魔法も・・・何もかもダメじゃないか。」JUMが呆れたように言う。別にJUMは姉を嫌ってるわけじゃない。ただ・・・「のり、心配しないで。JUMは貴方を危険に巻き込みたくないのだわ。大丈夫、すぐにアデンから貴方を迎えをよこすのだわ。そうしたら・・・また私の御飯を作って頂戴。」こういう事だ。これから真紅とJUMはアデン大陸を旅しながら、協力者を集めアデン城を攻撃する。そのためには、自分の身は最低限守れる人間じゃないと不味い。のりは母親譲りの家庭的な所はあるが、父親の勇猛さは受け継がなかった。「JUM君・・・真紅ちゃん・・・うん、約束よぅ・・・絶対・・・絶対帰ってきてね。待ってるから・・・」「任せてって。絶対に僕らでアデンは奪い返す。そうしたら、また三人一緒にいれるからさ。」「そうよ、のり。約束するのだわ・・・」JUMと真紅は食事を終えると、部屋に戻り準備しておいた身支度をする。地図を持ち、傷を治すポーションを持ち、大切に保管しておいたアデナ(アデン大陸の貨幣)を持ち。「鎧を着込むのなんて久しぶりかもな・・・」簡素な鎧ではあるが、JUMがそれを着込む。普通の服よりはよっぽど防御力がある。それに加え腰に剣を差し、左手には盾をつける。JUMが幼い頃より父親に手ほどきされたスタイルだ。左手で盾を持つせいか、片手で扱うJUMの剣は若干短めである。「JUM、髪を結って頂戴。」一方、真紅は赤いドレスのようなローブを着込んでいた。以前、ローゼンが自然の化身エルフとの友好の証として、エルフ族から貰ったものだそうだ。ミスリルという、人間には加工できない魔法の鉱石の糸で織られており、並みの刃では全く刃が通らないほど頑丈だ。JUMがキュッと真紅の長い金髪を二つに結う。真紅はそれを触り感覚を確かめると、最後に腰に宝剣『ホーリエ』を差した。二人で玄関へ向かう。そして、二人を見送るのりに真紅はニッコリと笑って言った。「それじゃあ・・・いってくるのだわ。」
「まずはグンターさんの所に行こうか。」JUMと真紅が街中を歩きながら話している。グンターとは、ここ話せる島がまだ魔物で溢れていた頃私兵を率いて魔物を討伐し人々が住めるようにした英雄であり、話せる島の実力者である。真紅とJUMは反乱を逃れた際、このグンターに保護されて今までの反王の執拗な追っ手も逃れてきた。「そうね。グンターさんの許可が必要だものね。」グンターは当時反王への復讐に燃える二人を諌め、実力を高めさせもした。事実、あのまま二人がアデンに行ったとしても、簡単に惨殺されていたであろう。剣も知識も、何もかも未熟だったのである。そこでグンターは二人に5年間の修行期間を与え・・・真紅が18になり成人した時、試練を越えれば反王討伐を許可すると言ったのだった。グンターは島の西側の岩壁の中に居を構えていた。彼に言わせれば普通の家よりこちらの方が落ち着くとの事だった。真紅とJUMはよくこの家を訪ねては「レッドナイト」の異名を持つ彼と手合わせをしていた。二人は彼と手合わせをする度に自分の未熟さを知り、この5年大人しく修行に打ち込んだ次第だった。「しっかし・・・相変わらずごつい家だよなぁ・・・」話せる島の町を離れてしばらくすると、海を背にした岩の家がある。門の前には彼を慕うナイトが門を守っていた。ちなみに・・・真紅とJUMがこの話せる島に逃げてきたのはアデン大陸から少し離れた孤島だからであった。百戦錬磨のグンターの兵を相手に海戦は非常に分が悪い。また、島の住人もグンターを慕っており、反王の勢力を敵視しており、なかなかに手が出せないのだった。「おや、これは真紅殿にJUM殿。グンター様に御用ですかな?」「ええ、真紅はこのたび18と相成りました。その報告に・・・」真紅が門番に言う。すると、一人の門番がすぐに家の中に向かい、しばらくして戻ってきた。「それでは、お入りください。」
「真紅、JUM。よく来たな。」レッドナイトの二つ名を持つ男はすでに50を過ぎる年齢ながら、尚盛んなオーラを纏っていた。「グンター殿、このたび真紅は18となりました。そこで・・・許可を頂きたく参上しました。」「うむ、おめでとう真紅。そして、遂にこの日が来たか・・・二人とも、こちらへ来なさい。」真紅とJUMがグンターの元による。グンターは話せる島の地図をざっと広げた。「いいかい。ここ『赤い騎士の家』の少し南に話せる島のケイブがあるのを知ってるな。そこの1Fに、悪しき事を企むエルダーがいるという報告を先日受けた。このエルダーを討伐しその証を持ってくるがいい。その証を持って真紅の試練とする。話せる島のケイブにはアンデットや魔物が蔓延っている。注意せよ。」「分かりました。そのエルダーを倒し、その証を持って来ればよいのですね?」真紅の言葉にグンターが頷く。真紅はその地図を受け取る。「真紅、恐らくお前はこの試練を乗り越えるだろう。しかし・・・お前には仲間が必要だ。反王はとても強大だ。その力を崩すには仲間の強力なしには有り得ない・・・出会いを大切にせよ。」「分かりました、グンター殿。それでは、行って参ります。」真紅とJUMは赤い騎士の家を出ると、地図に従って話せる島のケイブの入り口を探した。「でもさ、グンターさんの言うとおりだよな。僕ら二人じゃ反王は倒せない・・・」「そうね・・・今は少しでも仲間が・・・力が欲しいのだわ・・・あら?」ふと、魔物のうめき声が真紅の耳に届いた。よく見れば、少し前方に魔物に囲まれている二つの影があった。「真紅!助けよう!」JUMが腰の剣を抜き、盾を構える。真紅も同様にホーリエを抜き、その柄を両手でしっかり握る。「ええ、目の前の民も救えないようでは王にはなれないのだわ・・・・」二人は、魔物に囲まれている二つの影に元に走る。徐々に影の正体が明らかになる。一人は、短い髪に妙に刃が反っている剣を持った少女。もう一人は、杖を持ち頭に大きなリボンをしたこれまた小柄な少女だ。出会いを大切に・・・グンターの言葉はすぐに実現しようとしていた。To be continued
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