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この町大好き!増刊号2」(2008/07/14 (月) 15:45:28) の最新版変更点

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<dl><dd id="res0_79body"> <div align="left"><br /> 『校庭の隅にある桜の木の下で結ばれたカップルは、幸せになれる 』<br /><br /> どこにでもありそうな、それでいて無さそうな。<br /> そんな、とってもロマンティックな伝説。<br /><br /> この学園に居る、恋する乙女でそれを知らない者は誰も居ない。<br /><br /><br /> これについて、某・新聞部の部長はこうコメントした。<br /> 「いや~…もし、そうだったら素敵ですぅ、と思って私が創作した伝説でしたけど…<br />  ここまで噂が広がると、逆にありがたみが湧いてくるから不思議ですねぇ 」<br /><br /> 何とも、知りたくなかった実情だ。<br /><br /><br /><br /> さて、今回の始まりの舞台は…そんな校庭の隅の桜の木の下。<br /><br /> 一人の女生徒が、緊張した面持ちで一人の人物を待つ所から始まる……<br /><br /><br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号2 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ <br /><br /><br /><br /><br /> 女生徒は、小さく震える手の中に持った手紙を、改めて見つめた。<br /> 未だに来ない待ち人へ、ほのかな恋心を募らせながら、待つ。<br /><br /> その時間は永遠とも思える長さで…<br /> 緊張に心臓の音がドキドキと、時計より早く脈打つ音に耳を傾ける。<br /><br /> 待つこと、ほんの数分。<br /><br /> 女生徒の待ち人は…愛の告白の相手は…<br /> 初夏の日差しを忘れる程に、涼しげな表情で。<br /> 風が無くても、サラサラと揺れる髪で。<br /> 少しの憂いを秘めたような、でも、どこか優しい眼差しで…桜の木の下にやってきた。<br /><br /> 「…僕に…話があるんだって? 」<br /><br /><br /> サッ―――と、一陣の風が吹き、女生徒のスカートを揺らす。<br /><br /> そして彼女は……やって来た人物、蒼星石へと、愛の言葉をしたためた手紙を渡した。<br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 「とゆー訳ですよ!!!これは一大事ですぅ!!! 」<br /> 『部長』と書かれた三角コーンの置かれた机を、翠星石はドン!と叩いた。<br /> それはもう、叩き割らんばかりの勢いで叩いた。<br />   <br /> 「…覗き見なんて、悪趣味ね 」<br /> 紅茶片手に、真紅が呟く。<br /><br /> 「なーに悠長な事ほざいてやがるですか!!<br />  蒼星石がアブノーマルな百合百合ワールドに行っちまってからでは、手遅れなんですよ!! 」<br /> 顔を真っ赤にして、翠星石がジタバタと暴れまわる。<br /> 血圧も急上昇だ。<br /><br /> だが…今、それに対して何かを言うべき人間…水銀燈の姿は無い。<br /><br /> 急な召集だった為、真紅だけしか来てくれなかった、という訳だった。<br /><br /><br /> いつもより翠星石の暴走を止める人間が少ない。<br /> さらに困ったことに…ここに居る真紅も、どちらかと言うと………<br /> そもそも、新聞部の面々で真人間と言えるのは蒼星石くらいで……と、それはまた、別のお話。<br /><br /><br /> ともかく、ギリギリまともな真紅は、紅茶片手に、至って無難な答えを導き出した。<br /> 「…これ以上、新聞部が変人の巣窟と思われるのも嫌だし…水銀燈も呼んで、対策を練りましょう 」<br /><br /> 翠星石は、ガックリと首を横に振る。<br /> 「それが…水銀燈のやつ、電話が繋がらないですぅ… 」<br /><br /><br /> 「そう…でも、学校には居るはずよね?…だったら探しに行きましょう 」<br /> 真紅は立ち上がり、「ふふ…人探しと言えば、コレよね」と呟きながら、探偵のようなベレー帽を取り出した。<br /><br />  <br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 『僕は女の子には興味が無いんだ…だから……ごめん… 』<br /> そう断ったものの…蒼星石は悲しそうな顔をしていた。<br /><br /> 振る方も、振られる方も辛い。<br /> 昔からよく使われる言葉が、今の蒼星石の心情にはピッタリだった。<br /><br /><br /> ともあれ…こんな表情で翠星石に会えば、余計な心配をかけてしまう。<br /> 気分を変える為にも顔でも洗おうかな、と考え、テクテク歩く内に…<br /><br /> 廊下の真ん中でドンヨリとしている水銀燈に出くわした。<br /><br /> 「あれ?水銀燈じゃないか…どうしたんだい? 」<br /> 周囲の景色を歪める程に暗いオーラを放った水銀燈に、思わず蒼星石は声をかける。<br /><br /> すると水銀燈は…目の端に涙を浮かべながら、ボロボロの携帯電話を見せてきた。<br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 探偵のような格好をした真紅と翠星石がテクテクと廊下を歩く。<br /> 水銀燈を探して、廊下を曲がろうとして…蒼星石と話す水銀燈の姿を発見した。<br /><br /> 今回のそもそもの発端は、蒼星石の事。<br /> それ故に…二人は咄嗟に、廊下の角に身を隠してしまった。<br />   <br />  <br /> 「……って、何も隠れる事はないですよ 」<br /> 「何を言ってるの…今の私たちは、生徒じゃなくって探偵なのよ?<br />  そんな素人じみた考えは、この際捨てるべきね…… 」 <br /><br /> 何だか目的から外れ始め、ノリノリな真紅。<br /> 翠星石も、とりあえずその言葉に従い、廊下の角から顔を出して二人を観察する事にした。<br /><br /> ◆ ◇ ◆ <br /><br /> 水銀燈は…<br /> どうも、翠星石からかかってきた電話をとろうとして、誤って携帯を落っことしてしまったらしかった。<br /> そして、どこか壊れたのか、電源が入らない。<br /><br /> 涙目で水銀燈は事情を話し、ウンともスンとも言わない携帯電話を悲しそうに手に取った。<br /><br /> 蒼星石は、水銀燈の携帯電話を暫く見つめ…<br /> 「貸してみてよ。ひょっとしたら、電池を抜いたら元に戻るかも… 」<br /> そう言い、水銀燈の手から壊れた携帯を受け取る。<br /><br /> ◆ ◇ ◆ <br /><br /> コソコソと廊下の角から二人の様子を窺っていた翠星石。<br /> そんな彼女が突然、バッ!と顔を引っ込めた。<br /><br /> 「…どうしたの?翠星石… 」<br /> 真紅がそう尋ねるも…当の翠星石は顔を青くしたまま。<br />  <br /> 「そ…そそ…蒼星石と水銀燈が……… 」<br /> ブルブル震えながら翠星石は、呻くように声を絞り出す。<br /> 「蒼星石と水銀燈が、どうかしたの? 」<br /> 真紅も尋常じゃない気配を察して、声を殺し問い詰める<br /><br /> 「お…お互い見つめあって……手を取り合ってたですぅ…… 」<br /><br /> 「そんな!まさか!? 」<br /> 思わず、声が大きくなりかける真紅。<br /><br /> 真昼間の学園で、そんな百合百合しい世界を展開するだなんて!?<br /> 驚きを通り越して、パニックの前兆が浮かび始める。<br /><br /> 信じられないと言った表情の真紅は、翠星石を押しのけ、今度は自分で二人の姿を観察する事にした。<br /><br /> ◆ ◇ ◆ <br /><br /> 水銀燈の携帯電話の電池をカチャカチャ外したり戻したり。<br /> そんな事を繰り返してから、蒼星石は携帯電話の電源ボタンをギュっと押してみた。<br /><br /> ………待つこと…ほんの数秒。<br /><br /> やがて…『チャラ~ン』という音がして、水銀燈の携帯電話に光が灯った!!<br /><br /> 「!! きゃー!ありがとう蒼星石ぃ!買いなおさなきゃ、って心配したのよぉ!! 」<br /> よっぽど嬉しかったのだろう。<br /> 水銀燈にしては珍しく、喜色満面の笑みを浮かべ、感極まったのか、そのまま蒼星石に抱きついた。<br /><br /> ◆ ◇ ◆ <br />  <br /> 「!!!!! 」<br /> こっそりと二人の様子を窺っていた真紅は、声無き悲鳴と共に顔を引っ込めた。<br /><br /> 「…そんな……ああ……なんて…なんて事…… 」<br /> うなされたように、呟く。<br /><br /> 「どどどどーしたですか!?真紅!何を見たですか!!? 」<br /> 翠星石が往復ビンタを虚ろな目の真紅に叩き込む!<br /><br /> 「二人が………抱き合っていたのだわ…… 」<br /> 静かに涙を流しながら、真紅はやがてそう口を開いた。<br /><br /> 「んなぁ!?!?!!?? 」<br /> 翠星石がピシッ!と固まる。<br /><br /> 「水銀燈は…心配した、と言ってたわ……<br />  恐らく…蒼星石が告白された事を心配してたと思われるわ…… 」<br /> 石化した翠星石に同情の目を向けながら、真紅は勝手な予想を話し始める。<br /><br /> 「そこから考えうるに……あの二人は…私たちの知らない間に…もう…… 」<br /> ポロポロと涙を零しながら、真紅は勝手な妄想を語りだす。<br /><br /> そして…固まったままの翠星石の代わりに…再び、蒼星石と水銀燈の観察をと、廊下に顔だけをヒョッコリ出した。<br /><br /> ◆ ◇ ◆ <br /><br /> 「もう…落ち着きなよ… 」<br /> 蒼星石はそう言いながら、抱きついてきた水銀燈を引き離す。<br /> 「多分、大丈夫だと思うけど…一応、ちゃんと繋がるか試してみたら? 」<br />  <br /><br /> 水銀燈は、見事な復活を果たした携帯電話を受け取り、とりあえず蒼星石の番号に電話をかけてみる事に。<br /><br /> ボタンを操作し、電話を自分の耳に当てる。<br /> 事の顛末が気になる蒼星石も、水銀燈の電話に耳を近づける。<br /><br /><br /> つまり……二人の顔が大接近!という訳だった。<br /><br /> ◆ ◇ ◆ <br /><br /> 廊下の角から二人の様子を窺っていた真紅のベレー帽が、パサッ…と地面に落ちた。<br /><br /> 真紅はそれを拾い上げると…目元を隠すように、目深に被りなおした。<br /><br /> 「因果なものね……こんな所を見てしまう位なら……探偵になんてならなければよかったわ… 」<br /> 流れる涙を止めようともせず、真紅は小さな声で呟く。<br /><br /> 依頼人への報告が終わったら…この仕事から引退すべきね……<br /> 知りすぎた者の哀しみと共に、そう決意した。<br /><br /> そして…プルプル震えたまま固まっている翠星石の肩に手を置き、真紅は『最後の仕事』にとりかかる。<br /><br /> 「翠星石…残念な結果だわ……本当に、心から残念だと思うわ…… 」<br /><br /> プロとして、ちゃんと伝えなくては…<br /> そう思うが、真紅は翠星石の目を見て話す事が出来なかった。<br /><br /> 「落ち着いて聞いて頂戴。蒼星石は………水銀燈に…キスをしていたわ…… 」<br /> そう伝えると、真紅はそのまま歩き去る。<br />  <br /><br /> 後ろで誰かが倒れた音がしたが…振り向く事はしなかった。<br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 「―――せいせき…翠星石!! 」<br /> 蒼星石の呼びかける声で、翠星石は目を覚ました。どうやら知らない内に気を失っていたみたいだ。<br /><br /> 翠星石はゆっくりと立ち上がると…蒼星石と並んで、心配そうな視線を向けてくる水銀燈を見つめた。<br /> そして…静かに目を瞑り…やがて、覚悟を固めた。<br /><br /> 「…不束者の妹ですが……姉として、お願いするですよ……蒼星石を…幸せにしてやってくれですぅ… 」<br /> 泣き笑いのような表情で、そう搾り出す。<br /> 「え? 」<br /> 水銀燈が、顔を引き攣らせた。<br /><br /> 「二人の関係を…全部知ってしまったですぅ…… 」<br /> うつむきながら、翠星石は勘違いを続ける。<br /> 「え? 」<br /> 蒼星石も、顔を引き攣らせた。<br /><br /> 「ただ…こんな真昼間から……その……ちゅ…ちゅーをするのは……どうかと…思うですぅ……<br />  もうちょっと…人目を気にするべきですよ……? 」<br /> 顔を真っ赤にしながら、翠星石がモジモジする。<br /><br /> 「ええーーーーー!??!??! 」<br /> 水銀燈と蒼星石が、仲良く同時に叫びを上げた。<br /><br />  <br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 真紅は一人で部室に戻ると、ベレー帽をそっと机の上に置いた。<br /><br /> 「くんくん……私は…貴方のような探偵にはなれなかったわ…… 」<br /> 呟く。<br /><br /> そして窓辺に移動すると、すっかり冷たくなった紅茶のカップを手に取った。<br /><br /> 温かい紅茶を用意する事もできるが…今は、これでいい。<br /> くんくん探偵に届かない自分には、事件後の一杯を飲む資格など無いようにも思えた。<br /><br /> 初夏の、まだ沈まない太陽に視線を向ける。<br /> これが夕日なら、きっと泣いていただろう。<br /><br /> 悲しみを飲み干すように、カップに残った琥珀色の液体を流し込む。<br /><br /> 風味の消えた紅茶は、どこか虚しい味がした。<br /><br /><br /><br /><br /> と、そんな風に雰囲気に浸りまくりの真紅は、気付かなかった。<br /><br /> 鬼神のようなオーラを身にまとった3人が、いつの間にか背後に立っていた事に……。 <br /><br /><br /><br /><br />      </div> </dd> </dl>

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