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=さらば!我が愛しき日々よ=第十九話」(2006/05/27 (土) 11:51:58) の最新版変更点

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ジ「はぁ、はぁ、つっ・・・クソ・・・。」  ジュンは走り疲れていた。 ジ「こりゃ早くしないとな・・・。」  ジュンは止まり、自分の足をズボンをめくって見た。  水しぶきで濡れ、解けた包帯からは、階段から落ちた時の青あざがある。 ジ「雨が降っているから、どこかに雨宿りをしているはず・・・。」  ジュンはまた走り出し、心当たりのある所を探す。 ジ(会ったらどう言おう・・・。)  ジュンの頭の中はそれで一杯だった。  なにせ、自分を看病してくれた女の子を泣かせたのだから。 ジ(やっぱり素直にごめん・・・かな。)  そんなことを考えているうちに、もう体力の限界が来た。 ジ「はっ、はっ、ふー、ふー。」  ジュンはひざに手をつき、呼吸を整える。 何せほとんど運動していないのだから、すぐにばてるのは当たり前である。 ジ「ふー・・・ホント、何処にいるんだろう・・・。」  水溜りに映る自分の顔を見つめる。 ジ「僕って・・・情けないな・・・。自分で泣かせた女の子を見つけられないなんて・・・。」  苦笑している顔が映る。 ジ「でも、諦める訳にはいかないな。」  ジュンは前を向き、また走り出した。  一方の翠星石は、ジュンから少し離れた公園の土管の中にいた。 翠「ううう・・・寒いですぅ・・・。」  両膝を抱え、震える。 翠「びしょ濡れです・・・。」  翠星石は雨でぐっしょりと濡れている。   雨が降ってきてから、雨宿りの場所を探した結果、ここにいるのである。 翠「・・・ジュンの馬鹿野郎です・・・。」  口ではこう言っているものの、探しに来てくれることを期待しているのだ。 翠「寒いから早く来やがれです。」  欝から多少元気になった翠星石は、はっと気が付く。  何故必死にジュンを看病したのだろうか。 何故ジュンの事を考えると、元気が出たのだろうか。 何故必ずジュンが探しに来ると、期待しているのだろうか。 自分を追い出した張本人なのに・・・。  何故、何故、何故・・・頭の中を巡る思考。 自分自身が自覚していない想い、思考、感情。 ――――それはつまり、ジュンに対する恋心。   翠「ぶっ!そんなわけねーです!ありえないです!」  翠星石はそこで思考をとめる。 翠「何でこの翠星石があんな引きこもりの眼鏡チビに・・・。」  少しずつ声が小さくなる。  そして、立てたひざに顔をうずめる。 翠「はぁ・・・。」  重いため息をつく。 猫「にゃあ」 翠「きゃっ・・・野良猫ですか・・・。」  不意に鳴き声が聞こえ、翠星石は少し驚いた。 翠「お前も一人ぼっちですか・・・。こっち来るです。」  猫に手招きをする。  単なる偶然か、理解したのか、猫は翠星石の腿と腹の間に入り、すっぽり収まった。 翠「かわいいです・・・。」  猫の首を優しく撫でる。  猫はゴロゴロとのどを鳴らし、翠星石に擦りつく。 翠(翠星石もこんな風に素直になれたら良いですのに・・・。)  気付けば、猫は裏返って寝ていた。 翠「あったかいです・・・。」  眠りに落ちる。  桜田家の近くにある、小さな商店街。  大きさの割には、近隣住民でなかなか賑っている場所だ ジ「すいません、下の方を巻いた栗色のロングヘアーの女の子、見かけませんでしたか?」  ジュンは、人がよく集まるこの商店街で行方を捜すという作戦を立てた。 人「う~ん、見かけなかったなぁ・・・。」  商店街の入り口すぐに立つ、雑貨屋の店主は首をかしげる。 ジ「そうですか・・・。どうも。」  ジュンは軽く礼をすると、また別の人に尋ねる。しかし、 人「ごめんなさいね、知らないわ。」 人「ロングヘアーは見かけてないなぁ・・・。」 人「周りは良く見てないからわからない、すまんな。」 人「ん~?さあ?見てない。」  訊けども訊けども同じような答え。  ジュンは店主や店員を重点において尋ねる。  買い物客だと見かけた人は、時間から見ていないだろう、という考えからだった。 ジ「ハァ・・・、あそこはあまり行きたくないんだけどなぁ・・・。」  ジュンが尋ねたのは、時計屋。  柴崎元治という老人が経営している、老舗だ。 ジ(ちょっとおかしいからな・・・あの人。)  柴崎元治は、数年前に小さな孫を一人亡くしている。  そのためか、孫に関しては中毒状態である。 ジ(カズキ・・・だったかな。)  まだ孫は生きていると信じて、暇なときは外に出て人通りを眺め、孫を探す始末である。  その為、探し人については役立つ人だ。もっとも、ここの前を通ったかはわからないが。 ジ「あの~、すいません。」  店の引き戸を開け、中を覗く。 元「はいはい、何か御用d・・・。ジュン君じゃないか、どうしたんだい?」  元治はカウンターの上にある修理中の時計から目を離し、ジュンの方をも見る。  ジュンはここで時計を何度か修理してもらっている。既に顔馴染みだ。 ジ「ここの前を、下の方を巻いた、栗色のロングヘアーの女の子、見かけませんでしたか?」  店の中に入りつつ傘をたたみ、戸を閉める。 元「ちょっと待っとくれ・・・栗色、ロングヘアー・・・。」  ジュンが出したキーワードを何度か復唱し、記憶を辿る元治。  不安そうに見つめるジュン。 元「ああ、あの娘の事じゃな?」  ジュンの方を向き、明るく笑う。 ジ「知っているんですか!?」  ジュンは喜んだ。 元「ああ、目の色が左右で違ったから、印象に残っておるよ。」 ジ「それで、何処に!?」  ジュンはカウンターに詰め寄る。 元「おいおい、そんなに慌てなさるな。この道を真っ直ぐ歩いておったよ。」  元治は少しのけぞりながら答える。 ジ「ありがとう、元治さん!」  ジュンは店を出る。 元「もう泣かせちゃいかんよ・・・。」  ジュンが店を出た後、元治はポツリとつぶやいた。 ジ「つつ、イタタタタ・・・。」  怪我に響くのか、速く走れない。 ジ「あーもう、鬱陶しいな・・・。」  歩きに変える。 『ゴロゴロゴロゴロ』  雷が鳴り出し、風も強くなる。  不意の突風。 ジ「おわっ・・・傘が・・・。」  傘は見事に飛んでいった。 ジ「ああ、もう!」  腕を額の前にかざし、痛みに耐えながら走り出す。 ジ(何で僕が・・・。)  もやもやっとしたものが頭の中を巡る。  しばらく走って、屋根があったので、そこで雨宿りをする。 ジ(翠星石は、もうちょっと素直で、毒舌がなければ、かわいいのになぁ・・・。  俗にいう、ツンデレって奴か・・・。)  空模様を見る。雨は弱まってきていた。  そのまま、雨音に聞き耳をたて、疲れた体を休める。 翠「ふえ・・・、さっきのは雷ですか・・・。嫌ですね・・・。」  軽く寝ていたのだろうが、雷の音で目が覚める。  猫も同様に、目を覚ました。 翠「大丈夫ですよ、ここにいれば。」  微笑み、猫の頭をゆっくりと撫でる。 翠「雨風も強くなってるです。雷が鳴っているなら、すぐ止むです。」  土管の外に目をやる。 翠「ジュン!どうしてここに・・・。」  思いがけない人物が目に飛び込んできた。 土管の外、公園の正面に建つ、文房具屋の店の下に、濡れたジュンが立っていた。 翠「こ、こっちには気付いてねーですか・・・。」  なんだかしょんぼりとなる。 翠「ジュンのお馬鹿野郎です!」  翠星石土管の内側を握りこぶしで力いっぱい叩く。 猫「にゃっ」  猫が驚いて、翠星石の上から逃げ出してしまった。 翠「あ、こら、何処行くです!!」  不意に大きな声が出る。  ジ「!!!!」  聞き耳を立てていたジュンは、今の声を逃さなかった。 ジ「翠星石!?」  ジュンは土管の中を店から目を凝らして見る。  土管の中にいる人物、翠星石と目が合った。 翠「ジュン・・・。」 ジ「翠星石!」  ジュンは土管に駆け寄る。しかし、 翠「こっち来んなです、この人でなし!」  翠星石の石投げに阻まれる。 ジ「うわっ、翠星石!」  ジュンは手を盾のように構える。 翠「うるせーです!黙れです!」  構わず、土管の中にある石を投げる。 ジ「あの、その、ごめん!」  とっさに出た一言。これが翠星石を止めた。 翠「え・・・、今、なんて・・・。」  信じられない、そんな顔をする。 ジ「だから、ごめん、翠星石!」  雨に打たれながら、懸命に謝る。  翠星石は俯き、 翠「こっち来るです・・・。」  と、一言だけ放った。  ジュンは無言で土管の中に入り、リュックを下ろす。 翠「何でここに来たのですか・・・」  静かに喋りだす。 翠「翠星石はわがままで、子供で、どうしようもない人間です・・・。なのになんd」 ジ「大事だからに決まっているだろ。」  ジュンは、翠星石の言葉を言葉でさえぎった。 翠「え・・・?」 ジ「お前だって大事な人なんだ。姉妹だって、皆そう思ってる。」  眼鏡を外し、レンズに付いた水滴を払う。 ジ「だから、居なくなっちゃ駄目だ。君は、君だけなんだから。」  眼鏡を掛け直し、横を向くジュン。 ジ「!!!! ちょ・・・。」  翠星石は泣きながら笑っていた。 翠「うるせーです、こっち見るなです。」  サッと顔を隠した。 ジ「ごめん・・・それより、ほら。」  リュックの中から出したのは、家で準備した魔法瓶。  多少冷めてはいたものの、まだ湯気が出るくらい温かい。 翠「これを、翠星石にですか?」  呆気にとられた顔をして、カップに注がれたココアを受け取る。 ジ「うん。昔、のりに習った。」 翠「大丈夫ですかね。ぶっ倒れないですかね。」  いつも通りに茶化す翠星石。 ジ「いいから飲んでみろって。」  これを受け流しつつ、勧めるジュン。  翠星石は、少しだけ、口に含んだ。 翠「ん・・・。まあまあですかね。」  ココアを見ながら、感想を伝える。 ジ「何だよそれ、せっかk」 翠「でも・・・温まる、 優しい味がするです。」  懐かしい物を見たような、穏やかな顔。 ジ「そ、そうか、ありがと。あと・・・」 翠「何ですか?」  翠星石がジュンを覗き込む。 ジ「ほ、本当に許してくれるのか?」  ジュンは不安げな顔で、横目で翠星石を見る。 翠「許してやってもいーです。けど、一つ条件があるです・・・。」  声がだんだん小さくなっていた。 ジ「なんだ?」 翠「えっと、その、よ、夜、翠星石と一緒に寝やがれです。感謝しろです。」  耳まで真っ赤にしてそっぽを向く翠星石。 ジ「え、それは、ちょっと・・・。」  もちろんジュンも赤くなって動揺する。 翠「つべこべ言わずに言う事聞けです!」  向こうを向いている翠星石の耳がさらに赤くなる。 ジ(一緒のベッドで、翠星石と寝る・・。)  健全な男子のためか、卑猥な妄想が繰り広げられる。  ますます赤くなるジュン。  ふと、翠星石が振り返った。 翠「す、翠星石は、じ、ジュンとなr・・・。」  声があまりにも小さいので、ジュンには聞こえていなかった。 ジ「え?なんて?」 翠「な、何でもないです!付け上がるなです!!」  一通り怒鳴ると、また外に向き直る。 ジ「あ、雨止んでるな・・・。」  外は雨が止み、光が差し込んでいた。 ジ「出ようか、翠星石。」  翠星石はまだ恥ずかしいのか、ジュンとは反対の穴から出てきた。 ジ「わあ、すごいな、翠星石。」  ジュンは見上げた空に、感嘆を漏らした。 翠「とってもきれいですぅ・・・。」  真っ赤だった顔も、熱は引いていた。   ―――――二人が見たのは、青空に架かった虹。 翠「大きいですぅ・・・。」 ジ「こんな大きな虹、久しぶりに見たよ。」   二人で空を見上げ、虹を見た。   ―――――まるで、二人の心の中を映したような、晴れ渡る空。  ジュンは虹から目を離し、 ジ「帰ろうか。皆が待ってる。」  と翠星石に告げる。 翠「もうちょっと、このままがいいです・・・。」  翠星石は、虹にすっかり見とれていた。 ジ「・・・わかった。あと少しだけな。」  ジュンは同意し、再び空を見上げる。 結局、虹が消えるまで見ていた二人。  ―――――隣り合った二人の手はやさしく、握られていた。 ジ「ただいま。帰ったぞ。」 玄関を開け、家の中に入る。もう夕方だった。 翠「ただいまですぅ。」 翠星石も後に続く。 の「おかえり~。まあ、びしょ濡れじゃない。お風呂、沸いてるよ。」 のりが、プラスチックのたらいを持ってきて、そこに濡れた上着を入れて、と促して  きた。翠星石には、髪拭くタオルを渡している。 準備のいい奴、とジュンは思った。 もちろん、姉の事ではなく、真紅や他の薔薇姉妹に対してである。 ジ「翠星石、先に入りなよ。」 翠星石は頷いて、濡れた髪をタオルで拭きながら風呂場へ向かった。 の「あ、お湯沸いちゃってる。良く拭いてから上がるのよ。」 のりはそれだけ言うと、台所へ消えていった。  見計らってか、水銀燈がリビングから出てきた。 銀「おかえりぃ。それで、どんな交換条件で許してもらったのぉ?」  水銀燈は壁にもたれると、小声でジュンに訊いた。 ジ「・・・今夜一緒に寝る。」  事実を率直に述べた。 銀「!!!!」  水銀燈は、ポカンとしていた。 ジ「ん、どうした?」  頭をガシガシ拭きながら、水銀燈を見る。 銀「あ、え、何でもないわぁ。」  そういうと、リビングに戻っていった。 ジ「変な奴・・・。」 銀(羨ましい、なんて口が裂けても言えないわぁ。)  リビングにはいつもの面子がずらり。 雪「それで、どんな条件だったの?」  wktkしながら、水銀燈に訊く。 銀「今夜一緒に寝る、だそうよぉ。」  水銀燈は、はあ、とため息をついた。 薔「・・・私の勝ち・・・。」  にやりと笑う薔薇水晶。 金「かしら~!この策士、金が負けたのかしら~!」  金糸雀は頭を抱えた。 蒼「こういうことで賭けなんてしていいのかなぁ・・・。」  苦笑いで成り行きを見る蒼星石。 雛「雛も負けたの~、納得いかないの~。」  頬を膨らませる雛苺。 真「くんくんの推理が外れるわけないのだわ!」  ヒスを起こしそうになる真紅。 雪「仕方ありませんわ。負けですわ。」 両手を挙げ、やれやれと首を振る雪華綺晶  今日も、明日も、明後日も、桜田家は騒がしくなりそうだ。  夜、ジュンの部屋のベッド。 翠「ジュン、暖かいですか、感謝しろです・・・。」  翠星石は今、ジュンと同じベッドの上にいる。 ジ「ああ、そうだな。」  ジュンの心臓は、爆発しそうだった。 翠「オヤスミです・・・。」 ジ「あ、ああ、オヤスミ。」  この夜、ジュンは翠星石の寝相の悪さと寝言のお陰で、いろいろと羨ましい出来事が起こったとさ。 ちなみに、薔薇姉妹の『翠星石がどんな条件を出すか。』賭け品。 水銀燈・・・・ヤクルト20本(容器の蓋は金箔でコーティング) 金糸雀・・・・お気に入りのウォークマン(クソニー製) 蒼星石・・・・元から賭けをしていない(対象が翠星石だったため) 真紅・・・・・くんくん人形(オーダーメイド) 雛苺・・・・・絵描きセット(キャンパス付きフル仕様) 薔薇水晶・・・自分の体(性的な意味で) 雪華綺晶・・・香水(有名メーカーブランド) 結果・・・薔薇水晶の一人勝ち。

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