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遺書」(2009/05/24 (日) 22:40:38) の最新版変更点

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<dl><dd> <div align="left"><br /> お父様が、亡くなった。<br /> それは私にとって、悲しいという言葉では言い表せない程に悲しく、苦しみさえ伴う出来事だった。<br /><br /> お母様の顔を、私は知らない。<br /> 私が生まれると同時に亡くなったと、お父様から聞いている。<br /><br /> それでもお父様は……愛していた配偶者の死にも取り乱さず、残された私を十二分に愛してくれた。<br /><br /> 色素が抜けた白い髪も、肌も、金色のような瞳も。<br /> お父様は気味悪がる事も無く、むしろ美しいと褒めてさえくれた。<br /><br /> 私は、お父様に優しく見守られながら、成長した。<br /> 今になって思えば、母親を知らない私はお父様にとっての『母』になりたかったのかもしれない。<br /> お父様が私を大いなる愛で包み込んでくれたのと同じように、私もお父様を愛したかったのかもしれない。<br /><br /> それも、今となっては答えの存在しない疑問。<br /><br /> 飛行機事故だった。<br /> 私を愛し、そして私が愛したお父様は、遺体すら残さずに消えてしまった。<br /><br /><br /><br /><br /><br />        ―――雪華綺晶 短編  ―――<br />                   遺書 <br /><br /><br /><br /><br />  <br /> 最初、私はお父様の死を信じられなかった。<br /> 今にも玄関を開けて、優しい笑顔をして帰ってくるのではないかと思っていた。<br /><br /> 季節が変わる頃には、私はお父様が亡くなった事を嫌でも認めざるを得なくなってきた。<br /> その頃から私は、毎日涙を流して過ごした。<br /> このまま涙になって消えてしまいたいと思った。<br /> 自分が生きてきた証が失われ、生きる理由も無くしたと。<br /><br /> それでも私は消える事もできず、ただ無為な日々を涙を流しながら過ごした。<br /><br /> ある日、私は手首を切った。<br /> 死ぬつもりだった。<br /><br /> 流れ出す赤と、鼓動に合わせて痛む傷口。<br /> それを見て、私は唐突に理解した。<br /><br /> この血の一滴も、肉の一欠片も、お父様が私に授けてくれたもの。<br /><br /> そう思うと、自分自身の体がとても愛おしいものに思えてきた。<br /> それを明確に感じられる痛みというものが、とても幸せなものに感じられた。<br /><br /> ひょっとしたら、お医者様は、それは矛盾した異常な事だと言うのかもしれない。<br /> でも私は、間違いなく、手首の痛みを通して、お父様と共に会った日々のような安らぎを感じていた。<br /><br /> 私は痛みを通して、お父様が愛してくれた私自身を感じる事が出来た。<br /><br />  <br /> それから私は、毎日のように自分の手首を切った。<br /> 何箇所も、何箇所も、何箇所も、何箇所も、何箇所も、何箇所も、何箇所も。<br /><br /> 痛みを感じる度に、私は言いようの無い幸福感と安心感を味わった。<br /><br /> でも、その痛みにも次第に慣れてしまった。<br /> 鮮やかな痛みも、夢見るような幸福感も、傷だらけの手首ではもう感じる事が出来なくなっていた。<br /><br /> 私は再び、不安に襲われ、孤独に怯え、自分自身の希薄さに恐怖した。<br /><br /> でも、そんな悲しみも長くは無かった。 <br /><br /><br /> 先月、私は自分の右目を針で突いた。<br /> 光の半分を失った代償に、私は再び安らぎを手に入れた。<br /><br /> 先週、私は光を失った右目を抉り取った。<br /> かつてない痛みに、私は言いようの無い幸福感を味わった。<br /><br /> そして今、私はそれとは比較にならない痛みの予感に、期待を膨らませている。 <br /><br /><br /> どうか、これを読んだ何処かの誰かさん。<br /> 私を可哀想などとは思わないで下さいませ。<br /><br /> 私はただ、お父様に愛されていた日々と、私自身が確かに存在していた事を感じたかっただけですので。 <br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />        ―――  終――― <br /><br /><br />  </div> </dd> </dl>

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