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『友情』についての考察―3頁目」(2007/08/27 (月) 02:59:39) の最新版変更点

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<p>今朝。<br> 朝一番に真紅にたずねようと思っていた。<br> あれは『冗談』だったんだよね?<br> って。<br> 「おっはよーなのー!」<br> 「おはようございます」<br> 雛苺。巴さんもいる。<br> 「おはよう」<br> 僕はそつなく挨拶を返したはずだった。<br> 「どうしたの?なんだか元気ないのよー?」<br> そうなんだよ。どうしようかな。君は僕の『味方』かい?<br> 人の心ほど移ろいやすくわからないものはない。<br> もし今君が『味方』でも、午後にはどうだかわからない。<br> 「昨日、図書館でもあまり元気がありませんでしたね。<br> 声をかけようか迷ったんですが、あまりにも本に見入っているようだったので、声はかけなかったんですけど…」<br> そうか、気づかれてたのか。まあ、どっちでもいいけど。<br> 「そうだったんだ。声かけてくれたらよかったのに。」<br> 努めて明るく返す。その実、僕はびくびくしていた。<br> なんでお前なんかに声をかけなければいけないんだ、といわれたらどうしようかと。<br> 「そーなのー!でも、巴に言われて振り返ったらもう帰っちゃってたの…。残念だったのー」<br> 「へー…」<br> まずい。会話が続かない。<br> 「ごめん、僕先行くね。花の水遣り当番なんだ。」<br> 「がんばってなのー!」<br> <br> 「本当に、蒼星石は花木が好きなのね」<br> 「違うの。蒼星石はうそをついてるの。図書館であったときから、なんだか様子がおかしかったの。」<br> 「雛苺…?」<br> 「それに…花の水遣りは、今日は翠星石のはずなの。やっぱり、蒼星石変なのよ」</p> <p> </p> <p>「おはよう。」<br> とりあえず、カナリアに挨拶をした。常日頃親しく会話を交わしている人たちが怖い。<br> それでも、話をしないわけにはいかない。何か変だと思われてはいけないのだ。<br> カナリアとの会話も、やはり長くは続かなかった。<br> 「おはよぉ」<br> ん?この人は水銀燈…さんだったかな?あんまり喋ったことないのに。<br> でも、そのおかげでかえって話しやすい。罵られるとしても、それは『裏切られる』ことにはならないのだから。<br> 「おはよう。水銀燈さん。」<br> 「水銀燈でいいわぁ。」<br> 「ありがとう。それで、水銀燈。どうして僕に話しかけたの?」<br> 本当に、わからない。しかも、このタイミングで。<br> 「べつにぃ。なんとなくよぉ。それにしても、顔色悪いわねぇ。どうしたの?ヤクルトでも飲むぅ?」<br> 「ありがとう。もらうよ。」<br> 「はい、どぅぞ」<br> ヤクルトなんて久しぶりだな。そう思いながら、僕は真紅を探した。<br> けれど、来ていないようだ。確かに、彼女がこんなに早く来るわけもない。<br> いつもギリギリに、真紅にあわせて通っていたのを思い出した。<br> それから、一週間もたっていないのに、まるで何世紀も前の出来事のような気がした。<br> 「乳酸菌は体にいいのよぉ。…本当に大丈夫なの?今にも倒れそうよ。」<br> 「うん。大丈夫だよ。少し嫌なこと思い出しただけだから。」<br> 「……真紅かしらぁ?」<br> 「えっ?」<br> 「違うならいいんだけどぉ。気をつけなさぁい。」<br> それだけ言って、彼女は自分の席に戻っていった。</p> <p>水銀燈も、何かあったんだろうか。<br> それにしても、あんなに柔らかいしゃべり方をする人なのに、何で『真紅』と口にするときだけ竜巻のような嫌悪感に染まっていたのだろうか。<br> いつか、聞いてみよう。彼女と僕は今は『他人』だ。嫌がられても、それほど怖くはない。<br> 今度、話してみよう。なに、怖れる事はない。『友情』を感じ始める前に、もとどうりの『他人』に戻ればいいだけさ。<br> チャイムが鳴った。時が走り去り、もう昼休み。<br> 真紅に、聞かなければ。あの言葉の真意を。<br> そう思ったけど、翠星石やジュン君、ベジータや雛苺のいる前で話せるわけがない。<br> 放課後だな。そう思いながら、机を寄せた。<br> <br> 「今日のお弁当は翠星石が作ってんですよ!どうです?うまそうでしょう?」<br> 「わー、本当にうまそうだな。少しくれよ。」<br> 「い、いいですけどぉ…じゅ、ジュンのも少しほしいですぅ…」<br> 「ん?いいよ」<br> 「ほ、ホントですか?」<br> 「こんなことで嘘ついてもしょうがないだろ」<br> 「ちょっとジュン。私のお弁当は?」<br> 「………ほら」<br> 「早く出しなさい。本当に、しょうがない下僕ね」<br> 「……………悪かったな」<br> <br> 「雛苺、そのさくらんぼ、俺の苺と交換しないか?」<br> 「いいのよー!ヒナ、イチゴだーい好きなのー!!」<br> 「あ、ずるいですぅ!ベジータ、翠星石も葡萄一粒やるからイチゴよこすです!」<br> 「ああ、どうぞ」</p> <p>今日は、カナリアは放送部の当番なのでいない。<br> 一回、ボリューム最大で念仏を放課後までノンストップで流してから機械は触らせてもらえないらしいけど。<br> 彼女らしい、といえばそのとうりだ。<br> けれど、僕はそんな失敗をしても、許してもらえることがうらやましい。<br> へこたれないことがうらやましい。嫌悪されないことがうらやましい。<br> 逃げ出さないことがうらやましい。追い出されないことがうらやましい。<br> 明るく振舞えることがうらやましい。<br> 「おい。どうしたんだ?弁当食べないのか?」<br> 「そうだぞ。早く食わないと昼休み終わっちまうぜ」<br> いけない。お弁当食べるの忘れてた。<br> 「ごめん、ちょっと眠くて。少しうとうとしちゃった。」<br> 「もしかして、俺の事を考えて眠れなかったのか?それならそうといってくれれば…」<br> 「そんなわけないです!でも、昨日蒼星石は割と早く眠ってませんでしたか?」<br> 「うん。寝すぎるとかえって眠くなったりするでしょ?」<br> 「そうなら…まぁいいですけど」<br> 「もう大丈夫。お弁当、たべちゃうね。」<br> ああ。ああ。ああ。僕は今何をした?<br> いままで、大切な『友人』だったみんなに。<br> 舌の根が『真紅』に染まるような『嘘』をついた。<br> 信じられない。僕がみんなに『嘘』を?<br> なんて事をしてしまったんだろう。<br> お弁当を食べながら、ひたすら自己嫌悪の念に襲われる。<br> そして僕はすこしだけ、別のことを考えた。<br> ―水銀燈は今どこでお弁当を食べてるんだろう?<br> ―今度、誘ってみようかな?</p> <p> </p> <p>放課後。<br> 教室に真紅は、最後まで残っていた。<br> 「蒼星石。何か話があるんでしょう?」<br> 向こうから話しかけてくるなんて。少し予想外だ。<br> 「う、うん。その、日曜に言っていたことは……冗談、だよね?<br> だって、ほら、お昼だって一緒に食べたし、それにほら、いまだってわざわざ残っていてくれたし…」<br> 「………」<br> 「それに……そうだよ!なんていったって僕たち『友達』でしょ!?」<br> その言葉を、『必死に』、けれど『縋る様に』振り絞る。<br> 真紅が口を開いた。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。<br> 耳をふさいで逃げ出したい気持ちを必死に抑える。<br> 「あなた、まだ理解してない様ね。」<br> やはり、真紅の口から赤黒い呪詛が立ち上り始めた。<br> 「この前も言ったでしょう。あなたはあくまで私を輝かせるための『アクセサリー』。<br> 引き立て役なのよ。あなた、見たことない?美しい人がなんで?って思うようなブスを取り巻きにしてるのを。<br> あれは引き立て役として友人関係を結んでいるのよ。そうじゃないのもごく僅かながらいるかもしれないけど、そんなものは所詮『偽り』よ。<br> どうせ長続きしないわ。人は、自分に似たものと群れ、自分より劣ったものに優越感を抱き、勝ったものには羨望と嫉妬の感情を抱くものなのだから。<br> なぜ、引き立て役が必要かわかる?美しい、醜い、かっこいい、かっこ悪い、高貴、下賤、大きい、小さいなんてものは、あくまで対比でしか決まらないの。<br> もし、この世がすべて等しい大きさのもので出来ているなら、大きさなんてないでしょう。働きありに高貴、下賤の区別なんてあるかしら?<br> すべての人の年齢が等しければ、老人も若者もないでしょう。なんにせよ、物事には比較する対象がいるの。<br> あなたは、私をより引き立てる。私が持っているものを一切持っていない。ただ劣っているだけじゃだめなの。<br> 違いが際立つようなものでなければね。あなたはその点優秀だったのに。本当に残念だわ。<br> まあ、指輪にしろネックレスにしろ劣化はするものだからしょうがないといえばしょうがないわ。</p> <p>ただ、それらと違って人間の不便なところは、作り直しがきかないし、新しく気に入ったものがなかなかないことがあったりするのよね。<br> それから、一緒にご飯を食べたから?そこも『人間』の不便なところね。ゆっくり捨てるか、なにか捨てる理由をつけないと去り際に傷を残していくのよね。<br> あなたなんかのせいで私の世評に傷がつくなんて耐えられるわけないじゃない。<br> 残りかすに腐臭をつけられるのもたまんないのよね。本人だけ捨ててもその周りが食いついてくるのも、『人間』の不便なところね。<br> あんまり取り巻きの多いやつをうっかり身につけると捨てるのに時間がかかるのよね。でも、あなたもともと『友達』多くないじゃない。<br> それ、全部『ゴミ』にしてあげるから。翠星石は時間がかかりそうね。まあ、厄介なのはそれぐらいかしら。<br> 後は…そうそう、“わざわざ残ってくれた”だったわね?残るに決まってるじゃない。<br> いつまでも勘違いされたままなんて、反吐が出そうなぐらい不快だわ。まるで生ゴミと抱擁を交わす気分ね。<br> 汚物と話をするのも不快だけど、それよりは遥かにましだから。<br> これでわかってもらえた?もうしつこく絡み付いてこないでくれるとうれしいわね。<br> それじゃあ帰らせてもらうわ。」<br> 「そんなのってないじゃないか!僕は、君の事を『親友』だと思っていたのに!」<br> 「ええ。私もあなたのことを素晴らしい『アクセサリー』だと思っていたわ。<br> もとどうり、根暗で不気味で消極的でみすぼらしくて控えめで惨めな蒼星石に戻るなら、また、『身に着けて』あげてもいいわよ。」<br> そういって、真紅は帰って行った。なんだ。前言われた事よりさらに酷いじゃないか。<br> けれど、昔に戻ればまた『身に着けて』くれるっていってたな。昔に戻るか。今を捨てて。<br> どうしよう。どうしよう。戻りたくない。でも、あんな真紅にでも、『裏切られ』たくはない。<br> どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。<br> <br> そして今。<br> 雛苺と会話を交わして、決まった。<br> 昔に戻れば、雛苺たちも、『アクセサリー』が戻ってきたと、喜んでくれるかもしれない。<br> けれど、僕は『疑う』ことを知ってしまった。もう、『昔』にはもどれない。<br> 元には戻れないんだ。</p>

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