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<div class="mes">『保守かしら』<br> 2007年8月15日 <br> <br>  ヴァイオリンの稽古に行って帰ってきたら、おねえちゃんが書類とにらめっこしてた。<br>  おねえちゃんはレンズの下半分だけフレームの着いた赤いめがねをして、スーツを着ててカッコよかったかしら。<br>  人形展の実施について、お姉ちゃんたち主催者と、銀行の人と、会場の会社の人と話し合ってきて帰ってきて、 もう一度書類を見てたんだって。<br> <br>  カナは紅茶とオレンジジュースを二つ入れてきて、人形展の話を色々聞いたかしら。<br>  おねえちゃんが一番悩んでいるのは人形展の予算。<br>  ぎりぎりちょびっと足りないんだって。<br>  「一葉の爺さんを動かせなかったのが痛いわ、この地域の文化事業ならたいてい出資するのに…」<br>  おねえちゃんがこういう事を言うのは珍しいかしら。それに穏やかそうな一葉さんがこの話を蹴ったのも、なんだか 変な感じ。だからカナは聞いたの。<br>  「一葉さんは人形が嫌いなのかしら?」</div> <p> </p> <div class="header"> 「ま、そんなところよ」<br>  「嫌いなら仕方ないかしら」<br>  って言ったら、<br>  「貴方は本当に単純ねぇ」って笑われちゃった。<br>  その後、おねえちゃんの顔がしゅっと締まったかしら。<br>  「けれど、そういうことね。いまさら後に引く気はないし。後はやるだけよ」<br>  「スーツ着て肩がこったから、着替えてくるわぁ」<br>  っていいながら、おねえちゃんは自分の部屋に向かおうとしたかしら。<br>  そのとき「あ、そうそう」ってお姉ちゃんが振り向いたの。<br> <br>  「1日平均観客動員が1000人わったら屋敷売るわよぉ」<br>  おねえちゃん笑いながら冗談ぽく言ってたけれど、けっこう本気だったかしら。<br>  だからカナは<br>  「別にかまわないかしら~」<br>  って、軽くOKしておいたかしら。 <br> <br> <br> <hr></div> <p><br> <br> 『保守かしら』<br> 2007年8月17日<br> <br>  今日もおねえちゃんはお金の話をしてた。<br>  5人くらいお客様が来てて、その中には槐さんもいたかしら。<br>  カナはキッチンで卵アイスを作ってたんだけれど、時々応接室のお話が聞こえちゃって盗み聞きみたいになるし、<br> 2階に行こうとしたの。</p> <p> 応接室の前を通ったら、おねえちゃんの「賛成できないわ」って低い声が聞こえたのね。<br>  おねえちゃんが何かに反対していて、ほかの人たちが説得していたみたい。<br>  お客さんたちが帰った後、おねえちゃんはすぐアトリエに入っちゃった。<br>  カナが声をかけても返事もしてくれなかったし、すごく怖い顔をしてた。<br>  <br>  どうしても気になって、槐さんのお店に聞きに行ったかしら。 <br>  槐さんはすぐに理由を教えてくれたわ。<br>  <br>  お父様の人形を持っている人が、その人形を貸してくれることになって、人形展で展示することになったんだって。<br>  けれどカナは不思議に思ったかしら。だって、お父様の人形なんて、うちにたくさんあるもの。<br>  「水銀燈は屋敷に師匠の人形があることを秘密にしているんだよ」<br>  「なんでかしら?」<br>  槐さんはいつもの落ち着いた低い声で教えてくれた。<br>  「ローゼンの人形展になってしまうことを避けたかったのさ。水銀燈は。<br>  師匠の人形は個人所有が多くてね。あまり世に出てこない。その名声に反比例してね。<br>  だからこそローゼンの人形展にならないように気を使っていたのさ。今回の出発点は僕や水銀燈、<br> 今の人形師たちのものだから。実際、今も水銀燈は屋敷にある人形のことは秘密にしているよ。<br>  けれど、ローゼンの人形が展示されるなら、出すお金も増やすと銀行の人にも言われてしまってね。<br>  仲間にもこれで人形展が開催できると喜ぶものが多かった」<br>  槐さんはうれしくなさそう。</p> <p><br>  その時、お茶を持ってきてくれた白崎さんがなぞなぞを出してきたのよ。<br>  「そうそう、最近師匠の作品が競売に出たんだがいくらだったと思う?」<br>  お父様は有名だったらしいから、すごく高いんじゃないかとカナは思ったの。<br>  「1000万円くらいかしら」<br>  「代表作でもない、小さな作品さ」<br>  「じゃあ500万円くらい?」<br>  白崎さんはちらっと楽しそうに笑ったかしら。<br>  「5億だったよ」<br>  「うえ!?」<br>  凄すぎて変な声が出ちゃった。白崎さんは歌うみたいに続けたかしら。<br>  「売りたくもないし、出したくもない。まぁ、僕好みの話かな」</p> <p> </p> <p> 他にも槐さんと白崎さんはお父様のことを色々教えてくれた。<br>  お父様の作品は世界中に熱心なファンがいること。<br>  一日に何万人も人が来る美術館の目玉になってること。<br>  お父様とその作品のことを題材にしたテレビとか本も出てること。<br>  <br>  今度本とか探してみようっと。おねえちゃんには人形展が終わるまで聞かないほうがいいのかしら?</p> <p> </p> <hr> <p><br> <br> 『保守かしら』<br> 2007年8月20日<br> <br>  今日もおねえちゃんはアトリエにこもりっきり。<br>  お客様との打ち合わせの時くらいにしか出てきてくれないかしら。<br>  最近は全然お話もできないかしら…。<br>  アトリエに向かってヴァイオリンを弾くけれど、うぅ…おねえちゃんに会いたい。</p> <p> 今日は道を歩いていたら、かばんを持った真紅に見かけたかしら。<br>  お話したら、<br>  「あなたのおねえちゃんの人形展に貸しだす前に、見ておいてもらおうと思って。」<br>  だって。<br>  <br>  お父様の人形を貸してくれる人って、真紅のことだったのね。<br>  びっくりかしら。</p>
<div class="mes">『保守かしら』<br /> 2007年8月15日 <br /><br /> ヴァイオリンの稽古に行って帰ってきたら、おねえちゃんが書類とにらめっこしてた。<br /> おねえちゃんはレンズの下半分だけフレームの着いた赤いめがねをして、スーツを着ててカッコよかったかしら。<br /> 人形展の実施について、お姉ちゃんたち主催者と、銀行の人と、会場の会社の人と話し合ってきて帰ってきて、 もう一度書類を見てたんだって。<br /><br /> カナは紅茶とオレンジジュースを二つ入れてきて、人形展の話を色々聞いたかしら。<br /> おねえちゃんが一番悩んでいるのは人形展の予算。<br /> ぎりぎりちょびっと足りないんだって。<br /> 「一葉の爺さんを動かせなかったのが痛いわ、この地域の文化事業ならたいてい出資するのに…」<br /> おねえちゃんがこういう事を言うのは珍しいかしら。それに穏やかそうな一葉さんがこの話を蹴ったのも、なんだか 変な感じ。だからカナは聞いたの。<br /> 「一葉さんは人形が嫌いなのかしら?」</div> <p> </p> <div class="header"> 「ま、そんなところよ」<br /> 「嫌いなら仕方ないかしら」<br /> って言ったら、<br /> 「貴方は本当に単純ねぇ」って笑われちゃった。<br /> その後、おねえちゃんの顔がしゅっと締まったかしら。<br /> 「けれど、そういうことね。いまさら後に引く気はないし。後はやるだけよ」<br /> 「スーツ着て肩がこったから、着替えてくるわぁ」<br /> っていいながら、おねえちゃんは自分の部屋に向かおうとしたかしら。<br /> そのとき「あ、そうそう」ってお姉ちゃんが振り向いたの。<br /><br /> 「1日平均観客動員が1000人わったら屋敷売るわよぉ」<br /> おねえちゃん笑いながら冗談ぽく言ってたけれど、けっこう本気だったかしら。<br /> だからカナは<br /> 「別にかまわないかしら~」<br /> って、軽くOKしておいたかしら。 <br /><br /><br /><hr /></div> <p><br /><br /> 2007年8月17日<br /><br /> 今日もおねえちゃんはお金の話をしてた。<br /> 5人くらいお客様が来てて、その中には槐さんもいたかしら。<br /> カナはキッチンで卵アイスを作ってたんだけれど、時々応接室のお話が聞こえちゃって盗み聞きみたいになるし、<br /> 2階に行こうとしたの。</p> <p> 応接室の前を通ったら、おねえちゃんの「賛成できないわ」って低い声が聞こえたのね。<br /> おねえちゃんが何かに反対していて、ほかの人たちが説得していたみたい。<br /> お客さんたちが帰った後、おねえちゃんはすぐアトリエに入っちゃった。<br /> カナが声をかけても返事もしてくれなかったし、すごく怖い顔をしてた。<br /><br /> どうしても気になって、槐さんのお店に聞きに行ったかしら。 <br /> 槐さんはすぐに理由を教えてくれたわ。<br /><br /> お父様の人形を持っている人が、その人形を貸してくれることになって、人形展で展示することになったんだって。<br /> けれどカナは不思議に思ったかしら。だって、お父様の人形なんて、うちにたくさんあるもの。<br /> 「水銀燈は屋敷に師匠の人形があることを秘密にしているんだよ」<br /> 「なんでかしら?」<br /> 槐さんはいつもの落ち着いた低い声で教えてくれた。<br /> 「ローゼンの人形展になってしまうことを避けたかったのさ。水銀燈は。<br /> 師匠の人形は個人所有が多くてね。あまり世に出てこない。その名声に反比例してね。<br /> だからこそローゼンの人形展にならないように気を使っていたのさ。今回の出発点は僕や水銀燈、<br /> 今の人形師たちのものだから。実際、今も水銀燈は屋敷にある人形のことは秘密にしているよ。<br /> けれど、ローゼンの人形が展示されるなら、出すお金も増やすと銀行の人にも言われてしまってね。<br /> 仲間にもこれで人形展が開催できると喜ぶものが多かった」<br /> 槐さんはうれしくなさそう。</p> <p><br /> その時、お茶を持ってきてくれた白崎さんがなぞなぞを出してきたのよ。<br /> 「そうそう、最近師匠の作品が競売に出たんだがいくらだったと思う?」<br /> お父様は有名だったらしいから、すごく高いんじゃないかとカナは思ったの。<br /> 「1000万円くらいかしら」<br /> 「代表作でもない、小さな作品さ」<br /> 「じゃあ500万円くらい?」<br /> 白崎さんはちらっと楽しそうに笑ったかしら。<br /> 「5億だったよ」<br /> 「うえ!?」<br /> 凄すぎて変な声が出ちゃった。白崎さんは歌うみたいに続けたかしら。<br /> 「売りたくもないし、出したくもない。まぁ、僕好みの話かな」</p> <p> </p> <p> 他にも槐さんと白崎さんはお父様のことを色々教えてくれた。<br /> お父様の作品は世界中に熱心なファンがいること。<br /> 一日に何万人も人が来る美術館の目玉になってること。<br /> お父様とその作品のことを題材にしたテレビとか本も出てること。<br /><br /> 今度本とか探してみようっと。おねえちゃんには人形展が終わるまで聞かないほうがいいのかしら?</p> <p> </p> <hr /><p><br /><br /> 2007年8月20日<br /><br /> 今日もおねえちゃんはアトリエにこもりっきり。<br /> お客様との打ち合わせの時くらいにしか出てきてくれないかしら。<br /> 最近は全然お話もできないかしら…。<br /> アトリエに向かってヴァイオリンを弾くけれど、うぅ…おねえちゃんに会いたい。</p> <p> 今日は道を歩いていたら、かばんを持った真紅に見かけたかしら。<br /> お話したら、<br /> 「あなたのおねえちゃんの人形展に貸しだす前に、見ておいてもらおうと思って。」<br /> だって。<br /><br /> お父様の人形を貸してくれる人って、真紅のことだったのね。<br /> びっくりかしら。</p>

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