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「『Magic of Love』」(2006/03/14 (火) 21:04:39) の最新版変更点
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『Magic of Love』<br>
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もう3月だというのに、雪は容赦なく降りつづいている。<br>
窓のむこうの景色は、四角のぶんだけ白かった。<br>
再び遠のいた春の足音。<br>
代わりに聞こえてくる、階段を上がってくる人の足音。<br>
階段を上るときの音は人によって違う。<br>
慣れてくると誰だかわかるようになる。<br>
とんとんとん。<br>
外がさむかったせいだろう。いつもより若干ペースが速い。<br>
それにあわせるかのように、僕の心臓のペースも上がってくる。<br>
僕は気持ちを落ち着かせようと、くもったガラスに相合傘を描き、僕と真紅の名前を書く。<br>
逆効果だったかな・・・。<br>
もうすぐ真紅が来る。<br>
僕は、なんだか気恥ずかしくなって、相合傘の部分をカーテンで隠して、<br>
入ってくる真紅にまず、なんて言おうかと考え始めた。<br>
<br>
答えがでないまま、<br>
ガチャ。<br>
ドアが開いた。<br>
「今日もさむいわね、JUM」<br>
「ああ、そうだな、真紅」<br>
そっけない挨拶。<br>
冷たいわけじゃない。<br>
「JUM、紅茶の用意・・・はできてるようね」<br>
真紅がお茶会用のテーブルの上のティーセットを見てつぶやく。<br>
紅茶を飲むならダイニングで飲めばいいのだが、彼女は僕の部屋で飲むのが好きらしい。<br>
でも、彼女曰く、ここでのお茶会は、僕のためのものなんだそうだ。<br>
ティーポットからカップに紅茶を注ぎ、座った真紅に手わたす。<br>
「ありがとう」<br>
「ん」<br>
カップを手渡すときに手がふれて、一瞬、心臓がはねる。<br>
そのせいで、返事がそっけなくなってしまう。<br>
僕が自分の分を淹れている間に、真紅は何事もなかったかのように、ミルクと砂糖を入れている。<br>
彼女を正視できない。思わず顔をそむけてしまう。<br>
そんな僕の心を知ってか知らずか、真紅は優しく微笑んでいる。<br>
見なくても分かる。<br>
少し前の僕にはわからなかったが、今の僕にはわかる。<br>
<br>
少しの間、もしくは長い間、静かな時間が流れた。<br>
時折、スプーンをまわす音が聞こえるだけ。<br>
こういう雰囲気は、嫌いじゃない。<br>
ふいに真紅が口をひらく。<br>
「ねえ、JUM。あなたは魔法の存在を信じるかしら?」<br>
「魔法?」<br>
あまりに唐突な問いにすぐに答えを返せない。<br>
魔法っていうと、ファンタジーであるような火とか水を操るアレか?<br>
「さあ、どうだろう?」<br>
思うがまま答える。<br>
真紅は何を言おうとしているのだろう。つい真紅をみつめてしまう。<br>
「私ね、今日JUMの家に向かう途中でね、寒い、何か足りないっておもってたらね、<br>
あなたがくれた手袋を家にわすれたことに気づいたの。」<br>
・・・ああ、あれか。<br>
以前、真紅が寒くて仕方ないとかぼやいていたから、手袋を編んであげたのだ。<br>
真紅が喜ぶよう、小さなくんくんのワッペンをつけた。<br>
「それと、魔法と何の関係が?」<br>
「人の話は最後まで聞きなさい」<br>
怒られてしまった。<br>
<br>
「急いで家に戻って、手袋をとってきたわ。そして、手袋をはめたらね、そこで魔法が起きたの」<br>
ブクロテなんて呪文あったっけ?<br>
「手だけじゃなくて、身体全体が温かくなったの<br>
私はそのとき、初めて魔法の存在を信じたの。あなたの魔法を」<br>
「魔法なんて、大袈裟な・・・」<br>
「大袈裟じゃないわ。あなたはもっと自分に自信を持って。<br>
人を幸せにすることって、とても難しいことなのよ。でも、あなたにはできる」<br>
僕の編んだ手袋が彼女にとっての魔法なら、彼女の言葉は僕にとっての魔法だ。<br>
不思議と。<br>
温かい。<br>
心地よい。<br>
「JUM、これは手袋のお礼よ」<br>
照れくさくて下がっていた顔が、真紅の声に反応する。<br>
「え・・・?」<br>
真紅の顔が目の前に。<br>
ちゅっ<br>
「!!」<br>
真紅の唇と僕の唇が重なる。<br>
<br>
「んっ」<br>
唇が離れる。<br>
「JUM、今日が何の日か知ってる?」<br>
――――――――今日・・・?<br>
まだ思考が麻痺している中、必死に思い出そうとする。<br>
「今日は・・・3月14日・・・それが・・・?」<br>
「もうっ、鈍いわね!ホワイトデーでしょう!まったく・・・<br>
私のあげたチョコを忘れたとは言わせないわ。よって、今のキスの3倍、いえ、100倍返し、それ以上を要求するわ」<br>
「え・・・」<br>
また思考が停止しそうだ・・・。<br>
「今度はあなたからよ」<br>
そう言って真紅は目をつむる。<br>
震える手で彼女をそっと包む。<br>
「はやく温めて」<br>
震える唇で、くちづけを。<br>
「・・・これでいいか?」<br>
「駄目よ。まだ足りないわ」<br>
<br>
「もっと・・・」<br>
<br>
「もっと優しく」<br>
<br>
「もっと激しく」<br>
<br>
「私を、抱いて」<br>
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結局あれから、時がたつのも忘れ、何度も愛に溺れた。<br>
ぐわー!思い出すだけで顔が真っ赤になる。<br>
まだ手に残る真紅の唇や肌の感触。だめだ、おかしくなりそうだ。<br>
僕が一人悶えていると、<br>
「そろそろ帰らないとまずいから、帰らせてもらうわ」<br>
そう言って真紅は帰り支度を始めた。<br>
気づかなかったが、外はだいぶ暗くなっていた。<br>
「送ってくよ」<br>
「あら、ようやくあなたもレディーの扱い方が分かってきたようね」<br>
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家の外に出ると、雪と風が冷たい暴力をふるっていた。<br>
コートを着ていても、寒い。<br>
靴をはいている真紅を待つ間、僕は2階の自分の部屋の窓に目をやった。<br>
さすがにここからでは、窓に描いた相合傘は見えない。<br>
それにもう、結合した水滴が消してしまっただろう。<br>
「何してるの、JUM、行きましょう」<br>
真紅の声で視線が人の高さにひき戻される。<br>
手袋は・・・忘れてないな。<br>
「相合傘でいこう」<br>
「いいわよ」<br>
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ふたりならんで歩く。降り積もった雪に足跡をつけながら。<br>
この雪も風も今の僕達にとっては、2人を美しく見せる小道具でしかない。<br>
沈黙と会話を交互に編んで、魔法を紡ぐ。<br>
窓の相合傘は消えてしまったが、いま、僕らは最高に絵になっているだろう。<br>
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「送ってくれてありがとう、JUM」<br>
「僕の役目だからな」(僕だけの、僕にしかできない)<br>
「また明日、逢いましょう」<br>
「ああ、また明日」<br>
そして僕は、もと来た道を戻ろうとする。<br>
「ちょっと待って」<br>
真紅の声。<br>
『 』<br>
<br>
『 』<br>
<br>
『 』<br>
<br>
『 』<br>
<br>
『』<br>
ちゅっ<br>
<br>
<br>
おしまい。<br>