第二十三話 蒼星石
「超機動戦記ローゼンガンダム 第二十三話 蒼星石」
「サクラダはこれより戦闘に入る!ブリッジ遮蔽。オールウェポン、ロック解除。柏葉。敵軍の規模は?」「敵軍はディアーズが5隻・・・積載を考えればバーズは100機以上はいるかと・・・」これまでにない規模だ。しかし、メイデンだけではまず迎撃不可能だろうが今回は他のレジスタンスもいる。充分追い払う事は可能だろう。むしろ、今後の決戦に備えて多く敵機を潰すのもいい。「よし、MS隊出撃!他のレジスタンスと連携してアリスを叩く!」JUMの声が響き渡る。メイデンの7機のガンダムが出撃していく。「さて、今回は力比べですね。もちろん、潰せれば言う事なしです・・・全機出撃!行くぞ!」白崎が号令をかける。出撃した内訳はバーズが60機ほど。ラプラスは1機。そして、アリス軍の新型MS、Zローンが40機ほどだった。「!?40機ほど識別できません!敵軍に新型がいます!」「何だと!?くそっ、元から開発してあったものか・・・」JUMが唇を噛む。しかし、いるものは仕方がない。「各機、新型がいる!充分気をつけるんだ!!」JUMが通信を入れる。その新型機は黒を基調にカラーリングされており、一番目を引くのは武装の日本刀のような実剣と明らかにビームライフルより強力そうな大口径のビームランチャーだ。「新型・・・V・S・B・Rの実戦には丁度いいか。」雪華綺晶が自機の背部に新しく取り付けた兵器のロックを解除しながら言った。
「ピチカート起動!メイメイ照準、目標ディアーズ!うてえええ!!!」サクラダが迫り来るミサイルを迎撃し、お返しとばかりにメイメイを放つ。1,2発は当たったようだがそれだけではディアーズを撃墜できるはずがない。「うゅ・・・新型思ったより早いの・・・」ヒナイチゴがビームライフルを放つ。しかし、Zローンは上手く回避し、日本刀のような実剣を持ち、ヒナイチゴに向かってくる。ヒナイチゴもサーベルで切り結び回避するがパワーもバーズの比ではない。「っ・・・このぉ!!」スイギントウがダインスレイブでZローンの剣を打ち払う。打ち合った剣が火花を散らす。数合打ち合いZローンを右手首を切り落とすとそのままダインスレイブをコクピットに突き立てる。「手ごわいじゃないのよぉ・・・接近戦用の人工知能でもつんであるのかしらぁ?」一機は撃墜したものの、まだまだ今回は敵が多すぎる。次の目標を定めてスイギントウが漆黒を翼をはためかす。「遅い!」ソウセイセキはソードモードでZローンの実剣を挟みこむようにして叩き折るとそのまま機体を切断する。右側から強力なビームが放たれるがそれをかわすと、一気に間合いを詰めて頭部から真っ二つにする。「大丈夫だ、充分勝てる・・・っ!?」次の機体を探していると、蒼星石は反射的に機体を後退させる。そこに数条のビームが降り注ぐ。「おや、かわされましたか。いい反応をしますね。蒼星石?」「ラプラス!今日こそは君を落とさせてもらうよ!」ソウセイセキがラプラスに突っかかっていく。「おや、ラプラスは機体の名前で僕は白崎なんだけどなぁ。」ラプラスは二つのサーベルでソウセイセキの剣撃を受け止める。「関係ないね。白崎だろうとラプラスだろうと・・・敵には変わりない!」ぶつかり合う刃に空中で光がいくつも交差した。
「敵が多い・・・ならば敵の母艦を直接叩く!」キラキショウはディアーズに向かって機体を飛ばしていく。「ええい、邪魔だ!沈めえええ!!」数機のバーズとZローンがキラキショウの前に立ちはだかる。しかし、キラキショウは背部の銃器を敵機に向ける。V・S・B・R。可変速ビームライフル。雪華綺晶はスピードを最大に調整し、放つ。腰部の左右から放たれた超高速のビームは立ちふさがった機体数機を貫通し彼方へ飛んでいく。「さすがはジェネレーター直結・・・こっちでも威力は並外れているな・・・」威力を落としスピードを上げた場合は貫通力を持ち、威力を重視した場合はスピードは落ちるが驚異的な破壊力を誇る可変速ビームライフルV・S・B・R。「とはいえ、乱発は禁物か。機体直結だからエネルギーがなくなって機体が動かなくなっては元も子もない。」キラキショウはビームライフルに持ち変えると、ディアーズに向かっていく。「もらったのだわ!」シンクがZローンの攻撃を回避し懐にもぐりこむと右腕から強力な拳撃を放ち、機体のコクピットを打ち抜く。さらに内部でガトリングガンを放ち完全に内部から崩壊させる。その名も「絆」(真紅命名)。「真紅、敵の数が多いですぅ。」翠星石が不平不満を漏らしながらもライフルモードで乱射する。「敵も本気と言う事なのだわ。翠星石?貴方は短気なのだから、間違っても味方機もろともGSのフルパワーで攻撃しようとしたらダメよ?」「そ、それくらい分かってるですぅ・・・・やろうと思ってたけど。」翠星石はギクリと体を震わせると仕方なくライフルモードで敵機を攻撃した。
「右舷格納庫に被弾!火災発生。損傷率、30%を越えました!」「消火作業急げ!30程度なら問題ない。レンピカ、スィドリーム照準!主砲のチャージを開始!」激しい攻撃にさらされサクラダの船体が揺れる。5隻のディアーズはどうやらサクラダに狙いを絞っているようだ。降り注ぐ大量のミサイルにピチカートもベリーベルも追いつかない。「他のレジスタンスに連絡!ディアーズの攻撃は引き受ける。攻撃の方を何とかしてくれ!」再び振ってくるミサイル。サクラダから多量のレーザーと銃弾が放たれミサイルを撃墜する。「主砲チャージ完了!ディアーズ3番艦を射程に収めてます!」「味方機に通信!射線軸から退避させろ!!それまでは凌ぐんだ!」サクラダから右舷左舷の副砲が放たれ、バーズが粉砕される。「射線軸から味方機退避完了!3番艦は今だ射程内です!」「よぉし!ホーリエ、てえええええええええ!!!!」サクラダの中央部に装備されている主砲ホーリエ。多量のエネルギーが溜まった砲身はその抑制を解除され、勢いよくディアーズの3番艦に向かって放たれる。それは一本の光の矢となり射線上のMSを蹴散らし、戦艦までも葬り去った。「ホーリエか。このまま私もやらせてもらおう。インビシブル起動!」横目で赤い光の矢を見ながらキラキショウがインビシブルを起動させ、5番艦接近する。恐らく、5番艦のクルーは真上に敵機がいるとは露にも思っていないだろう。「パワー最大・・・戦艦ならばかわせぬだろう・・・・くらええええええええ!!!」そして、5秒後姿を現したキラキショウに5番艦はあわてて照準を定めようとするが、全てが遅い。キラキショウの放った2丁のV・S・B・R。破壊力重視ならば戦艦すら一撃で葬り去る。結局、5番艦のクルーはわけのわからないまま光に飲まれていった事だろう。「強力すぎるな・・・これは・・・」
「ちぃ・・・ディアーズが2隻も落ちたか・・・思ったより手ごわい・・・」白崎は完全に焦っていた。レジスタンスの力が完全に予想以上だ。メイデンはもちろんだが他のレジスタンスもかなり出来る。侮ってはいけなかった・・・奴らもずっと戦ってきたんだ。と、スラム○ンクの陵南の監督のように後悔する。「覇気がなくなったね、ラプラス!隙だからけだよ!」そう、完全に隙だらけだった。ソウセイセキの鋏はラプラスを捕らえた。「!?うおおおおおおお!!」ギリギリで機体を動かし直撃こそ避けるものの、完全に左腕を持っていかれる。「くっ・・・ラ・ビット!!」苦し紛れにラ・ビットを射出する。しかし、ソウセイセキはそれをバルカンで打ち落としながらラプラスに止めを刺す為に接近をしてくる。「不味い・・・私がこんなところで・・・ん?」白崎の目に入ったもの。それはロシアの地を走る列車だった。恐らく、戦闘が始まった伝令が上手く伝わっておらず、仕方なく走らせているのだろう。戦闘を横目に駅まで走っていく。その、駅の前に白崎は着目する。鉄橋。列車はここを通る。そして・・・その橋の支えを破壊すればどうなるか・・・橋は落ち、列車も転落し乗客は無事ではいられないだろう。「はは・・・はーっはっはっはっはっは!!私は運がいい・・・」白崎が邪悪な笑みを浮かべる。「終わりだ!ラプラス!!」向かってくるソウセイセキ。しかし、ラプラスはソウセイセキを狙わずにあさっての方向・・・鉄橋の支えを打った。「な、何!?何て事を・・・・くそお!!」それを目で追った蒼星石は機体を急反転させ、鉄橋に向かった。
「あーっはっはっはっはっは、そうだ。それでいいんだよ、蒼星石。」「くそっ、間に合ってくれ!!」このまま支えを失った橋が崩れれば乗客はみんな死んでしまうだろう。蒼星石はガーデナーシザーを地面に刺すと崩壊した支えの部分を機体で固定する。「うあぁ!?っくっ・・・でも・・・僕がやらないと・・・ぐぅ・・・」相当な重さに機体が悲鳴を上げるのが分かる。列車をみると不安そうな親子が蒼星石に見えた。「蒼星石!?何やってるですか!ラプラスが!!」翠星石が悲痛の叫び声をあげる。この距離ではスイセイセキは間に合わない。「ダメだ!僕がここをどいたら・・・橋が・・・・あの親子や・・・乗客が・・!!」必死で橋を支えるソウセイセキ。そんな前に兎の皮をかぶった悪魔が赤い目を光らせ、右手に剣を持っている。「素晴らしい!貴方は優しく勇敢な方だ。それに免じて・・・」ラプラスが右腕を引き、ソウセイセキのコクピットに狙いを定める。「や、やめるですーーーーー!!!蒼星石、早く動くですよ!!!!」蒼星石の目の前に光の剣が近づいてくる。「機体はそのまま!ただし、パイロットには死んでもらいましょうか!!!」そして、ラプラスの剣は・・・無慈悲にもソウセイセキのコクピットを貫いた・・・(みんな・・・・翠星石・・・ごめん・・・・)その瞬間まで彼女は何を思ったんだろう・・・彼女は泣き虫な姉の顔を思い浮かべると苦笑して・・・「翠星石・・・大好きだよ・・・」そして、光の中へ消えていった。「はははっ・・・はは・・・あーっはっはっはっはっはっは!!さようなら!さようなら蒼星石ぃいいいいい!!!」コクピットに剣を突き立てられ、その衝撃で頭部は吹っ飛んだ。しかし、奇跡的にと言うべきだろうか・・・列車が通り過ぎるまでソウセイセキは動かず、通り過ぎた後・・・ようやく爆発した。「なっ・・・・ソウセイセキ・・・・シグナルロスト・・・・」「な・・・何だって!?」サクラダの艦内に衝撃が走った。
「ア・・・・ああ・・・あ・・・・・ああああ・・・・蒼星石ぃいいいいい!!!!」スイセイセキが今はもう崩れ去った鉄橋に来る。ソウセイセキがいたという証拠。それは地に刺さったままの庭師の鋏以外に、何もない。スイセイセキはその場から動けず、ただ立ち尽くしていた。「や・・です・・・やぁですよ・・・蒼・・・星・・・石・・・・ぃ。」翠星石はただ、庭師の鋏を手に、泣き崩れていた。「白崎ぃいいいいいいい!!!!」ソウセイセキを葬り艦に戻っていくラプラスをキラキショウが猛追する。「おや、これは雪華綺晶。どうなさいましたか?」「貴様が!貴様が!貴様があああ!!!蒼星石をも殺したあああああ!!!」逆上したラプラスにV・S・B・Rを放つ。しかし、狙いが全く定まっていない。無関係なバーズが撃墜しただけだ。「はははっ、いやいや実に手強かったですよ。もっとも・・・随分甘ちゃんだったようですがねぇ。」白崎の顔がニヤリとする。「ふざけるなあああ!!!」キラキショウがサーベルを振りかざす。しかし、ラプラスの展開したラ・ビットが見えていない。ラ・ビットのビームがキラキショウの左足を打ち抜く。「あーっはっはっは、今回は彼女のお陰で負け戦を勝ちにさせてもらいましたよ。折角なんで勝ちのまま引き上げさせてもらいますよ。」白崎が笑いながら引き上げていく。キラキショウはラ・ビットの攻撃で推進系がダメージを受け、もう追撃は不可能だった。「くそぉ!!私は・・・私はまた・・・仲間を守れなかったのか・・・・・・!!」雪華綺晶がコクピットで悔しさで機器に手を打ち付けた。アリス軍は去っていった。戦力的に言えばかなり減らせただろう・・・しかし・・・「蒼星石・・・」すでに夕日が照らしている鉄橋の残骸に全ての機体が集まっていた。それは彼女を追悼するように。ただ、庭師の鋏だけが、夕日を浴びて光り輝いているだけだった。
「そうか・・・蒼嬢が・・・・」夜・・・サクラダ内部はとても暗かった。JUMだってこんな日は早く寝たかった。しかし、艦長という責任上それを放棄するわけにもいかない。ベジータと定時連絡をかわす。「ああ・・・あいつらしい・・・最後だった・・・」JUMの目には涙が溢れている。さっきから止まる気配は無い。「JUM・・・翠嬢は・・・・」「ああ・・・部屋に篭りっきりだ。仕方がないだろう・・・僕らではなんとも出来ないさ。」翠星石はあの後、帰還すると何も言わず、ただ部屋に戻っていった。それから出てくる気配は無い。「そうか・・・二人は双子だったからな・・・半身を失ったようなものか。」「ああ・・・何にしても僕らが口出しできる事じゃないよ。あいつ自身で何とかしてもらうしかない。或いは・・・蒼星石が説得するしかな・・・」JUMの声に悲痛にも似たものが混じっていた。分かってる。それは不可能だ・・・その蒼星石はもう・・いない。自分は戦場にいる。それはメイデンの誰もが知っている事実。誰がいつ死ぬかも分からない。それでも・・・仲間は死ぬのは・・・いつまでたっても慣れるものじゃなかった。
次回予告 蒼星石を失いすっかり気力のなくなった翠星石。クルーも何とか元気付けようとするがその手段がまるで無い事に悩む。そんな時、蒼星石の遺品の中に翠星石宛の手紙が出てくる。果たして、その中は。次回、超機動戦記ローゼンガンダム 勿忘草 その花の意味が、彼女に願い・・・
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