「～薔薇獄陰陽伝～ -Short Break-その2」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら
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<p>「行ってらっしゃぁい」<br>
今日もがっこーへ行くジュンを見送る。<br>
本当はがっこーへもついていくほうが彼を守りやすいのだが、彼が強く拒否したために断念せざるをえなくなった。<br>
「全く…ワガママなんだから……まぁいいわ。守ろうと思えばいつでも駆け付けられるわぁ。そ・れ・よ・り・も♪」<br>
玄関のドアを閉め、向かうは『てれび』が置いてある部屋(この時代では『りびんぐ』というらしい)だ。<br>
この『てれび』というものは、なんでも雷の力を利用して遠くの出来事を小さな箱に映し出す…という、文明の進歩が産み出した画期的なものらしい。<br>
この『てれび』を利用して、人間たちは色々な情報を得るらしい。<br>
さてこの『てれび』だが、これがなかなかに興味深いものだ。<br>
ちなみに私のお気に入りは、ジュンが作ってくれたお弁当を食べるときにやっている番組だ。<br>
「もりたさん」という目が真っ黒(『さんぐらす』というものをつけているらしい)な男と、周りの人々の会話がたまらなくおもしろい。<br>
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「おもしろくないわねぇ…」<br>
りもこんとやらを使って、てれびの電源とやらを切る。<br>
ジュンが学校へと行ってから半刻ほど…この時間はおもしろい番組はやっていない。<br>
「…散歩でも行きましょうかぁ」<br></p>
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<p>この家に来て、てれびの次に私が好きなのは散歩だ。<br>
文明の発達とやらで自然が失われてしまった場所が多いと聞くが、少なくともこの町においてはそうでもない。<br>
自然がありのまま残されていて、昔住んでいた山を彷彿とさせる所もある。<br>
こうやってその自然をゆっくり歩きながら眺めるのは本当に楽しい。<br>
「やっぱりこの町はいいわねぇ……」<br>
ちなみに今の私はいつもの服装ではなく、ジュンの姉の『わんぴーす』とやらを着ている。もちろん耳も尻尾もちゃんと閉まっている。<br>
私は別にいつもの格好でもなんら問題はないと思っているのだが、「頼むからそんな目立つ格好であるかないでくれよ…」とジュンが懇願してきたのだから仕方がない。<br>
しかし…この時代の着物は動きやすくていい。ジュンの先祖に仕えていたときの着物はひらひらしているだけで動きにくいったらありゃしない。<br>
それでもいつもあの着物を着ているのは、やっぱりあれが一番しっくりくるからなのだろうか。<br>
「いつもあの着物だったから、これだと何か違和感があるわぁ…動きやすくてとてもいいんだけどぉ………あら？」<br>
なんだろう…今何か鳴き声が聞こえたような…しかも二つ。<br>
「よっと」<br></p>
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鳴き声をよく聞き取るため、隠していた両耳を出すことにした。<br>
ほどなくして、ぴょこんという音が聞こえそうなほど勢いよく耳が飛び出してきた。<br>
「……こっちね」<br>
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少し歩くと、建物と建物の間の狭い所で二匹の犬が対峙している現場に行き着いた。<br>
いや…対峙というよりは、体格の大きな方の犬が小さな方の犬に今にも飛びかかろうとしている…と言ったほうが正しい。<br>
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「こんな小さい相手を襲おうなんて…感心しないわぁ……」<br>
今までならおそらく無視をしていただろうが、今は何故かその光景が不快に思い、小さい方を助けることにした。<br>
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ヒュオォォォ……<br>
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軽く人差し指を振ると一瞬にしてこの辺り一帯だけにゆるやかな風が吹き始める。<br>
そしてそのまま掌をひらくと、風が私の手に人の頭ほどの大きさの球体となって集まってきた。<br>
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全ての風を球に閉じ込めると、それを大きな方の犬に向かって軽く放る。<br>
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バシュッ！ブワァァァァッ！<br>
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「キャウンッ！？」<br>
犬にあたって解放された風は刃となり、獲物の毛を全て刈りとる。毛をはがれた犬は、情けない鳴き声をあげてどこかへ逃げて行った。<br>
私はそのまま、未だフルフル脅えている小さな犬の頭をそっと撫でた。<br>
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「おばかさぁん…もうあんなのに捕まっちゃダメよぉ？」<br>
そう言ってにっこり微笑むと犬は嬉しそうに尻尾を振り、「きゃん♪」と鳴くと、そのまま行ってしまった。<br>
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「……なんであんなことしたのかしら」<br>
再び歩きながら、先ほどの行為について考える。<br>
今までの私なら、あのような些細な…しかも私には関係ないことに関しては完全に無視をしていたのに……<br>
もしかして…あの少しぶっきらぼうだが、本当は優しい心を持っているジュンに影響されたのだろうか……？<br>
そんなことを考えていると<br>
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ぐるるるる……<br>
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「あらぁ、もうそんな時間なのぉ？」<br>
いつもなら家に帰ってきたくらいに空腹を感じるのだが、今日は余計な寄り道をしたせいで時間を食ってしまったようだ。<br>
「あぁっ！いけないっ！早く帰ってもりたさんの番組見なきゃっ！！」<br>
そのまま風よりも速く桜田家へ向かって走る。<br>
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何故あんなことをしたのかなど、もうどうでもいい。<br>
例えジュンの影響で私が変わったのだとしても、それもなかなか良いことだと思える。<br>
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だって………今でもさっきの犬の嬉しそうな顔を思い出すと、笑顔が止まらないんだもの。<br>
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