第二十話 JUMと思い出
「一つ屋根の下 第二十話 JUMと思い出」
ある休みの日、僕はリビングに行こうと廊下を歩いていた。「ははっ、これ懐かしい!あ、翠星石が雛苺いじめてる。昔から君は変わらないよね。」「うっ・・・そ、蒼星石だって変わってねぇですぅ。子供の頃からズボンばかりですぅ。」そんな声が聞こえてきた。蒼姉ちゃんと翠姉ちゃんの声だ。僕はその声に引かれるようにリビングに入っていく。そこでは、床に座りアルバムを仲良く見ている双子がいた。「昔のアルバム?翠姉ちゃん、蒼姉ちゃん。」「あ、JUM君。うん、そうだよ。ほら、JUM君もこっちおいでよ。」ちょいちょいと手招きする蒼姉ちゃんに引かれるままに僕は床に座った。アルバムを見る。そこには幼年期の姉妹達が映っていた。髪が肩くらいまでしかない銀姉ちゃん。前髪が垂らしてあり、今のようにオデコが出ていないカナ姉ちゃん。背もこの時は銀姉ちゃんと同じくらいだ。次の写真では、翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんが互いに抱きしめあって笑っていた。この二人は本当に昔から仲がいい。真紅姉ちゃんは、紅茶かな?お気に入りの金色のカップを片手に絵本を読んでいる。もっとも、近くには大量のミルクが置いてあるが。ヒナ姉ちゃんは中学までしていた、ピンクの大きいリボンを頭につけて苺大福を頬ばっている。頬の所々にアンコがついちゃってる。キラ姉ちゃんは幸せそうに両手に食べ物持って映ってるや。その笑顔やまるで天使の微笑みだ。まだ、眼帯はしてない。「ははっ、みんな小さいなぁ・・・あれ?これってもしかして、僕らが来る前?」僕はパラパラと見てて、自分と薔薇姉ちゃんが映ってないのに気がついた。それは即ち、僕と薔薇姉ちゃんが養子としてローゼン家に来る前のアルバムという事だ。「ええっと・・・うん、それは僕らが5歳の時だから・・・JUM君と薔薇水晶はまだ来てないね。」蒼姉ちゃんが僕の隣にスッと座り写真を見ながら言う。ふわっと蒼姉ちゃんの髪の匂いがする。「あらぁ?昔のアルバム?懐かしいわぁ。」少しリビングでの声が大きかったのかもしれない。常に楽しさを求める長女がヤクルト片手にやってくる。一枚、二枚と写真を手にとってはクスクス笑っている。「父さんの写真?父さんって何故か光が当たってたり、前髪が長かったりでイマイチ顔がよく映ってないよね。」「そうねぇ・・・ふふっ、お父様ったらギャルゲーの主人公みたいねぇ。」僕は実際の所イマイチ父さんの顔を覚えていない。それでも、実の父親をそう例えるのはどうかと思いますよ?
「む・・・水銀燈は小学生の時から胸があるですぅ・・・これ何年生か覚えてるですか?」翠姉ちゃんがスッと写真を僕らに見せる。そこにはカチューシャをした銀姉ちゃんが映っている。確かに・・・翠姉ちゃんの言うようにすでに胸が成長してる気がする。「そうねぇ・・・3,4年生じゃないかしらぁ。カチューシャしてたのってそれくらいだしぃ。」銀姉ちゃん恐るべしだ。戦闘力(バスト)は一日にして成らず・・・か。「えへへっ、こういうのも何だか楽しいね。そうだ、折角だしみんな呼ぼうよ。お~い、みんな~!」蒼姉ちゃんが少し大きめに声を出して他の姉妹をリビングに呼ぶ。みんな家に居たようであっと言う間にリビングは姉弟9人で埋まった。「わ~、懐かしいかしら~!あ、でも・・・カナって昔から背が低かったのかしら。」「うよ・・・カナはヒナとずっと身長同じくらいだよね?」あっちではカナ姉ちゃんとヒナ姉ちゃんが写真を見比べてどれでも二人の背はほとんど変わらなかったのを確認してカナ姉ちゃんが悲観にくれていたり。「ねぇ、真紅ぅ。ほら、水銀燈の10歳くらいの写真よぉ・・・ここ、ここぉ・・・うっふふふぅ~。」「・・・何が言いたいの?水銀燈?」そっちでは銀姉ちゃんが10歳当時の自分の胸を指差して、現在16歳の真紅姉ちゃんの胸を見ながら嘲笑し、それのせいで真紅姉ちゃんが闘気を開放させてたり。「あ、あの写真の料理は大変美味でしたわ。あ、こっちのは少し塩加減が悪かったですわね。」「・・・あ・・・アッガイの限定プラモ・・・どこに置いたんだっけ・・・後で探さないと・・・」こっちでは思い出に馳せ、すでに自分の世界に入り込んでいるキラ姉ちゃんと薔薇姉ちゃん。「あ・・・みんなコレを見るですぅ!」そんな時、翠姉ちゃんの声がする。僕らは言われるままにその写真を見た。「あら・・・これは・・・・」真紅姉ちゃんの声がする。それと同時に、僕の頭に当時の記憶が再生された。
「こんにちはJUM君。今日から僕が君のお父さん、この家が君の家。そして・・・彼女達が君のお姉さんだよ。」それは、僕がローゼン家に養子に来たとき。5歳のときの記憶。記憶の中の父さんはいつも穏やかな笑みを浮かべていた。外人だったのかな・・・髪は金色で少し長めの髪だった気がする。そして、僕は父さんと面会した後にもう一人・・・僕と一緒に少し不安そうな顔をしている少女に出会った。「ほら、二人とも自己紹介をしてみて。今日から二人は姉弟になるんだよ。」「は、はじめまして・・・ぼくはさくらだJUMです・・・えっと・・・よろしく・・・」僕がスッと手を出す。すると、その少女は少しビクッと怯えたように父さんの影に隠れた。「ふふっ、ごめんねJUM君。この子は恥ずかしがり屋さんなんだ。ほら・・・君の弟だよ。」父さんがその少女を再び僕の前に立たせる。そして、しばらく何かモジモジした後覚悟を決めたように言った。「えっと・・・えっと・・・ば、ばら・・・しー・・・しょー・・・」「はい、よくできたね。JUM君、この子は薔薇水晶といってね。君の一番近くのお姉さんなんだよ。」そう、その少女は僕と同じ養子だった薔薇姉ちゃんだった。今でも滑舌がよくない薔薇姉ちゃんだが、当時は子供だった事もあり、さらに悪かった。そういえば、何で薔薇姉ちゃんが姉だったかといえば、少しだけ僕より誕生日が早いからだそうだ。ちなみに、薔薇姉ちゃんとキラ姉ちゃんは誕生日が一緒だ。まぁ、そんなこんなで僕はローゼン家の直系の姉妹に会う前に薔薇姉ちゃんに会ってたんだ。そう考えると僕にとって一番近い姉って案外薔薇姉ちゃんなのかもしれない。「じゃあ、JUM君と薔薇水晶ちゃん。これから二人のお姉さんに会いに行くからね。」父さんは僕らをリビングへ連れて行こうとする。僕は普通について行ったが薔薇姉ちゃんはきっと怖かったんだろうな。その場から動かずに僕を見ていた。「ばらしーしょーおねえちゃん?いかないの?」「・・・・・・・・・・・・・」薔薇姉ちゃんは僕をジッと見ていた。父さんはそんな僕らを見ながら微笑んでたんだと思う。「じゃあ、ぼくといっしょにいこう?こわいおねえちゃんだったら、ぼくがおねえちゃんをまもってあげるから!」僕は子供ながらに恥ずかしい台詞を吐いて薔薇姉ちゃんの手を握って引いた。薔薇姉ちゃんは少し戸惑ってたけど・・・結局は安心してくれたのかな。少しだけ顔を赤くして僕と手を繋いで来てくれた。
「はい、それじゃあみんな。今日からみんなの妹弟になる薔薇水晶ちゃんとJUM君だよ。」リビングで僕らは7人の姉ちゃん達と初めて顔をあわせた。恥ずかしながら、当時の僕はみんな可愛いななんて思ってた事をここに白状しよう。姉ちゃん達はきっと練習したんだろう。自己紹介をしてくれた。「はじめまして、私がいちばんうえのお姉ちゃんの、すいぎんとうだよ。よろしくね。」今からは想像できないほど(失礼)純真無垢な笑顔で自己紹介をした銀姉ちゃん。「えっと、カナは、にばんめのおねえさんのかなりあかしら~。」少しだけ緊張しながら、それでもきっと一生懸命だったカナ姉ちゃん。「・・・・・・・・・・・・」「ほら、すいせいせき。ごめんね、ぼくはよんばんめのそうせいせき。それで、ぼくのうしろにかくれてるのがさんばんめのすいせいせきだよ。すいせいせきは、ひとみしりなんだ。ごめんね。ほら、すいせいせき。」「・・・・・す、すいせいせきですぅ・・・」今では信じられないほどしおらしい翠姉ちゃんと、相変わらずしっかり者だった蒼姉ちゃん。「わたしはしんく。ほこりたかいローゼンけのごじょなのだわ。よろしくなのだわ・・・ばらしーしょーと・・・げぼく。」すでに5歳にして女王様気質を見せ付ける真紅姉ちゃん。ああ、この時下僕の意味を知ってればなぁ・・・「うーと、ろくばんめのひないちごなのー!ひなはね、いもうととおとうとができてとってもうれしいのー!」とても嬉しそうな笑顔を見せてくれたヒナ姉ちゃん。「わたくしは、すえっこのきらきしょうですわ。だから、わたくしもいもうとと、おとうとができてうれしいですわ。」ヒナ姉ちゃんと同じように嬉しそうだったキラ姉ちゃん。やっぱり、妹弟ができると嬉しいものなんだろう。「はい、みんなよくできたね。じゃあ・・・ほら・・・JUM君と薔薇水晶ちゃん?」父さんは姉ちゃん達の自己紹介に満足そうだった。そして、今度は僕達に促してくる。「えっと、ぼくはさくらだJUM、5さいです・・・その・・・よろしくおねがいします。」僕はペコリと頭を下げた。姉ちゃん達がパチパチと拍手をしてくれる。次は薔薇姉ちゃんの番だ。しかし・・・「・・・・う・・・ぁぅ・・・・・」薔薇姉ちゃんは言葉に詰まっていた。怖いのかな・・・そう思った僕は繋いでいた手をもっと強く握った。すると「・・・JUM・・・えと・・・ばら・・・しーしょー・・・」小さな声で薔薇姉ちゃんはそう言った。「JUMと、ばらしーちゃんね。よろしくね~。」銀姉ちゃんがそう言う。そういえば・・・薔薇しーってあだ名はここから来てるんだったな。
それから、僕と薔薇姉ちゃんにとって新しい日々が始まった。父さんは本当に優しくて、何でも知ってて。僕に色々教えてくれた。銀姉ちゃんはちょっと意地悪だったけど、僕が近所のガキ大将にいじめられてると飛んできて逆にガキ大将を泣かしてたな。カナ姉ちゃんは当時はまだまだ上手いとは言えなかったけど、僕によくバイオリンを聞かせてくれた。僕にとっては不思議な音で、聞いててとても面白かった。初めは大人しかった翠姉ちゃんも徐々に本性を現してきて、何か悪戯するたびに蒼姉ちゃんがフォローに入ったり・・・あれ?今と変わらなくないか?真紅姉ちゃんは僕をよくパシリに使ってた。でも、よく言ってた。私が近くで本を読むのは気を許した相手だけとか何とか。そういえば、よく僕の背中にもたれかかってたな。ヒナ姉ちゃんは絵が大好きで、僕も一緒に絵を描いてた。大好物のおやつの苺大福を半分コにしてくれたり、子供なんだけどどっか大人な所があった気がする。キラ姉ちゃんは惜しみながら僕によく食べ物をくれた。それだけだっけ・・・?いや、キラ姉ちゃんといえばもっと重要な事があった。姉妹で一番薔薇姉ちゃんを気にかけていたな。もちろん、銀姉ちゃんも相当気にかけてたけど、キラ姉ちゃんは比じゃなかった。誕生日も同じで、どことなく容姿も似てたからかもな。それでも・・・薔薇姉ちゃんはなかなか姉妹の中に馴染めないでいた。そう考えると、薔薇姉ちゃんにとって僕は唯一怖くない存在だったのかもしれない。薔薇姉ちゃんは僕の前では結構笑ってくれた。そんなある日だった。父さんがみんなで記念に写真を撮ろうと言い出した。みんなが並ぶ中で・・・僕が気がついた。薔薇姉ちゃんがいないと。僕は駆け出した。薔薇姉ちゃんを探しに。子供にはとてもとても大きい屋敷を走る。子供ながらに直感していたのだろうか・・・僕はある場所に一直線に走っていた。かくして、その場所・・・僕と薔薇姉ちゃんが出会った玄関に薔薇姉ちゃんはいた。「ばらおねえちゃん、おとうさんがみんなでしゃしんとるんだって。だから、いこう?」僕がそういうと薔薇姉ちゃんは首をフルフルと横に振った。「どうして?みんなまってるよ?」「・・・おねえちゃんたちが・・・よくしてくれてるのはわかってる・・・・でも・・・こわいの・・・」薔薇姉ちゃんはそう言って俯いた。僕は考えて・・・否、何も考えてなかったな。ポケットに手を突っ込んだ。「ばらおねえちゃん、これあげる!」僕はポケットの中に入っていた食玩を薔薇姉ちゃんに見せた。それは、言わずもがな・・・アッガイだった。
「JUM・・・これは・・・?」「あのね、ばらおねえちゃんはろぼっとすきでしょ?だから、あげる。そのろぼっとはね、ゆうきをくれるんだよ。」「・・・・ゆうき・・・・?」当時の僕なりに何とか薔薇姉ちゃんを連れて行こうと必死だったんだろう。多分・・・薔薇姉ちゃんが好きだったから。いや、姉妹としてだよ?多分・・・・きっと・・・・「うん、もしばらおねえちゃんが、こわくなったらそのろぼっとをじっと見て。そのろぼっとがゆうきをくれるから・・・だから、こわくないよ。もし、たらなかったらぼくもゆうきあげるから。」僕は薔薇姉ちゃんの手をぎゅっと握った。あの時の感触は未だに覚えてる。本当に、温かかった。「JUM・・・うん・・・ありがとう・・・いこう・・・?」薔薇姉ちゃんはスッと立ち上がって、そして笑った。僕が今まで見たことないような笑顔で。きっと・・・この笑顔が本当の薔薇姉ちゃんだったんだろうなって思う。「あ、JUMとばらしーちゃんだ!はやくはやくー!」キラ姉ちゃんが手をブンブン振っている。僕らを見て父さんは嬉しそうに笑った。「ほらほら、ふたりはまんなかだよ。」蒼姉ちゃんが言う。僕と薔薇姉ちゃんを中心に姉ちゃん達と父さんが囲む。「えへへ、はい、チーズ!」「・・・さんどいっち・・・」薔薇姉ちゃんが意味不明な事を言う。きっとそれが可笑しかったんだろう・・・その写真はみんなが笑っていた。
「懐かしいですぅ。これはみんな揃って初めて撮った写真ですね。」翠姉ちゃんが言う。その写真は僕と薔薇姉ちゃんを中心に、みんなで本当に気持ちよく笑顔を見せている写真だった。薔薇姉ちゃんの手には小さなアッガイが握られていた。
「あー・・・・姉ちゃん?」何でだろうね。僕はそんな気持ちになった。改まった僕を姉ちゃん達が見る。「そのさ・・・今までありがとう。余所者の僕を本当の弟のように見てくれて。僕、本当に感謝してる。養子に来たのがここで本当によかったって。それから・・・これからもよろしく。」そんな恥ずかしい事を僕は言いたくなったんだ。それは今までの感謝とこれからの希望。姉ちゃん達は目を丸くすると一斉に笑い出した。「う・・・そんな笑うことないだろぉ?」「ふふ・・・ごめんねJUM・・・でもね・・・私もその写真みて同じ事考えてたよ・・・・」薔薇姉ちゃんが僕に微笑んでくれる。「それに、ちょっと語弊がありましたわよ?私達は本当の弟のようにじゃなくて・・・弟として見てますわ。」「そうなのだわ。まぁ、JUMは私の下僕だけども。」キラ姉ちゃんと真紅姉ちゃんが言う。僕は何だか嬉しくなってくる。「ま、まぁ~、JUMがそう言うなら居てやらない事もないですぅ。」「ふふっ、翠星石ったら嬉しいクセに。僕のほうこそ・・・これからもよろしくね、JUM君。」変わらない翠姉ちゃんと蒼姉ちゃん。きっと、僕らの関係も変わらない。「JUMはこれからもヒナ達とたくさんたくさん楽しい事するのよ~!」「今更遠慮なんて無用かしら。カナ達は家族かしらー!」そう・・・僕らはまだまだ続いて行く。そして、僕の・・・嬉しい受難も・・・それは、たくさんの未来。「私たちはずぅっと一緒よ?そう、ずっと・・・・ずぅ~~っと・・・ね♪」END
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