「雨の日に」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「雨の日に」(2009/06/12 (金) 23:46:17) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
<dl><dd>
<div align="left"><br />
サァ、と雨が降る。 <br /><br />
私は校舎の入り口で、それを忌々しげに眺めていた。<br /><br />
何が忌々しいって、持ってきていた筈の私の傘が、何処かの誰かに盗られてしまった事。<br />
お陰で私は、濡れて帰るのも嫌なので、こうして雨が弱くなるのを待つしかなかった。<br /><br /><br />
だけれど、どれだけ待ってみても、どんなに雨雲を睨みつけても、雨は一向に止む気配は無い。<br /><br />
苛立ちと諦めが入り混じったため息を付いてから、私は雨の中を歩いて帰る事にした。<br /><br />
サァ、と雨が降る校庭を横切り、歩く。<br />
だけれど、校庭の半分も渡らない内に、後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。<br /><br />
「待ってよー、水銀燈」<br /><br />
めぐだった。<br />
傘をさしながら、こっちに向かって走ってくる。<br /><br />
私は彼女の姿を一瞥すると、そのまま雨の中を歩く。<br /><br />
「もう!待ってくれたっていいじゃない」<br />
私に追いついためぐはそう言いながら、私の頭上に傘を差し出してきた。<br /><br />
小さな傘に、私とめぐ。<br />
「二人とも肩は濡れちゃうけれど、無いよりマシでしょ?」<br />
めぐはそう言い、少し楽しそうに微笑んでみせた。<br /><br />
「それとも、余計なお世話だった?」<br />
私の顔を覗き込むようにして、めぐはさらに続けてくる。 <br /><br />
「ええ。いい迷惑ねぇ」 <br /><br />
私は見栄や虚勢ではなく、本心からそう答えた。<br /><br />
余計なお節介も、同情されるのも、手を差し伸べられるのも。<br />
全部、嫌い。<br /><br />
だけれど、そんな嫌いなものの中でも、めぐのは幾らかマシな方だと思う。<br /><br /><br />
「ふふふ……ごめんね」<br />
めぐは言葉ではそう言うものの、私から離れる様子は全く無い。<br /><br />
「……肩が濡れちゃうでしょ」<br />
私はそう言って、傘を持つめぐの手ごと、彼女の体を自分のほうに引き寄せた。<br /><br />
小さい傘でも、こうして寄り添って歩けば、濡れずにすむ。<br /><br /><br />
二人で並んで歩きながら、私は考える。<br /><br />
馴れ合いも、人と寄り添うのも、友情ごっこも。<br />
全部、大嫌い。<br /><br />
大嫌いだけど、そんな中でもめぐは、幾らかマシな方だと思う。<br /><br /><br />
「……悪くはないわね」<br /><br />
誰にも聞こえない声で、小さく呟いた。 <br /><br /><br /><br /><br /><br />
</div>
</dd>
</dl>