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「「水の翠に対する陰謀」」(2007/05/09 (水) 14:29:55) の最新版変更点
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<p>「水の翠に対する陰謀」</p>
<p>銀「ちょっと、翠星石」<br>
春のそよ風が流れ込む教室。今日の授業が全て終わり、生徒は皆嬉々として帰り支度をしている。<br>
いや、いつも以上に嬉々としている。それもそのはず、明日は土曜日。休みなのだ。<br>
そんな教室で、水銀燈は同じクラスメイトである翠星石に話しかけた。<br>
翠「何です?」<br>
帰り支度のため、ごぞごぞと自分の鞄を整理しながら返事をする翠星石。<br>
銀「明日ひまぁ?」<br>
いつもの、猫なで声で言う水銀燈。<br>
翠「別に何もないですけど?」<br>
鞄の整理が終わり、顔を上げる。<br>
銀「だったら明日、私と街に行かなぁい?」<br>
普段は真紅とよく街に行っている水銀燈。そんな彼女にしては、珍しい誘いだった。<br>
翠「別にいいですよ」<br>
翠星石も蒼星石と一緒に行動する事が多かったが、蒼星石は土・日曜と勉強合宿でいない。<br>
実は翠星石も暇を持て余していたのだ。だから、別に断る理由は無かった。<br>
銀「ふふっ、ありがとう。じゃあ、明日の9時に駅前集合ね」<br>
その返事に水銀燈は満足そうに微笑み、待ち合わせ時間場所を指定した。</p>
<p>土曜日 <br>
11:00 繁華街の駅</p>
<p>
翠星石と合流した水銀燈は電車に乗り繁華街までやってきた。<br>
翠「ふぁー、いつ来ても人が多いですぅ…」<br>
少しだけ間の抜けた声で翠星石はそう言った。実は、彼女は人ごみが苦手なのだ。<br>
銀「さ、行きましょう」<br>
人ごみの中、水銀燈は翠星石を置いてさっさと歩き始めた。<br>
翠「あ!ま、待つですー!」<br>
水銀燈に置いて行かれない様、翠星石も後を追いかけた。</p>
<p>11:30 デパート・洋服店売り場</p>
<p>銀「これなんてどう?」<br>
デパートの洋服店売り場。煌びやかな照明の下、たくさんの可愛い服が展示されている。<br>
水銀燈はそのうちの一着を取り、試着して見せた。<br>
翠「うーん、ちょっとえっちだと思うです…」<br>
水銀燈が選んだのは、黒を基調とした露出度の高い服だった。胸の谷間に深く切り込んだスリット、必要以上に短いスカート。<br>
普段はロングスカート等、露出度の低い服を愛用している翠星石にとって、それは「えっち」な服以外に見えなかった。<br>
銀「ふーん、えっちねぇ…」<br>
そんな彼女の感想を聞き、水銀燈は満足そうに微笑んだ。<br>
銀「いいわぁ、これにする!」<br>
もともと欲しかった服ではあったが、翠星石の一言で決心した。<br>
翠「へ?」<br>
反対した手前、買うのはやめるだろうと思っていた翠星石は虚をつかれ、間の抜けた声を出した。<br>
銀「何間抜けな声を出してんのよ。これを買うの。あ、すいませぇ~ん!」<br>
そう言うと彼女は、服を手に入れるため</p>
<p>12:15 レストラン</p>
<p>翠「おなかすいたですぅ…」<br>
少し洒落た洋風レストラン。その店のテーブルに座りつつ、翠星石はそう漏らした。<br>
水銀燈の服選びに付き合っていた彼女はお腹を空かせていた。街中を移動したり買い物することはとても体力を使うのだ。<br>
銀「私もぉ」<br>
翠星石同様、お腹を空かせていた水銀燈も翠星石の向かいへ座る。<br>
翠「この店、結構洒落てるです。水銀燈がこんなところを知ってるなんて意外です」<br>
あまり食には興味がなさそう(という風に翠星石は感じている)な水銀燈が、洒落た店を知っているのは意外だった。<br>
銀「あら失礼ねぇ。私だって店の一つや二つ知ってるわよぉ」<br>
少し失礼な物言いに、水銀燈は抗議した。<br>
銀「ま、いいわぁ。ここの店、かなり美味しいのよ。隠れた名店ね」<br>
気を取り直し、水銀燈は自慢げに言った。<br>
翠「ふぅ~ん…」<br>
彼女の話を半分聞き流し、既にメニューを食らいつくように見ている翠星石。そんな彼女を見て、水銀燈は苦笑した。<br>
翠「あ、翠星石これにするです!」<br>
翠星石が選んだのはハンバーグセット。ごく一般的なメニューだ。<br>
彼女はそう言った後、あることに気が付いた。<br>
翠「あれ?水銀燈はメニューを決めないですか?」<br>
そう、水銀燈はメニューを見ていないのだ。<br>
銀「いいわよぉ、もう決めてるから」<br>
またもや自慢げに言う水銀燈。俗に言う”いつものメニュー”だ。<br>
翠「ふぅん…」<br>
適当な相槌を打っていると、店員がこちらへ近寄ってきた。</p>
<p>店「メニューはお決まりでしょうか?」<br>
まるで頃合を見計らったように店員がオーダーを聞きに来た。いや、実際に見計らっていたのかもしれない。<br>
翠「私はこのハンバーグのライスセットですぅ」<br>
メニューに載っている写真を指差しながら翠星石は注文した。<br>
銀「私はいつものよ」<br>
翠「へ?」<br>
ごく当たり前のように言う水銀燈。<br>
メニューを決めているとは言っていたが、まるで漫画みたいな注文の仕方をするとは思っていなかった翠星石は<br>
またもや間抜けな声を出した。<br>
店「かしこまりました」<br>
そんな翠星石を横目に、店員はさも当たり前かのようにオーダーを通した。<br>
銀「…どうかした?」<br>
店員が去ったあと、翠星石はずっと水銀燈の顔を見ていた。その眼差しには憧れが入っている。<br>
翠「水銀燈、カッコイイですぅ…。まるで漫画かドラマみたいです」<br>
銀「ま、ここにはよく来てるから」<br>
そんな彼女の眼差しをうけ、水銀燈は恥ずかしそうに笑いながら答えた。</p>
<p>店「お待たせしました」<br>
待つこと5分程度、ようやくお待ちかねのメニューが来た。<br>
翠「うわぁ、おいしそうですぅ!」<br>
メニューの写真と寸分違わぬセットが出てきて、翠星石は喜びの声をあげた。<br>
翠「水銀燈はステーキですか?」<br>
水銀燈の前にはステーキが置かれている。しかもレアだ。<br>
レアには少し驚きではあったが、「いつもの」と言うぐらいだから超高級なものや裏メニューが出てくると思っていた翠星石は<br>
少しすかされた感じになった。<br>
銀「そうよ。この店のこれはとっても美味しいの」<br>
そう言いつつ、彼女もまた嬉しそうに目を細めていた。</p>
<p>翠「うーん、美味しいです~!」<br>
美味しそうにハンバーグを頬張る翠星石。<br>
空腹は最高の調味料という言葉がある。なるほど、上手く出来た言葉だ。<br>
しかし、それ以上にコックの腕が確かなのだろう。最高の調味料分を引いても、純粋に美味しいと思える。<br>
銀「やっぱり、ここはいつ来ても確かな味ね」<br>
水銀燈も、手馴れた手つきでステーキを切り分け味わっている。<br>
翠「ふぉんふぉううおうふぃいれふー(本当に美味しいですー)」<br>
思いっきり口の中に物を入れたまま話す翠星石。案の定、何を言っているか分からない。<br>
銀「口の中に物を入れたまま喋らない、行儀が悪いわよ。しかも、何を言ってるか分からないわよ。」<br>
そんな彼女に顔を顰めつつ、水銀燈はそう言った。<br>
翠「でも凄く美味しいです。こんなに美味しいの食べたのは初めてです」<br>
そう言いながら、彼女はあることに気が付いた。<br>
翠「あれ?メニュー表に金額が書いてなかったような…」<br>
『食べたい』という欲求が強かった翠星石は、値段が書いていなかったことに気が付いていなかった。<br>
銀「あら、それなら心配ないわよ。今日は私がおごってあげるわ」<br>
微笑みながら、水銀燈が宣言した。<br>
翠「本当ですか!?ありがとうです!!」<br>
今月のお小遣いが割とピンチな翠星石にとって、それは魅力的なことだった。<br>
銀「別にいいわよ」<br>
あまりの喜びように、苦笑する水銀燈。そこで、彼女はあることに気が付いた。<br>
銀「あら?翠星石、少し動かないで」<br>
そう言うと翠星石の頬に手を伸ばす水銀燈。動くなと言われた翠星石は何だろうと言う目で見ている。<br>
そうして、水銀燈は翠星石の頬から米粒を取った。<br>
銀「米粒が付いてたわよ。もう少し落ち着いて食べなさい」<br>
そう言いながら取った米粒を食べる水銀燈。<br>
翠「あ…」<br>
米粒を食べるとは思っていなかった翠星石は、まるで恋人のような水銀燈の行動に少し顔を赤くした。</p>
<p>13:05 レストランの外</p>
<p>翠「ふぁー、美味しかったですぅ…」<br>
店の外に出た翠星石は、開口一番にそう言った。<br>
銀「まったく、慌てて食べすぎよ」<br>
支払いを終えた水銀燈も出てきた。彼女の支払いを見ていた翠星石。現金を出さず、黒いカードを出していた。<br>
翠(あの黒いカード何ですかね?お食事カードか何かですかね?)<br>
クレジットカードに疎い翠星石は、それが何か分からなかったようだ。実は、その『お食事カード』、宝石店で出そうものなら<br>
店員の態度が一変するほどの魔力を持っている。<br>
翠「で、次はどこ行くですか?」<br>
腹ごしらえを終わった翠星石(しかもタダで)の気力は充実していた。<br>
銀「次は映画よ」<br>
翠星石の質問に、少し含みのある笑いで水銀燈が答えた。しかし、翠星石はそんな彼女の表情に気が付かなかった。<br>
翠「映画ですか~。いいですね、早く行くです」<br>
そう言うと、彼女は水銀燈の背中を急かすように押した。<br>
銀「そうねぇ。時間もあまりないし」<br>
にやけ顔を抑えることの出来ない水銀燈は、翠星石が自分の後ろにいるのを神様に感謝した。</p>
<p>13:27 映画館入り口(上映3分前)</p>
<p>翠「本当に時間がないですぅ!!」<br>
走りながら、翠星石は言った。<br>
水銀燈から「時間がない」とは聞いていたが、ここまで時間が無いとは思っていなかった。何せ上映3分前だ。<br>
銀「ごめんなさぁい。もう少し早く来ればよかったわぁ」<br>
白々しく言う水銀燈。実は、彼女の計算どおり。<br>
銀「すいません、高校生2人分です」<br>
そう言いながら、あらかじめ用意していた券を2枚出す水銀燈。受付の人も、時間が無いのが分かっているので素早く処理してくれた。<br>
翠「水銀燈、お金は…」<br>
銀「これもおごりよ」<br>
ごく当たり前のように言い、水銀燈は館内へ急いだ。</p>
<p>13:30 映画館館内(上映場)</p>
<p>銀「何とか間に合ったわね…」<br>
小声で言いながら、空いている席へ適当に座る(といっても、結構人は少なかった)。<br>
翠「ところで水銀燈、これ何の映画ですか?」<br>
水銀燈の隣に座りながら、翠星石は聞いた。何の映画を見るのか分かっていなかった。急いでいたので、タイトルを見忘れていた。<br>
銀「見てれば分かるわよ。結構面白いんだから」<br>
相変わらずにやけ顔で答える水銀燈。しかし、館内は暗く翠星石はその表情を認識できなかった。<br>
暇な映画広告が終わり、いよいよ本編が始まった。<br>
暗く、どんよりとした家。その家の廊下から手が生えて、住人の足を掴んだりする。<br>
夜になると枕元に包丁を持った少女が立っている。<br>
いわゆる、ホラー映画だ。しかも、3流の。しかし、大の怖がりである翠星石にとって、その映画が1流であるかどうかなど関係なかった。<br>
翠「あぅ…あぅ…」<br>
始まって15分。翠星石は、廊下から手が出てきた辺りで既に口をぱくぱくしていた。左手はしっかりと水銀燈の服を掴んでいる。<br>
銀(ふふっ、かわいいわねぇ)<br>
本来の目的がこれであった水銀燈は、映画そっちのけで翠星石の横顔を見ていた。<br>
ガシャーーン!!!<br>
翠「ひぃぃっ!!」<br>
ガラスが割れるシーンの音で、翠星石はついに水銀燈に抱きついた。水銀燈の胸に顔を埋め、小刻みに震えている。<br>
抱きついてきた瞬間、翠星石のいい香りがふわっと水銀燈の鼻をついた。<br>
銀(あぁ、もう我慢できない!)<br>
我慢の限界を迎えた水銀燈は、自分の胸に顔を埋める翠星石のあごを持ち上げ、自分の方を向かせた。<br>
翠「あぅぅ…」<br>
目に涙を溜め、助けを求めるように見つめる翠星石。その顔をみた水銀燈は、リミッターが外れた。<br>
銀(いただきま~す♪)<br>
心の中で言い、翠星石の唇に自分の唇を重ねた。</p>
<p>翠「!?」<br>
流石に驚いた表情の翠星石。しかし、それに構わずさらに激しく唇を押し付けて行く水銀燈。<br>
キャァァァーーーー!!!!<br>
映画の中で誰か襲われたのだろう、女性の悲鳴がスピーカーから聞こえてくる。<br>
翠「ひゃぁ!」<br>
その声に驚いた翠星石は、小さな悲鳴をあげた。その際、口が開いたのを見逃さなかった水銀燈は、チャンスとばかりに舌を滑り込ませた。<br>
翠「んう!?」<br>
怯える翠星石の舌を、容赦なく蹂躙していく水銀燈。<br>
翠星石は怖さと驚きで頭の中が真っ白になっていた。<br>
不意に水銀燈が翠星石の頭と背中に手を回し、抱きしめるようにしてきた。<br>
翠星石は、不思議な安堵感を覚えた。<br>
水銀燈の手が、私を守るように包み込んでくれている。水銀燈の胸が、体が、全てが私を守ってくれる。<br>
水銀燈に守ってもらうしかない。極限状態で、翠星石はそう思った。<br>
もっと守ってほしい。その欲求が強くなった翠星石は、今度は自分から舌を絡ませていった。<br>
銀(あらぁ、かわいい事するわねぇ…)<br>
その変化に気付いた水銀燈は、折れるほど翠星石を抱きしめた。<br>
彼女達の口付けは、映画が終わるまでの約70分間、延々と続けられた。</p>
<p>16:10 公園内(映画上映終了)</p>
<p>
映画が終わり、ぼーっとしたままの虚ろな翠星石の手を引き、水銀燈は公園までやってきた。<br>
とりあえず翠星石をベンチに座らせる。<br>
銀「どう?楽しかったかしら?」<br>
ベンチに座った翠星石を上から見つつ、水銀燈はにやにやしながら聞いた。<br>
翠「あぅ…楽しかった…です…」<br>
映画館での事を思い出した翠星石は、顔を真っ赤にしながら答えた。<br>
銀「そう、よかったわぁ。ところで翠星石、貴女濡れたんじゃないの?」<br>
ストレートに聞く水銀燈。あまりにストレートすぎて何の事か分からなかった翠星石は、意味を理解すると耳まで真っ赤にして俯いた。<br>
銀「あらぁ?どうしちゃったの?まさか本当に濡れたの?」<br>
俯いている翠星石の耳元で、囁く様に言う水銀燈。<br>
翠「そ、そんなことないです!」<br>
慌てて否定する翠星石。水銀燈は、無言で彼女の耳から首筋にかけて指を這わせた。<br>
翠「ひぃああぁ!」<br>
もともと耳と首筋が弱い翠星石は、それだけで甘い声を出した。<br>
銀「ほーら、やっぱり。翠星石は同性の女の子で感じてしまう、いけない子なのねぇ」<br>
意地悪く囁く水銀燈。翠星石はもう泣きそうになっている。<br>
銀「ほら、そんな顔しないの。ちゃんと私がお嫁さんにもらってあげるから」<br>
うってかわって優しい口調で言い、水銀燈は翠星石を抱きしめた。<br>
翠「…水銀燈のお嫁さんなら、なってやってもいいです…」<br>
聞こえないほど小さな声で言う翠星石。しかし、水銀燈はしっかり聞いていた。<br>
銀(ふふっ、ここまで予定通りに行くと恐いわね…)<br>
すべて予定通りに翠星石(おもちゃ)を手に入れた水銀燈。明日からどうやって遊ぶか、彼女の頭にはそれしかなかった。</p>
<p>end</p>
<p><br />「水の翠に対する陰謀」<br /><br />銀「ちょっと、翠星石」<br />春のそよ風が流れ込む教室。今日の授業が全て終わり、生徒は皆嬉々として帰り支度をしている。<br />いや、いつも以上に嬉々としている。それもそのはず、明日は土曜日。休みなのだ。<br />そんな教室で、水銀燈は同じクラスメイトである翠星石に話しかけた。<br />翠「何です?」<br />帰り支度のため、ごぞごぞと自分の鞄を整理しながら返事をする翠星石。<br />銀「明日ひまぁ?」<br />いつもの、猫なで声で言う水銀燈。<br />翠「別に何もないですけど?」<br />鞄の整理が終わり、顔を上げる。<br />銀「だったら明日、私と街に行かなぁい?」<br />普段は真紅とよく街に行っている水銀燈。そんな彼女にしては、珍しい誘いだった。<br />翠「別にいいですよ」<br />翠星石も蒼星石と一緒に行動する事が多かったが、蒼星石は土・日曜と勉強合宿でいない。<br />実は翠星石も暇を持て余していたのだ。だから、別に断る理由は無かった。<br />銀「ふふっ、ありがとう。じゃあ、明日の9時に駅前集合ね」<br />その返事に水銀燈は満足そうに微笑み、待ち合わせ時間場所を指定した。<br /><br />土曜日 <br />11:00 繁華街の駅<br /><br />翠星石と合流した水銀燈は電車に乗り繁華街までやってきた。<br />翠「ふぁー、いつ来ても人が多いですぅ…」<br />少しだけ間の抜けた声で翠星石はそう言った。実は、彼女は人ごみが苦手なのだ。<br />銀「さ、行きましょう」<br />人ごみの中、水銀燈は翠星石を置いてさっさと歩き始めた。<br />翠「あ!ま、待つですー!」<br />水銀燈に置いて行かれない様、翠星石も後を追いかけた。<br /><br />11:30 デパート・洋服店売り場<br /><br />銀「これなんてどう?」<br />デパートの洋服店売り場。煌びやかな照明の下、たくさんの可愛い服が展示されている。<br />水銀燈はそのうちの一着を取り、試着して見せた。<br />翠「うーん、ちょっとえっちだと思うです…」<br />水銀燈が選んだのは、黒を基調とした露出度の高い服だった。胸の谷間に深く切り込んだスリット、必要以上に短いスカート。<br />普段はロングスカート等、露出度の低い服を愛用している翠星石にとって、それは「えっち」な服以外に見えなかった。<br />銀「ふーん、えっちねぇ…」<br />そんな彼女の感想を聞き、水銀燈は満足そうに微笑んだ。<br />銀「いいわぁ、これにする!」<br />もともと欲しかった服ではあったが、翠星石の一言で決心した。<br />翠「へ?」<br />反対した手前、買うのはやめるだろうと思っていた翠星石は虚をつかれ、間の抜けた声を出した。<br />銀「何間抜けな声を出してんのよ。これを買うの。あ、すいませぇ~ん!」<br />そう言うと彼女は、服を手に入れるため<br /><br />12:15 レストラン<br /><br />翠「おなかすいたですぅ…」<br />少し洒落た洋風レストラン。その店のテーブルに座りつつ、翠星石はそう漏らした。<br />水銀燈の服選びに付き合っていた彼女はお腹を空かせていた。街中を移動したり買い物することはとても体力を使うのだ。<br />銀「私もぉ」<br />翠星石同様、お腹を空かせていた水銀燈も翠星石の向かいへ座る。<br />翠「この店、結構洒落てるです。水銀燈がこんなところを知ってるなんて意外です」<br />あまり食には興味がなさそう(という風に翠星石は感じている)な水銀燈が、洒落た店を知っているのは意外だった。<br />銀「あら失礼ねぇ。私だって店の一つや二つ知ってるわよぉ」<br />少し失礼な物言いに、水銀燈は抗議した。<br />銀「ま、いいわぁ。ここの店、かなり美味しいのよ。隠れた名店ね」<br />気を取り直し、水銀燈は自慢げに言った。<br />翠「ふぅ~ん…」<br />彼女の話を半分聞き流し、既にメニューを食らいつくように見ている翠星石。そんな彼女を見て、水銀燈は苦笑した。<br />翠「あ、翠星石これにするです!」<br />翠星石が選んだのはハンバーグセット。ごく一般的なメニューだ。<br />彼女はそう言った後、あることに気が付いた。<br />翠「あれ?水銀燈はメニューを決めないですか?」<br />そう、水銀燈はメニューを見ていないのだ。<br />銀「いいわよぉ、もう決めてるから」<br />またもや自慢げに言う水銀燈。俗に言う”いつものメニュー”だ。<br />翠「ふぅん…」<br />適当な相槌を打っていると、店員がこちらへ近寄ってきた。<br /><br />店「メニューはお決まりでしょうか?」<br />まるで頃合を見計らったように店員がオーダーを聞きに来た。いや、実際に見計らっていたのかもしれない。<br />翠「私はこのハンバーグのライスセットですぅ」<br />メニューに載っている写真を指差しながら翠星石は注文した。<br />銀「私はいつものよ」<br />翠「へ?」<br />ごく当たり前のように言う水銀燈。<br />メニューを決めているとは言っていたが、まるで漫画みたいな注文の仕方をするとは思っていなかった翠星石は<br />またもや間抜けな声を出した。<br />店「かしこまりました」<br />そんな翠星石を横目に、店員はさも当たり前かのようにオーダーを通した。<br />銀「…どうかした?」<br />店員が去ったあと、翠星石はずっと水銀燈の顔を見ていた。その眼差しには憧れが入っている。<br />翠「水銀燈、カッコイイですぅ…。まるで漫画かドラマみたいです」<br />銀「ま、ここにはよく来てるから」<br />そんな彼女の眼差しをうけ、水銀燈は恥ずかしそうに笑いながら答えた。<br /><br />店「お待たせしました」<br />待つこと5分程度、ようやくお待ちかねのメニューが来た。<br />翠「うわぁ、おいしそうですぅ!」<br />メニューの写真と寸分違わぬセットが出てきて、翠星石は喜びの声をあげた。<br />翠「水銀燈はステーキですか?」<br />水銀燈の前にはステーキが置かれている。しかもレアだ。<br />レアには少し驚きではあったが、「いつもの」と言うぐらいだから超高級なものや裏メニューが出てくると思っていた翠星石は<br />少しすかされた感じになった。<br />銀「そうよ。この店のこれはとっても美味しいの」<br />そう言いつつ、彼女もまた嬉しそうに目を細めていた。<br /><br />翠「うーん、美味しいです~!」<br />美味しそうにハンバーグを頬張る翠星石。<br />空腹は最高の調味料という言葉がある。なるほど、上手く出来た言葉だ。<br />しかし、それ以上にコックの腕が確かなのだろう。最高の調味料分を引いても、純粋に美味しいと思える。<br />銀「やっぱり、ここはいつ来ても確かな味ね」<br />水銀燈も、手馴れた手つきでステーキを切り分け味わっている。<br />翠「ふぉんふぉううおうふぃいれふー(本当に美味しいですー)」<br />思いっきり口の中に物を入れたまま話す翠星石。案の定、何を言っているか分からない。<br />銀「口の中に物を入れたまま喋らない、行儀が悪いわよ。しかも、何を言ってるか分からないわよ。」<br />そんな彼女に顔を顰めつつ、水銀燈はそう言った。<br />翠「でも凄く美味しいです。こんなに美味しいの食べたのは初めてです」<br />そう言いながら、彼女はあることに気が付いた。<br />翠「あれ?メニュー表に金額が書いてなかったような…」<br />『食べたい』という欲求が強かった翠星石は、値段が書いていなかったことに気が付いていなかった。<br />銀「あら、それなら心配ないわよ。今日は私がおごってあげるわ」<br />微笑みながら、水銀燈が宣言した。<br />翠「本当ですか!?ありがとうです!!」<br />今月のお小遣いが割とピンチな翠星石にとって、それは魅力的なことだった。<br />銀「別にいいわよ」<br />あまりの喜びように、苦笑する水銀燈。そこで、彼女はあることに気が付いた。<br />銀「あら?翠星石、少し動かないで」<br />そう言うと翠星石の頬に手を伸ばす水銀燈。動くなと言われた翠星石は何だろうと言う目で見ている。<br />そうして、水銀燈は翠星石の頬から米粒を取った。<br />銀「米粒が付いてたわよ。もう少し落ち着いて食べなさい」<br />そう言いながら取った米粒を食べる水銀燈。<br />翠「あ…」<br />米粒を食べるとは思っていなかった翠星石は、まるで恋人のような水銀燈の行動に少し顔を赤くした。<br /><br />13:05 レストランの外<br /><br />翠「ふぁー、美味しかったですぅ…」<br />店の外に出た翠星石は、開口一番にそう言った。<br />銀「まったく、慌てて食べすぎよ」<br />支払いを終えた水銀燈も出てきた。彼女の支払いを見ていた翠星石。現金を出さず、黒いカードを出していた。<br />翠(あの黒いカード何ですかね?お食事カードか何かですかね?)<br />クレジットカードに疎い翠星石は、それが何か分からなかったようだ。実は、その『お食事カード』、宝石店で出そうものなら<br />店員の態度が一変するほどの魔力を持っている。<br />翠「で、次はどこ行くですか?」<br />腹ごしらえを終わった翠星石(しかもタダで)の気力は充実していた。<br />銀「次は映画よ」<br />翠星石の質問に、少し含みのある笑いで水銀燈が答えた。しかし、翠星石はそんな彼女の表情に気が付かなかった。<br />翠「映画ですか~。いいですね、早く行くです」<br />そう言うと、彼女は水銀燈の背中を急かすように押した。<br />銀「そうねぇ。時間もあまりないし」<br />にやけ顔を抑えることの出来ない水銀燈は、翠星石が自分の後ろにいるのを神様に感謝した。<br /><br />13:27 映画館入り口(上映3分前)<br /><br />翠「本当に時間がないですぅ!!」<br />走りながら、翠星石は言った。<br />水銀燈から「時間がない」とは聞いていたが、ここまで時間が無いとは思っていなかった。何せ上映3分前だ。<br />銀「ごめんなさぁい。もう少し早く来ればよかったわぁ」<br />白々しく言う水銀燈。実は、彼女の計算どおり。<br />銀「すいません、高校生2人分です」<br />そう言いながら、あらかじめ用意していた券を2枚出す水銀燈。受付の人も、時間が無いのが分かっているので素早く処理してくれた。<br />翠「水銀燈、お金は…」<br />銀「これもおごりよ」<br />ごく当たり前のように言い、水銀燈は館内へ急いだ。<br /><br />13:30 映画館館内(上映場)<br /><br />銀「何とか間に合ったわね…」<br />小声で言いながら、空いている席へ適当に座る(といっても、結構人は少なかった)。<br />翠「ところで水銀燈、これ何の映画ですか?」<br />水銀燈の隣に座りながら、翠星石は聞いた。何の映画を見るのか分かっていなかった。急いでいたので、タイトルを見忘れていた。<br />銀「見てれば分かるわよ。結構面白いんだから」<br />相変わらずにやけ顔で答える水銀燈。しかし、館内は暗く翠星石はその表情を認識できなかった。<br />暇な映画広告が終わり、いよいよ本編が始まった。<br />暗く、どんよりとした家。その家の廊下から手が生えて、住人の足を掴んだりする。<br />夜になると枕元に包丁を持った少女が立っている。<br />いわゆる、ホラー映画だ。しかも、3流の。しかし、大の怖がりである翠星石にとって、その映画が1流であるかどうかなど関係なかった。<br />翠「あぅ…あぅ…」<br />始まって15分。翠星石は、廊下から手が出てきた辺りで既に口をぱくぱくしていた。左手はしっかりと水銀燈の服を掴んでいる。<br />銀(ふふっ、かわいいわねぇ)<br />本来の目的がこれであった水銀燈は、映画そっちのけで翠星石の横顔を見ていた。<br />ガシャーーン!!!<br />翠「ひぃぃっ!!」<br />ガラスが割れるシーンの音で、翠星石はついに水銀燈に抱きついた。水銀燈の胸に顔を埋め、小刻みに震えている。<br />抱きついてきた瞬間、翠星石のいい香りがふわっと水銀燈の鼻をついた。<br />銀(あぁ、もう我慢できない!)<br />我慢の限界を迎えた水銀燈は、自分の胸に顔を埋める翠星石のあごを持ち上げ、自分の方を向かせた。<br />翠「あぅぅ…」<br />目に涙を溜め、助けを求めるように見つめる翠星石。その顔をみた水銀燈は、リミッターが外れた。<br />銀(いただきま~す♪)<br />心の中で言い、翠星石の唇に自分の唇を重ねた。<br /><br />翠「!?」<br />流石に驚いた表情の翠星石。しかし、それに構わずさらに激しく唇を押し付けて行く水銀燈。<br />キャァァァーーーー!!!!<br />映画の中で誰か襲われたのだろう、女性の悲鳴がスピーカーから聞こえてくる。<br />翠「ひゃぁ!」<br />その声に驚いた翠星石は、小さな悲鳴をあげた。その際、口が開いたのを見逃さなかった水銀燈は、チャンスとばかりに舌を滑り込ませた。<br />翠「んう!?」<br />怯える翠星石の舌を、容赦なく蹂躙していく水銀燈。<br />翠星石は怖さと驚きで頭の中が真っ白になっていた。<br />不意に水銀燈が翠星石の頭と背中に手を回し、抱きしめるようにしてきた。<br />翠星石は、不思議な安堵感を覚えた。<br />水銀燈の手が、私を守るように包み込んでくれている。水銀燈の胸が、体が、全てが私を守ってくれる。<br />水銀燈に守ってもらうしかない。極限状態で、翠星石はそう思った。<br />もっと守ってほしい。その欲求が強くなった翠星石は、今度は自分から舌を絡ませていった。<br />銀(あらぁ、かわいい事するわねぇ…)<br />その変化に気付いた水銀燈は、折れるほど翠星石を抱きしめた。<br />彼女達の口付けは、映画が終わるまでの約70分間、延々と続けられた。<br /><br />16:10 公園内(映画上映終了)<br /><br />映画が終わり、ぼーっとしたままの虚ろな翠星石の手を引き、水銀燈は公園までやってきた。<br />とりあえず翠星石をベンチに座らせる。<br />銀「どう?楽しかったかしら?」<br />ベンチに座った翠星石を上から見つつ、水銀燈はにやにやしながら聞いた。<br />翠「あぅ…楽しかった…です…」<br />映画館での事を思い出した翠星石は、顔を真っ赤にしながら答えた。<br />銀「そう、よかったわぁ。ところで翠星石、貴女濡れたんじゃないの?」<br />ストレートに聞く水銀燈。あまりにストレートすぎて何の事か分からなかった翠星石は、意味を理解すると耳まで真っ赤にして俯いた。<br />銀「あらぁ?どうしちゃったの?まさか本当に濡れたの?」<br />俯いている翠星石の耳元で、囁く様に言う水銀燈。<br />翠「そ、そんなことないです!」<br />慌てて否定する翠星石。水銀燈は、無言で彼女の耳から首筋にかけて指を這わせた。<br />翠「ひぃああぁ!」<br />もともと耳と首筋が弱い翠星石は、それだけで甘い声を出した。<br />銀「ほーら、やっぱり。翠星石は同性の女の子で感じてしまう、いけない子なのねぇ」<br />意地悪く囁く水銀燈。翠星石はもう泣きそうになっている。<br />銀「ほら、そんな顔しないの。ちゃんと私がお嫁さんにもらってあげるから」<br />うってかわって優しい口調で言い、水銀燈は翠星石を抱きしめた。<br />翠「…水銀燈のお嫁さんなら、なってやってもいいです…」<br />聞こえないほど小さな声で言う翠星石。しかし、水銀燈はしっかり聞いていた。<br />銀(ふふっ、ここまで予定通りに行くと恐いわね…)<br />すべて予定通りに翠星石(おもちゃ)を手に入れた水銀燈。明日からどうやって遊ぶか、彼女の頭にはそれしかなかった。<br /><br />end</p>