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『笑ってはいけないアリスゲーム(1)』」(2006/05/02 (火) 20:05:51) の最新版変更点

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<dl> <dd>『笑ってはいけないアリスゲーム』<br> <br>  ――5月のとある日。<br>  群馬県はみなかみ町にある水上駅にて――。<br>  空は晴れ渡っていて、北の方角を眺めると谷川岳を始め、残雪の残る上越国境の山々の姿が見える。<br>  青空をバックにした美しい山並みを見ると、本当に遠くまで来たのだなと実感させられる。<br> <br> 「やれやれやっと着いたのだわ」<br> 「電車の長旅は体にこたえるわぁ」<br> 「こんなところまで来させて何考えてるですか、あのお馬鹿水晶は」<br> 「まあいいじゃない。ただで温泉旅館に招待してくれるみたいだし」<br>  そんな会話を交わしながら、電車からホームに降りる真紅、水銀燈、翠星石と僕の4人。<br>  3時間近くの電車での移動に多少疲れたのか、伸びをしたり深呼吸をしたりしている。<br> 「しかし、その当の本人はどうしているの?ここにはいないようだけど」<br>  ホームから改札まで歩くものの、招待した薔薇水晶の姿は見当たらない。<br> 「彼女なら駅に着いたら携帯にメールしてって言ってたわ。しかし出迎えに来ないとはどういう<br> つもりかしらねぇ?」<br> 「じゃあ、とにかくメールするですぅ」<br>  翠星石の言葉に、早速携帯電話を手にしてメールを送る水銀燈。<br>  すると送ってから1分も経たないうちに返信が来る。<br> <br> <br>  それにはこのように記されていた。<br> <br> 『長旅お疲れ様。私は××旅館にいるから。バス乗り場にハイヤーを待たせているからそれに乗って。<br>  それと、駅を出てから旅館の部屋に着くまで絶対に笑ってはだめ』<br> <br> 「どういうこと?笑ってはダメだなんて」<br>  メールの文面を見て水銀燈は訝しげに思う。僕も含めて、他のメンバーも同様だった。<br>  とりあえず、『どういう意味なの』と返信を送る水銀燈。<br>  やはり、即座に薔薇水晶からのメールが届く。<br> <br> 『今回の温泉旅行は先週の勝負の罰ゲームだから。笑ったら恐ろしい目に会うから気をつけて』<br> <br> 「先週の勝負の罰ゲーム?」<br>  全員その場に立ち尽くして、メールの内容に首をひねる。<br> 「ああ、きっとあのことです。あのネット対戦の格闘ゲーム」<br>  翠星石が思い当たったのかポンと手を叩く。<br>  他のメンバーもそのことかと頷く。<br> 「なるほど、確かにあの時はあの子の一人勝ちだったわねぇ……」<br> <br> <br>  ――話は1ヶ月前に遡る。<br>  薔薇水晶が面白いネットゲームを見つけたというので、僕らは彼女に言われるままに各自の<br> パソコンに落としたのだった。<br>  なんでも、フリーソフトのオンライン格闘ゲームだという。<br>  そのソフトの名前は『アリスゲーム』。<br>  最大8人までの同時対戦が可能であり、キャラの動きや操作方法もコンシュマーのものに退けをとらない出来栄えのものだった。<br>  フリーソフトということもあり、ネットでは結構評判を呼んでいて、全国でも登録者はかな<br> りの数にのぼっていた。<br>  作品のクオリティーの高さにも惹かれたのだが、僕らが最もはまったのはキャラの設定だった。<br>  8体のアンティークドールが生みの親のお父様の寵愛を受けられる『アリス』の座を巡って争う……<br> <br>  ……というか、むしろそのアンティークドールの設定が薔薇水晶も含めた僕らの外見や性格と<br> 酷似しているのである。<br>  なんでここまで似せているのかと最初は無気味に思ったのだが……製作者の名前を見て納得した。<br> <br>  製作:JUM<br> <br>  真紅の身内(というか下僕)が造ったゲームなのだから納得する。<br>  最近彼のネットショッピングでの金遣いが荒くなった理由がこれだと知った真紅はひたすら<br> 呆れたという。<br> (もっともこれを知った時、僕らは即座に製作者の元につめより、徹底的に問い詰めて、折檻した<br> 挙句に彼がこれまでに得た登録料の一部を肖像権と称して没収したのだが……) <br> <br>  こうしたすったもんだがあり、よく薔薇水晶も何も言わずにこんなゲームを私たちに勧めた<br> なと彼女たちは思いながらもやってみるとなかなか面白い。<br>  しかも参加者のほとんどが他のネット対戦型の格闘ゲームで上位ランキングに入っている手練<br> ばかりだったのでそれなりにやりごたえもあった。<br> (むしろ最初は負けてばかりで悔しかったので、大学やバイトの友人も誘って意地になって<br> ひたすら練習していたのだが。というか誘った友人の大半がこのゲームを知っていたのには<br> ある意味でへこんでしまったりもした)<br>  ようやく、僕らの腕前が他の参加者と辛うじてやりあえるようになる程になった。<br>  それが一週間前の事。<br>  その時に薔薇水晶がこんな提案をしてきた。<br> <br> <br> 『……今から5人で一度に対戦しよう……1人勝ち残るまでやって、負けた4人は罰ゲーム……』<br>  僕らは彼女の提案に乗って即座にゲームを始めた。<br>  罰ゲームの内容は勝者が決めるという。<br>  腕前もそこそこあったし、彼女たちもさることながら僕も自信があった。<br>  意気揚揚とゲームに挑んだわけだが……。<br> <br>  結果は薔薇水晶の一人勝ち。<br>  他は瞬殺であえなく完敗。<br> <br>  ゲームが始まるや否や、薔薇水晶は即座に全体攻撃を仕掛けて、それに僕が引っかかって、<br> その隙を水銀燈に突かれて即敗退。<br>  んで、それをすり抜けた翠星石も薔薇水晶にコテンパンにやられたし。<br>  水銀燈も真紅とやりあいだした隙を突かれてKO負け。<br>  んで、その真紅もタイマンになった途端にコンボの嵐を直に受けてKO負け。<br>  というか、全国6位にランクインしていることを早く言ってよ、薔薇水晶……。<br> <br> <br>  まあ、そんなことがあった。<br>  ただ、罰ゲームの内容はそれ以降全く知らされていなく、一昨日薔薇水晶から電話があり、<br> 知り合いの経営する温泉旅館に無料で招待するから来てと言われたのだった。<br>  まさか、これが罰ゲームだなんて思いもせずに……。<br> <br> 「とにかく、改札を出るわよ」<br>  先へと進むように僕らを急かす真紅。<br> 「ちょっと待つです」<br>  それを制止するようにいきなり翠星石が呟いた。<br> 「何なの?」<br> 「温泉旅館といい、絶対に笑ってはいけないといい……コンセプトがよく似ているです」<br> 「だから何なの?」<br> 「ほら、ダウンタウンのガキの使いってお笑い番組があるですよね。あれの特番でやっている<br> 『笑ってはいけない』シリーズですよ」<br> 「なぁるほど……確かにそのシリーズで浜田と田中と山崎が湯河原で松本の罰ゲームを食ら<br> って散々な目にあうというのがあったわねぇ」<br>  水銀燈も思い当たる所があったのか、翠星石の言葉に頷いている。<br> <br> <br> 「それ私には分からないわ。詳しく説明して頂戴」<br>  お笑い番組をほとんど見ない真紅はいまいち二人の会話を内容を飲み込めない様子だ。<br>  僕もテレビ自体あまり見ないので、やはりどんな内容なのか理解できない。<br> 「くんくんばかり見てるから分からないのよ。他のジャンルも見ないとますます時代に乗り遅<br> れるわよぉ」<br> 「余計なお世話なのだわ」<br>  得意げにからかう水銀燈に腹を立てる真紅。<br> 「とにかく、それのは各所に笑わせる仕掛けがあって、笑ってしまったらムチや竹刀でお尻<br> をしばかれるです。しかも、有名なお笑い芸人のやるやつですから笑わずにはいられねえです。<br> 見ているこっちも本気で笑いが止まらなかったです」<br>  やっと分かった。<br>  半年ほど前に翠星石と見たお笑い番組があって僕も笑い転げてしまったのだが……それだったのか。<br>  それは確か高校で繰り広げられたやつなのだが……笑ったら竹刀で思い切り尻を叩かれるってやつだった。<br>  友達の間でもそれからしばらくの間はその話題でもちきりになったっけ。<br> <br> <br> 「それで確か、その湯河原のやつでは駅を出て正面に見える観光協会のウソ看板があって、の<br> っけから引っ掛かってたです」<br> 「プロデューサーのガースーのやつね。あれは強烈だったわぁ。<br>  でも、あれは町をひっくるめてだしそこまでの仕掛けはしてないでしょ」<br> 「でも油断はならねえです。宗教団体をかつて買収したことがある薔薇水晶がですよ。<br>  現にゲームの件を知った時に肖像権として登録料の半分をJUMから回収したらしいですから」<br>  薔薇水晶もあのゲームに何も言わなかったわけじゃなかったのか。<br>  というか、額にしてどれ位?<br>  僕らがせしめたのは合計で6ケタ台だけど、ひょっとしたら7ケタ?<br>  いずれにしても、今回の罰ゲームはその原作並……いやそれ以上の仕掛けをやってるかも。<br>  覚悟を決めていかなければとんでもない目に遭うのは間違いない。<br> 「ある程度分かったわ。心して掛からなければいけないわけね」<br>  内容を飲み込むや否や深刻な面持ちになる真紅。<br> 「そういうことです。では行くです」<br>  真剣に駅の外を睨みつけるようにして見ている翠星石に促されて、僕らは改札から駅の外へと<br> 踏み出した。<br> <br> <br>  駅前にはバス乗り場やタクシー乗り場があり、数台の車が停まっている。<br>  その向こうには看板が数枚あり……観光協会の看板があったが……。<br> <br> 『歓迎!水上温泉郷 水上観光協会』の文字。<br>  <br>  谷川岳をバックにした水仙の絵。<br> <br>  なんでもない普通の看板だった。<br> 「普通の看板です」<br> 「さすがにここまではやってないようねぇ」<br>  悪い予想は的中せず胸をなでおろす水銀燈と翠星石。<br>  まあ、ここまでやると莫大な金が掛かるからと思い、僕はふと隣の看板に目をやる。<br> <br> 『ようこそ!最高のひとときを貴方に!! ××旅館』の文字。<br>  <br>  温泉をバックにした……腕組みをした半裸のラプラスの実写。<br> <br>  ちょっと!!<br>  目に入るや否や、僕は思わず吹き出してしまった。<br>  そういえば××旅館って僕らが泊まる予定の薔薇水晶の身内のところなんだなと思いつつも<br> 笑いが止まらない。<br> <br> <br> 「あははは……反則なのだわ!」<br>  真紅もこの看板に笑いをこらえきれない。<br>  翠星石と水銀灯も笑いそうになるが、下を向いたり口を押さえたりして思い切り我慢していた。<br>  すると……<br> <br> 『真紅、蒼星石、アウト……』<br> <br>  どこからかいきなり薔薇水晶の声がした。<br>  思わずその方向を向くと、そこにはスピーカーやらパラボラアンテナやら付いた白のワンボッ<br> クスカーが停まっていた。<br>  声はそこからしたようだ。<br>  僕らがその方向を向くと同時に中からサングラスをかけた黒いスーツの男が数人出てきて……<br> 僕と真紅の両脇を固める。<br> 「ちょっと君達、何するんだよ!」<br> 「レディーの体にいきなり触るなんて失礼ね!」<br>  ともに男達の手から逃れようとしたものの、女の僕らの力ではかないっこない。<br>  じたばたしているうちに車からさらに右手を後ろに隠した男が二人出てくる。<br> そして、僕らの背後に立つや否や、振り上げた右手に握られていたのは――。<br> <br> <br>  スパーン! スパーン!<br> <br>  小気味の良いハリセンの音が2発、水上の駅前にこだまする。<br>  寸分のズレもなく強烈な一撃が僕と真紅の後頭部に直撃していた。<br> 「痛いわ!」<br> 「痛っ!」<br>  思わず頭を押さえる僕と真紅を尻目に男達は車の中へと駆け足で引き上げていく。<br>  ていうか、あの車に薔薇水晶がいるのかと車に目をやるが、窓にはスモークが張られていて<br> 中が見えない。<br> 「よくやるわぁ」<br>  目の前で繰り広げられた光景に呆然としている水銀燈が手にしていた携帯からメールの着信<br> を知らせるメロディーが流れる。<br>  そこに書かれていたのは以下のとおりだった。<br> <br> 『笑ったら私のボディーガードのハリセンが飛ぶから。彼らはしっかり張り付いて監視している<br> ので見逃しはないのでよろしく。がんばって。<br> P.S.私は旅館の中でこの光景を見ているから。声はこの時のために編集したやつなので。<br> 車の中に押しかけようとしても無駄だから』<br> <br> <br> 「ふざけてるの?」<br>  怒りを露にしている真紅の目の先には……車の横にテレビ局が使うようなカメラをこちらの方<br> へ構えている黒いスーツの男が立っていた。<br>  このカメラを衛星回線か何かで彼女のいる旅館のテレビへ映し出しているのだろう。<br> 「自分はのうのうと画面の向こうの翠星石たちのザマを見て大笑いしてるですか!<br> 冗談じゃねえです!人をおちょくるにも程があるです!」<br>  真紅と同様に薔薇水晶のそんな態度に腹を立てている翠星石が駅のほうにふと目をやったが――<br> <br> 「ぷぷっ!」<br> 「どうしたのぉ……ぷっ!」<br>  翠星石もそれにつられて同じ方向を向いた水銀燈も吹き出してしまっている。<br>  その先にあったものは……<br> <br> <br>  コミュニティー関係の掲示板に張られている、谷川岳のキャンプ場清掃ボランティア募集のチラシ。<br> <br>  応募先には担当者の名前と所属と顔写真。<br> <br>  キャンプ場管理人。<br>  新潟にある環境保護関係のNGOの代表。<br>  東京の私立大学の教授と登山部の部長。<br>  県立高崎第十五高校の教諭。<br>  県立兎小屋高校の生徒会長のラプラス。<br> <br>  またしてもウソチラシだった。<br>  てか、ラプラスの連荘とはかなり手強い……。<br> <br> 『水銀燈、翠星石、アウト……』<br>  車からやはり先程の男達が出てきて、水銀燈と翠星石の体を押さえつけて――<br> <br>  スパーン! スパーン!<br> <br>  彼女達の頭に力いっぱいハリセンを振り下ろすと、即座に車の中に引き上げていく。<br> 「やられたわぁ……」<br> 「油断しちまったです……」<br>  痛さのあまり思わず目から涙をこぼしそうになりながらも何とかこらえる二人。<br>  この二つの仕掛けだけでも笑うなという方が無理だ。<br>  でもこれだけじゃあ済まさないんだろうな。<br> <br>  この先旅館まで繰り広げられるであろう薔薇水晶の罠のことを想像すると、思わず滅入ってし<br> まうのであった……。<br> <br>                         ―to be contenued―<br></dd> </dl>

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