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「新説JUN王伝説~序章~」第20話」(2007/03/15 (木) 21:35:38) の最新版変更点

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<p>周囲に二つの咆哮と無数の衝撃音が響き渡る…<br> 今、ジュンの目の前では円谷と牙喪守の凄まじい攻防が繰り広げられていた<br> <br> 円「てぇりぁぁああああ!!」<br> 牙「シャアッ!ツェァアア!!」<br> <br> 円谷が拳を繰り出すと牙喪守がそれを受け流し反撃、しかしそれを受けた円谷は再び技を牙喪守に繰り出してゆく…<br> 両者一歩も譲らぬ達人同士の死合いを前にジュンは言葉すら忘れてそれを見ていることしかできなかった。<br> それはほんの数秒、はたまた数分・数十分であったのか…<br> だが、その永遠に続くとも思われた攻防に遂に動きが見られた<br> 『バシィッ!』<br> 円「ぬぅっ!?」<br> 円谷の放った拳を牙喪守の掌が掴む<br> 牙「フッ…貴方の拳……すでに見切りました!!」ヴン…<br> 刹那、牙喪守の姿が円谷の視界から消える…<br> 次の瞬間、牙喪守はほんの一瞬で円谷の背後まで回り込んでいた<br> 牙「相変わらず後ろが甘いですね、邊鬼羅…」<br> 円「!?」<br> 牙「これで……終わりです!!」<br> <br> ヴォンーーッ!<br> <br> 牙喪守の放った貫手は全てを穿つ槍となり円谷の背中を貫いた<br> <br> かに思われた…<br> 牙「なっ!?」<br> 牙喪守が驚愕に声を上げる。<br> 円谷は牙喪守の放った貫手を更に凌駕する速さで後ろ回し蹴りを放ちそれを弾いていたのだ<br> </p> <br> <p> 円「言ったはずだ……俺を昔の俺と思うなとなぁっ!!」ドンッ!<br> 牙「くっ…!」<br> 円谷の繰り出した追撃の拳を牙喪守はバックステップで間合いを開けてかわすが…<br> 円「逃すか!!」<br> 円谷は再び牙喪守を上回るスピードで一瞬のうちに間合いを詰め、その懐へと飛び込んだ<br> 牙「何ッ!?」<br> 円「終わりは貴様の方だ……てぇぇぇええええええッ!!」<br> <br> 『ボグゥッ…』<br> <br> 牙「ぬ…ぐっ!」<br> 周囲に鈍い音が響く…牙喪守は腹部に円谷の左拳を受け、体を『く』の字に折り曲げていた<br> 円「まだだ……覇ぁぁぁああああああぁあああああッ!!!!」<br> 更に円谷は体に大気が焼き切れんばかりの咆哮を上げる。<br> そこにあの爽やかな笑みを見せていた新任教師の面影はなく、それを見るジュンの目には今の円谷の姿はまさに怒り狂う鬼か羅刹のように映っていた<br> 円「エィヤァアアアアアアア!!」<br> 剛!咆哮と共に円谷は全力を込めた右拳を牙喪守の顔面に叩き込んだ<br> 牙「ーーーーッ!!」<br> その拳を受けた牙喪守はジュンの目の前で大量の赤い霧を上げながら大きく宙を舞い、叩きつけられた校舎の壁にクレーターを作るとやがてずるずると地面へと体を崩した<br> </p> <br> <p>ジ(強い…僕とは桁が違う……)<br> <br> 気付けばジュンは体を抑えられないほどに震わせていた。<br> それが恐怖からなのか驚きからなのかはジュン自身にも分からないが、<br> ただひとつ確かなことは円谷に秘められた圧倒的なまでの強さがその原因だということである…<br> <br> 牙「がぁっ……バ…バカな…この私が…邊鬼羅如きに…」<br> 地に伏した牙喪守は顔を上げると憎悪と驚愕が織り混ざった表情を円谷に向けた<br> 円「お前の敗因は俺を昔のままだと思っていたこと…そして自分の力を過信しすぎたことだ。」<br> その言葉に牙喪守は目を見開く<br> 牙「は…敗因だと……!?馬鹿を……馬鹿を言うなぁあああああああああああッ!!」<br> 地に伏した牙喪守は雄叫びを上げるとその体を震わせながらゆっくりと持ち上げてゆく<br> 円「!?、まだ…動けるというのか…?」<br> 牙「貴様こそ…私を侮るな……私は牙喪守…“SODOM”四軍臣の一角……<br> 我が組織の敗北とはすなわち死…それは邊鬼羅、貴様も知っているはずだ!!」<br> 円「あぁ…そうだったな。」<br> 牙「さぁ、私はまだ負けてはいないぞ…今度こそ貴様に決定的な死をくれてやろう……」<br> 立ち上がった牙喪守は再び円谷に向けて構えを取った<br></p> <br> <p> 円「いいだろう……貴様がその気なら、俺もまた全力で貴様を葬るまでだ…」<br> そして円谷もまた牙喪守に応えるように構えを取った<br> <br> ゴゴゴゴゴゴゴゴ…<br> <br> 2人の間の大気がぶつかり合う闘気に震える…<br> 双方は先程のように連撃を放つことなく睨み合ったまま互いを牽制し合っている。それは次の一撃がそれぞれの全てを込めたものであることを物語っていた…<br> 牙「行くぞッ!!」<br> 円「来いッ!!」<br> 2人が同時に仕掛ける<br> 牙「ジャァアアアアアッ!!」<br> 円「エィヤァアアアアアッ!!」<br> <br> <br> 『ドガァッ!』<br> …………<br> ……<br> …<br> 瞬間、互いの拳が唸りを上げた。そして一瞬の衝撃音の後、二つの影が交差し周囲に静寂の刻が流れた…<br> </p> <br> <p>だが、やがてその静寂は血霞と共に脆くも破られる<br> 円「ぐはぁっ…!!」<br> 静寂を引き裂いたのは円谷の方であった<br> ジ「先生!」<br> 牙「クックック…やはり…貴方など油断さえせねば私の敵ではないということでしたね…ククッ…ハーッハッハッハッ!!」<br> 牙喪守は円谷を凶気を孕んだ目で見据えると再び高笑いを上げる<br> 円「くっ…牙喪守……ぐうぅっ!」<br> ふいにぐらりと円谷の視界が歪み、彼は地面に膝を付いた<br> 円「か…体に……力が…」<br> 牙「クックック…邪咬愕爪拳奥義・『冥葬毒針爪』…貴方の体内にはこの爪を通して我が邪気を打ち込まれているのです…<br> 今の貴方は毒蛇の牙に蝕まれるが如く満足に動くことなど不可能なのですよ…」<br> 円「な…なん…だと……」<br> 牙「通常の人間ならすぐに体は完全に麻痺し、指一本動かすことも出来なくなりますが貴方はそうはいかぬようですね…<br> ですが、仮にもこの私を地に伏した貴方は今ここで私自ら首を落とさねば気が済みません。」<br> そう言うと牙喪守は手刀を作り天高く掲げる<br> 円「くそ…貴様…などに……」<br> 牙「クックック…お諦めなさい。<br> さぁ…、死になさいッ!!」<br> 次の瞬間、その残酷なる刃は空気を切り裂く音を上げながら円谷の首へ向け振り下ろされた<br> <br> ガキィッ!!<br> <br> …………<br> ……<br> …<br> 牙「……何だと?」<br> 牙喪守が目を見開く…自らが放った手刀は間違いなく円谷の首を落とす筈であった。<br> だが…<br> ジ「ぐ…ぐぐぐ…」<br> その凶刃を受け止めていたのは先程の闘いで深いダメージを負っていた筈のジュンであった<br> 牙「…チッ!」<br> 牙喪守は一旦ジュンから距離を開けると再び不気味な笑みを浮かべて2人を見据えた<br> 円「さ…桜田……よせ…逃げるんだ…」<br> 円谷は喉の奥から声を絞り出し撤退を告げるが、ジュンは決してその場を動こうとはしない<br> ジ「先生…逃げたってどうせこいつは僕を殺しにくる……それなら…」<br> 牙「ほぅ…まさか貴方が私を倒すとでも?」<br> ジ「へっ、そのまさかさ……」<br> 牙「クックック…ハーッハッハッハッ!!これはこれは……打ち所が悪かったですかな?」<br> ジ「本気さ…それに僕は目の前で人が殺されそうなのに黙って自分だけ逃げられるほど大人じゃないんでね……」<br> ジュンは牙喪守を見据えながらニヤリと笑う…<br> 牙「フッ…調子に乗るなよ小僧!手負いの貴様に何が出来る!?」<br> 激昂した牙喪守がジュンへと怒鳴りつけた<br> ジ「決まってるだろ……僕が今出来ること…それは貴様と闘うことだ!!」<br> </p> <br> <p> ジュンは震える足を必死に堪えながら牙喪守へ向けて構えを取る<br> 牙「ククッ…いいでしょう、そんなに死にたければまずは貴方から葬ってくれます!!」<br> 牙喪守はジュンへと疾走し間合いを詰めてきた<br> ジ(今の僕に出来ること…それは全てをこの一撃に込めることだ!)<br> <br> 牙「死になさい!『荒魔断爪斬』!!」<br> ジ「うおおおおおおおおおおおお!!」<br> 刹那、互いの拳が交錯した…<br> <br> 咆哮、衝撃、静寂、そして…<br> <br> 牙「……フッ。」<br> ジ「ぐっ…あ…あぁ……」<br> ジュンは全身から血飛沫を上げながら崩れ落ちた<br> 円「さ…桜田……」<br> 牙「クックック……アーッハッハッ!!そらご覧なさい…所詮虫ケラが私に勝とうなどおこがま……ぬぐぅっ!!」<br> 突如、高笑いを上げていた牙喪守の腕に激痛が走る<br> 牙「なっ…こ…これは一体……うぐっ!!うがぁあああぁぁああああぁああああ!!」<br> 次の瞬間、周囲に牙喪守の絶叫とベキベキと何かが砕けるような異音が響き渡った<br> そしてその直後、牙喪守の腕から大量の血液が噴き出したのだ<br> 円「こ…これは…一体何が…?」<br> ジ「どうやら……上手くいったか…」<br> 円「桜田!…お前……無事だったのか…?」<br> <br></p> <br> <p> ジ「ギリギリですけどね……あと少し遅かったら…間違いなく僕の方がやられてました……」<br> 円「一体…何を……?」<br> ジ「北斗断骨筋。<br> 腕の秘孔を突き内部から骨と筋肉を破壊する技です。<br> 北斗神拳は体にある708の経絡秘孔を突くことで敵を内側から破壊できる拳…<br> けど…僕は高確率で相手の命を奪う内部破壊の技をあえて封じてきました……でも奴は…こうでもしなければ勝てなかった…。」<br> 牙「ぐあぁあああああああ!!腕が……私の腕がぁあああああああああああ!!」<br> ジュンの目の前で牙喪守は未だ骨と筋肉が砕け散った右腕を抱え、その激痛に狂ったような叫びを上げている<br> ジ「それではもう自慢の爪も使えまい…さぁ、命が惜しければとっとと失せろ!そして二度と姿を見せるな!!」<br> 牙「ぐううぅぅ…お…おのれ……北斗神拳…桜田ジュン…この苦しみ…この屈辱…決して忘れぬぞ!?私の命を奪わなかったその甘さ…必ずや後悔させてくれる!!」<br> ジ「…なに?」<br> 牙「クックック…3ヶ月だ!貴様らに3ヶ月の猶予をくれてやろう!<br> この傷が癒えた頃…私は再びここへ来る……そして貴様らを殺した後、この学校の虫ケラ共も皆殺しにしてくれるわぁ!!」<br> 牙喪守はその狂気の眼差しをジュン達に向けたまま残酷な予言を高らかに叫んだ…<br> <br> ジ「なっ…何だと!?」<br> その言葉にジュンは戦慄する<br> 牙「ククッ…その時まで…せいぜい技に磨きをかけておくのだな……クックック…ハァーッハッハッハッ!!」<br> そう言うと牙喪守は憎悪と凶気を込めた高笑いを残しながら身を翻し、ジュン達の前から去っていった<br> ジ「ま…待て!うぐっ…!」<br> 牙喪守を追おうとしたジュンだったが激しい闘いで限界にまで達した疲労はジュンの体を冷たい地面へと伏せさせる<br> 円「桜田!しっかりしろ!桜田!!」<br> そしてジュンは自分を呼ぶ円谷の声を聞きながらゆっくりと意識を失った…<br> <br> <br> <br> <br> <br> ジ「ん……ここは……僕の部屋…?」<br> 円「気が付いたか、桜田。」<br> どれだけ意識を失っていたのだろう、ジュンが目を覚ますと自室のベッドに寝ており、傍らには円谷の姿があった<br> ジ「先生…?僕は…どうなって…」<br></p> <br> <p> 円「あぁ、君はあの後すぐに気を失ったんだ。だから俺が君を運ぼうとしたらそこに君の黒い馬がやって来てね。」<br> ジ「黒王が…?」<br> 円「その馬が後ろに乗れって素振りをするもんだからね…ご厚意にあずかったって訳さ。」<br> ジ「そうか…後で黒王に礼を言わないと……ぐっ!」<br> 身を起こそうとしたジュンの体に鈍い痛みが走る<br> 円「無理をするな…君はあの牙喪守を退けたんだ。手当てはしておいたものの…まだ体には相当のダメージが残っている。」<br> ジ「す…すみません……あの…先生…」<br> 円「なんだ?」<br> ジ「あいつ…牙喪守と先生って……一体…」<br> ジュンはずっと心に引っ掛かっていた疑問を円谷にぶつけた<br> すると円谷は一瞬表情を曇らせ黙り込んだが、やがて静かに口を開いた<br> 円「桜田…もう気付いているだろうけど、俺は以前“SODOM”のメンバーだったんだ…」<br> ジ「……」<br> 円「まだ物心がつく以前、俺の生まれ故郷は奴らに襲われ両親も殺されたらしい…<br> そこで組織に拾われた俺は暗殺者となるべく1から人殺しの拳を叩き込まれ、そして数多くの罪もない命を奪ってきた…」<br> <br> 円谷の口からは尚も自ら歩んできた壮絶な半生が次々と語られてゆく…<br> </p> <br> <p> ジ「先生…組織って…“SODOM”ってなんなんですか…?」<br> ジュンはその中でも一番聞きたかった疑問を円谷に向けた<br> 円「武闘暗殺組織“SODOM”…上層部のことは俺もよくは知らないが、組織のメンバーは全てある流派の拳を極めた武術の達人ばかり…<br> それも一切の銃火器を使わずに多くの軍隊や他のテロ集団を壊滅させてきた闇の暗殺組織だ……」<br> ジ「闇の…暗殺組織…そんな奴らが…」<br> ジュンにはその話の内容があまりに突飛すぎ、にわかに信じがたいものであった<br> 円「桜田、普通に生活してきた人間にはこんな裏の世界のこと信じられないかもしれない…だがこれは現実なんだ。」<br> 円谷はゆっくりとした口調でジュンを諭すように言い聞かせると話を続ける<br> 円「もし幹部である牙喪守がこのことを報告すると…最悪奴らは徒党を組んでこの街を襲うだろう。もしそうなれば…」<br> 円谷が言葉を濁らせる。その表情を見たジュンはどんな言葉で説明されるよりもその先にある最悪の結末を予想できた<br> ジ「そんなこと……誰がさせるか…みんなを、この街に生きる人達を見殺しになんてしてたまるか!!」<br> ジュンは怒りに奥歯を噛み締めると強い口調で言い放つ<br> 円「その通りだ…だが……」<br> 円谷はジュンを見据える<br> 円「今の君では…絶対に組織を止めることは不可能だ。」<br> </p> <br> <p>ジ「!?」<br> 円谷が口にした現実…それは先程牙喪守と闘った自分が身を持って知っていた、だがジュンはあえてそれを実感しないようにしていた。<br> そこをはっきりと円谷に言い切られたジュンはうつむき言葉を無くす<br> 円「だがな、桜田…俺は君の可能性に賭けてみようかと思っている。」<br> ジ「…え?」<br> しかし、次に円谷の放った言葉にジュンは顔を上げた<br> 円「俺はあくまで“今の君では”…と言ったんだ。牙喪守が言ったように3ヶ月の猶予があるのなら…そこで今以上に強くなればいい。」<br> ジ「そ…そんな、たった3ヶ月じゃ…!」<br> 円「ならば仲間が奴らに殺されるのを黙って見ているんだな!!」<br> ジ「!?」<br> 円「どうするかは君の自由だ。だが俺はただ1人でも奴らと闘うつもりだ…」<br> 円谷の瞳には一点の迷いもない。そこには例え命を落とそうとも闘い抜くという揺るぎない決意があった<br> 円「桜田、男はな…何かを守るために闘わねばならない時があるんだ…<br> それが何かは人それぞれだが、君にもあるのだろう?守りたい何かが……」<br> ジ「!!?」<br> ふいにジュンの脳裏に大切な友人たちや姉の顔が浮かんできた<br> </p> <br> <p> それらは全てジュンが心から守りたいと願った者、そしてジュンが強くなると決意した最大の理由であった。<br> やがてジュンは円谷に顔を向けはっきりとした口調で言った<br> ジ「先生…僕、やります。絶対にみんなを奴らの好きにはさせない!」<br> 円「フッ…どうやら決意はできたようだな。」<br> 円谷は満足そうに小さく笑うと一枚の紙を取り出しジュンへと差し出した<br> ジ「……これは?」<br> それを受け取ったジュンが円谷に問う<br> 円「桜田、俺が組織を抜けた理由をまだ話していなかったな…」<br> ジ「えぇ…そういえば…」<br> 円「俺がちょうど桜田くらいの時だったな…あの日俺は組織の暗殺者としてある男を殺しに行ったんだ……」<br> 円谷は目を閉じると静かな口調、それも少し懐かしそうに語り始めた<br> 円「当時の俺はまだ邊鬼羅というコードネームで人を殺すことになんの躊躇いも持ってはいなかった。<br> いつか強くなってこの手で組織を握る…そういう野望すら持っていた程だ。<br> その時の任務もまたいつものようにこの手でターゲットを殺すだけ…組織でのし上がるための単純な任務。そう思っていた。<br> だが……」<br></p> <br> <p>円谷が言葉を濁す<br> ジ「だが…どうしたんですか?」<br> 円「俺にその人を殺すことは出来なかった。<br> 組織で必死に修行して手にした俺の拳も…その人の前では児戯に等しかったんだ。」<br> ジ「えっ!?先生が…ですか?」<br> ジュンにはその台詞に驚いて円谷に問うが、彼は一度だけ頷くと更に話を続けた<br> 円「今の俺の力はその人が…俺の師が与えてくれたものなんだ。<br> あの時、敗れた俺は組織の掟により師に自分を殺せと言った。負けて生き恥を晒すよりは潔い死を望んだからな…<br> でも師は言った。「私は年端もいかぬ少年を殺す拳は持っていない。自分の力のなさを恥じるのならば生きて今より強くなれ。」と…<br> そして俺は師に拾われ人を守るための拳を学んだ。師の指導は厳しかったが、そこには常に優しさがあり、俺は生まれて初めて人の温かさを、そして何かを守ることの尊さを知ったんだ…。<br> そして俺が二十歳になった日、俺は師の元を離れ必死に勉強して大学に入り教師となった。師が俺の中に絶えずいるように、俺も誰かにとってそうなれる男になりたかったからな。」<br> ジ「先生…」<br> 円谷はその話をまっすぐな瞳とどこか誇らしげな表情で語った。<br> そこにジュンは円谷がその師と呼ぶ存在によせる強い尊敬と信頼を垣間見ることができた<br> </p> <br> <p> 円「そして今、君に渡したメモには現在師がおわす場所が書いてある。<br> そこに行けば少なくとも1人や俺と2人で修行するよりも確実に強くなれるとは思う…まぁ、どうするかは君の判断に任すがな…。」<br> 円谷はジュンへと選択を求め視線を向ける。だがジュンはその視線にはっきりとした意志を持つ口調で応えた<br> ジ「行きます!行って…絶対に今よりも強くなってみせます!」<br> 円「そうか……だが君は3ヶ月の間戻っては来られない、当然お姉さんや仲間とも会うことはできない…それでもいいのか?」<br> 円谷は更に確認するようにジュンに問い掛ける<br> ジ「先生…僕が強くなると決めた理由はその大切な人たちを守ること…<br> そのための苦しみならば、僕は喜んで受けます。そうでもしないと…僕は奴らを倒すことなんて出来はしないから…。」<br> だがジュンの瞳にもう迷いはなかった。<br> そこにあるのはただ一つ、かつての自分が決めた揺るぎない決意のみ…<br> 円谷はジュンのその様子に満足げに小さく微笑むと踵を返してジュンの部屋の出口へと歩を進めた<br> ジ「先生…?」<br> 円「君ならそう言うと思っていたよ。後のことは俺に任せて3ヶ月の間しっかりと鍛錬に集中するといい…。<br> ……だがな?桜田。」<br></p> <br> <p>ジ「は…はい、何ですか?」<br> 円「男はな、友との約束を決して破ってはならないんだ。せめて明日からのひととき…大切に過ごすんだぞ?」<br> ジ「え?………ああぁっ!?」<br> ジュンは円谷の言葉にぎくりとした。そう、明日からは真紅たちと泊まりがけの旅行に行く予定があるのだ<br> ジ「あ…あの…知ってたんですか?」<br> 恐る恐るジュンが円谷に問う。仮にも彼は教師、もしこのことが学校にバレたら旅行に行った全員が罰を受ける恐れがある。<br> だが円谷はジュンへと振り返ると小さく笑って口を開いた。<br> 円「安心しろ、俺はこのぐらいのことに口を挟む気はないさ。かけがえのない仲間との思い出作り…結構なことじゃないか。<br> それに、君たちが行こうとしている旅行先は偶然にも師のおわす場所からさほど遠くはない。」<br> ジ「えぇっ!?ば…場所まで…」<br> 円「フッ…毎朝あんな大声で話していたら聞こえもするさ。もっとも、梅岡先生は気付いてはいないだろうけどな。」<br> ジ「まぁ…梅岡ですからね…」<br> 円「じゃあそういうことだ。休学届は俺が受けたことにしておくから、3ヶ月後…更に強くなった君に会えることを楽しみにしている。」<br> </p> <br> <p> それだけを言い残すと円谷はジュンの部屋を後にした。<br> <br> 1人残された部屋の中、ジュンは目を閉じて自問自答を繰り返す…<br> 円谷にはああ言ったものの、まだ心のどこかで拭い去れない不安を抱えていたのだ。<br> <br> ――本当にたった3ヶ月で奴らと闘えるだけ強くなれるのか…?<br> <br> ――もし、間に合わなければ…今度こそ僕はあいつに殺られる…<br> いや、僕だけじゃない…真紅も、水銀燈も…この街に生きる人はみんな奴らに…<br> <br> ――ならば…やるしかない…!<br> 僕がこの3ヶ月で意地でも強くなってやる!そのために…僕は今日までこの拳を磨いてきたんだから…!!<br> <br> ジュンは目を開くと固く握った自らの拳を見据えた。<br> ふいに脳裏に先程の円谷の言葉が浮かぶ…<br> (男はいつか、何かを守るために闘わねばならない時がくるんだ…)<br> <br> そしてもうひとつ、かつて幼かった頃真紅に言われた言葉が…<br> (ジュン、生きることは戦うことよ…)<br> <br> ジ「あぁ…そうだったな。僕には悩んでる時間なんかないんだから…<br> 見てろよ…裏の世界の住人だろうがなんだろうが、みんなを傷付けるような奴らなら纏めて僕が叩き潰してやる!!」<br> <br> ジュンは拳を振り上げると揺るぎない決意を込めた咆哮を上げた。<br> そしてジュンの試練の3ヶ月が幕を開けた…<br> <br> 続く<br></p> <br> <p>ここで「新説JUN王伝説」~序章~作中元ネタ紹介<br> <br> 円谷英二…言わずと知れた特撮の神様。初代ゴジラを生み出した後、1970年に亡くなるまで円谷プロの総指揮を取りウルトラマンを始めとする数多くの作品を遺した偉人である。<br> <br> 牙喪守…残酷怪獣ガモスより<br> ウルトラマン80、「永遠に輝け!!宇宙Gメン85」に登場。<br> 宇宙指名手配犯NO.2の凶悪怪獣。例えどんな小さな命でも躊躇なく殺害する残酷な性質で、数多くの星々で破壊と殺戮を繰り返してきた。<br> 口からは全ての物質を溶かす泡、目からは怪光線、背中からは爆発性のトゲを飛ばす。高周波が弱点。<br> <br> 邊鬼羅…暴れん坊怪獣ベキラより<br> ウルトラマンレオ、「必殺!怪獣仕掛け人」に登場。<br> 破壊し、暴れまわることを至上の喜びとする凶暴な怪獣。口からは火炎と黄色い煙幕を吐き出す。<br> 前方からの攻撃には鉄壁の防御を誇るも背中は打たれ弱く、ウルトラマンレオの多段攻撃に敗れた。<br> <br> SODOM…超高熱怪獣ソドムより。<br> ウルトラマンダイナ、「発熱怪獣3000度」に登場。<br> ニューギニアの火山に住むという伝説の怪獣。変成岩が好物で、現地では噴火から人々を守る“火の神の使い”と伝えられてきた。<br> 体は超高熱で口からは灼熱の火炎を吐く。<br></p>

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