「「 what a wonderful world 」-1-」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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人生とは―よく道に例えられる。<br>
家にいるのか、外に出るか。歩いて行くのか、電車で行くのか。<br>
ほんの些細な…取るに足りないような行動でも、知らず知らず道は分かれていく…<br>
偶然や気まぐれでフラフラと、頼りなく進む道。<br>
でも…そんな中にも、きっと『必然』があるのだと思う。<br>
私の人生が道なのだとしたら…今、私がここに居る理由。<br>
それは…それはきっと、『彼女』と出会った事――。<br>
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~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~<br>
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♯1.「 水銀燈 」 -silver lining-<br>
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私の毎朝の習慣。<br>
いつもの公園を時間をかけてゆっくり周る。<br>
鳥の声を聴き、木漏れ日に身を休め、太陽の陽射しに目を細める。<br>
こうやって、日が沈むまで空を眺めるのも悪くない…そう思い、ゆっくり目を閉じた。<br>
柔らかい陽射しに、少しの間、身をまかせる。<br>
一番、好きな時間。一番、安らぐ瞬間。<br>
日々の生活の中で唯一、「私」という存在を忘れられるひと時。<br>
「私」…<br>
私は「欠陥品」として生まれてきた。<br>
人の形こそしていたが…生まれた時から今まで、私は一歩も歩く事ができなかった。<br>
一生、車椅子の上で過ごすしかない…。<br>
なんとなくは分かっていたが、改めて医師にそう言われた時は、やはり涙が止まらなかった。<br>
そんな私にとってこの公園の散歩は、唯一、悲しみを忘れる事のできる時間。<br>
木々の隙間から空を見上げる。<br>
いつか―現実味が無いのはわかっているが―私の背中に翼が生えて…空を自由に…<br>
そんな妄想をする。<br>
でも―<br>
現実的に考えて、それがいかに突拍子も無い事か。<br>
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「つまんなぁい…」<br>
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そう呟く。<br>
声に出した所で何一つ解決しないのは、自分が一番知っている。<br>
せっかくの大好きなひと時。こんな憂鬱な気分で過ごしたくない。<br>
そう考え、木陰に車椅子を止め、空を眺める事にした。<br>
鳥のさえずりが心地よく、木漏れ日が暖かい…。<br>
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いつの間にか、少し眠っていたようだ。<br>
鳥がバサバサと慌ただしく飛んでいく音で目が覚めた。<br>
時計を確認すると、ほんの数十分、まどろんでいたようだ。<br>
鳥達はまだ、騒がしくピーピー鳴いている。<br>
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「何かあるのかしらねぇ…? 」<br>
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独り言を呟きながら、騒ぎの中心 ― 鳥が飛び去るその中心に向けて、車椅子を進めた。<br>
いつもの私の場所。そこに突然、いつもと違う何か。<br>
その原因を確かめる為、進んでいく。<br>
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(この辺りだと思うけど…)<br>
暫く進んだ先で、辺りを見渡す。<br>
すると…<br>
遊歩道の脇、雑木林の奥に―少女と男が距離を開け向かい合っていた。<br>
声は聞こえない…でも…<br>
(デートをすっぽかされて、ケンカ。って訳じゃあ…なさそうね )<br>
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今にも殴り合いでも始めそうな二人を、木の陰に隠れて観察する。<br>
ここからでは、声は聞こえるが、内容まではうかがい知れない。<br>
男が何かを喋り、そして突然、少女に殴りかかった。<br>
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(危ない!) <br>
そう思うい、他人事ながらも一瞬身を固くする。<br>
しかし、少女は金色の髪をなびかせながら男の拳を軽々と受け流すと ―<br>
カウンターを決めるように、男の顔面に拳をめりこませた。 <br>
数メートルほど吹き飛んだ男は、フラフラと立ち上がると、脇目もふらずに逃げ出した。<br>
― こっちに向かって。<br>
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危うくぶつかりそうになるのをすんでのところで避けはした。<br>
が ― 車椅子からは落ちてしまった。<br>
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「痛いじゃないの…危ないわねぇ…」<br>
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文句の一つでも言ってやろうと振り返るも、男の姿はすでに無い。<br>
(ちょっと…何なのよぉ…)<br>
ぼやきを実際に口に出しかけた時、少女が駆け寄って来た。<br>
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「ごめんなさい!…怪我は無かった? 」<br>
「えぇ…私は大丈夫だけど…あの男の人は…? 」<br>
「それなら心配はいらないのだわ。ただの…強盗なのだわ」<br>
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そう言い、少女は私の前に屈みこむ。<br>
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「あら?あなた…足が悪いのね?ほら…つかまって」<br>
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綺麗な白い手を私に向かって差し出した。<br>
先程不審者を殴り飛ばしたとは思えない程、綺麗な手だった。<br>
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「えぇ…ありがとう…」<br>
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起き上がろうと彼女の手を取り――<br>
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その瞬間、体中の血液が静かに沸騰するような―不思議な感覚に襲われた。<br>
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…<br>
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何だろうこれは…?<br>
いつもより太陽が近い気がする…<br>
視界も、いつもより高い…<br>
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彼女の手を握った瞬間 ― 私は…<br>
生まれてから、1ミリも動いた事のない自分の足で―<br>
立ち上がっていた。<br>
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「え…? 」<br>
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状況が理解できず、ついつい間の抜けた声を出してしまう。<br>
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「これは…? 」<br>
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そう呟いた瞬間、足の力がカクンと抜け、そのまま車椅子に腰掛けた。<br>
何が起きたのか分からない。<br>
自分の足をキュッとつねってみる。<br>
以前と同じように、足の感覚は…全く無かった。<br>
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少女は一瞬、戸惑った顔をして… 目もあわせず、踵を返し、足早に歩き去ろうとする。<br>
その後姿に ― 訳が分からないながらも ― 我を取り戻し、慌てて声をかける。<br>
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「あなたッ! 一体今のは何なの!? 私に何をしたの!? 」<br>
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少女は足を止めず、去りながら答える。 <br>
「今のは…私が何かをした訳じゃあないのだわ… 」<br>
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車椅子を動かし、必死に少女の後を追いかける。 <br>
「待ちなさい! 」<br>
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声を無視して少女は歩き続ける。<br>
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「ちゃんと教えてくれるまで、ずっと追いかけるわよ!? 」<br>
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少女はそこでやっと足を止め、振り返った。<br>
少女の青い目に、精一杯に凄味を持たせた視線を投げかける。<br>
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「今の何なの? 教えて! 」<br>
「さっき言ったように…私にもよく分からない。<br>
そして… 全部夢だったと思って、早く帰りなさい 」<br>
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それだけ言うと、少女は再び歩き出した。。<br>
でも…負けられない。<br>
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「死ぬより恐ろしい事って何だと思う?死ぬより恐ろしい事って、絶望の事よ。<br>
私の足は、生まれてから1ミリも動いた事が無い。それは、私にとって絶望だった。<br>
さっき、私には何が起こったのか分からなかったし、あなたも分からないと言う…。<br>
それでも…私にとっての希望をあなたは見せた!<br>
いい…?<br>
死ぬより恐ろしい事とは、希望を失うことなのよ! 」<br>
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一気に言い放ち、少女の先に回りこむ。<br>
少女を睨む。<br>
互いの視線が、空中で絡み合う。<br>
空気が震えるような緊張感が広がる。<br>
そして…<br>
先に目を反らしたのは、少女の方だった。<br>
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「あなた… 何がしたいの? 」<br>
「そぉねぇ…友達にだったら、ちゃんと教えてくれるぅ? 」<br>
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その答えに、少女が一瞬笑ったような気がした。<br>
周囲に漂っていた緊張感は一瞬にして消えた。<br>
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少女は小さくため息をつくと、半ば呆れたように笑い…<br>
私の背後に回り、車椅子を押し始めた。<br>
暖かな木漏れ日の中、2人で公園の出口に進んでいった。<br>
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「そういえば、自己紹介がまだだったわね―私は真紅」<br>
「私は水銀燈よぉ。よろしく、真紅ぅ」<br>
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こうして私は真紅―不思議な少女、そして… 一番大切な友達と出会った。<br>
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♯.1 END<br>
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