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「灯台の下 【５】」(2008/01/13 (日) 20:32:45) の最新版変更点
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<p>激しい吐息が、嬌声が部屋を木霊する。<br>
身体がぶつかり合う音が聞こえる。時が過ぎるほどに、それらは激しさを増す。 <br>
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｢･･っ、････んっ、･･･さくらだ、･････くうんっ･･好き、よぉっ･･･｣ <br>
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声にならない声を発する。<br>
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｢･･････｣ <br>
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だが、彼の耳には届いていなかった。<br>
快感に加えて、先程の違和感が彼の頭を駆け巡っていた。<br>
最早、彼は正常な思考は出来なかった。違和感は、朧気に具現化していく。<br>
そこは、緑色に統一された部屋だった。<br>
ベッドの傍には、カレンダーが掛けてある。何やら色々書き込みがしてある。<br>
これは、一体、誰の部屋だ？<br>
部屋が急速に回転し始める。<br>
それに伴って、ジュンの意識も回転し始める。<br>
──待ってくれ。その部屋にもう少しいたいんだ。奪わないでくれ。<br>
意識が薄れていく。麻酔を打たれた気分だ。<br>
薄れる意識の中、刹那、何かが彼にとある言葉を発音させた。<br>
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｢─────────────翠星石─────｣ <br>
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気がついたら、ベッドから落ちていた。<br>
頭を打ったようだ。ガンガン痛む。<br>
ふと見上げると、巴がいた。シーツで体を隠し、目に涙を浮かべている。<br>
どうやら、押し飛ばされたようだ。 <br>
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｢････柏葉？｣<br>
｢･･････どうして、あの子の名前が出るの？｣<br>
｢････？｣ <br>
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何の事だかさっぱりだった。 <br>
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｢どうして、どうして･････。やっと、桜田君に認めて貰えたと思ったのに･････やっと････｣<br>
｢････｣<br>
｢帰って･･｣<br>
｢柏葉────｣<br>
｢帰って！｣<br>
<br>
街道を走る。酷く身体が疲れている。<br>
やがて、大通りに出た。様々な店の照明が輝いている。<br>
彼の眼にはセピア調の光景しか写らなかった。しかし、彼は構わなかった。<br>
───嫌なことがあったな。アイツにでも愚痴ってやるか。───アイツ？<br>
家に着く。バイクを停め、エレベーターで五階まで上がる。<br>
彼の家の前に立つ。ドアノブを開けようとするが、開かない。<br>
どうやら鍵が掛かっているようだ。<br>
───いつもなら空いている筈なのに。──いつも？ <br>
リビングの明かりを点ける。ご飯が置いてない。アイツがいない。<br>
アイツは何処だ？部屋を探せども居ない。<br>
───そもそも、アイツって誰だ？解らない。思い出せない。<br>
でも、アイツは何処かにいる。探さなくちゃ。<br>
気が付くと、彼は追憶の大海を泳いでいた。<br>
真っ暗で前後左右が把握できない。<br>
彼は、泳ぎ出した。どこに向かっているのかわからない。<br>
でも、そっちに何かあると信じて。<br>
────アイツは、口うるさくて、いっつも僕の事を馬鹿にして───<br>
暫く泳ぐと、またしてもセピア調。セピアの海にいた。それでも泳ぎ続ける。<br>
────でも、本当は誰よりも優しくて、僕が苛められたときは必死にクラスの皆を説得して、イジメを無くしてくれたっけ。<br>
他にも、行事には五月蝿く、料理は得意で、そうだ、誰も知らないだろうが、首筋に小さいほくろがある。たまたま髪を結っていた時に見えたんだよな──────<br>
すると、前方に何かが見えてきた。部屋のようだ。ああ、アイツの部屋じゃないか。<br>
距離が近づく。真ん中のテーブルに誰かが座っている。ふと、こっちを見上げてきた。<br>
────後、長い髪で、目の色は妹と逆で──名前は──<br>
部屋に降り立つ。顔は朧気のままだ。<br>
──私は、だれですか？────お前は───<br>
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思い出した。<br>
刹那、様々な映像がフラッシュバックされていく。<br>
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笑っている、怒っている、泣いている、落ち込んでいる、<br>
喜んでいる、恥じらっている、いつもの、 <br>
<br>
────追憶の中のセピアの君が。 <br>
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｢───翠星石──。｣ <br>
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彼は、大声を出して泣いた。涙が止まらない。<br>
彼は胎児のように全身を丸めて、泣いた。<br>
そうだ。いつも近くに居てくれた。僕を支えてくれた。<br>
お前は僕の｢いつも｣だったんだ。 <br>
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｢翠星石･････逢いたいよぉ････｣<br>
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ジュンはバイクを走らせた。向かう先は翠星石の住むアパート。<br>
アパートに着くと、彼女の部屋の明かりがついてないのが見えた。<br>
それでも、部屋を一目見ておきたいと思い、合鍵で部屋に入った。<br>
さっきの通りだった。僕の記憶力も捨てたもんじゃないな。 <br>
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ふと、カレンダーに目を遣る。明後日の欄に初デート記念日と書き留めてあった。<br>
───まさか。確かに彼女は記念日に拘るが、<br>
何週間も前から書くほど用意周到な性格では決してない。<br>
ということは、書いたのは最近──── <br>
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｢嘘だろ････｣ <br>
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馬鹿だ。<br>
どうしてここまで自分を想っていてくれた人を僕は突き放したりなどしたのだろう。<br>
自分の愚かさに腹が立った。<br>
同時により一層、愛しい、逢いたい気持ちも増した。<br>
今の彼を突き動かす原動力はそれだけだった。<br>
ここにいないとなると、残りはあそこか────<br>
<br>
<br>
海は、波を取り戻しつつあった。</p>
