「もしローゼンメイデンのポジションが逆だったら R 第6話ー4」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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<p>「ジュン…」<br />
ジュンの後ろから真紅が不安そうに声を掛けた。その真紅を、ジュンは横目で少しだけ見る。<br />
「大丈夫だ、真紅は絶対守る。…ただ、力を多く吸い取るかも知れないけど…いいか?」<br />
「…ええ、ジュンが勝つなら」<br />
真紅は力強く頷き、ジュンもそれを確認して笑顔を浮かべた。<br />
だがその瞬間に幾つもの刀で身を固めた巴がジュンへと迫る。<br />
「戦いの最中にお話なんて、余裕たっぷりね!」<br />
「チッ…! 真紅、あの御神木の裏に隠れてろ!」<br />
「分かったわ!」<br />
ジュンは跳んで巴の周りを高速回転する刀達から避け、真紅も後ろの御神木へと駆け出した。<br />
だが巴は空中へ跳んだジュンではなく、駆ける真紅へと召還した刀たちを向ける。<br />
「まずは面倒なミーディアムから方を付けるわ」<br />
その瞬間刀達は真紅へと猛スピードで飛んで行き真紅に迫る。<br />
それにジュンも気付き、その方を見て大声を上げた。<br />
「真紅、伏せろ!!」<br />
「えっ、きゃあ!!」<br />
ジュンに言われて咄嗟にその場に伏せると、頭上を幾つもの刀が飛び去っていき御神木へと深々と突き刺さった。<br />
もし少しでも反応が遅れていたら、間違いなく全て直撃して即死していただろう。<br />
真紅はゾッとしてその場から駆け出し、何とか御神木の後ろへと逃げていった。<br />
その後を追うように巴も駆け出した。<br />
「逃がさないわよ!」<br />
「相手が違うんじゃないのか、巴!」<br />
真紅の後を追う巴の前の地面にジュンは蜘蛛の糸を放ち、それを伝って巴の前に着地する。<br />
目の前にジュンが現れた事で巴は足止めされ、お互いに睨み合う。</p>
<p> </p>
<p> 言葉は無いが、それはまさに視線での殴り合い。目を逸らせば間違いなくやられるであろう。<br />
そこからこう着状態を崩したのは二人ともほぼ同時だった。<br />
「ハッ!」<br />
巴が刀での突進攻撃を放ってきてそれを跳んでかわし、上空からかわしざまに二度攻撃を浴びせる。<br />
それを巴はもう一つの刀で受け流し、上空に居るジュンへと刀を複数召還し打ち放つ。<br />
上空で咄嗟にかわすのは不可能、そう判断し刀を構え飛んでくる刀達を凝視する。<br />
そしてそれが来る瞬間にそれを見切り、刀でその刀達を迎え撃ち砕いていった。<br />
全て破壊するとジュンは着地し、それと同時に今度はジュンから巴へと駆けて行く。<br />
巴は二本の刀を構えたままいつでも動けるようにジュンが来るのを待つ。<br />
そして間合いが無くなったところで二人の激しい攻防が始まった。<br />
二人が持つの二本の刀が、まるでそれぞれ生きているかのように動いて相手に喰らいかからんとする。<br />
防ぎ、攻める刀と刀が激しく火花を散らす。<br />
その中、巴は今までに無い一種の違和感を感じていた。<br />
(何故…さっきよりも太刀筋が早くなってる!?)<br />
いや、早くなっているだけじゃない。一撃一撃の重みが前よりも強くなっている。<br />
今ジュンの持っているローザミスティカは一つのみ。対して巴は五つ…戦力差で言えば負けるはずが無い。<br />
だが、実際にはジュンの力は強くなっている。その事が巴には理解出来なかった。<br />
そしてその迷いと戸惑いは刀に出る。<br />
一瞬の隙を突かれ、巴の片方の刀が弾き飛ばされた。<br />
それは巴の手を離れた事で力を失い、塵の如く粉々になって消えていった。<br />
「ハアッ!」<br />
「うああぁっ!」<br />
その瞬間にジュンの突き攻撃が巴に直撃し、巴の体は大きく後ろへ吹き飛ばされた。</p>
<p> </p>
<p> 巴は地面に叩き付けられたがすぐに飛び起き、構えを取ってジュンを見る。<br />
「どういう事…何故そんな力が出せるの!?」<br />
「分かんないのか? それは真紅が来てくれたおかげで、真紅の力と僕の力が合わさって実力以上の力が出せてるんだ」<br />
理解出来ない、といった様子の巴にジュンは刀を構え直して説明する。<br />
その理屈が巴には納得出来ず、一層険しい表情になってジュンを睨み付けた。<br />
「信頼し合えるから出せる力…臭いけど、絆の力ってやつか?」<br />
「絆…」<br />
「…まあ、お前にそんな事言っても分かんないだろうな。仲間のいない、孤独なお前にはな!」<br />
ジュンの台詞を聞いて巴は感情を抑えきれず、怒りで片手に握っている刀がピンク色に輝き巨大化していく。<br />
それは巴よりも一回り大きな巨大な刀となり、それを両手で構える。<br />
「絆なんて…馴れ合いなんて下らない!! そんな物は負け犬がすることよ!!」<br />
刀を構えて跳びかかり、間合いに入った所でそれを思いっきり薙いだ。<br />
ジュンは後ろに跳び下がってそれをかわしたが、巴の負の感情を糧にした刀の攻撃の余波は凄まじい。<br />
空気が震え、地面を衝撃波が深く抉っていく。まともに喰らえば確実に終わりだ。<br />
だがそれを見たジュンには焦りの色は見えない。<br />
「凄いパワーだな、でも…」<br />
「消えなさい、屑が!!」<br />
かわしたジュンに再び巴が迫ってくる。今度はそれをかわそうとせず、むしろジュンも巴へと向かっていく。<br />
そして巴の攻撃範囲内に入り巴が刀を振り下ろして来た。<br />
その太刀筋を見切り攻撃をかわすと、そのまま巴の腹部に二刀での斬撃を放つ。<br />
かわされ隙が出来た上に至近距離からの攻撃に、巴は避けることも出来ずそれを喰らい強烈なダメージが巴を襲う。<br />
「がっ…!!」<br />
「大振り過ぎるんだよ!」<br />
巴の体は完全に沈み込み、少しでも気を抜けばそのまま倒れて動けなくなりそうだ。<br />
普通のドールなら確実に倒れているはずの痛みだが、巴の意地と怒りがそれを抑え、後ろに飛んで距離を取った。</p>
<p> </p>
<p>「…死に損ないのくせに…はあああっ!!」<br />
怒りに満ちた台詞共に放った掛け声と同時にジュンの周りに無数のピンク色の刀が現れた。<br />
「クッ…!」<br />
これまでとは比べ物にならない数の刀が向けられ、さすがにジュンもこれには戸惑った。<br />
そしてそれぞれが狙いを定め、ジュンへと猛スピードで発射される。<br />
一つ一つの狙いが正確で、ジュンはそれらをギリギリで避けるのが精一杯だった。<br />
何とか直撃は免れているものの一瞬でも気を抜けば確実にやられる。<br />
そうして避けていたが、一つの刀がジュンの片手の刀に直撃して弾いてしまった。<br />
「やばっ…!」<br />
それで一瞬の隙が出来、巴がそこを狙って刀を振りかぶって距離を責めて来る。<br />
避けようにも巴の召還した刀がまだ少し残っていて、狙いをつけたままだ。<br />
「砕けなさい!!」<br />
「チィッ!」<br />
もう片方の刀で巴の攻撃を防いだが咄嗟の事で力が入り切らず、刀が弾き飛ばされてしまい無手になってしまった。<br />
「しまった…!」<br />
「さっきは偉そうな事を言ってくれたわね、けどこれで終わりよ!」<br />
形勢逆転とばかりに、一気に巴が攻撃を仕掛けて来た。<br />
さすがに無手では不利、おまけに残っている刀からも狙われていて攻撃なんてとても出来ない。<br />
巴の刀のでの攻撃をと同時に刀が飛んで来る、凶悪なコンビネーション。<br />
それを何とか避け続け、やがて宙に浮かんでいる刀は最後の一本になった。<br />
それが発射され、同時に巴の刀が袈裟状に振り下ろされた。<br />
「壊れよ!!」<br />
巴の袈裟切りをギリギリで横に跳んでかわしたが、今度は宙の刀がジュンへと迫る。<br />
今度のこれは一分の狂いも無く正確にジュンへと迫り、避けるのは不可能…直撃間違い無しだ。<br />
その軌道を睨み、一か八かの策がジュンの脳に浮かんだ。<br />
(これしか手は無いな…!)</p>
<p> </p>
<p> ジュンは刀の軌道を見極め、そこに来るであろう位置に蜘蛛の糸を放った。<br />
糸は計算された位置へと伸びていき、そこへ来た刀を絡め取った。作戦成功だ。<br />
絡め取った刀を糸と共に引き戻すと、それを巴へと投げ返した。<br />
「なっ!?」<br />
まさか返されるとは思っていなかった巴はそれに動揺し戸惑う。<br />
跳んで行った刀は避けきれなかった巴の手を弾き、握っていた刀を弾き飛ばした。<br />
「刀が…!」<br />
弾き飛ばされた刀は後方へと放物線を描いて飛んで行き地面へと突き刺さった。<br />
お互いに無手になり、ジュンと巴は睨み合う。<br />
「どうする、降参か?」<br />
「…言ったでしょ? 木刀を振り回すだけが能じゃないって…」<br />
「…そうだったな」<br />
不敵な笑みを浮かべ巴はジュンへと迫り、ジュンもそれに構える。<br />
やがて巴のアッパーがジュンへと繰り出され、それを避けると今度はジュンが巴の腹へと突きを放つ。<br />
隙のあった巴はそれを喰らい、一瞬苦痛に顔がむ歪む。それに追撃と顔面へとフックを放った。<br />
巴は体勢を立て直しそれをかわすと、反撃にジュンの顔へストレートを叩き込んだ。<br />
思いっきり顔面を殴られた事で目の前が霞むが、それでも目を凝らして巴の顔を捉えると右頬へと殴りかかる。<br />
攻撃に集中していた事でそれに反応が遅れて右頬に鈍い痛みが走る。<br />
だが手を休める事無くストレートをジュンの顔へと再び放った。</p>
<p><br />
勝負はもはや防御を無視した完全な殴り合いへと発展し、戦法も何もあった物ではない。<br />
殴っては殴られ、殴っては殴られの繰り返し…らちが明きそうに無かった。<br />
やがてそれに終止符を打ったのは、お互いの全体重が乗った強烈なクロスカウンター。<br />
二人ともそれを喰らいその場に膝を付き、お互いに不敵な笑みを浮かべて睨み合う。<br />
「このままじゃキリが無いな…」<br />
「ええ…私達の勝負を付けるのはやっぱり…」</p>
<p> </p>
<p> 二人は自分の武器が飛んで行った方向を見ると、力を振り絞りそこへと駆け出した。<br />
そこへと辿り着き巴は力を失って輝きを失った木刀、ジュンは片方の刀を拾うとお互いに駆け出し距離を縮めていく。<br />
そのまま距離はゼロとなり、同時に武器を振り下ろすと完全な鍔迫り合いとなった。<br />
「このまま切り捨ててあげるわ!」<br />
巴の木刀の輝きが増して巨大な刀となっていき、その圧力が強烈な物となってジュンを倒そうとする。<br />
それを押し返さんと、ジュンは持てる力を全て武器へと注ぎ込む。<br />
(クソッ、このままじゃ負ける…仕方ない…!)<br />
今は何とか押し返しているが、これ以上力が加われば確実にやられる。<br />
ジュンは意を決すると、大きく目を見開き更に力を加えていった。それと同時にジュンの刀も赤く輝き、巨大化していく。<br />
これまでギリギリで抑えていた真紅からの力の抽出を上げての反撃だ。<br />
これ以上真紅に負担を掛けたくなかったが、仕方が無い。<br />
「…! こんな力が!」<br />
ジュンの力が上がり刀が輝き出した事に巴は驚愕した。<br />
だが更に力を上げ、ジュンを切り伏せようとする。</p>
<p> それに応える様にジュンも力を上げていき、輝きも強くなる。<br />
「うおおおぉ!!」<br />
「はあああぁ!!」<br />
二人とも持てる力を全て武器に注ぎ込み、一歩も譲らない。<br />
だがやがて限界が来たのか、巴の刀から変な音が聞こえて来た。それと同時に刀に亀裂が走る。<br />
それに気付いた巴の表情が、驚愕と恐怖に混ざったものに変わっていった。<br />
「そんな、私の刀が!!」<br />
「うああああっ!!」</p>
<p> </p>
<p> その瞬間巴の刀が砕け散ってジュンの刀が振り下ろされ、その一撃を完全に喰らい巴は思いっきり吹き飛ばされた。<br />
「きゃああああっ!!」<br />
巴は激しく地面を転がりそのまま鳥居に背をぶつけるとその場に倒れ、動かなくなった。<br />
力を出し切ったジュンはその場に膝を付いて巴を見ていたが、しばらくして様々な色に輝く結晶が巴から現れた。<br />
間違い無くローザミスティカだ。それらはジュンの下へと飛んで来て、差し出した手の上に次々と乗っていく。<br />
それでもう勝負が付いたことを知り、ジュンから完全に力が抜けた。<br />
「終わった…」<br />
果てしない疲労が体を襲い、その場に倒れ込みそうになる。<br />
だがジュンは立ち上がり、御神木の裏にいるであろう真紅へと声を掛ける。<br />
「真紅、終わったぞ。もう出てきても大丈夫だ!」<br />
声を掛けて数秒後、真紅が恐る恐るといった様子で御神木の裏から現れた。<br />
大分疲れているように見えるが、ジュンの姿を確認すると安心したように笑みを浮かべ駆け寄って来た。<br />
「ジュン、大丈夫なの?」<br />
「なんとかな。そっちは大丈夫か? かなり力吸っちゃったけど…」<br />
「ええ、ジュンの為なら平気よ」<br />
笑顔でそう答える真紅に、ジュンも笑顔になって頷いた。<br />
その時、後ろの方から砂利を踏みしめる音がしてジュンは振り返った。<br />
見てみると、倒したと思われていた巴が木刀を支えにして立ち上がり、激しい憎悪の篭った目でこちらを見ている。<br />
「まだ生きてたの!?」<br />
ジュンが手にしたローザミスティカを見てみると四つしかない。確かに後一つ、巴の分だけが無かった。<br />
「…それを渡しなさい…!!」<br />
「…嫌だね。自分のが奪われなかっただけでも運が良かったと思えよ」<br />
「素直に渡さないと言うのなら…!」<br />
もう体力なんてほとんど残っていないであろう巴だが、木刀を構えジュンを睨む。<br />
その目から闘志はまったく消えていない。</p>
<p> </p>
<p>「力尽くで奪い返すまで…!」<br />
「巴、あなたいい加減に…!」<br />
「人間は黙ってて! 私は…私はアリスになる定め…それを邪魔する者は許さない…!!」<br />
畏怖すら感じさせる執念を放つ巴に真紅は押し黙り、ジュンは応えるように刀を構える。<br />
「…なら全力で来い。これが最後だ、僕も全力で受け止めてやる!」<br />
刀を両手で構え、二人とも睨み合う。火花が散るかのような、信念と信念のぶつかり合い。<br />
やがて巴が先に駆け出し、ジュンもその場を駆け出した。<br />
一直線に突っ走っていき、その距離が縮んでいく。<br /><br />
そして間合いに入った瞬間、二人ともすれ違い様にほぼ同時と思えるほどのタイミングで刀を凪いだ。<br />
傍目にはどっちが斬ったかまったく分からず、そのまま二人とも固まったままだ。<br />
だが次の瞬間、巴の手から木刀が滑り落ち、ジュンがその方を向いた。<br />
「…何故…。…私は、誰よりもアリスを目指したドール…。…それなのに…」<br />
巴の膝が崩れ落ち、地面に付く。その表情は悲痛としか言いようの無いものだ。<br />
「…それなのに、アリスゲームを放棄したジュンに…どうして…」<br />
全てを言い切る前に巴はそこに倒れこみ、ジュンは何とも言えない表情で刀を仕舞い込んだ。<br />
全てが終わった。そう確信して。<br />
「…ジュン…」<br />
「終わったよ。何もかもな…」</p>
<p> </p>
<p> 巴を倒し、重い沈黙が辺りを包む。だがその沈黙は、第三者の甲高い声によって破られた。<br />
『巴ー! ここにいるのー!?』<br />
声がした方を見ると、真紅がここへ来た場所にあのガラスが浮かんでいて、中から幼い女の子が飛び降りてきた。<br />
その女の子は辺りを見渡して倒れている巴を見つけると、慌てて駆け寄っていった。<br />
「巴! 巴ー!!」<br />
「ねえジュン、あの子って…」<br />
「巴のミーディアムと見て間違い無いだろうな…」<br />
「あんな幼い子が…」<br />
ジュンと真紅が会話している間に女の子は巴を抱き起こし、必死に目を覚ませようと体を揺さぶっている。<br />
「巴しっかりしてなのー!! ヒナを置いてっちゃダメなのー!」<br />
「…雛苺…。どうしてここに…」<br />
必死な雛苺の呼び掛けで巴は意識を取り戻し、それを見て雛苺は安堵の表情を浮かべる。<br />
「巴! 良かったの…! …でも、誰がこんな…!」<br />
安堵の表情から一転、怒りの表情に変わった雛苺は辺りを見渡すとジュン達に気が付いた。<br />
雛苺は巴を鳥居にもたれ掛けさせて座らせると、ジュンの方を向く。<br />
「お人形さん…あなたが巴をいじめたのね!」<br />
「え、いや…」<br />
子供の相手なんてした事の無いジュンはどうしたら良いか分からず戸惑ってしまう。<br />
そのジュンに雛苺は足元の石を拾って投げ付けてきた。<br />
子供相手に反撃する訳にも行かず、ジュンは刀でそれを弾くしかない。<br />
「いてっ、こら、止めろって痛!」<br />
「許さない、許さないのー!」<br />
「止めなさい雛苺!」<br />
石を投げる雛苺を巴が叱り付けるとその手が止まった。<br />
巴はそのまま、今度は優しく諭すように口を開く。その表情は今までのが嘘のような、穏やかな表情だ。</p>
<p>「私は大丈夫。ちょっとからかってあげただけ…私が本気出せば、すぐに終わりよ」<br />
「本当…?」<br />
「ええ。だから、先に帰ってなさい。すぐに帰るから…」<br />
「でも…」<br />
「いいから。私が嘘吐いた事…ある?」<br />
巴に諭されて、雛苺は迷いながらも頷いた。それを見て、巴も安心して笑みを浮かべる。<br />
「…早く帰ってきてねなの」<br />
「分かってるわ。行きなさい…」<br />
それだけかわすと雛苺は鏡の中へと吸い込まれていき、それを見届けると巴は俯いた。<br />
ジュンはその巴に近付いて行き、彼女を見下ろす。<br />
「…さあ…私のローザミスティカを奪いなさい…」<br />
「巴…」<br />
「敗者はローザミスティカを差し出すのがルール…。戦いに生き、戦いに散るのなら…悔いは無いわ…」<br />
前髪が垂れ表情を窺う事は出来ないが、言葉からは全てを諦めたような、そんな雰囲気が漂っている。<br />
そんな巴にジュンは刀を構え、それを振り上げる。<br />
「ジュン!」<br />
真紅はあまりにも非情なその行為に思わずジュンの名前を呼んだが、ジュンはそれに耳を貸そうとしない。<br />
「…良いのか」<br />
「一番アリスになるのを嫌ってたあなたがアリスになるなんて…皮肉な物ね」<br />
「…ああ、そうだな」<br />
首に狙いを定め、ジュンの手に力が入る。<br />
そして風を切る音と同時に、ジュンの刀が振り下ろされた。</p>