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「狂った果実4」(2008/06/22 (日) 12:28:52) の最新版変更点
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例えば、いつもより早く家を出てみる。<br />
たったそれだけで、朝の時間なんて随分と違って見える。<br /><br />
きらきらと輝く太陽が地面を暖めるが、それでもまだ肌寒く…だが、それが逆に心地良い。<br />
まだ人通りの少ない通学路では、小鳥たちが爽やかなメロディーを口ずさんでいる。<br /><br />
(ああ…アイツと…水銀燈と登校の時間をずらすだけで、なんって素敵な朝になるんだろう…)<br />
僕はついついニヤケる自分の顔を抑えられない。<br />
「ふふ…うふふふふ…」<br />
それどころか、笑みさえ漏れてくる。<br /><br />
そして、そんな朝早い時間だからこそ、見れるものも有った。<br />
例えば…<br />
校庭の隅。花壇の近くで、草木を慈しんでいる青と緑のジャージ姿の女の子。<br />
やっぱり女の子はあんな風に、おしとやかな感じがする方が断然良いね!<br /><br />
僕はそんな二人の女の子の姿を、視かn……より脳に焼き付ける為に、何気ない感じを装いながら近づき…<br />
いつの間にか二人が、一瞬で消えた事に気がつかなかった。<br /><br />
「抵抗しないでもらえるかな?……これも、君の為を思って言ってるんだよ…?」<br />
いつの間にか、青のジャージの女の子がいつの間にか僕の背後に回り、そう小さく声をかけてきた。<br />
僕は、振り向かない。ってか、振り向けない。だって……<br /><br /><br />
ああ、自己紹介が遅れたね。<br /><br />
僕は桜田ジュン。<br /><br />
見知らぬ青ジャージの子に、首元にいきなり鋏を突きつけられた…可哀想な高校生です。<br />
<br /><br />
「…桜田ジュン君…こんな方法で接触をしといて何だけど…僕達は、君の味方だよ…」<br />
青ジャージの女の子が、僕の耳元で囁く。<br /><br />
オーケー、オーケー。味方なのは分かったから、僕の首に当ててる鋏をどけよう?な?<br /><br />
何とかして、その言葉を伝えたいが…<br />
青ジャージの子の吐息が耳にかかり、鋏が僕の首をチクチクする。<br />
その快感……じゃない、恐怖に、僕の足はガクガク震え、緊張のせいで荒い呼吸しか返せない。<br /><br />
そんな僕の様子に業を煮やしたのか…<br />
緑のジャージを着た女の子が、スッと僕の前に立った。<br /><br />
「…ちんたらして見つかったら、元も子も無いですぅ。……ここは、多少強引ですが…!」<br />
そう言い、僕の口元にハンカチを押し付けてきた。<br /><br />
おいおい。確かに、僕は匂いフェチでもあるんだぜ?<br />
それに、強引なのも嫌いじゃあないけど…<br />
だからと言って…いきなり男子に、ハンカチに染み付いた自分の匂いを嗅がせるかね?<br />
……<br />
いいだろう!嗅いでやろうじゃないか!<br /><br />
僕はクワッと目を見開き、深呼吸をする。<br />
すると、あら不思議。<br />
僕の意識は溶けるように、眠るように、薄くなり……<br /><br />
完全に眠りに落ちる直前、僕は気がついた。<br /><br />
(…なん…だと?…クロロホルム?……彼女は…匂いフェチじゃなかったのか…!<br />
それは…予想してなかったな………僕とした事が………不…覚………――― zzz)<br />
<br /><br />
<br />
~~~~~<br /><br /><br />
(むにゃむにゃ……あぁ…そんなにキツく縛らないで……僕…もう…ああ……アッーー!!)<br />
「ーーッ!!!」<br />
僕は、体に食い込む縄の感覚で目を覚ました。<br />
なんって素敵な目覚めだろう。<br />
…<br />
いや、これ、皮肉ですよ?変態じゃないんだから…縛られるのが好きとか、ありえませんから。<br /><br />
とにかく、目を覚ましたそこは……<br />
ここはどこだろう?部屋のつくりからして、学校には間違い無さそうだけど…<br />
僕は一体、どれ位の時間眠っていたのだろう?<br /><br />
暫く、椅子に縛られたまま周囲を観察すると…チャイムの音が聞こえた。<br />
うん。やっぱり僕は冴えてる。学校に間違いない。<br />
それに校庭から聞こえる喧騒は、きっと昼休みのものだ。<br /><br />
そして…<br />
こんな冴えてる僕を、アッサリと捕まえた青と緑のジャージの二人…<br />
間違いなく、目的は僕の天才的な頭脳だろう。<br /><br />
何の根拠も無いけど、そう確信する。<br /><br />
(だけど…見張りも付けずなんて、僕も甘く見られたもんだな!)<br />
僕は簀巻きにされたまま、ピョンピョンと地面を跳ねる。<br />
…<br />
疲れただけだった。<br />
<br /><br />
<br />
(…こんな所で無駄に体力を消費してもダメだ。何とか助かる方法を考えないと…)<br />
僕は床にグッタリしながら、何とか考えを巡らし…<br /><br />
と、不意に扉がガラガラと開き、二人の女の子が部屋に入ってきた。<br />
制服に着替えているけど、間違いなく、今朝のジャージ二人組みだった。<br /><br />
「(クスクス)……でも、クロロホルムはやりすぎだったね」<br />
「大丈夫ですぅ!漫画でもよく有る、常套手段、ってヤツですよ!」<br />
「ふふ…でも、実際に漫画みたいな使い方を素人がしたら、最悪の場合、一生意識が戻らないって言うよ?」<br />
「え゛!?…マジ…ですか…?」<br />
「ふふ…もしそうなったら、花壇に埋めちゃおうよ?きっと来年の今頃には、綺麗な花が咲くよ?」<br />
「……じょ…冗談…ですよね…?」<br />
「ふふふ…もちろん、冗談だよ?」<br /><br /><br />
いやぁ、見目麗しい女子達が、にこやかに会話してるのって、見てるだけで楽しくなるね。<br />
内容は酷かったけどさ!<br /><br />
とにかく僕は、埋められたくない一心で、二人に声をかける。<br />
「…あの…起きてるんだけど…」<br />
<br />
僕の声に驚いたように二人は体をビクッとさせ……あぁ…良いよ…今の表情……フヒヒ…<br />
<br /><br />
<br />
「ちょ…ちょっと待ってろです!」<br />
ロングヘアーの方の女の子がそう言うと同時に、二人は部屋の隅に置いてあるダンボール箱に飛びつき――<br /><br />
そして、ショートヘアーの子が鋏。ロングヘアーが如雨露を持つと、<br />
二人はその先端を『キン』と合わせながら叫んだ。<br /><br />
「普段は、緑を愛する園芸部!」<br />
「ですが!その真の姿は!!」<br />
「生徒会副会長・蒼星石!」<br />
「生徒会会長・翠星石!」<br />
「僕達!」<br />
「私達は!」<br />
「「学園の平和を守ると誓います(ですぅ)!!」」<br /><br />
「………」<br />
何だこいつら?<br />
『それにしてもこの二人、ノリノリである。』なんてナレーションが聞こえる気がする。<br />
そんな呆然とする僕に気がついて…<br />
二人――蒼星石と翠星石というらしい――は、なにやら小声でゴニョゴニョ相談し始めた。<br /><br />
「…おかしいですよ…タイミングはバッチリでしたのに…」<br />
「…ちょっとセンスが良すぎて、彼には理解できなかったみたいだね…」<br />
「そうです!このジュンとか言う野郎のセンスに問題有りなだけですぅ!」<br />
「うん。翠星石が徹夜で考えたセリフだもんね。変なわけが無いよ」<br /><br />
なるほど。僕のセンスの問題だったのか。<br />
まあ、百歩譲って、それを認めてやっても良いが…ちょっとは疑問を持てよ。特に青いの。<br /><br /><br />
~~~~~ <br /><br /><br />
「…とにかく、水銀燈に見つからずに君と接触する為には、仕方ない事だったんだ…」<br />
とりあえず、逃げない事を条件に縄を解いてもらい、僕は蒼星石から一連の流れの理由を教えてもらった。<br /><br />
何でも、僕が水銀燈の魔の手から逃れる為の手助けをしてくれるらしい。<br /><br />
「で…その為に、僕が水銀燈を拒絶する必要が有る…って事か?」<br />
実に分かりやすいまとめで、僕が聞き返す。<br /><br />
「そうです。基本的に生徒会は、生徒個人個人の意思には干渉しないですぅ」<br />
「だけど…個人の意思とは関係無く、力による主従関係。それが立証されれば…」<br />
「私達が、力になれるです!」<br /><br />
「なるほど。よく分かった。…僕にとっても、非常にありがたい提案だよ」<br />
僕は手を差し出し、翠星石と蒼星石の二人と熱く握手を交わす。<br />
当分、この手は洗わないつもりだ。<br /><br />
「どうやら話はまとまったみたいだし……」<br />
「善は急げですぅ!早速、突撃ですぅ!!」<br />
「…へ?」<br />
流れが理解できない僕を引っ張りながら、二人が教室の出口に向かう。<br /><br />
「ちょ…一体どこへ……!」<br />
「もちろん!直接対決ですよ!」<br />
「ふふ…正義の一撃を振り下ろすんだよ…ゾクゾクするなあ…」<br /><br />
ちょっと待て。それは聞いてない。<br /><br />
<br />
~~~~~<br /><br /><br />
あれよあれよと言う間に、僕は屋上まで連れて来られ…<br />
そこで破壊の天使・水銀燈が降臨するのを待っていた。<br /><br />
「いや…いくらなんでも、マズイだろ!」<br />
僕はそう抗議するが…<br />
「大丈夫、僕たちがついてるから」<br />
「てめぇには指一本触れさせないですぅ!」<br />
すっかりぶっ飛んだ二人を前に、何の結果も出せないでいた……<br /><br />
それでも…<br /><br />
僕の事を、こんなに考えてくれる人が居る…<br /><br />
その事実が……なんだろう…僕の心に不思議な勇気をくれる。<br /><br />
(……ありがとう翠星石、蒼星石…僕は……)<br />
負けない。<br />
絶対に、二度と…水銀燈に屈したりしない!<br /><br />
怯えきった羊の目から、戦う決意をした男の目に変わっていくのが、自分でも分かる。<br /><br />
僕は、水銀燈がやってくるであろう扉。その先を射抜くように睨み続け…――<br /><br />
やがて、その扉がゆっくり…まるで地獄の門のように開いた……<br /><br />
<br /><br />
背中に浮かぶ背景を、怒りのオーラで歪ませながら、水銀燈が姿を現す。<br /><br />
100人いたら、99人が「怒ってる」と答えるであろう、彼女の姿――<br />
ああ、ちにみに残りの一人は「僕が昼食を奢らなかったから怒ってる」って答えるんだけどね。<br /><br />
僕は、後ろに立つ翠星石と蒼星石の方を振り返り…そして…<br />
強張っていたけど、精一杯の笑みを浮かべながら、搾り出すように言う。<br />
「無理だ。逃げよう」<br /><br />
「ちょ!何言ってるですか!ここまで来て、そんなのありえないです!」<br />
「そうだよジュン君!正義は僕たちに有るんだ!」<br />
二人が僕の背中を、グイグイと押す。<br />
いや!やめて!死んじゃう!マジで!<br /><br />
水銀燈は相変わらず、恐ろしげな雰囲気を纏いながら近づき……そして、ピタリと立ち止まった。<br />
「…下僕のくせに、ご主人様の昼食を忘れるなんて……良い度胸してるわねぇ…」<br /><br />
ああ、これはマズイ。<br />
200パー殺される。<br />
殺して、蘇生させて、また殺してで、200パーセントだ。<br /><br />
完全に足がガクガク震える僕。<br />
そんな僕に……生徒会の二人が助けを出してくれた。<br /><br />
二人は僕と水銀燈の間に立ち塞がり、勢いよく啖呵を切る。<br /><br />
「やめるんだ!彼は君の下僕なんかじゃない!」<br />
「そうです!自分の意思を持った…大切な生徒です!!」<br />
<br /><br />
突然飛び出した、二人の女の子。<br />
水銀燈はその姿をまじまじと眺めると…僕に視線を向けてきた。<br /><br />
「ですってぇ……ふふふ…いいわぁ……だったらジュン…あなたが決めなさぁい…<br />
女の子の背中に隠れながらガタガタ震えるか……<br />
私の前に跪いて、忠誠を誓うか……」<br /><br /><br />
蒼星石が、僕を庇うようにバッと両手を広げる。<br />
「…立ち向かうんだ……大丈夫…僕たちがついてるから…」<br />
翠星石も、水銀燈に挑むような視線を向けながら、激励してくれる。<br />
「……ジュンは……私が守るですよ…」<br /><br />
僕は…僕は、そんな二人の背中がとっても眩しく見え…何だか泣きそうになってくる。<br />
頑張ろう。<br />
この二人の期待に答える為にも…!<br /><br />
「ありがとう…二人とも……僕は…もう負けない!」<br />
<br /><br />
<br />
二人が顔をパッと明るくして、振り返る―――<br />
だが……すぐにその表情も、暗いものに変わってしまった。<br />
「…ジュン…君…?」<br />
「てめぇ…何してるですか…」<br />
「??」<br />
二人の蔑むような視線にゾクゾク……いや、不思議に思い、僕は自分自身に視線を向ける…―――<br /><br />
…土下座してました。<br /><br /><br />
(い…いつの間に!?<br />
あ…ありのままに今起こった事を話すぜ!『立ち向かおう』と思ったら『土下座してました』<br />
何を言ってるのか分からないと思うけど、僕にも分からなかった!<br />
超スピードとか催眠術とか、そんなチャチなもんじゃねえ!もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……)<br /><br /><br />
愕然とした僕の耳に、どこか遠い感じがする声が聞こえる。<br />
「……帰ろうか…」<br />
「…完全に、しらけちまったですぅ…」<br /><br />
ああ!待って!違うんだ!置いてかないで!<br />
スタスタと遠ざかる二つの足音に、僕は精一杯手を伸ばし―――<br /><br />
その手を水銀燈に踏まれた。<br /><br />
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視線を上げると……引き攣った笑みを浮かべながら、僕を見下ろす水銀燈が。<br />
…さよなら、ねーちゃん。僕、多分死ぬわ。<br /><br /><br />
「……とんだ茶番につき合わせてくれたわねぇ……」<br />
そう言い、僕の手をグリグリと踏んでくる。<br /><br />
「…とりあえず、そぉねぇ…再教育の前に……」<br />
水銀燈が、意地悪く口の端に笑みを浮かべる。<br /><br />
「ふふふ……跪いたまま…私の靴に口付けなさぁい…」<br /><br /><br />
ドS全開の視線が、僕に向けられる。僕は思わず、ゾクゾク……いや、何でもない。<br /><br /><br /><br />
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