「Scene2:フラヒヤ山脈―山麓西部―」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら
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<p>******</p>
<p>西回りルート、雛苺・トモエ班。<br />
ここから脆弱だった植生は、いよいよ断崖によって阻まれることとなる。<br />
階段状に削れた岩棚と、そしてところどころに生えた高原性の強靭な蔓にしがみつき、<br />
２人はこの断崖を登ろうと試みていた。<br />
「うゅ……まだ耳がジンジンするの……」<br />
蔓にしがみつく巨大な骨の槌……ではなく、それを背負う雛苺は、未だに耳にジュンの怒声が響いているらしい。<br />
いち早く蔓の根元である崖の上まで登り終え、<br />
『マフモフフード』で覆われた耳を、同じく『マフモフミトン』で覆われた手で押さえる。<br />
「ジュンの話は長かったものね、ヒナが眠くなるのも仕方がないわ」<br />
そう言うトモエの姿は、すでに崖の頂上に達している雛苺の遥か下、岩棚の一角にあった。<br />
崖の頂上にいる雛苺にも聞こえるようにと取り計らってか、その声量は若干大きなものとなっている。<br />
「けれども、それもジュンが私達のことを思ってのことだから、ヒナももう少し我慢できるようになるといいわね」<br />
トモエのその声には雛苺を責めるような雰囲気はなく、むしろ子供をあやす母親のような優しさがあった。<br />
トモエもしばらく遅れて、ようやく雛苺のもとに追いつく。<br />
トモエの肩は崖登りをようやく終えたがゆえに、『マフモフジャケット』越しに僅かに上下していた。<br />
「それにしても、ヒナの体力は凄いわね……」<br />
「うん！ ヒナ、これくらいへっちゃらなの！」<br />
それに対し雛苺は、休憩時間があったことを差し引いたとしても、まるで崖登りで疲れている様子は見られない。<br />
トモエ・雛苺組がこの西回りルートを任されたのは、必然的に体力を消耗する崖登りを見越してのこと。<br />
トモエとて、自らの身長を越えるほどの長大な刀を自在に振り回せるだけの力はあるし、<br />
よって純粋な体力ならばジュンや真紅を上回るだろう。<br />
しかし雛苺は、そのトモエすらも越えるほどの、信じ難いスタミナと筋力を同時にその身に宿しているのだ、<br />
雛苺は、未だその年が辛うじて二桁に達している程度の少女である事を考えれば、もはや怪力と称しても問題あるまい。<br />
だからこそ、雛苺は己が命を託す相棒……武器にハンマーを選び取ったのだ。<br />
扱うには底無しのスタミナと強靭な筋力を要求されるが、その要求を満たせば強大な破壊力を与えてくれる得物を。<br />
とにもかくにも、２人はこうして崖の頂上に至った。<br />
雪山の頂上から降り積もる雪で、うっすらと化粧した台地の上に。<br />
目前に広がるのは、切り立った崖に挟まれた緩やかな雪のスロープ。<br />
ここまで来れば、一年を通じて太陽が顔をほとんど覗かせない、雪山の中腹部までは楽に進むことが出来る。<br />
時刻はちょうど正午。トモエと雛苺は、ここで簡易な食事を摂る事にした。<br />
アイテムポーチから取り出したのは、支給品である『携帯食料』。<br />
塩と香辛料で味付けされ、パサパサになるまで乾かされた干し肉が少々。<br />
同じく、砂糖漬けにされ水分を失った、干した果物。<br />
かなり歯応えのある、乾パン。<br />
そして、それらを胃に流し込むために使われる飲料水。<br />
これらが、『携帯食料』の中身である。<br />
食事にあまり時間をかけずに必要な栄養を摂るために考案されたこの「献立」は、それこそ歩きながらでも食べられる。<br />
トモエと雛苺は、もちろんこれらを食べながら登山を行うことを決めていた。<br />
もちろん食べ歩きはあまり礼儀正しい行為とは言いがたいが、このような狩猟の時にはそうも言ってはいられない。<br />
真紅も言った通り、狩りでは常に時間との勝負を強いられることになるのだから。<br />
ベースキャンプで全員に平等に分配した二袋を空にし、２人はその腹を膨らませた。<br />
ハンターは可能な限り、いつでも十分な食事を摂っておく事を自然に覚えていくのは、<br />
ひもじいまま死にたくないから、などという即物的な理由ゆえではない。<br />
（無論ハンターも人間なので、そこに食事の喜びを感じないわけではないが）<br />
実力を限界まで……時には限界以上まで出し切れる状況に、常に自らを置かねば、<br />
狩りの成功を十分に見込めないからである。<br />
喉の奥で唾液を吸って膨れ上がった乾パンを、トモエは飲料水で胃にまで流し込む。<br />
干した果物の甘みを楽しみながら活力とする雛苺は、口の周りにこびり付いた砂糖の粒まで、舌で舐め取る。<br />
辺りは、徐々に冷気を強めてきた。<br />
その冷気が、掛け値なしに真昼間から凍死できるほどの寒さにまで強化されるまで、さほどの時間は要らなかった。</p>
<p>******</p>
<p> </p>
<p>Scene3へ</p>
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<p>西回りルート、雛苺・トモエ班。<br />
ここから脆弱だった植生は、いよいよ断崖によって阻まれることとなる。<br />
階段状に削れた岩棚と、そしてところどころに生えた高原性の強靭な蔓にしがみつき、<br />
２人はこの断崖を登ろうと試みていた。<br />
「うゅ……まだ耳がジンジンするの……」<br />
蔓にしがみつく巨大な骨の槌……ではなく、それを背負う雛苺は、未だに耳にジュンの怒声が響いているらしい。<br />
いち早く蔓の根元である崖の上まで登り終え、<br />
『マフモフフード』で覆われた耳を、同じく『マフモフミトン』で覆われた手で押さえる。<br />
「ジュンの話は長かったものね、ヒナが眠くなるのも仕方がないわ」<br />
そう言うトモエの姿は、すでに崖の頂上に達している雛苺の遥か下、岩棚の一角にあった。<br />
崖の頂上にいる雛苺にも聞こえるようにと取り計らってか、その声量は若干大きなものとなっている。<br />
「けれども、それもジュンが私達のことを思ってのことだから、ヒナももう少し我慢できるようになるといいわね」<br />
トモエのその声には雛苺を責めるような雰囲気はなく、むしろ子供をあやす母親のような優しさがあった。<br />
トモエもしばらく遅れて、ようやく雛苺のもとに追いつく。<br />
トモエの肩は崖登りをようやく終えたがゆえに、『マフモフジャケット』越しに僅かに上下していた。<br />
「それにしても、ヒナの体力は凄いわね……」<br />
「うん！ ヒナ、これくらいへっちゃらなの！」<br />
それに対し雛苺は、休憩時間があったことを差し引いたとしても、まるで崖登りで疲れている様子は見られない。<br />
トモエ・雛苺組がこの西回りルートを任されたのは、必然的に体力を消耗する崖登りを見越してのこと。<br />
トモエとて、自らの身長を越えるほどの長大な刀を自在に振り回せるだけの力はあるし、<br />
よって純粋な体力ならばジュンや真紅を上回るだろう。<br />
しかし雛苺は、そのトモエすらも越えるほどの、信じ難いスタミナと筋力を同時にその身に宿しているのだ、<br />
雛苺は、未だその年が辛うじて二桁に達している程度の少女である事を考えれば、もはや怪力と称しても問題あるまい。<br />
だからこそ、雛苺は己が命を託す相棒……武器にハンマーを選び取ったのだ。<br />
扱うには底無しのスタミナと強靭な筋力を要求されるが、その要求を満たせば強大な破壊力を与えてくれる得物を。<br />
とにもかくにも、２人はこうして崖の頂上に至った。<br />
雪山の頂上から降り積もる雪で、うっすらと化粧した台地の上に。<br />
目前に広がるのは、切り立った崖に挟まれた緩やかな雪のスロープ。<br />
ここまで来れば、一年を通じて太陽が顔をほとんど覗かせない、雪山の中腹部までは楽に進むことが出来る。<br />
時刻はちょうど正午。トモエと雛苺は、ここで簡易な食事を摂る事にした。<br />
アイテムポーチから取り出したのは、支給品である『携帯食料』。<br />
塩と香辛料で味付けされ、パサパサになるまで乾かされた干し肉が少々。<br />
同じく、砂糖漬けにされ水分を失った、干した果物。<br />
かなり歯応えのある、乾パン。<br />
そして、それらを胃に流し込むために使われる飲料水。<br />
これらが、『携帯食料』の中身である。<br />
食事にあまり時間をかけずに必要な栄養を摂るために考案されたこの「献立」は、それこそ歩きながらでも食べられる。<br />
トモエと雛苺は、もちろんこれらを食べながら登山を行うことを決めていた。<br />
もちろん食べ歩きはあまり礼儀正しい行為とは言いがたいが、このような狩猟の時にはそうも言ってはいられない。<br />
真紅も言った通り、狩りでは常に時間との勝負を強いられることになるのだから。<br />
ベースキャンプで全員に平等に分配した二袋を空にし、２人はその腹を膨らませた。<br />
ハンターは可能な限り、いつでも十分な食事を摂っておく事を自然に覚えていくのは、<br />
ひもじいまま死にたくないから、などという即物的な理由ゆえではない。<br />
（無論ハンターも人間なので、そこに食事の喜びを感じないわけではないが）<br />
実力を限界まで……時には限界以上まで出し切れる状況に、常に自らを置かねば、<br />
狩りの成功を十分に見込めないからである。<br />
喉の奥で唾液を吸って膨れ上がった乾パンを、トモエは飲料水で胃にまで流し込む。<br />
干した果物の甘みを楽しみながら活力とする雛苺は、口の周りにこびり付いた砂糖の粒まで、舌で舐め取る。<br />
辺りは、徐々に冷気を強めてきた。<br />
その冷気が、掛け値なしに真昼間から凍死できるほどの寒さにまで強化されるまで、さほどの時間は要らなかった。</p>
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<p><a href="http://www9.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/3646.html">Scene3へ</a></p>
