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<p>みんなで温泉旅行<br> <br> 時は秋。<br> 桜田家では温泉旅行ペアの座を巡り、薔薇乙女+1が戦いを繰り広げていたが、遂に終わりを迎えようとしていた。<br> <br> 『さぁ~て、その温泉宿ペア宿泊券で誰を誘うのかしらぁ?』<br> <br> 後ろから抱き付いてきた水銀燈が、甘い言葉と殺人鬼の視線を持って僕に聞いてくる。<br> 同様の視線で僕を見つめる薔薇乙女+1。<br> 僕に一人選べって事か…<br> う~ん、ヘビに睨まれたカエルってこんな気分なんだろうか。<br> <br> 『あ~実はベジータに頼み込んで優待券を手に入れて貰ったんだ。これでみんなで行けば良いだろ?』<br> <br> ここだけの話だけど、ベジータは頼んだ理由を聞くとすんなり用意してくれた。<br> 曰わく、『ここ数日の学校は居づらくてたまらん。薔薇乙女+1が互いに放つ殺気のせいで、今日は9人欠席の10人早退だぞ。』とか。 <br> <br> 宿はどこにするか悩んだけど、薔薇雪華姉妹のお爺さんがオーナーの豪華な宿に格安で泊まれる事になった。<br> こうして、2泊3日の温泉旅行が僕のカレンダーに予定される事となった。<br> <br> <br> 『やっほ~。ジュン君久しぶり~♪』<br> <br> 集合場所の駅に到着して最初に声をかけてきたのは、なんとめぐさんだ。<br> つーか、なんでこの人がここに?<br> <br> 『勿論、私も参加するからに決まってるでしょ。楽しそうだしね。』<br> <br> まあ、人は多い方が楽しいし、なんて思っているとめぐさんが肩を組んで耳元で囁く。<br> <br> 『ほら、みんなの目。餓えた狼みたいでしょ?ジュン君を巡って修羅場間違い無しよ。で、スッゴく面白そうだから参加したの♪』<br> <br> うん、やっぱりこの人悪魔に違いない。<br> そして地獄の温泉旅行は幕を上げる… <br> <br> 電車内は他の客の視線をビシビシと感じる。<br> 温泉旅行なんだし、楽しみたいんだけどなあ…<br> <br> 『ジュン君酔い止めはいらないかい?』<br> 『カナの酔い止めの方が効くのかしら。』<br> …………………………<br> 『スコーン焼いてきたからどんどん食べるです。』<br> 『あら、ごめんあそばせ。あらかた食べてしまいましたわ。』<br> …………………………<br> 『ジュン、紅茶を淹れて頂戴。』<br> 『そんな事より一緒にうにゅー食べるの~♪』<br> …………………………<br> 『目的地に着くまで少し眠りましょうよぉ。私と一緒に。』<br> 『…寝るなんて…勿体無い…モンスター狩りに…行こ?』<br> 『ゲームなんて駄目。それより王道のトランプしましょうよ。』<br> …………………………<br> <br> めぐさん、笑ってないで止めて下さいよ…<br> 胃薬をビンで持ってきて正解だったな… <br> <br> キリキリと胃の辺りが痛む。<br> 周囲の客が殆ど居なくなり、人の目を気にしなくなった薔薇乙女+1がいよいよ邪悪なオーラを帯びてきた。<br> おりしも昼時、それぞれ自慢の手作り弁当を手に僕へとにじりよってくる姿は…一週間空腹でさ迷ったハイエナの群れに肉を放り込んだ…と言えば何分の一かは伝わるかな。<br> <br> 『私の作った特製唐揚げよぉ。はぁい、あ~んしてぇ?』<br> 『(パクッ)ん、水銀燈は味付けが濃いです。代わりに翠星石のミニハンバーグを食ってみるですよ?』<br> 『(パクッ)少し焦げてる。それより桜田君用のハート型サンドイッチ食べてみて?』<br> 『(パクッ)具のバランス…イマイチ…ここはばらしー印の…コロッケ食いねぇ…』<br> 『(パクッ)カボチャコロッケは邪道よ。今日のカナの出汁巻き卵は傑作かしら!』 <br> <br> 『ポテトサラダ作ったんだ。はい、ジュン君。』<br> 『ほら、私が作ったエビフライよ。有り難く頂きなさい?』<br> 『ヒナお手製のミニグラタン、とっても美味しいのよ?』<br> 『(パクッ)むぐむぐ…どれもまあまあって感じですわね。はい、ジュン様。愛情たっぷりの特大おにぎりを一緒に食べましょう?』<br> <br> ああ…最後の客が離れていく…<br> 今度はベジータと笹塚で旅行に行きたいなあ…<br> まあ、現実逃避したところで目の前の地獄からは逃げられない。<br> カバンから弁当を出そうとすると、手紙が入っていた。<br> <br> 『みんながジュン君のお弁当を作るって言っていたので、お弁当はないです。真紅ちゃん達から貰ってね。<br> お姉ちゃんより』<br> <br> あんのバカのりめ…<br> ある意味世の男性の夢のような状況で、僕は深々と溜め息をついたのだった…<br> <br> つづく</p>

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