最終話 生きる事は・・・
「超機動戦記ローゼンガンダム 最終話 生きる事は・・・」
「これでよしっと・・・」自室のドレッサーで薄く化粧をする少女がいた。軍部に身を置きながらも年頃の女の子。身だしなみは忘れない。最も、今日はオフだからなのだが。彼女の名前は地球連合軍「Rozen Maiden」第六番大隊隊長、柏葉巴中佐。11年前のアリスの乱からはじまった戦乱をレジスタンス「メイデン」の旗艦、サクラダの副艦長として活躍し、現在はその手腕を買われて六番大隊の隊長に抜擢された。もっとも、彼女の場合は戦闘のための隊長というより、ある人物の護衛。悪く言えばお守りとしての役割の方が大きい。1年前、稀代の天才科学者ローゼンの作りし最高の人工知能「アリス」の暴走による戦乱は様々なレジスタンスによって鎮圧された。そのレジスタンスで最も活躍したとされるメイデンから因んで、現在連合軍は自らを「Rozen Maiden」と命名。現在最高責任者はレジスタンス「カカロット」の大将にして、レジスタンス連合の纏め役でもあったべジータがなっている。ちなみに、現在の軍部の仕事は戦災地の修復、支援。また、アリスの残党の鎮圧だ。だが、彼女の任務は基本的には修復、支援の方である。もちろん、必要とあらば戦闘も行うが彼女の最大の任務は前途した通り、ある人物の・・・まぁ、お守りなのである。「巴?あれ?今日は巴はお休みかしら?」大層な軍服を着込んでいるが、その小さな体と幼さの残る顔のせいかイマイチ不釣合いな少女が巴の部屋に入ってくる。彼女の名は金糸雀。これでも第二番大隊の隊長である。「はぁ・・・カナ。今日は特別な日だってあれほど言ったのに・・・」巴がため息を付く。金糸雀が目をパチクリさせ、若干思考。そして、目を見開いて顔を引きつらせる。「し、しまったかしら!カナとしたことが・・・今日はあの日から丁度一年だったかしら!」彼女は慌しく自分の部屋へ戻っていく。中からはあーじゃない、こーじゃないと喚き声が聞こえてくる。巴は再びため息をつく。カナとしたことが・・・と言うが正直いつもの事でもある。この第二番大体の隊長の金糸雀少佐こそが巴がお守り、もとい護衛する相手であるのだ。普通に考えて、「Rozen Maiden」の中でもトップクラスの実力を持つ一桁数字の大隊(正確には一から八まで。しかも、四と八は欠番)が常に行動を共にするのは効率が悪い事この上ない。しかし、もちろんこれには理由があった。
「お、お待たせかしら。」先ほどの軍服と打って変わって可愛らしい私服に体を包む金糸雀。もはや軍人にも見えない。「うん、じゃあ。行こうか。」巴は金糸雀と一緒に車に乗り込み、ある店へ向かっていく。「もう一年か・・・早かったかしら・・・」「そうだね。私もカナのお守りになって一年たつんだね。」「お守りとは失礼かしら!カナだって立派なれでぃかしら!べジータの奴が過保護すぎるのがいけないかしら。」運転しながら巴がクスクスと笑う。さて、この一年。二人は簡単に言えば慰安部隊として世界を転々としていた。それは、金糸雀の才能を生かした仕事だった。世界中で復興に向けて戦っている人を癒す金糸雀の音楽。それゆえに、第二大隊のみ全員音楽家で形成されていた。巴は、未だに残るアリスの残党からこの第二大隊を守るのが任務。現在、世界中の人々が金糸雀の奏でる音に酔いしれており、一種の希望ともなっている。第二大隊の仕事は音楽で人々を癒す事。それゆえに、武器は持っていない。だから巴の第六大隊が常に行動を共にしているのである。「そういえばさ・・・カナは何でそのまま軍に残ったの?みっちゃんさんと一緒に暮らすって。」「そうね・・・みんなが残ったからってのもあるかしら。でも、本当は・・・カナにも出来る事があるって分かったから。だったら、それをしないのは勿体無いと思わない?みっちゃんとは結構会ってるし、分かってもらえてる。それに・・・カナの「失われた時へのレクイエム」はまだ完成してないの。だから、完成させて世界中の人々に聞いてもらいたい。そのために、カナは残ってるかしら。巴は?やっぱり・・・ヒナかしら?」金糸雀は思い出す。戦乱の中で散っていった友の事を。巴は前を見ながら言う。「そうだね。やっぱり、雛苺のためかな。もう、あの子みたいな子を出したくないから。だから・・・私は第六大隊を受けたんだ。本当なら欠番になるはずだった隊をね・・・あの子の代わりに、私が戦う。そのためだね・・・」二人の車が待ち合わせの喫茶店へ向かっていく。少し目を向ければ戦いで削れた山が見える。まだ、戦乱の爪痕は残ってる。それでも、二人はその爪痕を癒すために戦いを続けていた。
二人が喫茶店につき、中へ入る。すると、とある席から呼び声が聞こえてきた。「巴ー!金糸雀ー!こっちですぅー!」ブンブンと手を振っているオッドアイの少女。長かった栗色の髪は、今は肩くらいまでしかない。「久しぶりだな、巴。金糸雀。」そして、もう一人。白銀の長い髪は相変わらずだが、彼女のトレードマークともいえた右目の眼帯は今はなく、代わりに瞳がそのアイホールに埋まっていた。「お久しぶりかしら、翠星石!雪華綺晶!」金糸雀が嬉しそうに席に走っていく。実に一年ぶりの再会だった。「久しぶりだね。翠星石、その髪はどうしたの?」巴が席につきながら言う。翠星石は頬をかきながら答えた。「あの後思うところあって切ったんですよ・・・そして改めて確認したです。翠星石は蒼星石じゃないって。やっぱり翠星石は翠星石なんだって。そりゃあ、傍から見れば当たり前の事ですけど・・それでも、翠星石には大事な事だったです。だから・・・今はまた伸ばしてるですよ。」翠星石がにっこり笑う。彼女も、今は軍部の人間だ。第三番大隊隊長。階級は少佐。主に残党の鎮圧部隊として世界中を飛び回っている。機体も修復、改修し緑と青を基調にカラーリングを変更。武器のガーデナーシザーとガーデナースプリンクラー用に遠近両戦可能なように調整もされた。「じゃあ、雪華綺晶もその目は何かあるのかしら?もしかして、移植?」金糸雀がジュースをすすりながら言う。「ん?いや、残念ながら私の右目は視神経がダメらしくてな。義眼だよ。でもな、思ったんだ。私は、右目を眼帯で閉ざす事によって自ら見えないようにしてたんじゃないかなって。だから、義眼にしたんだよ。たとえ生物学的には見えてなくても、きっと見えるものがあるんじゃないかなって思ってな。」雪華綺晶がふふっと笑う。彼女も同じように軍部に在籍し、第七番大隊の隊長で階級は大尉。何故大尉かと言えば、余り階級が上だと色々面倒そうだから。との事だが彼女の腕は周知の事実。結局は頼られているので余り意味がないようだ。翠星石同様、鎮圧が主な任務で機体は白と紫を基調にカラーリング変更。インビシブルは相変わらずだがローズウイルスは彼女の要望で除かれている。
「しっかし、べジータのハゲ野郎も舐めてやがるですぅ!翠星石達をわざわざ別々に配備するだなんて・・・おかげで翠星石は一年間メイデンの誰とも会えなかったですよ。」「それは仕方ないさ。私もそうだったし。それに、優秀な人間をわざわざ一箇所に固めて置く方が不出来な事さ。世界は広い・・・だから、私達はそれぞれ出来る事をやってるんだよ。」プリプリと怒る翠星石をなだめるように雪華綺晶が言う。適材適所といった所だろうか。ベジータの采配は実によく出来ていた。慌しい中で実に無駄なく機能している。「そういえば、二人は慰安がメインだったな。どうなんだ?随分評判がいいようだが・・・」「あら、雪華綺晶だってカナの音楽好きでしょ?みんな聞きたがって引っ張りだこかしら。」金糸雀が得意げに胸をはる。「で、その金糸雀のお守りで巴は大変な訳ですね?」翠星石の鋭い素敵に巴はアハハと乾いた笑いを返す。「にしても、他の奴らおせーですぅ!何やってやがるですか。」「まぁ、仕方ないだろう。今日はべジータが気を利かせてメイデンの関係者は休みをくれたようだが、昨日までは地球のドコにいたのか分からないからな。私達は比較的近場だったようだが・・・」「そうだね。私達も昨日入港したばかりだったしね。あ、あの車って・・・」巴がやってきた車を指差す。そこから美しい長い銀髪を携えた少女と言うには大人びている女性が出てくる。その女性は店にはいり、辺りを見渡すとこちらに歩いてきた。
「はぁい、お久しぶりねぇ~。」手をプラプラしながら来たのは水銀燈だった。だが、その姿は私服ではなく、スーツだった。「久しぶりだな、水銀燈。今まで会議だったのか?」雪華綺晶の質問に、水銀燈は出された水を飲みながら言う。「そうよぉ、全く忙しいったらないわぁ・・・はぁ、どっかでストレス発散したぁい。」水銀燈は現在、第一番大隊の隊長で階級は中佐。しかし、こちらよりメインの仕事があった。それが連合の幹部としての仕事だった。翠星石達に比べて破損の大きかった水銀燈の機体は修復に手間取り、その暇な時間で会議などに出ていたところそのまま幹部にされてしまったのである。常にサボりを企てているようだが最後には一応キチンと仕事をこなしているらしい。「よく言うですよ・・・評判ですよ?議員が近くでアリスの残党との戦闘を聞きつけると一目散に出て行くって。」「うっ・・・だってぇ、しょうがないじゃなぁい。私だって一応軍部の人間よぉ?仕方なく、よぉ。」「その割には駐屯部隊より早く出撃し、部隊が着く前に全滅させてるとかも聞くがな。」水銀燈がギクっと冷や汗を流す。「カナもよく聞くかしら。水銀燈移動にジェット機より自分の機体を使うって。」「あ、そういうのなら私も聞くよ。水銀燈は会議室より戦場にいる時間の方が生き生きしてるって。」なんだか、もう散々な水銀燈だった。それでも、最低限は仕事してる・・・はずである。「後はあの二人だけねぇ。そういえば、ようやく先日機体が修理されたって聞いたわぁ。」「ああ、サクラダとシンクか。あの二つは特に損傷が酷かったからな。修理に時間のかからない機体から直していったから思ったより時間を食ったらしいな。」水銀燈と雪華綺晶が言う。これもべジータの指示であり、とりあえず使えそうなのから優先的に修理していった結果、艦隊で一番損傷の酷かったサクラダと、ほとんど原型をとどめてなかったシンクは後回しにされたのだった。
5人がこんな風に近況を話しているときだった。店のドアが開き、一組の男女が入ってくる。「あ・・・真紅とJUMですぅ!」そこにいたのは、JUMと相変わらず長い金髪を下ろしたままの真紅だった。「あら、私達が一番遅かったのだわ。」「そうみたいだな。」二人は5人の下に向かっていく。JUMと真紅も、戦後は軍部に在籍していた。JUMは大隊を総括して纏める大隊長で、階級は大佐。真紅は第五番大隊隊長で、階級は少佐である。「二人とも遅いかしら~。待ちくたびれたかしら。」すでに注文の品を食べきった金糸雀が言う。「悪いな。今日サクラダとシンクがようやく本稼動したからな。どうしても抜けれなかったんだよ。」「そうなのだわ。でもほら、見て頂戴。綺麗に直ったでしょう?」真紅が二枚の写真を見せる。一枚は一年前まで常に共にあった激戦を潜り抜けた戦艦。そして、もう一枚には相変わらず真紅のボディに紫の右腕をした機体の写真だった。「ふふっ、相変わらず右腕は紫なんだな。何だか嬉しいよ、真紅。」雪華綺晶が言う。「さ、揃った事ですしさっさ行くですよ!JUM。さっさと運転しろですぅ。」「はいはい。あれ?そういえば翠星石はその髪どうしたんだ?雪華綺晶も右目は・・・」「行きながら説明してやるですぅ。ほらほら。チンタラすんなですぅ!」翠星石にせかされて7人を乗せた車が走り出す。山道を登っていき、行き着いた先には何もないが綺麗な丘に、三つの墓が並んでいた。
「1年ぶりねぇ・・・思ったより綺麗じゃないのぉ。」水銀燈が並んでいる墓を見ながら言う。「べジータが結構掃除してくれてるらしい。ほら、蒼星石のだけ随分綺麗だろ?」「うぅ・・・掃除してくれるのは嬉しいですけど・・あいつだと思うと何だかキタネエ気がするです・・・」「それは偏見だろ、翠星石・・・」雪華綺晶が薔薇水晶の墓についていた砂埃を払う。「カナはお供え物用意してきたかしら!ほうじ茶に、苺大福に・・・後はアッガイ!」「う・・・苺大福がかぶったのだわ・・・」「私はぁ、シュウマイと苺とお茶ねぇ・・・蒼星石だけ何だか渋いわねぇ・・・」それぞれで三つの墓を掃除しながらお供え物とかを置いていく。「さて・・・それじゃあ近況報告といこっか。まずは僕から・・・」JUMが墓の前に立つ。「まず、悪かったな。丸々一年僕らは誰も来なくて。忘れてたわけじゃないぞ?ただ、約束したんだ。一年後・・・みんなそれぞれの道を歩き出して。それからまたここで会おうって。まぁ、みんな軍に残ってるけどさ・・・それぞれが出来る事をしてる。僕は新型機の開発をしながら修理を手伝ってきた一年だったな。本当は、兵器なんかない方がいいかもしれない。でも、アリスの残党はまだ存在するし、また新しい敵が世界を脅かすかもしれない。その時になって・・・僕らみたいな人が出ないように力が要ると思うから。それからさ、今日ようやくサクラダが直ったんだ。多分明日から世界中を飛び回ると思うけど・・・僕はこれからも戦っていくよ。3人が心配しないように・・・ね。」そこまで言うと、JUMは3つの墓をなでた。
「じゃあ次は私が・・・私は今金糸雀と世界中で復旧に勤しむ人たちを応援するために世界中を回ってるよ。私が思ったより、戦災の爪痕は大きい・・・でも、でもね。改めて思うんだ。こんな状況になっても、人は頑張れるって。だから、私も頑張ってるよ・・・精一杯・・・頑張ってるから・・・」巴と入れ替わり、金糸雀が墓の前に立つ。「本当はカナの素晴らしい音を聞かせてあげたかったけど、やっぱりやめたわ。貴方達には、カナが納得できる曲が出来たら・・・そしたら一番に聞かせてあげるかしら。それまでは世界中の人を元気にしながら修行するから。だから、待っててほしいかしら。絶対絶対、満足する音を聞かせてあげるかしら!」「ん・・・次は翠星石ですぅ。翠星石は今、アリスの残党と戦ってるですぅ。あんな事があっても・・・まだアリスにしがみ付く奴がいるって事です。人間には色んな奴がいます・・・人は一人一人が違うです。その人はその人なんですぅ・・・だから・・翠星石は翠星石として頑張っていくですよ。」翠星石が下がる。続いて雪華綺晶がたつ。「すまないな・・・私も出来れば日本に寄ったら来たかったがみんなとの約束だからな・・・私はこの一年、戦いながら世界を見た来たよ。戦乱中ではでは気づかなかった事が一杯だ。それは余裕がなかったからじゃなく、きっと私自身が目を閉ざしてたから・・・私はこれからもこの目で世界を見ていく。ああ、心配するな。これからはよく寄るからさ。そしてら、私が見つけた新しい事、しっかり教えてあげるよ。だから・・・見守ってて欲しい・・・そして、一緒に見よう。世界を・・・」雪華綺晶が満足気に下がる。次に来たのは水銀燈だった。
「おひさしぃ~。私は今軍部の幹部なんて柄でもない事やってるわぁ。まぁ、主に話し合いとかねぇ。今後の世界とかについてのねぇ。本当は私も戦場に立っていたいのだけどねぇ・・・でも、敵を撃つだけが戦いじゃあないものねぇ・・・戦場にいなくても戦うことはできるでしょぉ?世界には私が思ってた以上にめぐみたいな孤児や障害が残った子がたくさんいたわぁ。私は、そんな子達のために会議なんて戦場で戦ってるのぉ。もう・・・私達みたいな子を出さないためにねぇ・・・ま、退屈だけどやり甲斐はあるわぁ。私も暇があったら、来て上げるわぁ。私の愛機でひとっ飛びですものぉ・・・だから・・・またね。」水銀燈が髪を翻し、真紅の肩を叩く。「ほらぁ、最後は貴方よぉ。キチッと締めて頂戴ねぇ。」真紅が促されるまま墓の前に立つ。一陣の清風がその長い金髪を揺らす。「久しぶりね・・・正直何を話したらいいか分からないわ・・・言いたい事はみんなが言ってしまったし。」真紅が髪を耳にかける。しかし、それも吹く風によって舞い上がる。「だから・・・真紅は誓うわ。貴方達に・・・私は、戦うことを止めないのだわ。本当は、私は・・・いえ、私達は戦いを止める事ができた。軍に入る事なんてしなくてもよかった。みんな、ただ平穏に暮らしていく事もできたのだわ。でも、みんなそれをしなかった。私達は見えない糸で繋がっている・・・だからきっと同じ決断をしたのだわ。それが・・・私達の絆。」何の因果か、自分と同じ名を持つガンダムの下に集った少女達。いくつもの出会い・・・そして別れ。それでも、彼女達は前へ進んでいく。一人じゃない・・・みんなで・・・「雛苺・・・蒼星石・・・薔薇水晶。私達は貴方達の分まで生きていく。だから・・・戦う。だって、生きる事はー」そう、みんなで・・・戦うと決めた。それが・・・彼女達の誓い・・・「戦うことだから・・・」
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