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悪戯心は危険な香り」(2009/09/28 (月) 23:31:50) の最新版変更点

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<dl><dd><br /> すっかり定番にもなってきた、桜田家での作戦会議。<br /> プロの自宅警備員によってセキュリティーを固められたジュンの部屋に、彼女達は集まっていました。<br /> ジュンが「何で僕の部屋なんだよ…」といった表情をしているのは、いつもと同じです。<br /><br /> ですが、部屋全体の雰囲気は、いつもとは違っていました。<br /><br /> 真紅の頭に付いているイヌミミは、楽しそうにピコピコ動いたりしていません。<br /> それどころか、ちょっと緊張しているのか、ピーンとなっています。<br /><br /> 真紅の隣に座った翠星石も、ギリリと歯を食いしばりながら機嫌の悪そうな顔をしていました。<br /> いつもならブンブン動いているふかふか尻尾も、怒っているみたいにパシパシと地面を何度も叩いています。<br /> そんな、今にも暴れだしそうな翠星石の正面には蒼星石が、何だか気まずそうな表情で座っています。<br /><br /> いつもとは違う、とってもピリピリとした空気の原因は、蒼星石の隣。真紅の正面に座った彼女です。<br /><br /><br /> 「で、わざわざこんな所に私を呼び寄せておいて……さっさと用件を言ったらどうなのぉ?」<br /> 苛立たしげにネコミミをピコピコさせている水銀燈。<br /><br /> ずっと敵対していた彼女が居たのでは、和やかな雰囲気にならないのも仕方の無い事でした。<br /><br /> とってもピリピリとした、重苦しい空気が流れちゃっています。<br /> あまりの緊張感に、何だかジュンも居心地が悪くなって、小さく咳払いなんかしちゃいます。<br /> 真紅も水銀燈も表情は動かしませんでしたが、その音に頭の上ではケモミミがぴくっと動きました。<br /><br /> それを見ていたジュンは「こいつ…動くぞ…」と内心呟きましたが、どうでも良いです。<br /><br /><br /><br /><br />      ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇<br /><br /><br /><br /><br /> 真紅も、ストレスが原因で現実逃避し始めたジュンの精神状態が気にはなりましたが……<br /> それでも、気にしてないフリをしながら、落ち着いた表情を崩しません。<br /><br /> テーブルの上に置いてある紅茶のカップを持ち上げ、一口。<br /> それから……<br /> 「ええ。私と貴方に関する、とっても大切な話よ」<br /> 真紅は真面目な表情で水銀燈の目を真っ直ぐに見つめながら、そう口を開きました。<br /><br /> 「薔薇水晶は、私のイヌミミや貴方のネコミミを狙って再び行動を起こしてくるに違いないわ。<br />  だから水銀燈。ここは互いに協力し合っ……」<br /> 「お断り」<br /> 交渉決裂です。<br /><br /> いきなりな水銀燈の言葉にも、真紅は落ち着いた表情を崩しません。<br /> ですが、頭の上ではイヌミミが、ぷるぷると怒りに震えていました。<br /><br /> 「……ねえ、水銀燈。<br />  せめて話を最後まで聞くくらいしたらどうなの?」<br /> 「聞く必要も無いわよねぇ?<br />  どうせ、手を組もうだなんてくだらない提案でしょう?」<br /><br /> 真紅も水銀燈も、何だか普段より優しい声で喋っていました。<br /> 隠そうとしても隠し切れない怒りの感情が、逆にヒシヒシと伝わってしまっています。 <br /><br /><br /> またしても、ピリピリとした沈黙が流れるだけの時間が来ちゃいました。<br /> ジュンが胃の辺りを悲しそうな表情で押さえています。<br /><br /><br /> そんな重っ苦しい空気に耐えかねたのか、イライラした表情の翠星石が大きな声で叫びました。<br /> 「やっぱり翠星石の言う通り、こんな奴は袋叩きにしてシメるのが一番ですぅ!」<br /><br /> 蒼星石が真面目な表情で、そんな翠星石をなだめます。<br /> 「落ち着きなって、翠星石。<br />  せっかく水銀燈が来てくれたんだから、ちゃんと話し合いをしようよ」<br /><br /> 「ですが!こいつは蒼星石に酷い事しやがったですよ!?」<br /> 「ネコミミを千切られた時は、確かにすごく痛かったけれど……もう、いいんだ」<br /><br /> 蒼星石は水銀燈に千切られたネコミミの跡を、そっと撫でながら答えます。<br /> それから、納得できないのか尻尾の毛を逆立てている翠星石に、蒼星石はそっと微笑みかけました。<br /> 「僕にとっては過ぎ去った事よりも、どうやって翠星石を守るかの方が大切なんだ」<br /><br /> 翠星石は、ちょっと恥ずかしそうに「うぅ~…」と唸りながら口元を尖らせてしまいます。<br /><br /> 嬉し恥ずかし翠星石の表情に、蒼星石は少しだけ微笑んでしまいます。<br /> それから「だから……」と前置きして、真面目な表情で水銀燈へと視線を移しました。<br /> 「家来になれなんて言うつもりはないんだ。あくまで対等な関係で。<br />  薔薇水晶の脅威を退けるためにも、僕達と一緒に闘って欲しい」<br /><br /><br /> 真面目っ子に真っ直ぐな眼差しで見つめられた水銀燈はというと、やっぱり機嫌の悪そうな表情。<br /> というのも……<br /><br /> 確かに、悪い提案ではありませんが、ここで「そういう事なら、よろしく」というのは嫌です。<br /> プライドが許してくれません。<br /> 以前、ピンチの時に真紅が助けに来てくれた時の借りもあります。<br /> ですが、その事を真紅の目の前で言うのも嫌です。<br /> プライドが許してくれません。<br /><br /> なので、水銀燈は苛立たしげにネコミミをピコピコさせながら、すっかり考え込んでしまいました。<br /><br /><br /> ちょっとしたきっかけで話は進みそうではありましたが、そのきっかけが見つかりません。<br /> 話し合いは、またしても気まずい沈黙を漂わせるだけになっちゃいました。<br /><br /><br /> その時です。<br /> ずっと空気扱いだったジュンが、冷や汗を流しながらも気を使って、控え目な声で言いました。<br /><br /> 「そ…そんなに結論を急がなくてもさ……ほら、時間はあるんだし……」<br /> 今日はもう解散にしたらどうだ。とジュンは言うつもりでした。<br /> ですが、それより早く真紅が口を開きました。<br /><br /> 「そうね。何か飲みながら、ゆっくりと考えましょう。ジュン、紅茶を淹れてきて頂戴」<br /><br /> まだ続けるつもりか、とジュンはキリキリしてきた胃の辺りを押さえます。<br /> それでも、一時的にとは言え、このピリピリした空気の部屋から出られるなら。<br /> ジュンがそう考えて立ち上がろうとした時です。<br /><br /> 「なら、翠星石が準備するですよ」<br /> 「そうね。ジュンも何だか体調が良くないみたいだし、お願いしようかしら」<br /><br /> 翠星石と真紅が勝手に話を進めちゃいました。<br /> おかげでジュンは、虚ろな眼差しで天井を見つめる以外にする事が無くなってしまいました。 <br /><br /><br /> ―※―※―※―※―<br /><br /><br /> 「全く蒼星石は……翠星石の方がお姉さんなのに、心配しすぎですぅ!」<br /><br /> 翠星石はブツブツ言いながら、ジュンの家の台所でお湯を沸かしていました。<br /> 隣ではのりがクッキーを焼きながら、うんうんと頷いています。<br /> 「そうよねぇ。お姉ちゃんなんだから、もっと頼ってくれてもいいのに」<br /><br /> 「いや、のりは十分に頼りないと思うですよ……」<br /> 翠星石の小さな呟きは、お湯が沸騰する音にかき消されました。<br /><br /><br /> ジュンの分も合わせて5つのカップに紅茶を作り、のりの焼いたクッキーをお皿に載せて、準備は完了。<br /> 早速、ジュンの部屋に持って行って話し合いの続きを。<br /> という予定だったのですが……<br /><br /> そこで翠星石の悪戯心に、不意に火が付いてしまったのです。<br /><br /> よく考えたら、大好きな蒼星石に酷い事をした水銀燈だって、このクッキーを食べる筈です。<br /> ちょっとした可愛らしくも微笑ましい嫌がらせ位なら、したってバチは当たらないかもしれません。<br /><br /> 翠星石は目をギラギラ輝かせ、尻尾をブンブン振りながら、冷蔵庫からワサビのチューブを取り出します。<br /> そして、それを一枚のクッキーにたっぷり塗って……今度こそ、準備は完了です。<br /><br /> 「ヒーッヒッヒ!今に目にモノ見せてやるですぅ!」<br /><br /> 怪しげな笑みを浮べながら、翠星石は紅茶とクッキーの乗ったお盆を持ってジュンの部屋へと向かいました。<br /><br /><br /> ―※―※―※―※―<br /><br /><br /> 「お待たせですぅ」<br /> 翠星石がジュンの部屋に入った瞬間、彼女のすぐ足元にクッションがボフっと落ちてきました。<br /><br /> 「その性根、叩きなおしてあげるわ!」<br /> 「あらぁ?そぉんなブサイクな顔で怒っちゃ駄目よぉ、真紅ぅ!」<br /><br /> 部屋の中では、真紅と水銀燈がクッションで激しい格闘戦を繰り広げています。<br /><br /> 「お前ら、いい加減にしろよ!」<br /> その光景にジュンがブチ切れました。<br /> ですが、真紅と水銀燈の二人同時の「黙ってなさい!」に、小さく「はい」と答えていました。<br /><br /> とても話し合いとは思えない状況に、蒼星石は困ったように深くため息を付きます。<br /> そして、部屋に戻ってきた翠星石の姿を見ると、気弱な笑みを作ってみせました。<br /><br /> 「こ…これは一体……どうしてこんな事になってるですか?」<br /> 「あれからすぐ、真紅と水銀燈がケンカしちゃってさ……」<br /><br /> 蒼星石は、はぁ、とため息混じりにそう教えてくれます。<br /> 翠星石も、呆れたようにはぁ、とため息をつきました。<br /><br /> 「仲が良くないにしても、これはやりすぎですぅ……」<br /> 「酷すぎるよ……」<br /><br /> まるで他人事みたいに感想を言いながら、翠星石と蒼星石は、テーブルごと部屋の隅っこに避難します。<br /> それから、やれやれといった表情で紅茶を一口。<br /> 「お、真紅の投げたクッションが水銀燈に直撃ですぅ」<br /> 「他人の家なのに、二人とも遠慮無いなぁ……」<br /> 諦めにも似た表情で、解説なんかしちゃってます。<br /><br /> 「こんな調子じゃあ、やっぱり僕達だけで頑張るしか無いのかな」<br /><br /> 蒼星石は悲しそうな表情でそう呟きます。<br /> 翠星石は、初めからそのつもりだったので、うんうんと頷こうとして……気が付きました。<br /><br /> 蒼星石の手が、自分が持ってきたクッキーを。<br /> 水銀燈用にとワサビがたっぷり塗ってあるクッキーを、今にも取ろうとしていたのです。<br /><br /> 「それは駄目ですぅ!」<br /><br /> 翠星石は、大慌てで叫びました。<br /><br /> それはまるで、会話の切れ目とBGMの終りが、たまたま重なった瞬間のように。<br /> ジュンの部屋にほんの一瞬だけ生まれていた静寂を、まるでピンポイントに突いたかのように。<br /> 翠星石の叫び声は、やけに大きく響いてしまったのです。<br /><br /> 真紅も水銀燈も、突然の叫び声に、クッションを振り上げたままキョトンとしています。<br /> 蒼星石も、クッキーに伸ばしていた手を止めて固まっちゃっています。<br /><br /> ワサビ入りクッキーを蒼星石が食べるのを止めたかっただけなのに、皆に注目されちゃった翠星石は……<br /> ふかふか尻尾をピーンとさせて、冷や汗を流していました。<br /><br /> 「どうしたんだい、翠星石?……急に大きな声なんか出して」<br /> 蒼星石がそう尋ねながら顔を覗き込んできますが、その質問はマズイです。<br /><br /> もしも本当の事を。ワサビを仕込んであった事を言ってしまえば……<br /> 間違いなく、水銀燈は翠星石に襲い掛かってくるでしょう。<br /> そうなれば、真紅が大人しくしている訳がありません。<br /> それに、姉を守る為に蒼星石まで参戦しそうです。<br /><br /> 絶対、五体満足では終わりそうにありません。<br /> それだけは勘弁してほしいです。<br /><br /> 皆に見つめられる中、翠星石は頭をフル回転で打開策を考えます。<br /> そして、それは案外アッサリと見つかりました。<br /><br /> 「自分だけで、なんて考えは駄目ですぅ!<br />  ここは一致団結して、迫り来る脅威から地球の平和を守るべくですね、その……協力し合うですよ!」<br /> かなりドキドキしながらだったので、どこか内容はおかしいですが、無理やり押し通します。<br /><br /> 「全人類が一致団結して、この脅威を追っ払うですぅ!」<br /> 変な汗をダラダラ流しながら、翠星石はグッと拳を固めて宣言します。<br /><br /><br /> ……何だか変な沈黙が、部屋の中に漂いました。 <br /><br /><br /> たっぷり十秒ほど過ぎた頃でしょうか。<br /> やがて真紅が、振りかぶっていたクッションをポトリと床に落としました。<br /><br /> 「……そうね、翠星石の言う通りだわ。こんな所で私達が争う必要は無い筈よ」<br /><br /> それから真紅は、とっても真面目な表情をしながら、クッションを振りかぶっている水銀燈を見つめます。<br /><br /> 「改めて言うわ。<br />  ……水銀燈、私達と手を組みましょう」<br /><br /><br /><br /> 水銀燈は、つい先程までクッションでシバキ合っていた事も忘れて、目を丸くしていました。<br /><br /> というのも、真紅や蒼星石は、この際置いておくとして。<br /> あまり自分には好印象を持っていない翠星石までもが協力しようと言い出したのが、意外過ぎたからです。<br /><br /> 何だか、こんなに頼りにされたり必要とされた事も、今まであまり無かった気がします。<br /> 入院中のめぐ以外には友達の居ない水銀燈にとっては、ちょっぴり嬉しい事でした。<br /><br /> ついつい、笑顔になってしまいそうな所でしたが、そこはグッと我慢します。<br /> 水銀燈はわざと大げさにため息をついたかと思うと……<br /> やれやれといった感じで肩をすぼめてみせました。<br /><br /> 「ホント、貴方もしつこいわねぇ?」<br /> そう言ってから、ニヤリと笑みを浮べて、人差し指をピンと立たせます。<br /><br /> 「そこまで言うんだったら、一度だけ……<br />  ただし、その一回で薔薇水晶を撃退できなかったら……ふふ、せいぜい夜道には気をつける事ねぇ……」<br /><br /> 最後に物騒な一言を付け足すあたり、やっぱり素直じゃあありません。<br /> よく考えたら、この部屋のツンデレ率は高すぎです。<br /><br /><br /> ともあれ。<br /> 翠星石の、本人すら予想外の大活躍で、話し合いは上手く行きました。<br /><br /> 真紅は、水銀燈と一時的にとは言え同盟関係を結べた事に、無い胸を撫で下ろしていました。<br /> そして翠星石も、ボコボコにされる恐怖から開放されて、胸を撫で下ろしていました。<br /><br /> 「はぁ……何だか疲れたですぅ……」<br /><br /> 今にも消え入りそうな声で翠星石は呟き、紅茶を一口。<br /> それから、テーブルの上のお皿に盛られたクッキーへと手を伸ばしました。<br /> そうです。<br /> 完全に、油断していたのです。<br /><br /><br /><br /><br /><br />   </dd> </dl>

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