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なんとでもない日常 第一話」(2008/02/24 (日) 21:13:25) の最新版変更点

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<p>ゆったりとした休日の昼下がり。窓の外ではしんしんと雪が降っている。<br /> 僕はコタツの暖かさに浸りながら、 ミカンを一粒口に放り込んだ。<br /> テレビから流れるのは探偵くんくんの……確か3年前の劇場版だったか。正直何度も見たので、 積極的に観る気にはなれない。<br /> しかし、 コタツをはさんで反対側に座っている真紅は、 飽きもせずに見入っているようだ。<br /> 廊下では姉が友達と電話をしているらしく、 途切れ途切れに笑い声が聞こえてくる。<br /> 今日は雪が降っているからか、 休日に決まって遊びに来る雛苺や金糸雀、 翠星石と蒼星石は来ていない。<br /> 家には僕と姉、 それと居候の真紅だけだ。居候と言っても、 非常に図々しい居候だが。<br /> 「ふわぁ……」<br /> 不意に欠伸が一つこぼれる。すると、 それに引っ張られるように眠気が襲ってきた。<br /> 僕はゴロンと寝転がると、 もぞもぞとコタツに潜り、 今まさに夢の世界への第一歩を踏み出そうとして――<br /> 「ジュン、 紅茶を煎れて頂戴」<br /> ――見事につまづいてしまった。<br /><br /><br /> 「イヤだ」<br /> 身体を起こしながら、 きっぱりとそう答える。普段だったらしてやるところだが、 今日はいかんせん寒い。コタツの魔力は普段の4割増しだ。<br /> 「あら?下僕が主人の命令を聞けないの?」<br /> 空になったポットを持ち上げながら、 真紅が言う。<br /> どちらが主人だよ……と言いたくなったが、 そんな事を言えば殴られるだけ。触らぬ神になんとやらってやつだ。<br /> しかし、 真紅の紅茶を煎れるためにコタツから出るのだけはイヤだ。今日のコタツの魔力は我らが神を越えている。これぞまさに新世界の神に違いない。<br /> それに、 こちらにはまだ切札がある。<br /> 「イヤだ。それでも紅茶を煎れろって言うんならチャンネル変えるぞ」<br /> ぷらぷらとリモコンを振りながら言う。真紅の表情が、 わずかに歪んだのが分かる。<br /> 沈黙が少し続く。すると、 真紅はゆっくりとポットを置いた。<br /> そして、 キツく握りしめた拳を高々と持ち上げる。<br /> 少し間を空けて、 僕はそれが意味することを理解した。僕もリモコンを置くと、 ゆっくりと拳を持ち上げる。<br /> そして、 一呼吸置いたところで――<br /><br /> 「最初はグー!じゃんけんぽん!」<br /><br /><br /><br /> 「……なんで私がジュンのお茶まで……」<br /> 台所から真紅がブツクさ言っているのが聞こえる。<br /> 僕がグー、 真紅がチョキで軍配は僕にあがり、 真紅自身の紅茶のついでに、 僕のほうじ茶も煎れてもらう事にした。<br /> 僕は相変わらずコタツの魔力の恩恵を受けている。その気になればすぐに夢の世界に飛び立てなくもない。<br /> 窓の外を見ると、 雪が積もり始めていた。今ごろ雛苺あたりは喜んでいる事だろう。<br /> 台所のほうへ視線を移すと、 真紅が急須にお茶っ葉を入れていた。普段見る事のない、 何とも珍しい光景である。<br /> しばらくすると、 紅茶の甘い香りとほうじ茶の香ばしい匂いが漂い始め、 もう少しすると、 カチャカチャと音を立てながら真紅が台所から戻ってきた。<br /><br /><br /><br /> 「感謝することね」<br /> 急須を僕の前に置き、 ポットをそのままコップに傾けながら真紅は言った。<br /> 「はいはい、 ありがとうございます。ご主人様」<br /> イマイチ心の込もっていないお礼を述べながら、 僕も湯呑みにお茶を注ぐ。<br /> 「まったくジュンは……」などと真紅は言っていたが、 ここはスルーだ。僕は注いだばかりのほうじ茶をすすった。<br /> 火傷しそうな熱さの中に、 何とも言えない香ばしさが広がる。<br /> 「へぇ、 煎れるの上手いじゃないか真紅」<br /> 予想外の美味しさにそう感想を述べると、 真紅は少し顔を赤らめた。<br /> 「あ、 当たり前なのだわ。下僕の貴方に出来て私に出来ない事なんてないのよ」<br /> プイと顔を背け、 そんな事を言う。素直じゃないと言うかなんと言うか。<br /> その後は、 ただゆったりとしていた。外の雪も、 相変わらずマイペースを保っている。<br /> 「なんか……悪くないな、 こういう休日も」<br /> 不意に、 僕はポツリと呟いた。こちらを向いた真紅の綺麗な青い目が、 僕を捉える。<br /> 「そうね、 悪くないわ。こういう休日も」<br /> その微笑みに、 トクンと心臓が高鳴り、 急に暑くなった気がしたが、 それはコタツの魔力と、 お茶の熱さのせいだろう。<br /> ゆったりとした、 休日の昼下がりだった。</p>

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