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MISSION no.7[BLUE ATTACK!]」(2008/07/11 (金) 00:41:52) の最新版変更点

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<p>[ARMORED CORE BATTLE OF ROSE]<br /><br /><br /> MISSION no.7[BLUE ATTACK!]<br /><br /><br /><br /> 舞い散る銀の羽根。<br /> 神々しくも、禍々しくもあるモノクロカラーのAC。<br /> それと向き合う蒼のAC。<br /> 目の前に広がるその幻想的な光景。<br /><br /> そしてその空間には―――――殺意と失意が満ちていた。<br /><br /><br /><br /> 「その力、試させてもらうよ………! 水銀燈!!」<br /> 先に蒼星石機が動いた。<br /> 大出力のOBを発動し、超高速で突進する蒼星石機。<br /> しかしその軌道は、ありがちな直線ではなく、稲妻のような不規則な軌道をとっていた。<br /> OBの使用中、搭載された補助ブースターによって強制的に軌道をずらしているのだ。<br /> それを連続で使用すれば、恐らく誰にも見切られることのない超高速、かつ全く規則性のない移動ができる。<br /> だがその移動によって生じる加速度は、当然搭乗者に大きな負担をもたらす。<br /> 一言で言えば、『人間技ではない』のである。しかし、現実にそれを行う者がいる。<br /> それが、蒼星石を有名にしている理由の一つでもあった。<br /><br /> 「…はっ!!」<br /> ブレードを振る蒼星石。だが、今までのような大振りではない。<br /> 居合いのような、無駄のない、洗練された動き。<br /> 必要最低限の挙動はエネルギーの節約と共に、高速での斬撃を可能にしていた。<br /> ブレードが閃き、そこにあったものを両断する。<br /><br /> だがそこには、銀の羽根が少しばかり舞っているだけであった。<br /> 「今のをかわした…!? いや、確かに斬ったはず…!」<br /> 辺りを見回す蒼星石。<br /> 直後、頭上から無数のエネルギー弾が降り注ぎ、蒼星石機を襲う。<br /> それをぎりぎりのタイミングでかわす。<br /> 「いつの間に上に…!?」<br /> 上を見上げる。そこに『天使』はいた。<br /> 翼を大きく広げ、見下ろすようにして空中に留まっている。<br /> どうやら先ほどの攻撃は、翼の一部をエネルギー弾として射出したものらしい。<br /> 「でも、まだ手加減しているようだね…。そんなに欠けることが怖いのかい?『ジャンク』…」<br /> 「っ………!」<br /><br /> その言葉に水銀燈が、機体が反応する。<br /> 「……ジャンクじゃない………。私は…欠けてなんかいない………!!」<br /> 翼を立て、攻撃体勢をとる水銀燈機。<br /> 翼が再び巨大な青い炎と化した。<br /> 再び甲高い音が鳴り響く。機体の背部に、光が集まっていく。<br /> 「私は……………ジャンクなんかじゃない!!!!!」<br /> 空間が歪んで見えるほどの速さで、蒼星石機に突撃していく。<br /> 「(回避…いや、間に合わない…!)」<br /> そう直感し、両腕を体の前で組み、防御体勢をとる蒼星石機。<br /> 水銀燈機の右拳が、腕を組んだ丁度真ん中に直撃する。<br /> そして機体が吹っ飛ぶ速さより早く、空中で蒼星石機を掴み、そのまま飛び続ける。<br /> 「がああああああああああああああ!!!」<br /> 物凄い速度で壁に叩きつけられる蒼星石機。<br /> 壁にはその衝撃の大きさを物語る、巨大なクレーターができていた。<br /> 「ぐぅっ…!」<br /> 「…私は…ジャンクじゃない…! 不完全なんかじゃない!!」<br /> 蒼星石機の腕を掴み、空中へ放り投げる水銀燈機。<br /> 再度高速で接近し、蒼星石機を殴り飛ばす。<br /> 反対側の壁に着くよりも速く水銀燈機が回り込み、蹴りを食らわし上方へ吹っ飛ばす。<br /> さらに天井に着くよりも速く回り込み、両手で握り拳をつくり、胴体へ力の限り叩きつけた。<br /> 蒼星石機が地面へと吹っ飛ばされ、床に大きなへこみをつくる。<br /> 「私は…! ジャンクなんかじゃ…!! ないッ!!!」<br /> 翼を広げ、エネルギー弾を雨のように降らせる水銀燈機。<br /> 標的は、床の上の蒼いAC。<br /> 激しい爆煙があがり、ACの姿が見えなくなる。それでもまだ撃ち続ける。<br /> 20秒ほど経ち、ようやくエネルギーの雨がやんだ。<br /> 翼からは炎も光も失われ、やがて翼そのものが消滅した。<br /><br /> 「はぁ…はぁ……これなら………」<br /><br /><br /><br /> 『―――ボクは倒れた。そう思ったのかな?』<br /> 「!?」<br /><br /><br /> 爆煙を切り裂き、光の刃が飛んでくる。<br /> それが水銀燈機をかすめ、飛び去っていった。<br /><br /> 「―――悪いね、水銀燈。まだボクは本気じゃないんだ―――」<br /> 煙の中から蒼い影が飛び出し、強烈な蹴りをお見舞いした。<br /> 不意を突かれた水銀燈は、体勢を立て直せずにそのまま地面へ落下した。<br /><br /> 「動きが鈍いね…。もう『殺意』は枯れてしまったのかい?<br />  …それじゃあ、折角の『ローザ・デバイス』も宝の持ち腐れだよ…」<br /> 「…ロ、ローザ………?」<br /> 聞いた事のない単語を耳にし、多少困惑する水銀燈。<br /> 「『ローザ・デバイス』…。新時代の礎となる、高貴な力さ。<br />  もっとも、その力を使えるのは限られた人間だけだけどね。<br />  …そしてキミは、その中でも更に特別な存在。その力を、お父様は欲している。<br />  本当はキミと争うためにここに来たんじゃない。協力してほしいだけなんだ。<br />  水銀燈、新時代を作り上げるため、ボクと…、お父様と一緒に来てほしいんだ。わかってくれるかい?水銀燈…?」<br /><br /> 起き上がりながら水銀燈が言う。<br /> 「―――えぇ、とっても良くわかったわぁ。―――アナタが、とんでもないおばかさんだって事がねぇ!!」<br /> 「………?」<br /> どうやら既に冷静さを取り戻したようだ。<br /> 「アナタが『お父様』とやらを溺愛しているのはわかったわぁ。でも、『お父様』は私だけでなく、翠星石も連れてこいといったのでしょう?<br />  それを個人的な理由で、片方は殺し、片方は連れて行く…。そんな中途半端な覚悟で作られた新時代なんか願い下げよぉ!!」<br /> 「………なら、一緒に来る気はないということだね…?」<br /> 「くどいわぁ。二度も同じ事を言わせないで頂戴」<br /><br /> 「そう。だったら―――」<br /> ブレードを上に掲げる蒼星石。<br /><br /> 「―――殺してから連れて行くまでっ!!」<br /> 蒼星石のブレードから伸びる光の刃。それが、通常の5倍程の長さにまで巨大化していく。<br /><br /> 「―――な、何―――? アレ―――」<br /><br /> ブォン、とブレードを一振りする蒼星石。<br /> 地面が大きく抉り取られる。深さも相当なものであった。<br /> 「今からキミに『ローザ・デバイス』の使い方…。それを見せてあげるよ…!」<br /> そして居合い抜きのような構えを取り、ブレードを高速で振り抜く。<br /> 「…だぁっ!!!」<br /> 振り抜いたブレードから、巨大な光の衝撃波、通称『光波』が飛び、壁を抉りながらこちらへ向かってくる。<br /> 幸いにも、それほど速度が速くなかったため、難なく回避する。<br /> 「…そんなの、当たらなければどうってこと―――」<br /> 「―――それはどうかな…!?」<br /> 「!?」<br /> 両腕のブレードを高速で振り回し、様々な方向に光波を撃ちまくる蒼星石。<br /> 横方向に伸びている光波もあれば、縦向きに襲ってくるものもある。<br /> 恐ろしい数の光波が、水銀燈機を襲う。<br /><br /> 「くっ…! さすがにこれはマズいわぁ…!」<br /> 回避するだけで精一杯の水銀燈。<br /> 「こうなったら…!」<br /> 自分も『ローザ・デバイス』とやらを発動しようとするが、全く反応がない。<br /> というより、発動の仕方が全くわからないのだ。<br /> 「…っ…! 悪魔の兵器だか何だか知らないけど、これじゃブリキのおもちゃ以下よぉ…!」<br /> そうしている間にも、攻撃は続く。<br /> 「………どうすれば………!」<br /> だんだんとかすり始め、徐々に装甲が剥がれていく。<br /> 「はははっ!もうそろそろ諦めたらどうだい…!?そうしないと、本当に死ぬことに―――――ぐぅっ!?」<br /> 突如、蒼星石機の動きが止まる。<br /> 「…な、何が…どうしたのぉ………?」<br /> 蒼星石機のバランスが大きく崩れる。姿勢を維持するだけで精一杯のようだ。<br /> 「くうぅっ…、もう…『時間切れ』か…!」<br /> 「…『時間切れ』…? 確か、真紅も同じようなことを…」<br /> そしてブースターを大きくふかし、空中へ移動する蒼星石。<br /> 「…キミが『本物』という確証は取れた。また会おう…水銀燈。今度は、本気でキミを迎えに行くよ………!」<br /> そう言い残し、天井に開けた穴から飛び去っていった。<br /><br /><br /> ◇<br /><br /><br /> 「な…何だったのよぉ………」<br /> 極度の興奮と緊張から開放され、完全に脱力する水銀燈。<br /> 翠星石の方を見るが、翠星石機は直立姿勢のまま固まっていた。<br /> 「…翠星石?どうしたのぉ?………あら、中で気を失っているわぁ…」<br /><br /> 『………銀燈! 水銀燈! 聞こえるか!?』<br /> 「聞こえてるわぁ。今まで何をやっていたのぉ?」<br /> 『生きていたのか…! よかった…! …今、やっとECMの残留電波を除去できたんだ。それまでは通信そのものが繋がらなかったからな…』<br /> 「そう。ならさっさと迎えに来なさぁい。もうエネルギーが残りわずかなのよぉ」<br /> 水銀燈の言うとおり、機体のエネルギーゲージはレッドゾーンを指していた。<br /> 『わかった。すぐにMTで回収しに行く。少し待っていてくれ。…それと、翠星石は無事なのか?』<br /> 「…無事には無事よぉ。…でも―――<br /><br />  ―――っ!!?」<br /> 突然頭に激痛が走る。しかも、尋常じゃない痛み。<br /> ハンマーで殴られたような、剣で突き刺されたような、或いは、中で刃物が暴れまわっているような。<br /> 「ぐっ……! うあぁっ…!! な…何よ…コレぇ………!」<br /> あまりの激痛に意識が遠のいていく。<br /> 『水銀燈?どうした?………水銀燈!?』<br /> 声がどこか遠くで響いているような感覚に陥る。<br /> 視界もぼやけ、触覚も鈍ってきたように感じられる。<br /> 頭がうまく回らない。何を考えているのかも曖昧になってきた。<br /><br /> 「くうぅっ………ま…だ……! まだ………私はぁっ………!」<br /><br /> ―――そこで、意識が途切れた。<br /><br /><br /> ◇<br /><br /><br /> ―――目が覚めたとき、最初に目に入ったのは白い天井と蛍光灯。<br /> 嗅覚が独特の消毒液のようなにおいを感じ取る。<br /> 体にかかる重力の向きから、自分は仰向けに寝ているのだと理解した。<br /> 仰向けのまま、首だけを動かして辺りを見回す。<br /> すぐ横で、ジュンが小さな椅子に腰掛けていた。<br /> 「お、目が覚めたか」<br /> 特に慌てた様子もなく声をかけてくる。<br /> という事は、そんなに重篤な状態ではなかったのだろう。<br /> 「…ここはどこぉ…?」<br /> 「ここか?ここは研究所の緊急病棟―――まぁ、『保健室』ってやつだな。検査の結果、特に異常が無いってことで病院送りにはならなかったんだ。<br />  …それにしても驚いたぞ。通信がいきなり途絶えたから、MTでコックピットをこじ開けて緊急搬送したんだ。マニュアルもこういうときには役立つよ」<br /> やはりここは病室のようだ。気を失っている間に運ばれたのだろう。<br /> 「…そう。…翠星石は?」<br /> 「まだ寝てるよ。―――余程ショックだったんだろうな。何度もうなされていたよ」<br /> と、向かい側のベッドを指差す。確かにそこに、翠星石がいた。<br /> 「―――ところで、あの力は何なの?私には翼が生えた。蒼星石はブレードが異常なほど伸びた。<br />  強化兵装だとかオプショナルパーツだとか、そんな物とは明らかに違っていたわぁ。比べ物にならないくらい…」<br /><br /> 「………それを今から言おうと思っていたんだ」<br /> ジュンが立ち上がる。<br /> 「『ローザ・デバイス』…人の意思を具現化する装置。悪魔の力を持った、オーバーテクノロジーさ。<br />  そして、その要となるのが―――コレだ」<br /> ジュンがポケットに手を突っ込み、中から手の平に収まるくらいの透明なカプセルを取り出した。<br /> 中には、淡く発光する宝石のようなものが入っていた。<br /> 「これは『ローザミスティカ』。かつてナービスが発見し、利用しようとした『新資源』。<br />  生体ACの動力源や、AMIDA、ディソーダーを生み出すのにもこれを使っているんだ」<br /> 「あのディソーダーってやつもこの研究所で開発してたのねぇ…。物騒極まりないわぁ」<br /> 「…警備システムが役にたたなかったのは僕の不手際だ。謝るよ。<br />  …そして、これは鉱物の一種でありながら、『生きている』らしい。<br />  これの放つエネルギーをローザ・デバイスで変換・放出することで、常識ではありえない現象を起こすことができるようだ。<br />  一例として、とんでもない機動力や、通常兵器を大出力で扱うことなどができるとされている。」<br /> 「さっきからはっきりしない答えが多いわねぇ…。しかも非科学的な感じ…」<br /> 「当然だ。実験では誰もローザ・デバイスを起動させることができなかったからな。<br />  …でも、非科学的な力があると仮定しなければ、生体ACは作れっこなかった。水銀燈も体験しただろう?<br />  何もなかったボディに、一瞬で装甲が施されたのを」<br /> 初めて生体ACに乗った時の事を思い出す。<br /> 確かにあの時から、普通のACではないことはわかっていた。<br /> 「どうやら起動の引き金となるのは、搭乗者の強い感情みたいだ。<br />  さっきの戦闘では強烈な「殺意」で起動したみたいが、他の感情でも応用が利くはずだ。<br />  でも、そのエネルギーがどんな風に発現するかは本人のイメージ、深層意識次第らしいな」<br /> 「それで蒼星石は、ブレードが伸びるようなイメージをした…?」<br /> 「恐らく。そしてこの力は、その莫大なエネルギーと引き換えに、人の精神に大きな負担をかけるらしい。<br />  お前の激しい頭痛も、ローザ・デバイスの急激な使用によるものだろう。…あくまでも推論だけど」<br /> そこまで言うと、ジュンはカプセルをまたポケットにしまった。<br /> 「…ま、生きていてよかったよ。メインエンジンルームの壊れようは酷かったからな。よくエンジンが爆発しなかったよ…」<br /> あれだけ暴れれば、どんな施設だろうと無事では済まないだろう。<br /> 「…そうねぇ。私は生きているわぁ…でも―――」<br /> 水銀燈が何かを言いかけたが、ジュンが言葉を挟んだ。<br /><br /> 「―――あ、めぐは生きてるよ。元気…とはいかないけど、今まで通りにな」<br /> 「何ですって―――!?」<br /> ―――めぐが生きている―――?<br /> 「本当なんでしょうねぇ!? それはぁ!!」<br /> ジュンの肩を掴み、がくがくと揺さぶりながら問いかける。<br /> 「ほ、本当、だか、ら! 落ち、着け! 水、銀、燈―――!!」<br /> 水銀燈がジュンを放す。ジュンの眼鏡がずり落ちてしまっていた。<br /> 「…ここへお前を搬送した後、メイメイのレコーダーを調べたんだ。航空機で言うところのブラックボックスを。<br />  そこには戦闘での会話が全て記録されている。蒼星石とのやり取りを聞いて、すぐに病院に確認したんだ。<br />  全く問題ないって言われたよ」<br /> それを聞き、これ以上ない安堵感を得る。<br /> 急に視界が明るくなるような感じがした。<br /> 「―――そう…。よかったわぁ……。<br />  でも、何故蒼星石はめぐが死んだ、なんて言ったのかしらぁ…?」<br /> 「…何か目的があってお前を激怒させたと考えていいだろう。そう…何かを試すような。<br />  …でも、翠星石への殺意は恐らく本物だ。テープ越しでも、痛いほどの殺気が伝わってきたよ」<br /> 「あら、心理学の勉強でもしたのぉ? さすが、伊達に所長はやっていないわねぇ…?」<br /> その言葉を聞いて、少し照れ気味にジュンが言う。<br /> 「おだてるなよ、水銀燈。僕は所長なんかじゃないさ」<br /> 「思った通りの事を言っただけなんだけどねぇ…。謙遜しているの?」<br /> 「いや、謙遜でも比喩でもないさ。………もう所長はクビになったんだ」<br /> 「え?」<br /> 「さっき言った通り、エンジンルームほぼ全壊。8つある研究所のブロックの内、C~Gまでが全壊。<br />  ついでに蒼星石が地下90mまで大穴を開けてくれたもんだから、予備の発電機とAブロックが一部損壊。<br />  …もうここは『再起不能』だそうで、破棄されることになったよ。で、責任は管理職である僕に全部押しつけさ。<br />  白崎から連絡があったよ。『君の研究データは大いに役に立ったよ。ゆっくり休暇を取ってくれ』だとさ。<br />  僕はこんな事態を想定してのお飾りだったのさ。<br />  訴えてやりたいところだが、研究が非合法なだけに、訴えたくても訴えられないんだ…」<br /> 「…それは…何と言うか……ご愁傷様…」<br /><br /> しばしの間沈黙が広がる。が、それは突然飛び込んできた甲高い声によって破られた。<br /> 「―――これぞ『飛んだり跳ねたり』ってやつですね。<br />  ま、チビ人間に所長なんて似合わないにも程があるですから、これを機に身の丈にあった仕事を探すですぅ」<br /> 「うわぁっ!? お、起きてたのか!? と言うか、いつの間に隣に…?」<br /> 「後、それを言うなら『踏んだり蹴ったり』でしょう…」<br /> 音もなしに現れた翠星石。いや、二人が気付かなかっただけなのであるが。<br /> 「水銀燈がうるさすぎて目が覚めちまったですよ」<br /> 「…それはいいけどアナタ、もう起きて大丈夫なの…?」<br /> 首を振り、答える翠星石。<br /> 「―――確かにショックだったですよ…。まさか蒼星石が翠星石を殺そうとしているなんて、やっぱりまだ信じられないです…。<br />  でも、あの蒼星石はどこか異常でした。初対面のはずなのに、水銀燈を知っているような素振りをみせたり、<br />  もう随分昔に死んだはずの父親が生きていると言ったり…。多分、その『お父様』とやらが元凶です。洗脳か、はたまた脅迫か…」<br /> 「確かにそうねぇ…」<br /> 確かに、さっきの戦闘では不可解な言動が多かった。<br /> 一番気になっていたのは、最後に言い残した『本物』という単語だったが。<br /> 「…だから、決めたのです…!今度蒼星石に会った時は―――」<br /> 翠星石の肩が小刻みに震えだす。<br /> そして拳をきつく握り締めると―――。<br /> 「一発ぶん殴って目ぇ覚まさせてやるですぅ!!」「ぅごぇっ!!」<br /> 昂ぶった感情に任せ、拳を突き出した翠星石。だが、その拳は不幸にも近くにいたジュンに直撃してしまった。<br /> ジュンが床に吹っ飛ばされる。一瞬の出来事だったが、殴られた側からしてみれば全てがスローモーションに見えたことだろう。<br /> 「あ………ご、ごめんですぅ……」<br /> 「ふふ…寝起きでそれなら、心配する必要はなさそうねぇ…」<br /> 「全くだよ…あぁ痛ぇ…」<br /> 吹っ飛んだ眼鏡を拾いながらそう言うジュン。<br /> 「…で、出撃する前に言っていた報酬の件なんだが…」<br /> ジュンが後ろめたそうにぼそぼそと言う。<br /> 「すっかり忘れてたわぁ…でもアナタ、確かクビに…」<br /> 「そうなんだよ…個人で何とかして払ってやりたいが、とてもそんな金は持っていないんだ…姉ちゃんには迷惑かけられないし…。<br />  …で、代わりといったら失礼かもしれないが………僕を、お前達のガレージで住み込みで働かせてくれないか?」<br /> 「「へ?」」<br /> 素っ頓狂な声を上げる水銀燈と翠星石。<br /> 「もちろん金なんていらない。それに、僕はエンジニアの資格も持っている。<br />  さすがに改造したりはできないが、修理や整備ぐらいなら僕一人でやってやるさ。<br />  ………だから、お願いだ…! 僕はもう、得体の知れない兵器なんか作りたくはない…!<br />  かと言って他の企業に就職しようにも、それまでは無一文に加えて野宿するハメになってしまう…」<br /> 頭を抱え、うなだれながらそう懇願するジュン。<br /> 「…まさかアナタ、この研究所で寝泊りしていたのぉ…?」<br /> 「…お恥ずかしながら…」<br /> 生活費を少しでも節約するため、研究所から出ることはなかったという。<br /> 「引き篭もり体質は相変わらずねぇ…。<br />  で、どうするの?翠星石。あそこは私とは全く無関係だから、アナタが決めなさぁい」<br /> 「…し、仕方ないですねぇ!そこまで言うのなら雇ってやらないでもないですぅ!感謝しやがれですよ!」<br /> 「ほ、本当か!?」<br /> 予想外の返答に、ジュンが顔を上げる。<br /> 「そんな簡単にOKしちゃっていいのぉ…?」<br /> 「大丈夫ですぅ。もともとあそこには翠星石、蒼星石、お父様、お母様の4人で住む予定だったですから。<br />  翠星石と水銀燈で二人ですから、一人や二人増えたところで何の問題もないです。<br />  それに、誰か一人でもACの整備ができる人がいないと、整備や修理はこれから全部外に依頼する事になるですよ?」<br /> 「それはそうだけど…。って言うか、いつの間に私は翠星石とセットになったのよぉ!」<br /> 「細かいことは気にするなです。それに………家族は多いほうが楽しいですぅ!」<br /> 満面の笑みを浮かべてそう言う翠星石。<br /> お世辞などではなく、心からそう言っているのだろう。<br /> 「はぁ…。初めて会った時からアナタはそうだったわねぇ。ま、暗く沈んだままよりはいくらかマシねぇ」<br /> 「ありがとう…!本当に助かるよ…!」<br /> 「ただぁし!」<br /> 翠星石が、ビッ!と指をジュンに向ける。<br /> 「間違っても、翠星石達の寝込みを襲ったりするなですよ!もしそうした場合はぁ…」<br /> 背後からオーラのようなものを放出する翠星石。<br /> 「だ、誰がそんなことするか!僕はそんなことに興味はない!」<br /> 顔を真っ赤にしながら否定する。<br /> 「僕にだって理性はあるさ!現に、ここに搬送してくるときだって必死に我慢して……………<br /><br />  ―――あ」<br /> しまった、という顔をするが、一度口から出た言葉は返ってこない。<br /> 「へぇ~え?やっぱりそういう考えはあるんですねぇ…」<br /> 「…もう一度考えたほうがいいんじゃなぁい?翠星石」<br /> 「ち、違う!誤解だ!信じてくれえええぇぇぇぇ………」<br /><br /> ジュンの悲痛な叫びが、彼らの他に誰もいなくなった研究所に響き渡る―――。<br /><br /><br /><br /> ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~<br /><br /><br /><br /> ―――とある企業ビルの一室。<br /> 高級感の漂う家具。窓から差し込む月光。<br /> どこか気品を感じさせるその部屋で、紅のドレスを身につけた人物が、ティーカップを机に置く。<br /> 空いた右の手を、体の前で開き、また閉じる。<br /><br /> 「(―――私は、なぜ―――)」<br /> 後ろで、キイィ、とドアの開く音がした。<br /> ドアの方に首だけ振り向き、そこにいた人物に目をやる。<br /> 「―――蒼星石?入るときは一声かけなさいと言ったはずよ…」<br /> 蒼星石はそれに答えず、ただ真っ直ぐ近くまで歩いてきた。<br /><br /> 「―――真紅。今日、水銀燈に会ったよ―――」<br /> 「水銀燈に…?」<br /> 「ああ、キミの言った通りだ。―――やはり、彼女が『第一』…」<br /> 「…そう…」<br /> またティーカップを手に取る。<br /> 「………それで、翠星石はどうしたの?」<br /> 「…水銀燈に邪魔されてね。殺せなかったよ。でも、次は必ず―――」<br /> 「―――貴女、まだそんなことを言っているの? お父様は7人全員が揃ってこそ意味があると仰っている。<br />  その行動は、お父様に逆らうと同じことなのよ?蒼星石…」<br /> 「…キミの知ったことじゃない。それに―――死んだら、必要なときに蘇らせればいい。もうわかっている事じゃないか」<br /> 真紅が大きくため息をつく。<br /> 「何か貴女は勘違いしているのだわ…。お父様に忠実なようで、本当は大きく食い違っている…」<br /> 「―――とにかく、ボクはボクのやりたいようにやらせてもらうよ。…今度こそ、翠星石を―――」<br /> そう言い残し、部屋を後にする蒼星石。<br /><br /> 時が過ぎ、月も沈みかける。<br /> ティーカップに注がれた紅茶。そこに映った自分の顔を見つめる。<br /> 「(―――水銀燈が、生きている―――)」<br /> そう心の中で呟く。<br /> 「(まだ…。まだチャンスは残されていた…)」<br /> そして、顔の前で拳を強く握り締める。<br /> 「(水銀燈―――。貴女は、私がこの手で―――)」<br /><br /><br /> To be continued...</p>

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