「『きみとぼくと、えがおのオレンジ』~第4話~」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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彼女を助けた(という事になるのか?)日から一週間ほどたった。<br>
あれから彼女に出会う事はなく、僕と笹塚、ベジータの三人は<br>
滞りなく授業申請を済ませ初の授業も終えていた。<br>
初めての授業、そうは言ってみたもののそれは酷い肩透かし。<br>
ただこれからの授業内容がどうとかの説明と必要な教科書の指定のみ。<br>
つまらなかった、とことんつまらなかった。<br>
そんな事を少なくとも10回は繰り返しただろうか?<br>
とにかく、同じことの繰り返しでへばりかけてた日の事だった。<br>
僕はまた彼女に、薔薇水晶さんに出会った。<br>
大学は自分で時間割を作る、それ故に僕ら3人組はまったく別々に<br>
行動する事もある。<br>
そんな、偶然にしてはできすぎた、たった一人の空きコマ。<br>
一人でキャンパスの近くにあるカフェでテレビを見ていた僕の前に<br>
彼女は現われた。<br>
彼女は目立つ、片方に眼帯をつけているから嫌でも。<br>
だから、すぐ分かった。<br>
僕の視線は彼女に固定される。<br>
そして、その視線に彼女も気づく。<br>
少し離れた距離、お互い声をかけることもできず、ただ目で挨拶する。</p>
<p><br>
それだけ。<br>
彼女は僕とは離れた別の席に座り、僕はテレビに集中できなくなる。<br>
困ったもんだ、これが何と言うかは自分でも分かってるのに。<br>
だけど、声をかけられない。<br>
怖いのだ。<br>
かつて、僕はそれで酷い目に遭っている。<br>
だから僕は彼女を見ることしかできない。<br>
この前のあの行動なんて、本当は確立にして1パーセント以下の実行率<br>
の大番狂わせなのだ。<br>
あんな、情けなくて頭の悪い事、考え直せばできやしない。<br>
「はっ」<br>
情けなさ過ぎて自分を鼻で笑ってしまう。<br>
だけど、僕は彼女から目を離す事が出来ない。<br>
情けない奴め、心の中で毒づくが意味はない。<br>
そうやって、僕はこの時間を自問自答と彼女を眺める事で費やす。<br>
春の陽気は優しく、どんな時間も緩やかにしてしまうような気配を持つ。<br>
そんな空気の中で僕は彼女を横目で見続ける。</p>
<p><br>
彼女はノートを出し、ペンをノートに走らせている。<br>
何をしているのか、とても気になる。<br>
ノートを直したと思えば、今度はカバーの着いた文庫本を取り出す。<br>
パラパラと読む姿を見て可愛いと素直に思う。<br>
そうやって時間はゆっくりと流れていく。<br>
それだけだ、それだけしかない。<br>
あの日の行動力が夢のようにしか思えない。<br>
僕は何も行動せず彼女を見ることだけしかしない。<br>
消極的、ここに極めたり。<br>
また鼻で自分を笑う。<br>
と、気づく。<br>
彼女が僕を見ている。<br>
視線が、重なる。<br>
「 」<br>
言葉はなく、ただ、こそばくてやり場のないむず痒さが逃避から背中に。<br>
首を少し動かしたおじぎ、彼女に挨拶。<br>
同様に彼女も。<br>
「 」<br>
視線を外そうとする、が、外せない。<br>
どうにも、タイミングというのを外してしまっていた。<br>
そうやって何十秒が過ぎたろうか、逃したタイミングを<br>
合わせるかのようにまた笑いあう。</p>
<p><br>
そして、視線が離れる。<br>
ドっと疲れる。<br>
残る胸のいがいが。<br>
何ともしがたいこの気持ちは何処に向ければ良いのか。<br>
時は過ぎ、授業終了の時刻。<br>
カフェに集まる学生達。<br>
彼女のほうを見れば、荷物をまとめて去るところ。<br>
追いかけようか?そんな考えが脳裏をよぎる。<br>
だが、動けない。<br>
あのときのような行動力がでない。<br>
「はぁ」<br>
諦める、僕も荷物をまとめて次の授業に向かう。<br>
次は一般教養。<br>
おそらく次も似たようなことの繰り返し。<br>
キャンパス内の木々を従えた道を通り抜けて真新しい校舎へ。<br>
大教室と呼ばれるその場所に向かう途中、また僕は出会う。<br>
彼女と、薔薇水晶さんと。</p>
<p><br>
隣にはあの『銀ちゃん』と呼ばれた女性が。<br>
楽しそうに話す姿を見て僕は距離を離す。<br>
そんな必要はないのに10メートルほど離れた。<br>
当たり前だ、ストーカーか何かと勘違いされたら終わりだ。<br>
が、<br>
「?」<br>
彼女が振向く。<br>
『銀ちゃん』と呼ばれた彼女が僕の顔を捉えた。<br>
そしてニヤリと嫌な笑みを浮かべる。<br>
ああ、きっと勘違いされた。<br>
そう思った。<br>
しかし、彼女はそんな僕の思いをしってか知らないでか近づいてくる。<br>
対処のしようがない。<br>
「ねえ」<br>
声をかけられる。<br>
「貴方、薔薇水晶を助けてくれた人でしょ?」<br>
「え、ああ」<br>
「ふふ。ねえ、次の授業は?」<br>
「柴崎先生の『時計と近代社会』だけど……」<br>
「あら、私達と同じなんだぁ」<br>
彼女が嬉しそうな、だけど企んでいるような表情を浮かべる。</p>
<p><br>
「あ、そぉ……」<br>
「そうよぉ。ねえ、名前は?」<br>
「桜田、だけど」<br>
「ちょっと、全部教えなさいよぉ。失礼でしょぉ?」<br>
「そう、かな?」<br>
「当たり前よ」<br>
そうなのか?だが、教えて別に損はないか。<br>
「桜田、ジュン」<br>
「ふぅん……ジュン、ね。あ、私は水銀燈よぉ、よろしくね」<br>
「よ、よろしく」<br>
と、彼女は薔薇水晶さんの方をチラリと見る。<br>
「ねぇ、私達と一緒に行きましょ。同じ教室でしょぉ?」<br>
「え!?い、いや……でも」<br>
嬉しいが、とんでもない話だ。<br>
「良いじゃなぁい、減るものじゃないんだからぁ。さ、行きましょ」<br>
そうやって彼女は有無を言わさず僕を従えて薔薇水晶さんの元へ。</p>
<p><br>
「お待たせぇ」<br>
「あ……うん」<br>
チラリと彼女が僕を見る。<br>
「あー、ども」<br>
「こんにちわ……」<br>
ぎこちない、挨拶。<br>
「さっき、会ったね」<br>
「はい……びっくりしました」<br>
「あらぁ、空きコマ一緒なんだぁ。へぇ」<br>
わざとらしい相槌だ。<br>
それから特に会話もなく、水銀燈さんと彼女の話(と言っても主に彼女からの<br>
言葉を薔薇水晶さんが相槌をうつだけだったが)を聞きつつ教室に入る。<br>
「じゃ、僕はこれで」<br>
そうやって離れようとする。<br>
が、<br>
「あらぁ、一緒に来なさいよ。どうせ、私達も二人だしぃ」<br>
「え?」<br>
「この授業、友達はこの娘しかいないから平気よぉ?」<br>
そうは言われても、だ。<br>
「いや、僕も友達いるし……」<br>
「じゃ、そっち行くわぁ。良いでしょ、薔薇水晶ぉ?」<br>
「え?う……うん」</p>
<p><br>
じゃあ決まり、そう言って無理矢理僕は彼女達を笹塚たちのところまで<br>
案内させられる事になる。<br>
教室の上の方、笹塚とベジータが隣同士で座っている。<br>
「おー、ジュ……ン?」<br>
「よぉ桜……田?」<br>
僕に気づいて声をかけてきた二人が固まる。<br>
その視線は水銀燈さんへ。<br>
「初めましてぇ」<br>
二人に気づき、簡単な挨拶をする。<br>
「あ、ども」<br>
「お、おす」<br>
その挨拶に含まれていた微笑にやられたのだろう、二人の表情がぎこちなく。<br>
別にフォローする気もないが、<br>
「えっと、こいつら僕のダチ」<br>
別に必要のない自己紹介でもしてみる。<br>
が、時間はそんなにも残っておらず教授が教室に入ってくる。<br>
互いの挨拶もおざなりに僕は笹塚の隣に、女子二人は僕達の前の席に着いた。<br>
始まる授業、入らない教授の話、彼女が前にいる、それだけで胸が詰まる。<br>
苦しい思いを抱くのは久しぶりだ。</p>
<p><br>
回されてきた授業予定のプリントを彼女から受け取る。<br>
ありがとうと言い、既に手持ち無沙汰な感じの二人に渡していく。<br>
平坦で冗長で、つまらない授業。<br>
だけど最初だから余り大きな声でのおしゃべりはない。<br>
僕らも同様に静かに、授業をほとんど右から左へ聞き流していく。<br>
ただ僕は、薔薇水晶さんの姿を視界から外さないようにして時間を潰す。<br>
隣に座る水銀燈さんと時折話しつつ、静かに授業を聴く。<br>
前では延々と授業の進め方の説明、端の方を見れば眠っている人も。<br>
約50分の苦行、その後授業が終わる。<br>
一斉に学生達が席を立つ、勿論僕らも例に漏れず。<br>
地獄のような、だけど満ち足りた時間だった。<br>
さて、それでは彼女達と別れてこの二人とどこかに行くとしよう、<br>
そう思った矢先だった。<br>
「ねえ」<br>
と、綺麗な銀の長髪を揺らし水銀燈さんが僕らに、否、僕に振向く。<br>
そして微笑む。<br>
「一緒にご飯でも食べない?」<br>
一言、それだけ。<br>
それは願ってもない、最悪で最高の申し出だった。<br>
そして、ここからが本当の始まり、御伽噺の始まり。</p>
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