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Beautiful life」(2006/03/22 (水) 20:27:38) の最新版変更点

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<font size="2">それは、良くある日常。<br> 平和で、心地の良い一日。<br> 彼女達の休日は、こんな朝から始まる───<br> <br> <br> <br> ふわりと漂う味噌汁の香りで蒼星石は目を醒ました。<br> 薄手のカーテン越しに射す朝日は、外が好天である事を容易に悟らせる。<br> 雀がちゅんちゅんと鳴き、それに時折季節の小鳥の声も混ざっていた。<br> 布団を捲ると、冷えながらもどこか淀んだ空気が体温を奪う。<br> ふるりと身体を震わせながらカーテンを開け、晴天である外へ向けて窓を開け放った。<br> 昨夜のうちに多少の雨が降ったのだろう。塵の感じられない清浄な空気が風と共に部屋を舞った。<br> 瞳を刺激する朝日に目を細めながら庭を見ると、老いた男性が庭木の手入れを行っている。<br> 未だ夢から醒めきっていない、少々とぼけた印象の声で挨拶をした。<br> <br> 「おはようございます、おじいさん」<br> <br> 挨拶に振り返る老人は、深い皺を顔に刻み込みつつ、柔和な表情を作り上げていた。<br> 見るからに人の良さそうな、いわゆる好々爺である。<br> <br> 「おはよう、かずき…じゃない、蒼星石」<br> <br> どうもいかんな、と苦笑いをしながら男性─柴崎元治は薄くなった頭頂部を掻いた。<br> 彼は妻との二人暮し。息子であった和樹という少年を幼い時分に亡くして以来、子供に恵まれる事は無かった。<br> そんな二人の下へ蒼星石と翠星石の姉妹がやって来たのは1年前の雨の日。<br> 考古学者である両親が研究の都合で日本を離れる事になった為、まだ学生である二人は両親に縁のある柴崎夫妻を頼って訪れたのだ。<br> 子供の居ない夫妻にとって、彼女達は娘のようでありまた孫のようでもあった。<br> 二人の頼みを二つ返事で快諾し、それ以来彼女達は柴崎夫妻と共に暮らしている。<br> <br> 「いい天気ですね」<br> 「ああ、そうじゃな。御覧、朝顔が咲いておるよ」<br> <br> 庭の一角で花を咲かせている朝顔。<br> それは彼女達が訪れた翌日に植えられたものだった。<br> 青いものは蒼星石が、紫のものは翠星石が選び、それぞれ隣同士に植えた。<br> 蔓が絡み合っている様子は二人の絆を表しているようであり、また離れた時の頼りなさを表しているようでもあった。<br> <br> 「翠星石はまだ寝ているのかね」<br> 「えーっと……」<br> <br> 隣室の物音を伺うように耳を欹てる。<br> そもそも今日は休日である。翠星石は休日ともなれば起こさない限り昼まで寝ているのが常であった。<br> <br> 「多分、寝てます」<br> <br> 少し困ったような表情で答える蒼星石を見て、はははと柴崎翁は笑った。<br> <br> 「今日は出かけるのじゃろう。起こしておあげ。マツが朝食を用意しているはずじゃ」<br> 「はい、そうします」<br> <br> 翁に手を振りながら窓を離れ、自室の襖をゆっくりと開け放つ。<br> 日本家屋である柴崎邸は全て和室で構成されており、普通に生活している限りドアの開け閉めによる音が響く事はない。<br> 隣室である翠星石の私室の襖を開ける前に、念のため声をかけた。<br> <br> 「おはよう翠星石、起きてるかい」<br> 「………」<br> <br> へんじがない、ただのしかばねのようだ。そんな台詞が頭をよぎる。<br> 案の定翠星石は眠っているようだ。ゆっくりと襖を開けると、和室らしからぬ装いの室内が目に入った。<br> 緑色のカーペットを敷き、隅にはベッド。ガラス張りの小さなテーブルにシルバーの組み立てラックがいくつか。<br> 隅には網がかけられており、「たんてい犬くんくん」の縫いぐるみがそこに鎮座していた。<br> 蒼星石は足音を殺して翠星石の眠るベッドへと歩みを進める。<br> 比較的寝相がよろしくない翠星石だが、今日は珍しく布団が乱れていなかった。<br> すぴーと寝息を立てながら幸せそうに眠っている。<br> 普段の刺が1000本くらい立っているような言動とは大違いの、可愛らしい寝顔。<br> <br> 「無防備な寝顔晒しちゃって…朝だよ、翠星石」<br> <br> ふふ、と笑いながら朝を告げるが、翠星石が起きる様子は無い。<br> これもいつもの事であり、大抵この後揺さぶって起こすのだが──<br> <br> 「僕が起こしても起きない悪い子には御仕置が要るかな?」<br> <br> にへら。笑顔が少々だらしなくなる。<br> 蒼星石がこの顔をする時は大抵姉への悪戯を思いついた時であり、事実蒼星石は掛け布団の下に手を潜らせていた。<br> 起こさないように、慎重に中を探る。柔らかな布に手が触れた。<br> それは翠星石の纏うパジャマの裾であり、その先には恐らく肌があるであろう。<br> ゆっくりと指を進めると、目論見通り滑らかな肌が指先に触れた。<br> 感触からすると腕ではなく身体、それも恐らく腹部であろう。<br> つつつつっ…と指を滑らせると、ぴくんと翠星石の身体が跳ねた。<br> むー、と唸りながら身じろぎをするが、それでも蒼星石の「探索」は止まらない。<br> 脇腹を撫で、さらに腕を潜らせると少々の凹み。<br> <br> 「翠星石、そろそろ起きないと凄いことしちゃうよー………」<br> <br> 臍の周辺を指で撫でながら耳元で囁いてやるも、眉根を寄せて「うー」と唸るだけであった。ねぼすけもここまで来れば大したものである。<br> 仕方ないなと思うと同時にチャンスとも思う蒼星石。<br> 僕、いつからこんな風になっちゃったんだろ?という疑問が頭に浮かぶが、しかしそれも一瞬で消え去った。<br> 起こさぬようにするりと手を抜き、これまた起こさぬようにするりとベッドへと潜り込む。<br> シングルベッドに二人は少々手狭だが、彼女達は割合華奢である為苦にはならなかった。<br> 布団に篭った温もりが心地よい。そっと翠星石の頭を抱き寄せてみる。<br> むにゅむにゅとなにやら寝言を言っているが、やはり眠りは醒めない。<br> <br> 「翠星石ー、起きてー…」<br> <br> 四度、起床を促す言葉。しかし、やはりすぴーと寝息を立てながら眠るのみの翠星石。<br> ここまで来たら強行手段を取るしかない。その強行手段は、蒼星石にとって歓迎すべきものであった。<br> 眠っている翠星石のパジャマのボタンを外し、きめの細かな素肌に触れた。<br> <br> 「…蒼星石、何してるですか。このすけべ」<br> <br> 唐突に、蒼星石の胸元から、声がした。<br> ぎぎぎぎっと視線を落としてみると、ジト目の翠星石が見上げている。<br> <br> 「お、起きてたの?」<br> 「たりめーです。素肌触られて寝てられるほど翠星石は鈍感じゃねーですよ」<br> 「ずるい。騙したね」<br> 「騙したとは人聞き悪いですね」<br> <br> 自分のやったことを棚にあげてムクレる蒼星石と、それに対して抗議する翠星石。<br> これもまた日常のやりとりであり、この後の行動は常に決まっている。<br> 翠星石が蒼星石の背に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。<br> <br> 「翠星石は、蒼星石と一緒の布団で目覚めかけの心地よい気分を楽しみたかっただけですよ」<br> 「甘えん坊だなあ、翠星石は」<br> 「人の事言える立場ですか蒼星石。人が寝ている布団に入って来て」<br> <br> 寝ぼけ眼で指摘する翠星石と、それに微笑みかける蒼星石。<br> 一つの布団で互いの温もりと幸せを感じているうちに、淡い睡魔に揺さぶられる。<br> 二人はそれに逆らう事をせず、心地よい幸福感の中、夢と現実の間を暫く彷徨っていた。<br> 結局二人が起きたのは、昼も近くなった頃であったという。</font>
<font size="2">それは、良くある日常。<br> 平和で、心地の良い一日。<br> 彼女達の休日は、こんな朝から始まる───<br> <br> <br> -Beautiful life~おはようと共に~-<br> <br> <br> ふわりと漂う味噌汁の香りで蒼星石は目を醒ました。<br> 薄手のカーテン越しに射す朝日は、外が好天である事を容易に悟らせる。<br> 雀がちゅんちゅんと鳴き、それに時折季節の小鳥の声も混ざっていた。<br> 布団を捲ると、冷えながらもどこか淀んだ空気が体温を奪う。<br> ふるりと身体を震わせながらカーテンを開け、晴天である外へ向けて窓を開け放った。<br> 昨夜のうちに多少の雨が降ったのだろう。塵の感じられない清浄な空気が風と共に部屋を舞った。<br> 瞳を刺激する朝日に目を細めながら庭を見ると、老いた男性が庭木の手入れを行っている。<br> 未だ夢から醒めきっていない、少々とぼけた印象の声で挨拶をした。<br> <br> 「おはようございます、おじいさん」<br> <br> 挨拶に振り返る老人は、深い皺を顔に刻み込みつつ、柔和な表情を作り上げていた。<br> 見るからに人の良さそうな、いわゆる好々爺である。<br> <br> 「おはよう、かずき…じゃない、蒼星石」<br> <br> どうもいかんな、と苦笑いをしながら男性─柴崎元治は薄くなった頭頂部を掻いた。<br> 彼は妻との二人暮し。息子であった和樹という少年を幼い時分に亡くして以来、子供に恵まれる事は無かった。<br> そんな二人の下へ蒼星石と翠星石の姉妹がやって来たのは1年前の雨の日。<br> 考古学者である両親が研究の都合で日本を離れる事になった為、まだ学生である二人は両親に縁のある柴崎夫妻を頼って訪れたのだ。<br> 子供の居ない夫妻にとって、彼女達は娘のようでありまた孫のようでもあった。<br> 二人の頼みを二つ返事で快諾し、それ以来彼女達は柴崎夫妻と共に暮らしている。<br> <br> 「いい天気ですね」<br> 「ああ、そうじゃな。御覧、朝顔が咲いておるよ」<br> <br> 庭の一角で花を咲かせている朝顔。<br> それは彼女達が訪れた翌日に植えられたものだった。<br> 青いものは蒼星石が、紫のものは翠星石が選び、それぞれ隣同士に植えた。<br> 蔓が絡み合っている様子は二人の絆を表しているようであり、また離れた時の頼りなさを表しているようでもあった。<br> <br> 「翠星石はまだ寝ているのかね」<br> 「えーっと……」<br> <br> 隣室の物音を伺うように耳を欹てる。<br> そもそも今日は休日である。翠星石は休日ともなれば起こさない限り昼まで寝ているのが常であった。<br> <br> 「多分、寝てます」<br> <br> 少し困ったような表情で答える蒼星石を見て、はははと柴崎翁は笑った。<br> <br> 「今日は出かけるのじゃろう。起こしておあげ。マツが朝食を用意しているはずじゃ」<br> 「はい、そうします」<br> <br> 翁に手を振りながら窓を離れ、自室の襖をゆっくりと開け放つ。<br> 日本家屋である柴崎邸は全て和室で構成されており、普通に生活している限りドアの開け閉めによる音が響く事はない。<br> 隣室である翠星石の私室の襖を開ける前に、念のため声をかけた。<br> <br> 「おはよう翠星石、起きてるかい」<br> 「………」<br> <br> へんじがない、ただのしかばねのようだ。そんな台詞が頭をよぎる。<br> 案の定翠星石は眠っているようだ。ゆっくりと襖を開けると、和室らしからぬ装いの室内が目に入った。<br> 緑色のカーペットを敷き、隅にはベッド。ガラス張りの小さなテーブルにシルバーの組み立てラックがいくつか。<br> 隅には網がかけられており、「たんてい犬くんくん」の縫いぐるみがそこに鎮座していた。<br> 蒼星石は足音を殺して翠星石の眠るベッドへと歩みを進める。<br> 比較的寝相がよろしくない翠星石だが、今日は珍しく布団が乱れていなかった。<br> すぴーと寝息を立てながら幸せそうに眠っている。<br> 普段の刺が1000本くらい立っているような言動とは大違いの、可愛らしい寝顔。<br> <br> 「無防備な寝顔晒しちゃって…朝だよ、翠星石」<br> <br> ふふ、と笑いながら朝を告げるが、翠星石が起きる様子は無い。<br> これもいつもの事であり、大抵この後揺さぶって起こすのだが──<br> <br> 「僕が起こしても起きない悪い子には御仕置が要るかな?」<br> <br> にへら。笑顔が少々だらしなくなる。<br> 蒼星石がこの顔をする時は大抵姉への悪戯を思いついた時であり、事実蒼星石は掛け布団の下に手を潜らせていた。<br> 起こさないように、慎重に中を探る。柔らかな布に手が触れた。<br> それは翠星石の纏うパジャマの裾であり、その先には恐らく肌があるであろう。<br> ゆっくりと指を進めると、目論見通り滑らかな肌が指先に触れた。<br> 感触からすると腕ではなく身体、それも恐らく腹部であろう。<br> つつつつっ…と指を滑らせると、ぴくんと翠星石の身体が跳ねた。<br> むー、と唸りながら身じろぎをするが、それでも蒼星石の「探索」は止まらない。<br> 脇腹を撫で、さらに腕を潜らせると少々の凹み。<br> <br> 「翠星石、そろそろ起きないと凄いことしちゃうよー………」<br> <br> 臍の周辺を指で撫でながら耳元で囁いてやるも、眉根を寄せて「うー」と唸るだけであった。ねぼすけもここまで来れば大したものである。<br> 仕方ないなと思うと同時にチャンスとも思う蒼星石。<br> 僕、いつからこんな風になっちゃったんだろ?という疑問が頭に浮かぶが、しかしそれも一瞬で消え去った。<br> 起こさぬようにするりと手を抜き、これまた起こさぬようにするりとベッドへと潜り込む。<br> シングルベッドに二人は少々手狭だが、彼女達は割合華奢である為苦にはならなかった。<br> 布団に篭った温もりが心地よい。そっと翠星石の頭を抱き寄せてみる。<br> むにゅむにゅとなにやら寝言を言っているが、やはり眠りは醒めない。<br> <br> 「翠星石ー、起きてー…」<br> <br> 四度、起床を促す言葉。しかし、やはりすぴーと寝息を立てながら眠るのみの翠星石。<br> ここまで来たら強行手段を取るしかない。その強行手段は、蒼星石にとって歓迎すべきものであった。<br> 眠っている翠星石のパジャマのボタンを外し、きめの細かな素肌に触れた。<br> <br> 「…蒼星石、何してるですか。このすけべ」<br> <br> 唐突に、蒼星石の胸元から、声がした。<br> ぎぎぎぎっと視線を落としてみると、ジト目の翠星石が見上げている。<br> <br> 「お、起きてたの?」<br> 「たりめーです。素肌触られて寝てられるほど翠星石は鈍感じゃねーですよ」<br> 「ずるい。騙したね」<br> 「騙したとは人聞き悪いですね」<br> <br> 自分のやったことを棚にあげてムクレる蒼星石と、それに対して抗議する翠星石。<br> これもまた日常のやりとりであり、この後の行動は常に決まっている。<br> 翠星石が蒼星石の背に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。<br> <br> 「翠星石は、蒼星石と一緒の布団で目覚めかけの心地よい気分を楽しみたかっただけですよ」<br> 「甘えん坊だなあ、翠星石は」<br> 「人の事言える立場ですか蒼星石。人が寝ている布団に入って来て」<br> <br> 寝ぼけ眼で指摘する翠星石と、それに微笑みかける蒼星石。<br> 一つの布団で互いの温もりと幸せを感じているうちに、淡い睡魔に揺さぶられる。<br> 二人はそれに逆らう事をせず、心地よい幸福感の中、夢と現実の間を暫く彷徨っていた。<br> 結局二人が起きたのは、昼も近くなった頃であったという。</font>

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