第十七話 JUMと台風
「一つ屋根の下 第十七話 JUMと台風」
家の窓がガタンガタンと音を立てている。そして、我が家のリビングのテーブルでは4人のうら若き乙女が麻雀卓を囲んで運と読みあいの戦いを繰り広げていた。「今夜にも台風は上陸する模様で・・・・」テレビのキャスターの声がする。そう、どうやら台風が来そうなのだ。しかも、かなり大きい。「大丈夫かなぁ・・・音とか凄いけど・・・」僕が言う。風も強ければ、雨足も強くなっている。「大丈夫だよ。この家は丈夫だからね。」蒼姉ちゃんが言う。ちなみに、卓についてるのは、銀姉ちゃん、翠姉ちゃん、カナ姉ちゃん、薔薇姉ちゃんだ。事のあらすじはこうだ。台風が来てる。そして、雷雨を伴うという。万が一みんなバラバラで停電すると危ないから、リビングに集まろう。んで、集まったしたまには麻雀でもしようと。まぁ、こんなトコだ。ヒナ姉ちゃんはすでにお寝むだったので、8人を二つに分け、上位二人が決勝。今が決勝戦だ。「あ~ん・・・どうしてこう1,9、字牌ばかりかしら~。」カナ姉ちゃんの持ち牌と捨て牌を見る。あれ?これさ、国士無双できたんじゃないか?相変わらず肝心な所で読みが甘いと言うか、運が悪いと言うか・・・・ふと、窓の外に眩いほどの光がはしる。そして、約7秒後・・・爆音が響き渡る。「ひゃう!?」隣に座ってる真紅姉ちゃんがそんな声をあげて、身を竦める。「真紅姉ちゃん?どうしたの?」「な、なんでもないのだわ・・・気にしないでちょうだい・・・」まぁ、そう言われたら気にするわけにもいかないし、僕は再び4人の対決を見る。
「ツモですぅ!緑一色!親の役満で16000点オールですぅ!」翠姉ちゃんが宣言する。相変わらず強い・・・引きがよすぎるんだよなぁ。「きっつぅ~・・・翠星石ちょっと強すぎるんじゃなぁい?」銀姉ちゃんが点棒を渡しながら言う。「ふっふっふ、翠星石には自然と緑の牌が寄って来るんですぅ。」それ、何て哲也?「哲也・・・よし・・・秘奥義・・・ツバメ返し・・・!!!あっ・・・・」薔薇姉ちゃんが何かしようとしたんだろうが、積んだ牌がバラバラと崩れる。秘奥義はいいけどさ、言ったら意味ないんじゃないか?薔薇姉ちゃん。「はぁ・・・お腹が空きましたわ・・・何か残ってませんでしたっけ。」キラ姉ちゃんは冷蔵庫をあさっている。多分、早々に敗退しテレビで料理番組見てたからだろう。「う~ん・・・この感じだと僕らも自分の部屋で大丈夫そうだね。」蒼姉ちゃんが言う。まぁ、後は寝るだけだしね。「え!?じ、自分の部屋・・・で?」真紅姉ちゃんがとても嫌そうな声をあげる。「?別にいいじゃん。みんなで寝ると暑いしさ。何か不都合あんの?」「べ、別にないのだわ。」僕の言葉に真紅姉ちゃんは少しムッとしながら紅茶をすする。「じゃあ、今日はみんな自分の部屋で寝ましょうかぁ。JUM、悪いけど雛苺を部屋まで運んであげてぇ。」銀姉ちゃんが言う。僕もそろそろ眠かったのでヒナ姉ちゃんを担ぐとヒナ姉ちゃんのベッドに寝かせ、自分の部屋に向かう。リビングでは、乙女・・・あくまで乙女の波乱に満ちた声が溢れていた。
「さて・・・そろそろ寝ようかな・・・・」僕が多少サイトを覗き、PCの電源を落としてベッドに腰掛ける。その時、ドアがノックされた。「誰?入っていいよ?」ガチャリとドアが開かれる。いたのは真紅姉ちゃんだった。すでに寝る気なのかパジャマ姿でツインテールの髪も今は下ろされている。「JUM、少しいいかしら?」真紅姉ちゃんはズカズカと部屋に入り、僕の隣に座る。ベッドがギシリと音を立てる。「で、何?寝る前なんて滅多に来ないのに。」まぁ、その辺は姉妹内の暗黙の了解らしいが・・・ちなみに、暗黙なのでもちろん銀姉ちゃんを筆頭に破る姉妹もいる。が、真紅姉ちゃんは本当に珍しいのだ。「べ、別に・・・JUMが寂しいと思って来てあげたのだわ。」意味が分かりません。僕はそんな事一言も言った覚えはないです。そんな時、再び雷光が走る。今度は光ってからが早い。少し近いようだ。「きゃあ!?」真紅姉ちゃんがビクッと体をすくめて、僕に抱きつく。「真紅姉ちゃん・・・・もしかしてさ・・・・」「にゃ、にゃ、にゃんでもにゃいのだわ・・・へ、下手な検索は・・・きゃう!!」再び雷がなる。今度は近くに落ちたようだ・・・その証拠に・・・・「あれ・・・・?」部屋が真っ暗になる。外を見てみると、さっきまでついていたご近所さんの電気も消えていた。つまり・・・「停電かぁ・・・真紅姉ちゃん、大丈夫?」真紅姉ちゃんは何も答えない。どうやら、僕にしがみ付いてブルブル震えてるようだった。そういえば・・・真紅姉ちゃんは暗闇が大嫌いだったな。いつも寝るときも若干部屋は明るめだし。何でかな・・・僕はついついそんな真紅姉ちゃんを抱きしめた。
「あ・・・JUM・・・・?」ようやく真紅姉ちゃんがポツリと声を出す。全く、普段は五女なのに誰よりも偉そうな真紅姉ちゃんがこんな状況になるだけで、下僕の僕に抱きつくんだから・・・可愛いに決まってるじゃないか・・・「大丈夫だよ、真紅姉ちゃん・・・今日は僕がいるからさ・・・」「う・・・げ、下僕のくせに生意気ね・・・でもまぁ・・・今日だけは許してあげるのだわ・・・」「ははっ・・・はいはい、分かりましたよお姫様・・・」僕は真紅姉ちゃんを抱きしめながら長い髪を撫でる。僕の指がスッと通るくらい柔らかく滑らかだ。抱きしめてる体も、主立って銀姉ちゃんに散々言われてるとおり、胸はまぁ・・・うん・・・残念だけど・・・ただ、全体的にやっぱり柔らかいし、何よりもう少し力を入れると折れそうなほど細かった。「んんっ・・・JUM、違うのだわ・・・もう少し・・・そう・・・」真紅姉ちゃんは僕の手を動かして背中と腰に手が回るようにする。「真紅姉ちゃん、これは?」「肩だけを抱きしめるなんてムードないでしょう?正しい抱き方よ・・・」真紅姉ちゃんなりのこだわりらしい。腰と背中に回した腕のお陰でますます真紅姉ちゃんが細いのが分かる。「あふ・・・JUM、そろそろ眠いのだわ・・・」「ん?じゃあ、寝る?」僕は抱きしめていた腕を解いて寝転ぼうとする。すると、真紅姉ちゃんは暗闇でほとんど目が利かないはずだが、正確に僕の頬をビンタした。「全く、気が利かない下僕ね・・・今日は抱きしめたまま寝なさい。」「それって暑いと思うけど・・・クーラーも止まってるし・・・」「貴方、本当にムード作れない男ね。そんなんじゃあ彼女できないのだわ。」ほっとけ・・・と思いながら言われたとおりに、僕は真紅姉ちゃんを抱きしめたままベッドに体を埋めた。僕と真紅姉ちゃんの汗が絡み合うのを感じた。
「ふふっ・・・JUM・・・何だかんだで立派になったわね・・・」「そりゃまぁ・・・僕も高校生だし・・・・」真紅姉ちゃんが僕の腕の中で僕の体をスッと触っていく。「随分逞しくなったのだわ・・・ふふふっ・・・」何だか嬉しそうな真紅姉ちゃん。さすがに暑くて汗が噴出してくる。でも、真紅姉ちゃんは全く気にしてないようだった。まぁ・・・僕も何だかんだで・・・この状況が好きだからいいけどね・・・「JUM・・・んっ・・・」「姉ちゃん・・・?」僕の頬にしっとりした温かいモノが当たる。それは真紅姉ちゃんの唇だった。「あら?よく見えなくて唇が当たったのだわ・・・よかったわね。御主人様にトラブルながらも頬にキスがもらえて。」そんな事を言う。まったく、素直じゃない・・・まぁ、それが真紅姉ちゃんらしいんだけど。だからかな・・・僕は少しだけいたずらしたくなって、寝たふりをした。「す~・・・・す~・・・・」「JUM?寝てしまったの・・・・?」寝息を立ててみる。大丈夫、気づかれてない。すると、僕の頬に再び温かい感触が触れる。「んっ・・・汗がしょっぱい・・・でも・・・JUMの味・・・ふふっ・・・大好きよ・・・JUM・・・」真紅姉ちゃんはそれだけ言うと、僕の体に顔を埋めて眠りに入った。正直、暗闇でよかったなって思う・・・多分、僕の顔は今無茶苦茶赤い・・・
翌朝・・・僕が目覚めると、傍らに真紅姉ちゃんがいた。「お早う、JUM。御覧なさい。いい天気よ?」僕が眼鏡をかけて外を見る。昨日の夜が嘘みたいだ。「さ、起きたなら紅茶を淹れなさい。昨日はサービスしてあげたもの。美味しく淹れるのよ?」夜が明ければ相変わらずの真紅姉ちゃん。でも・・・昨日の夜みたいな事もあるなら、台風も悪くないな。END
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