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「BLACK ROSE 第三話」(2009/09/18 (金) 22:30:11) の最新版変更点
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<p>BLACK ROSE 第三話</p>
<p>「遅いよ、翠星石。時間は守らないと」<br />
「仕方ねーですぅ!持ち込む道具類を翠星石が準備してやってるですよ?<br />
多少、遅れるのは当然ですぅ」<br />
「お前ら、そこまでにしとけよ。いよいよ入るぞ」</p>
<p> </p>
<p>迷宮の入口前で小一時間程待っただろうか。翠星石がようやく着いた。<br />
それにしても…背中に背負っているリュックは本当に重そうだ。<br />
翠星石以外は、必要最低限の物しか持ってきていない様だ。</p>
<p> </p>
<p>「翠星石…今迄、その道具類を使ったことがあるかしら?」<br />
「必要最低限の物だけを、持ち込むんじゃないのぉ?」<br />
「キィーー!!お前らは何も分かってないですぅ!<br />
迷宮は危険がいっぱいです!もしもの時のための道具は用意するものです。<br />
普通、どんな冒険者も持ち込んでるもんですぅ!」</p>
<p> </p>
<p>翠星石の言い分も一理ある。備えあれば憂いなしである。<br />
だが、真紅達は今迄、そういうピンチに陥ったことは無い。<br />
水銀燈はまた別の理由で、戦利品を多く持ち帰るために、<br />
要らない物は極力少なくしているそうだ。だが、剣一本だけはどうかと思うが。</p>
<p> </p>
<p>「もしもの時にならないために、僕達は頑張っているよ?」<br />
「それは…まぁ…そうですね…」<br />
「心配しなくても、貴女には指一本触れさせないのだわ」<br />
「な、な、な…恥ずかしいこと言うなですぅ!」</p>
<p> </p>
<p>そう言い捨てると、翠星石は顔を俯ける。<br />
それを見て、真紅達も笑った。<br />
水銀燈もつられて笑った。</p>
<p> </p>
<p><br />
薄暗い迷宮内で、動く影がある。五つ程の人型の影だ。<br />
僅かな灯りを元に、足を進めていくその姿は、<br />
しっかりとしていて、頼もしい。</p>
<p> </p>
<p>「足元、気をつけなさいよぉ」<br />
「また骸骨ですか…これは、いつ見ても慣れねぇです」<br />
「翠星石、僕にくっ付かないでよ。歩きにくいよ」<br />
「な…別に怖いからくっ付いてる訳じゃねぇですよ!」</p>
<p> </p>
<p>言い訳のつもりなのだろうか。本心を言っている様な…<br />
それにしても潜って二時間ほど経つが、虫一匹も見かけない。<br />
通常なら、既に一度か二度ぐらいは、遭遇する筈なのだが…</p>
<p> </p>
<p>「何かいつもと様子が違うわね。慎重に進むわよ」<br />
「了解」</p>
<p> </p>
<p>ジュンは辺りの気配を探りながら、短く答える。<br />
彼の役割は偵察が主の様だ。真紅は翠星石の後ろで、皆に指示を送る司令塔の様だ。<br />
蒼星石はジュンの少し後ろで、素早く敵にという位置に付いている。<br />
自分の役割はどうすれば良いか迷っていた所、真紅が指示を出してくれた。</p>
<p> </p>
<p>「水銀燈、貴女がどういう役割に向いているのかは分からないわ。<br />
だから、今日は貴女の判断で動いて頂戴」<br />
「分かったわぁ」<br />
「シッ――止まって」</p>
<p> </p>
<p>蒼星石が後ろに囁く。どうやら怪物と遭遇したみたいだ。<br />
姿を見る限り、ゾンビだろうか。動きも鈍い。<br />
しかし、怪物の方はこっちに気付いていない。だが、下の階に下りる階段の前を<br />
うろうろしている。</p>
<p> </p>
<p>「たった一体で彷徨くなんて…とんだおばかさんねぇ…」<br />
「階段の前をうろうろしてるわね。邪魔だわ。片付けましょう」</p>
<p> </p>
<p>真紅の言葉に一同がそれぞれの得物を構える。<br />
そして、蒼星石がゾンビに向かって、一直線に走った――!!</p>
<p> </p>
<p>「やぁあ!!」</p>
<p> </p>
<p>ゾンビを頭から一刀両断する。あっという間に動かなくなる。<br />
蒼星石が鋏を仕舞おうとした時、ジュンが叫んだ――!!</p>
<p> </p>
<p>「待て!まだ気配があるぞ!…ちっ、どれだけいるんだ。真紅!」<br />
「ええ!全員急いで、下に下りて!!」<br />
「水銀燈、私達も走るですよ!」<br />
「えぇ!」</p>
<p> </p>
<p>蒼星石が一気に階段を下りようとする。<br />
しかし、その足が止まり、代わりに鋏を構える。</p>
<p> </p>
<p>「――最悪だね。敵だよ。それも団体さんでね――!」</p>
<p> </p>
<p>言い終えると同時に、前列の蜥蜴男を二、三体切り裂く。<br />
それでも、後ろにはまだまだいる様だ。この分だと、突破は無理かもしれない。<br />
突破は諦め、早々に引き返すのが最良だろう。</p>
<p> </p>
<p>「真紅!階段は突破できないよ!一度、出直そう!」<br />
「僕も蒼星石に賛成だ」<br />
「しかし、囲まれているのだわ…翠星石!」</p>
<p> </p>
<p>真紅が声を掛けた頃には翠星石は魔力を集中させていた。<br />
流石、私のチームの有能な魔女は真紅が指示を出す前に動いていたのだ。</p>
<p> </p>
<p>「スィドリーム」</p>
<p> </p>
<p>そう呟いた言葉の意味は精霊の名前。<br />
魔術を行使する者なら、誰もが使役する精霊。<br />
魔術の発動の仕組みは、精霊に魔力を送り、精霊が魔術を発動するというものだ。</p>
<p> </p>
<p>「――くらいやがれですぅ!」</p>
<p> </p>
<p>精霊が眩しく瞬いた瞬間、<br />
敵の中心で大爆発が起きた。<br />
凄い爆音がして、耳が非常に痛い。</p>
<p> </p>
<p>「……初めて見たけど、すごいわねぇ…」<br />
「ふっふーん、これが翠星石の実力ですよ」<br />
「敵の包囲網が破れたのだわ!あそこを突破するわよ!」</p>
<p> </p>
<p>先程の大爆発で敵が混乱している。この隙を狙えば、<br />
逃げ切れるだろう。水銀燈は全力で走り、敵の包囲網を抜けた。<br />
――横の壁が崩れ、そこから現れた乱入者が水銀燈に斬りかかった――!!</p>
<p> </p>
<p>「――!!水銀燈、危ない!!」<br />
「――っ」</p>
<p> </p>
<p>水銀燈は横に思いっきり突き飛ばされた。<br />
咄嗟に蒼星石が庇ってくれたので、水銀燈は真っ二つにならずに済んだ。<br />
そうだ、蒼星石は……?見ると、蒼星石は斬られていた。傷は深そうだ。<br />
血も大量に出ている。私の所為で。私の所為で蒼星石は斬られたのだ。</p>
<p> </p>
<p>「蒼星石ぃ!しっかりするですぅ!今、応急手当をするです!」<br />
「すい…せ…せき…道具、役に…立ったね」<br />
「もう喋るな。直ぐに地上で医者に見てもらうぞ!」</p>
<p> </p>
<p>しかし、全身甲冑の乱入者は攻撃の手を緩めない。<br />
負傷した蒼星石に追い討ちをかけようとした。<br />
が、大剣で斬りかかった、相手がいる。</p>
<p> </p>
<p>「絶対、許さないわぁ…粉々のジャンクにしてあげる!」</p>
<p> </p>
<p>もの凄い怒気だ。水銀燈がこんな顔をするなんて。<br />
水銀燈は果敢に斬りかかり、甲冑の怪物と互角の勝負を繰り広げていた。<br />
だけど、危険だ。そう簡単にいく相手では無い。</p>
<p> </p>
<p>「はぁあ!」<br />
「ふんっ!」</p>
<p> </p>
<p>縦に振り下ろしたり、横に薙ぎ払ったり。<br />
その全ての攻撃を甲冑の怪物は受け流していた。<br />
それどころか、徐々に水銀燈が押され始めている。</p>
<p> </p>
<p>「水銀燈!深追いしては駄目よ!」</p>
<p> </p>
<p>聞こえていないのだろうか。彼女は大剣を振るうのを止めない。<br />
後ろから、先程の軍団が迫ってきていた。<br />
このままでは、ここにいる全員が、死んでしまう。<br />
真紅は自分の精霊を呼んだ――</p>
<p> </p>
<p>「ホーリエ」</p>
<p> </p>
<p>精霊の名前を呼ぶと同時に、花びらが辺りに散る。<br />
花びらは甲冑の怪物を囲む様に舞い、そして、鋭利な刃物と化し、<br />
一斉に飛び掛った――!!</p>
<p> </p>
<p>「逃げるわよ!ほら、早く!」</p>
<p> </p>
<p>無理矢理に水銀燈の手を掴み、地上まで一気に走る。<br />
私の後ろを翠星石達も付いてきている。<br />
何とか撒けた様だ。地上への階段が見えて、一気に肩の力が抜ける。</p>
<p> </p>
<p><br />
「はぁ…はぁ…疲れたわ…」<br />
「さあ、蒼星石を病院に連れて行くですよ!」<br />
「……私は行けないわぁ」</p>
<p> </p>
<p>怪訝な表情で真紅がこっちを見ている。<br />
出来ればずっと皆と一緒が良いけど、私はここにいてはいけない。</p>
<p> </p>
<p>「水銀燈…?」<br />
「さようなら」</p>
<p> </p>
<p>そう言い、水銀燈は走り去っていった。彼女は泣いていた。<br />
ゴメンナサイと言った気がした。</p>