「翠×雛の『マターリ歳時記』-プロローグ」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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翠×雛の『マターリ歳時記』 プロローグ<br>
<br>
<br>
―師走の頃―12月22日 冬至<br>
<br>
クリスマスも差し迫った年の瀬に、夜更けの街を歩く、独りの影。<br>
周囲には疲れた顔のサラリーマンやOL、カップルが溢れている。<br>
彼等の間を縫って、翠星石は背中を丸めながら、歩いていた。<br>
<br>
特別、行きたい場所があった訳ではない。<br>
と言って、家に帰る気にもなれなかった。<br>
<br>
翠星石は歩きながら、羽織ったコートの襟元を掻き寄せて、重い溜息を吐いた。<br>
吐息は白い霞となって棚引き、凍てつく真冬の風に流されていく。<br>
冬という季節は、好きになれない。今年の冬は、特に憂鬱だった。<br>
<br>
「蒼星石……」<br>
<br>
俯きながら、ポツリと妹の名を呼ぶ。彼女の呼びかけに応える者は、居ない。<br>
去年の今頃は、隣を歩いていた蒼星石。<br>
彼女は今、遠い異国の地で生活していた。自分の夢を追って、留学してしまったのだ。<br>
<br>
「蒼星石……私は、寂しいです」<br>
<br>
ふと立ち止まって夜空を見上げると、半分ほどに欠けた月が、皓々たる光を<br>
降り注いでいた。けれど、街の照明の方が明るくて、風情が感じられなかった。<br>
<br>
今夜は、冬至。一年で、昼が最も短くなる日だ。<br>
<br>
<br>
<br>
昼が短い。裏を返せば、夜が長いと言うこと。<br>
蒼星石の居ない家で、長い長い夜を、どう過ごせば退屈が紛れるのだろう。<br>
そんな事は、さんざん試した。<br>
本を読んだり、祖父母と話をしたり、友人たちから借りたCDを聞いたりした。<br>
週末や祝祭日には、料理やハーブティーの研究もした。<br>
が、どんな事をしても、途中から気分が萎えていく。正直、愉しくない。<br>
<br>
翠星石の唯一の娯楽は毎晩、決まった時間に、インターネットを通じて蒼星石と<br>
チャットすることだった。<br>
けれど、それも時差の都合などで、ほんの五分くらいしか出来ない。<br>
愉しみにしていた分、回線を切った後は、寂寥感が募ってしまう。<br>
蒼星石は時折、動画メールを送ってきたりもした。<br>
そんな晩には切なくなって、涙で枕を濡らした事も有った。<br>
<br>
最近では、蒼星石との定時連絡を終えると、夜更けの街を散歩するのが翠星石の<br>
習慣になっていた。自室で蒼星石の写真を眺めながら、悶々としてるよりは健全だ。<br>
もっとも、近頃めっきりと冷え込んできたので、散歩も楽じゃないけれど。<br>
<br>
「うぅ~。流石に冷え込んできたですぅ」<br>
<br>
心ばかりか、身体まで寒くなって、翠星石は身震いした。<br>
そろそろ帰ろうか。<br>
コートの襟を立て直して、彼女は俯きがちに歩き始めた。<br>
途端、誰かにぶつかってしまった。<br>
<br>
「うひゃっ!」<br>
「あっ! ご、ゴメンですぅ」<br>
<br>
翠星石は、ぺこりと頭を下げた。<br>
歩くときは、ちゃんと前を見ないと危ない。<br>
年の瀬に怪我をして、病院で年越しだなんて馬鹿げているし、遠慮したかった。<br>
<br>
「うゅ? 翠ちゃん、なの?」<br>
<br>
ぶつかった相手が、話しかけてきた。喋り方からして、直ぐに雛苺だと解った。<br>
<br>
「こんな時間に、翠ちゃんは何してるの?」<br>
「それは、私の台詞ですぅ。雛苺こそ、なに夜中にほっつき歩いてやがるです」<br>
「ヒナはね、巴の家に行ってたのよ。翠ちゃんは?」<br>
「え? わ……私は、ちょっとコンビニまで買い物に行ってたですぅ」<br>
<br>
雛苺は疑いもせずに「ふぅん」と小首を傾げた。<br>
買い物に出た割に、翠星石が荷物を持っていないことを訝ったのだろう。<br>
しかし、直ぐにいつもどおりの屈託無い笑顔を浮かべて、翠星石に訊ねた。<br>
<br>
「ねえねえ、翠ちゃん。もし良ければ、一緒に帰ろ? ヒナ、夜道って怖いの」<br>
「怖いなら、こんな時間まで巴の家に居なくてもいいじゃないですか」<br>
「ちょっと話し込んじゃって、お夕飯も頂いてきちゃったなの」<br>
<br>
まあ、そういう日もあるだろう。翠星石は、一緒に帰る事に同意した。<br>
<br>
「ねえ、翠ちゃん。手を繋いでも良い?」<br>
「なんでですか? 子供じゃあるまいし、恥ずかしいですぅ」<br>
「うゅ~。ダメ、なの?」<br>
<br>
雛苺に潤んだ瞳で見詰められて、翠星石は照れ臭そうに顔を背けた。<br>
<br>
<br>
「まあ……手を繋ぐくらい構わないですよ」<br>
<br>
言って、彼女が手を差し出すと、雛苺は嬉しそうに、ギュッと握ってきた。<br>
<br>
「翠ちゃんの手、冷たいね」<br>
「そりゃあ、真冬に手袋もしてなかったですからね。そう言う雛苺だって、<br>
氷みたいに冷たい手をしてるですぅ」<br>
「そうなの。だから、翠ちゃんと手を握りたかったの」<br>
「じゃあ、こうしてれば、温かくなるですよ」<br>
<br>
翠星石は雛苺の手を握り返して、自分のコートのポケットに差し入れた。<br>
狭いポケットの中に、二人分の体温がこもっていく。<br>
夜風に晒されなくなった分、暖まるのは早かった。<br>
<br>
「ホントだぁ~。翠ちゃんの手、温かぁいなの」<br>
「ふふっ。なんなら、家に着くまで、こうしててやるですぅ」<br>
<br>
並んで歩いている内に、翠星石は、なんだか雛苺の事が妹の様に思えてきた。<br>
手の掛かる子ほど、愛情が募るものだ。<br>
翠星石も、雛苺の無邪気さに母性本能を擽られたのかも知れない。<br>
二人は歩きながら、他愛ない話に花を咲かせていた。<br>
<br>
いよいよ、雛苺の家が見えてきた所で、翠星石は思い出したように訊ねた。<br>
<br>
「雛苺は元日、初詣に行くですか?」<br>
「ううん、行かないの。巴の都合が悪くて、行けなくなったのよ」<br>
「へえ。てっきり、誰かと行くんだと思ってたです」<br>
「うん……ホントはね。すっごく行きたいの。ヒナは、お祭りって大好きなの」<br>
<br>
<br>
落胆する雛苺を見ていると、翠星石も胸が切なくなってしまった。<br>
二人は、とっても寂しがり屋さん。<br>
日頃、明るく振る舞って見せても、ちょっとした事で泣いてしまう。<br>
気付けば、翠星石は雛苺に、我ながら驚く提案をしていた。<br>
<br>
「だったら、私と行かないですか? 初詣」<br>
「えっ?! 良いの?」<br>
<br>
途端に、雛苺の表情が輝きを増した。<br>
夜だというのに、まるで太陽みたいに明るく、眩しい笑顔だった。<br>
<br>
「行くの行くの行くのっ! ヒナ、翠ちゃんと一緒に、初詣に行くのっ!」<br>
「わわ、解ったから、ちょっと落ち着きやがれです。近所迷惑になるですぅ」<br>
「うぃ……ごめんなさい。でもねでもねっ、ヒナ、とっても嬉しいのよ?」<br>
「そりゃもう、見ただけで判るですよ」<br>
<br>
翠星石は苦笑した。分かり易い娘だ。まるで、子犬みたい。<br>
<br>
「じゃあ、大晦日にでも電話して、時間を決めるです」<br>
「うん。じゃあね、翠ちゃん。お休みなさいなの」<br>
<br>
手を振って雛苺と別れ、翠星石も帰途に就いた。<br>
不思議と、さっきまでの心細さや寂しさが、雲散霧消していた。<br>
雛苺と話をしたから、気が紛れたのだろうか。<br>
<br>
「蒼星石には会いたいですけど……も少し、前向きに頑張ってみるです」<br>
<br>
蒼星石だって、独りで頑張っているのだ。<br>
私も、強くならないと。翠星石は心の中で、自分に言い聞かせた。<br>
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翠×雛の『マターリ歳時記』 プロローグ<br>
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―師走の頃― 【12月22日 冬至】<br>
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クリスマスも差し迫った年の瀬に、夜更けの街を歩く、独りの影。<br>
周囲には疲れた顔のサラリーマンやOL、カップルが溢れている。<br>
彼等の間を縫って、翠星石は背中を丸めながら、歩いていた。<br>
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特別、行きたい場所があった訳ではない。<br>
と言って、家に帰る気にもなれなかった。<br>
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翠星石は歩きながら、羽織ったコートの襟元を掻き寄せて、重い溜息を吐いた。<br>
吐息は白い霞となって棚引き、凍てつく真冬の風に流されていく。<br>
冬という季節は、好きになれない。今年の冬は、特に憂鬱だった。<br>
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「蒼星石……」<br>
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俯きながら、ポツリと妹の名を呼ぶ。彼女の呼びかけに応える者は、居ない。<br>
去年の今頃は、隣を歩いていた蒼星石。<br>
彼女は今、遠い異国の地で生活していた。<br>
自分の夢を追って、留学してしまったのだ。<br>
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「蒼星石……私は、寂しいです」<br>
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ふと立ち止まって夜空を見上げると、半分ほどに欠けた月が、皓々たる光を<br>
降り注いでいた。けれど、街の照明の方が明るくて、風情が感じられなかった。<br>
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今夜は、冬至。一年で、昼が最も短くなる日だ。<br>
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昼が短い。裏を返せば、夜が長いと言うこと。<br>
蒼星石の居ない家で、長い長い夜を、どう過ごせば退屈が紛れるのだろう。<br>
そんな事は、さんざん試した。<br>
本を読んだり、祖父母と話をしたり、友人たちから借りたCDを聞いたりした。<br>
週末や祝祭日には、料理やハーブティーの研究もした。<br>
が、どんな事をしても、途中から気分が萎えていく。正直、愉しくない。<br>
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翠星石の唯一の娯楽は毎晩、決まった時間に、<br>
インターネットを通じて蒼星石とチャットすることだった。<br>
けれど、それも時差の都合などで、ほんの五分くらいしか出来ない。<br>
愉しみにしていた分、回線を切った後は、寂寥感が募ってしまう。<br>
蒼星石は時折、動画メールを送ってきたりもした。<br>
そんな晩には切なくなって、涙で枕を濡らした事も有った。<br>
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最近では、蒼星石との定時連絡を終えると、夜更けの街を散歩するのが<br>
翠星石の習慣になっていた。<br>
自室で蒼星石の写真を眺めながら、悶々としてるよりは健全だ。<br>
もっとも、近頃めっきりと冷え込んできたので、散歩も楽じゃないけれど。<br>
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「うぅ~。流石に冷え込んできたですぅ」<br>
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心ばかりか、身体まで寒くなって、翠星石は身震いした。<br>
そろそろ帰ろうか。<br>
コートの襟を立て直して、彼女は俯きがちに歩き始めた。<br>
途端、誰かにぶつかってしまった。<br>
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「うひゃっ!」<br>
「あっ! ご、ゴメンですぅ」<br>
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翠星石は、ぺこりと頭を下げた。<br>
歩くときは、ちゃんと前を見ないと危ない。<br>
年の瀬に怪我して、病院で年越しだなんて馬鹿げているし、遠慮したかった。<br>
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「うゅ? 翠ちゃん、なの?」<br>
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ぶつかった相手が話しかけてきた。喋り方からして、直ぐに雛苺だと解った。<br>
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「こんな時間に、翠ちゃんは何してるの?」<br>
「それは私の台詞ですぅ。雛苺こそ、なに夜中にほっつき歩いてやがるです」<br>
「ヒナはね、巴の家に行ってたのよ。翠ちゃんは?」<br>
「え? わ……私は、ちょっとコンビニまで買い物に行ってたですぅ」<br>
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雛苺は疑いもせずに「ふぅん」と小首を傾げた。<br>
買い物に出た割に、翠星石が荷物を持っていないことを訝ったのだろう。<br>
しかし、直ぐにいつもどおりの屈託無い笑顔を浮かべて、翠星石に訊ねた。<br>
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「ねえねえ、翠ちゃん。もし良ければ、一緒に帰ろ? ヒナ、夜道って怖いの」<br>
「怖いなら、こんな時間まで巴の家に居なくてもいいじゃないですか」<br>
「ちょっと話し込んじゃって、お夕飯も頂いてきちゃったなの」<br>
<br>
まあ、そういう日もあるだろう。翠星石は、一緒に帰る事に同意した。<br>
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「ねえ、翠ちゃん。手を繋いでも良い?」<br>
「なんでですか? 子供じゃあるまいし、恥ずかしいですぅ」<br>
「うゅ~。ダメ、なの?」<br>
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雛苺に潤んだ瞳で見詰められて、翠星石は照れ臭そうに顔を背けた。<br>
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「まあ……手を繋ぐくらい構わないですよ」<br>
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言って、彼女が手を差し出すと、雛苺は嬉しそうに、ギュッと握ってきた。<br>
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「翠ちゃんの手、冷たいね」<br>
「そりゃあ、真冬に手袋もしてなかったですからね。そう言う雛苺だって、<br>
氷みたいに冷たい手をしてるですぅ」<br>
「そうなの。だから、翠ちゃんと手を握りたかったの」<br>
「じゃあ、こうしてれば、温かくなるですよ」<br>
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翠星石は雛苺の手を握り返して、自分のコートのポケットに差し入れた。<br>
狭いポケットの中に、二人分の体温がこもっていく。<br>
夜風に晒されなくなった分、暖まるのは早かった。<br>
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「ホントだぁ~。翠ちゃんの手、温かぁいなの」<br>
「ふふっ。なんなら、家に着くまで、こうしててやるですぅ」<br>
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並んで歩いている内に、翠星石は、なんだか雛苺の事が妹の様に思えてきた。<br>
手の掛かる子ほど、愛情が募るものだ。<br>
翠星石も、雛苺の無邪気さに母性本能を擽られたのかも知れない。<br>
二人は歩きながら、他愛ない話に花を咲かせていた。<br>
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いよいよ、雛苺の家が見えてきた所で、翠星石は思い出したように訊ねた。<br>
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「雛苺は元日、初詣に行くですか?」<br>
「ううん、行かないの。巴の都合が悪くて、行けなくなったのよ」<br>
「へえ。てっきり、誰かと行くんだと思ってたです」<br>
「うん……ホントはね。すっごく行きたいの。ヒナは、お祭りって大好きなの」<br>
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落胆する雛苺を見ていると、翠星石も胸が切なくなってしまった。<br>
二人は、とっても寂しがり屋さん。<br>
日頃、明るく振る舞って見せても、ちょっとした事で泣いてしまう。<br>
気付けば、翠星石は雛苺に、我ながら驚く提案をしていた。<br>
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「だったら、私と行かないですか? 初詣」<br>
「えっ?! 良いの?」<br>
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途端に、雛苺の表情が輝きを増した。<br>
夜だというのに、まるで太陽みたいに明るく、眩しい笑顔だった。<br>
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「行くの行くの行くのっ! ヒナ、翠ちゃんと一緒に、初詣に行くのっ!」<br>
「わわ、解ったから、ちょっと落ち着きやがれです。近所迷惑になるですぅ」<br>
「うぃ……ごめんなさい。でもねでもねっ、ヒナ、とっても嬉しいのよ?」<br>
「そりゃもう、見ただけで判るですよ」<br>
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翠星石は苦笑した。分かり易い娘だ。まるで、子犬みたい。<br>
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「じゃあ、大晦日にでも電話して、時間を決めるです」<br>
「うん。じゃあね、翠ちゃん。お休みなさいなの」<br>
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手を振って雛苺と別れ、翠星石も帰途に就いた。<br>
不思議と、さっきまでの心細さや寂しさが、雲散霧消していた。<br>
雛苺と話をしたから、気が紛れたのだろうか。<br>
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「蒼星石には会いたいですけど……も少し、前向きに頑張ってみるです」<br>
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蒼星石だって、独りで頑張っているのだ。<br>
私も、強くならないと。<br>
翠星石は心の中で、自分に言い聞かせた。<br>