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「泣き虫な神様の物語」(2006/05/18 (木) 21:37:01) の最新版変更点
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今ではない昔、ここではない何処かに、<br>
音楽の神様がいました。<br>
その神様は金糸雀といって、とても歌が大好きでした。<br>
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金糸雀には友達がいました。とても綺麗な緑色の鳥です。<br>
金糸雀はその鳥を、みっちゃん、と呼んでいました。<br>
ふたりはご飯のときも、寝るときも、いつも一緒でした。<br>
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「みっちゃん、今日もいっぱい歌うかしらー!」<br>
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みっちゃんは、ぴい、と鳴いて答えます。<br>
そうして2人はいつも、空に近い丘の木の上で、歌をうたっていました。<br>
金糸雀もみっちゃんも、お互いが大好きでした。<br>
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ある日、金糸雀が目を覚ますと、みっちゃんがいませんでした。<br>
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「みっちゃん?どこいったかしらー?」<br>
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いつもはどこに行っても、金糸雀が呼べば、みっちゃんはやってきました。<br>
でも今日は、金糸雀が何度呼んでもみっちゃんは現れませんでした。<br>
金糸雀が不安になって辺りを探しましたが、どこにもいません。<br>
窓から外を見てみると、雨が降っていて、遠くが見えませんでした。。<br>
そして、ふと、気付きました。<br>
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(今日の雨は、音がしないかしら)<br>
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金糸雀は、なぜだかとても怖くなりました。<br>
心の中にも雨が降ったような感じがします。<br>
金糸雀はいてもたってもいられなくなって、外へ飛び出して行きました。<br>
音のない雨は氷のような冷たで、金糸雀の体をぬらし、<br>
針のような鋭さで、金糸雀の心を削りました。<br>
それでも金糸雀は、びしょ濡れになりながらみっちゃんを探して走りました。17<br>
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「みっちゃん!みっちゃん!」<br>
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どれくらい時間がたったのかは分かりません。<br>
音のない雨は絶えず降り続きました。<br>
足は疲れて棒のようになっていって、<br>
呼ぶ声も次第に枯れていきました。<br>
それでも金糸雀は走り、呼び続けました。<br>
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そして、空に近い丘の上に、みっちゃんはいました。<br>
みっちゃんは、木の根本に横たわっていました。<br>
しかし、綺麗だった羽が抜け落ちて、草原のような緑色もくすんでしまっていました。<br>
金糸雀はみっちゃんのそばに駆け寄って名前を呼びますが、<br>
目を覚ます様子はありませんでした。<br>
金糸雀がふと、顔を上げると、2人の女の人が立っていました。<br>
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「あなたは、この子のお友達ですか?」<br>
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髪の長い女の人が聞きました。<br>
金糸雀は頷いて、尋ねました。<br>
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「あなた達は、だれ?」<br>
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「僕たちはここでは、『死』と呼ばれている者だよ。<br>
残念だけどこの子は、死んでしまったよ。」<br>
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髪の短い女の人が、悲しそうに言いました。<br>
死んでしまった。その言葉は、金糸雀を強く殴りました。<br>
それを聞いて金糸雀は、みっちゃんの体を抱いて叫びました。<br>
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「嘘よ、嘘かしら!」<br>
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「悲しいけど、本当なんです。<br>
だから、私たちがお迎えに来たですよ」<br>
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「みっちゃんは、死んでなんかいないかしら!<br>
ちょっと、ちょっと眠っているだけかしら…<br>
だから、すぐ、目を覚ます…かし…」<br>
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そういいながら、金糸雀は泣いていました。<br>
みっちゃんの体の冷たさが、堅さが、死んでしまったことを嫌と言うほど示していることを、<br>
金糸雀も分かっていたのです。<br>
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髪の長い『死』が、金糸雀の頭を撫でて、言いました。<br>
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「この子のお花は枯れてしまったのです。<br>
それは、とても悲しい事ですけど、<br>
この子はちゃんと素敵な種を残しているです。」<br>
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「みっちゃんの…種…?」<br>
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髪の短い『死』が、続けて言いました。<br>
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「君だっていつかは死んでしまう。僕らだってそうさ。<br>
でも、全ての生き物は、種を残すんだ。<br>
それは目にはみえないけど、確かにあるんだよ。<br>
それは、どこか柔らかい地面の上で、春を待つかもしれないし、<br>
どこかのお母さんのお腹の中で、ゆらゆらと浮かぶかもしれない。<br>
そしてまた生きるんだ。『死』が迎えに来るまで。」<br>
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金糸雀は、『死』の言うこと全てが理解できたかどうかは分かりません。<br>
ただ、綺麗な緑色の小鳥のみっちゃんは、もういない。<br>
でもいつか、違う形、性格で『みっちゃん』は生きて、<br>
金糸雀自身も、いつか別の『金糸雀』を生きていくんだと、そう思いました。<br>
そう思うと、ほんの少しだけ、寂しさもなくなった気がしました。<br>
金糸雀は、腕の中のみっちゃんに話しかけました。<br>
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「みっちゃん、私は、今のみっちゃんと一緒で楽しかったかしら。<br>
みっちゃんも、そうかしら?」<br>
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みっちゃんは答えません。<br>
金糸雀は、泣きながらの笑顔で言いました。<br>
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「いつか私も種になって、あなたの近くに行けたら、教えてね。<br>
そしてまた、一緒に歌おうかしら。」<br>
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そういって、金糸雀はみっちゃんの体を『死』に預けました。<br>
2人の『死』は小さく笑って、雨の中、空へとを上っていきました。<br>
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金糸雀は空に向かって、歌いました。<br>
お世辞にも綺麗とは言えない枯れた声で、歌いました。<br>
音のない、暖かい雨の中で、2人の『死』と、大好きな友達を見送って。<br>
泣きながら、いつまでも、いつまでも。<br>
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やがて、静かな雨は上がりました。<br>
金糸雀が奏でた七つの音はそれぞれ綺麗な色を付けて、<br>
空に大きな橋を架けました。<br>
きっとそれは将来、素敵な名前で呼ばれることになるでしょう。<br>
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命は生まれて、育って、枯れて、また形を変えて生まれます。<br>
いつか、どこかで、彼女たちと同じ名前の人が、また別の物語を語るかもしれません。<br>
それはお姉さんと妹だったり、お母さんと子供だったり、<br>
生きた人形とそのご主人だったりするかもしれません。<br>
それは全て、たくさん伸ばされた枝の先の物語。<br>
どこに実がなるのかは、大きな古時計でも知らないでしょう。<br>
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ここではない何処か、今ではない昔、泣き虫な神様の物語。<br>
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