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「『友情』についての考察―2頁目」(2007/08/27 (月) 02:56:58) の最新版変更点
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<p>「ただいま」<br>
翠星石の姿が見えない。たぶん晩御飯をつくっているんだろう。<br>
ああ、やはり不安がよぎる。このことを相談したものだろうか。<br>
「おそかったですね。何話してたですかぁ?」<br>
「なんでもないよ。」<br>
「ふーん、あっやしいですねぇー」<br>
「はははは…」<br>
「まぁいいです。もうすぐできるから待っててください」<br>
翠星石が鈍くて助かった。このときばかりは本当にそのことに感謝したよ。<br>
もし、もっと突っ込んで聞かれたら、口を滑らせちゃったかもしれない。<br>
いや、薄々気づいているのかもしれない。彼女は僕の『姉』だから。<br>
気づかない振りをしてくれているのだろう。おそらくは。<br>
『親切』から。<br>
と、今までの僕なら、きっと考えていたに違いない。今の僕には、<br>
『どうでもいいから』何もたずねないようにしか感じられなかった。<br>
いや、考えられなかった。そして、そんな自分が無性に悲しかった。<br>
「晩御飯、不味かったですかね…?」<br>
「え…?」<br>
「蒼星石、ものすごく苦そうな顔してるですよ」<br>
ちがうんだよ。君の作ってくれたものはすごくおいしかった。<br>
ただ、苦い苦いどろっとしたものが、胸の辺りから体中を這いずり回っているせいなんだ。<br>
「いや、とってもおいしかったよ」<br>
「ならいいですけど…。」<br>
駄目だ。いつもならとても悪いことをした気がするのに、今日はまったくしないや。<br>
早く寝よう。明日になったら何か変わるさ。<br>
そう言い聞かせながら、いつもより数時間早く、僕は寝床に入った。</p>
<p>一昨日<br>
その日は第二土曜で、学校は休みだった。<br>
朝日が差し込んできても、昨日と何一つ変わっていなかった。<br>
いや、それどころか、ますます苦く、ますます嫌な臭いのものに変わったようだ。<br>
その日、僕は何も考えないように、丸一日寝ていた。<br>
一日が、飛び去っていく。<br>
布団の中で、本を読んだりして。明るい、それはもう太陽よりもまぶしい、青春物ばかり選んで読んでいた。<br>
今まで、敬遠していたのに。<br>
まるで、美しい絵が印刷された薄っぺらい広告を眺めているようだった。<br>
<br>
<br>
階下で、翠星石と、『真紅』の笑い声が聞こえた、ような、気がした。 <br>
<br>
昨日<br>
日曜日。今日も一日寝ていようと考えてたんだけど、翠星石が体に悪いと、無理やり起こしてしまった。<br>
『親切』で、僕の体のことを『心配』してくれての行動だ。もちろん。<br>
けれどやはり、『嫌がらせ』にしか感じられない。本当に、人の心なんて脆く弱いものだ。<br>
『絆』なんていうものは、その存在は確かに感じられている間は鋼鉄のワイヤーよりも、太く、頑丈に感じられるが、<br>
その実、蜘蛛の糸よりも細く儚く切れやすい。しかも切れると、まるではじめからなかったように振舞う。<br>
その実、剥がれかかった皮のように、ジュクジュクと傷口は痛むのだ。本人に自覚がなくとも、間違いなく。<br>
きっと、僕は今その糸をしらずしらずのうちに断ち始めているのかもしれない。<br>
心の隅から膿みはじめているようだ。<br>
<br>
翠星石と一緒の家にいるのが、生まれて始めて苦痛だった。<br>
だから僕は、翠星石の言葉に耳を貸さずに、図書館まで歩いていった。<br>
一歩ごとに、目が回るような気がする。まるで地球に僕が上にいることを拒否されているようだ。</p>
<p> </p>
<p>図書館には、巴さんと雛苺がいた。僕は雛苺に声をかけようとして、ふと思いとどまった。<br>
もし、僕が声をかけたら二人はどう感じるだろう。<br>
二人で楽しく過ごしていた空間に僕が『割り込む』のだ。<br>
巴さんは僕のことを他人としか思っていない可能性も十分にある。他人に声をかけられるのは不快だろう。<br>
それに確かに、いやたぶん、雛苺と僕は『友人』だ。<br>
しかし、『親友』ではない。雛苺にとっての『親友』は巴さんで、巴さんにとっての『親友』は雛苺なのだ。<br>
どちらにとっても、僕は『二番目』より下でしかない。<br>
僕は、踵を返して適当に本を選び、活字を追った。<br>
けれど、まるで内容が頭に入らない。<br>
そのときの僕は、ある一つの恐ろしい事実が鮮明に浮かび上がったことに、身を震わせたいたのだから。<br>
‘僕には『親友がいない』’<br>
認めたくなかった。けれど、認めざるを得なかった。<br>
きっと、誰に聞いても友人と聞いて真っ先に僕を思い浮かべる人は皆無なのだろう。<br>
そして、ふと思った。<br>
僕が死んで、泣いてくれる人はいるんだろうか?<br>
僕のことを、心から『心配』してくれる人はいるのだろうか?<br>
僕のことを、『大切に』思ってくれている人はいるのだろうか?<br>
僕は僕が『友人』だと感じている(少なくともそう思っていた)人たちすべてから疎まれ蔑まれ嫌がられているだけなのではないだろうか?<br>
僕は、今ここにたっていていいのだろうか?</p>
<p> </p>
<p>「蒼星石、何か変ですよ?どうしたんですか?」<br>
家に帰ると、翠星石が尋ねてきた。<br>
もちろん、毛頭答える気はない。答えたい気はしたが。<br>
というより、取り返しがつかなくなる前のそのとき、答えなければならなかったのだ。<br>
それでもやはり怖かった。<br>
一笑に付されるならまだいい。<br>
真紅の言うとうりですよ。何自惚れてるんですか?<br>
なんて同意されたらたまらない。<br>
そのことが、たまらなく怖い。<br>
「晩御飯はなに?」<br>
「翠星石の腕によりをかけて作ったハヤシライスですよ」<br>
「また微妙な…」<br>
「微妙さがたまんないんですぅ!」<br>
ハヤシライスはおいしかったはずだ。けれど、なぜだろう。<br>
それは、もはやまったく味がしなかった。</p>
<p>「蒼星石、もう寝たですか?」<br>
夜、翠星石が声をかけてきた。返事をしようか少しだけ迷ったけど、僕は寝たふりをすることに決めた。<br>
なんだか、自分がどんどん嫌いになってくる。<br>
「あの時、真紅に、何か言われたんですね?」<br>
一言一言ゆっくり確認するようにたずねてくる。<br>
少しだけ、息が乱れた。<br>
「………」<br>
翠星石は、それだけ言うと、眠り始めた。やっぱり、翠星石は翠星石なんだろう。<br>
深く『問い詰めずに』そっとしておいてくれる。<br>
たとえめんどくさかったからだとしても、とてもうれしかった。<br>
明日、学校で真紅と顔を合わせる。そのことに今、改めて気づいた。<br>
どうしよう。また何か言われるんだろうか。いや、あれは真紅なりのジョークだったのかもしれない。<br>
明日、もう一度訊ねてみよう。<br>
<br>
そんなことあるわけないのに。そんなことしないほうがいいのに。<br>
せずにいられなかったんだ。</p>
<p> </p>
<p> </p>