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「前とは違うかたちで」(2006/05/31 (水) 18:12:43) の最新版変更点
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<a title="sinkmae" name="sinkmae"></a>
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放課後の屋上、僕のお気に入りの場所だ。この時間、晴れた日なら綺麗な夕日を見ることができる。<br>
最近では、帰る前にほぼ毎日ここに寄るようになった。人がいることも滅多にないし、ぼーっとしたい時や考え事をするには最適だから。<br>
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いつものようにそこに行くと、彼女を見つけた。<br>
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「真紅姉ちゃん」<br>
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僕の声を聞いて彼女は振り向く。その目には涙がたまっているように見えた。<br>
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「……泣いてたの?」<br>
「ジュン? な、泣いてなんかいないのだわ」<br>
「そんな目をしてるよ」<br>
「馬鹿ね、夕日のせいよ」<br>
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そういって笑顔を見せる。でも付き合いの長い僕にはわかってしまう、それがつくりものの笑顔だって。<br>
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真紅姉ちゃんは僕より一つ年上の高校三年生だ。お互いの家は目と鼻の先で、小学生になる前の本当に小さなころから仲がよかった。<br>
気が強くてわがままで、たまに優しい。<br>
いつのころからだろう。僕は幼なじみとしてではなく、ひとりの女の子として真紅姉ちゃんを見るようになった。<br>
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必死に勉強して同じ高校に入ったのに、話し掛けるのが気恥ずかしい、そんな感じで昔より二人の距離は遠くなっていった。<br>
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今日、真紅姉ちゃんに会ったのもずいぶん久しぶりだ。彼女は昔と変わっていない。<br>
自分の弱いところを他人には見せたがらない。それは僕に対しても同じだ。<br>
以前と変わらないそんな姿が少し嬉しくて、少し悲しい。<br>
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二人の距離を前とは違う形で縮めたくて、僕はいつもより少しだけ勇気をふりしぼる。<br>
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「泣いたっていいじゃないか」<br>
「え?」<br>
「別に恥ずかしいことじゃないだろ。泣くだけの理由があるんだから。<br>
何か悩んでるなら僕は……真紅姉ちゃんの力になりたい」<br>
「ジュン……ありがとう、嬉しいわ」<br>
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髪をかきあげ、微笑みながら真紅姉ちゃんは言った。<br>
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「言いたくないことなら無理に言わなくてもいい。それなら気が済むまで泣けばいいんだ。<br>
泣きやむまで僕がそばにいるよ」<br>
「……」<br></p>
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真紅姉ちゃんは夕日を見ながら泣いた。僕のほうは見ない。<br>
ただ、僕の左手を小さな右手でつかみ、ほとんど声もあげずに泣いている。僕はそれを横目で見ていた。<br>
くちびるをかみしめ、夕日を睨むように涙を流す姿はとても綺麗で、かっこいいとすら思ってしまう。<br>
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「手、大きくなったのね」<br>
「え?」<br>
「前につないだ時は私のほうが大きかったわ」<br>
「……何年前の話だよ」<br>
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真紅姉ちゃんの目にはもう涙は見えなかった。<br>
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「気がすんだ?」<br>
「ええ、もう大丈夫」<br>
「よかった。じゃあまたいつもどおり小さな胸をはればいいよ」<br>
「ちょっと! 小さなは余計よ!」<br>
「ごめんごめん、冗談だよ」<br>
「まったく。ジュンは大きくなったら可愛いげがなくなったのだわ。<br>
小さなころは真紅ねえちゃん大好き~なんて言ってくれていたのに」<br>
「そ、そんな昔のこと出さなくてもいいだろ!」<br>
「あら? 顔が赤いわよ」<br></p>
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そう言って真紅姉ちゃんは笑った。今度の笑顔は、昔毎日のように見ていた本物の笑顔だった。<br>
そう、僕はこの笑顔を見ていたいんだ。そのためなら下手な冗談だって言える。<br>
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「泣いたらおなかがすいてしまったわ」<br>
「それなら帰りに甘いものでも食べにいこう」<br>
「ええ、いいわ。もちろんジュンのおごりよね?」<br>
「……真紅姉ちゃん年下におごらせる気?」<br>
「年なんて関係ないわ、誘ったほうがおごるのが礼儀でしょう?」<br>
「なんか納得できない」<br>
「さ、行くわよ」<br>
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彼女は僕の手をひいて歩きはじめる。<br>
手をつないで歩くのは小さなころに何度もあったことだ。やっていることは変わらないのに、僕の心の中は昔とはちがっている。<br>
いつか、この小さな手の持ち主を守ってあげられる存在になりたい、そんな気持ちで一杯だった。。<br>
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「それにしても驚いたわ」<br>
「なにが?」<br>
「あなたのことよ。女の子にあんな言葉をかけてあげられるなんて……少しだけ、かっこよかったのだわ」<br>
「真紅姉ちゃん……」<br>
「ほ、ほら! はやくしないとおいていくわよ!」<br>
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今日、僕たちの距離は再び近づいた気がする。<br>
前とは違う形で。<br>
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fin<br></p>
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<a title="sinkmae" name="sinkmae"></a>