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「しっぽの話」 ホーリエ編 我輩は犬である。名前はホーリエ・フォン・ローゼンハイム。 どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いブリーダーさん家の居間で きゅんきゅん泣いていた事だけは記憶している…。 そんなわけで、こんにちは、メイメイさんから後を任されましたホーリエ号です。 犬種はシェパード、年は三歳。長い名前の後半は犬舎号というもので、私の正式な苗字に当たります。 ご主人様ご一家には、小さい頃から厳しく訓練を受けさせて頂きまして、 おかげで今は嘱託警察犬などの任務にもついております。 あくまで嘱託ですので、普段はただの番犬なんですけどね。 ちなみにメイメイさんとは、まだお互い小さな頃からの付き合いで。 昔は良く水銀燈さんと一緒に遊びに来られていましたが。 最近は、ご主人様がある一件から猫が苦手になってしまったので今は中々…… なので、私が昼間に庭で番をしているときに、一匹でふらりと遊びに来る事が多いですね。 今日は特に、春のあたたかい陽気に誘われてここに昼寝をしに来たようなのですが。 まったく春眠暁を覚えず、とはよく言ったもので、私も最初は起きているつもりだったのですけれど。 気持ちよさそうに日に当たる彼女を見ているうちに、私も段々眠くなってきてしまいまして。 次に見回る時間まで、と思いながらも、結局目がさめたときはなんともう空も赤くなる頃。 実は、寝ている間も何度か音が聞こえて顔を上げたのですが、全員チラシ配りや郵便配達の方で。 家から離れていくのを確認して直ぐにまた寝てしまったのです。不覚です。 ため息をついて頭を掻いていると、聞こえて来たのは門を開く音。 これは曲者!?と思って急いでそちらの方を見ます。でも、よくよく足音を聞いてみれば…… 「ただいま~」 ご主人様! 「ただいまホーリエ。ちょっと待っていなさいね」 返ってきたご主人様は、優しく頭をなでてくださいました。 そして、そのまま荷物を持って家の中に。 しばらく経っても出てこないので、一度メイメイさんの所に戻ります。 メイメイさんはまだ寝ているようです。 そろそろ起こしたほうがいいかなと思いながらその寝姿を眺めていると、 やっと、ご主人様が家から出ていらっしゃいました。 「ホーリエ!散歩に出るのだわ!いらっしゃい!」 はい!ただいま!私は慌てて、再びご主人様の方へと向かいます。 普段、庭の中は比較的自由に移動させてもらっているとはいえ、やはり散歩は楽しいんですよ。 ご主人様と一緒に居る時間が、やっぱり何より楽しいんです。 走りながら後ろを少し振り返ると、メイメイさんも目を覚ました様子でこっちを見ていました。 目で小さく挨拶してから、すぐにご主人様の足元に。 後は、いつものようにチョークチェーンとリード(引き綱)を着けられまして。 ご主人様と連れ立って意気揚揚と散歩に出発ということになりました。 途中ちらりと私専用の小屋の方を見れば、既に其処には黒い彼女の姿はありませんでした。 また明日、メイメイさん。 さてさて、夕暮れ時の散歩ではいろいろな方とすれ違います。人にも、動物にも。 先ほどすれ違って、少しご挨拶をしたレンピカさんは、 この近くの時計屋さんで飼われているゴールデンレトリーバー。 朝に家の門の前を通るときは、時計屋ご主人の元冶さんと一緒なのですが、 夕方すれ違うときにはそのお孫さんの蒼星石さんと一緒に走っている事が多いです。 なので、さっきもほとんど目線のご挨拶だけ。 私は週末のドッグラン以外では思う存分走る事が出来ないので、 少し彼女がうらやましいかもしれません。 そうそう、中でも一際珍しい方がいました。大抵は、途中で立ち寄る公園で会えるのですけれど…… 「カーシラー!!」 「こ、こらピチカート!公園じゃあんまり大きな声で鳴いちゃダメかしら!」 いらっしゃいました。ヨウムのピチカートさんです。 オウムじゃないのか、ですか? ええ。最初私も勘違いしていたのですけれど、あくまで「ヨウム」であってオウムではないそうです。 そして飼い主は、彼女の足に繋がったリードを、腕に巻いている金糸雀さん。 この名前も鳥の名前ですけれど、こちらはれっきとした人間の方です。 「こんにちは、金糸雀。貴方も散歩?」 「あ、こんにちはかしら真紅。ピチカートに色んな音を聞かせているかしら!新芸かしら!」 「そう。ピチカート、何か新しい言葉は覚えた?」 ご主人様が、ピチカートに問い掛けます。 ピチカートさんは、ぐりん、と首を傾けてご主人様を見返します。 「シンーシンクーチワー?……カシラータマゴヤキカシラー!コッソリツマグイカシラー!」 「ななななっななっ!ぴ、ピチカート!?」 「ふふふ、残念ながら聞かれていたみたいね」 目を白黒させてピチカートさんを止める金糸雀さん。 でも、ピチカートさんはそれをひらりと避けてしまいます。避難先は私の背中。 ちゃんと爪は切ってあるし、掴まられてもあまり痛くないんですよ。 「リエ、ホーリエ、チワーチワー?」 『ホーリエさん、こんにちは~』 こんにちは、ピチカートさん。今日も鳴きまねは絶好調ですね。 「ウォンッ!バウバウッ!カーシラー♪」 『それはもう、ばっちり。声を聞いてご主人様が一喜一憂するのがとても楽しいか~しら~♪』 一喜はともかく、一憂って…… 思わず苦笑しながら彼女を見上げると、胸を張って早速披露してくれました。 「カナカナカナカナカナ!カナ~カーワイイ~!マサチューセッチュー!?セッチュー!?」 金糸雀さんと、後もう一人。大人の女性の声を真似する声があたりに響き渡ります。 金糸雀さんの顔が一気に赤くなりました。 「あ~!もう、恥ずかしいかしら~!もう、ピチカートったら変なことばっかり覚えるかしら……」 ピチカートさんは私の背中から回収されて、金糸雀さんの手の定位置に戻ります。 「やるなら、もっとちゃんと覚えた曲を披露するかしら!」 ふくれっつらで言いながら、金糸雀さんが、ポシェットからりんごの欠片を取り出しました。 「リンゴー!カシラー!」 「はい、あげたらちゃんと歌うかしら」 受け取ったリンゴをパックリと食べてしまうピチカートさん。 ごくん、とそれを飲み込むと、顔を上げて歌い始めます。 「~♪♪~~~~♪」 きれいな、人の声とは違う音が彼女の口から発せられ、それがメロディになっていきます。 「あら、バイオリン・ソナタ?」 しばらくそれを、静かに聞いていたご主人様は、ふっと顔を上げてこんな事を言いました。 「今練習しているかしら!それで、曲の雰囲気を掴むのに一緒にCDの曲を聴いていたら、  何時の間にかピチカートの方が先に上手くなってたかしら」 それに対して、にっこり笑って答える金糸雀さん。 先を越された、なんて口では言っているものの、表情はとても嬉しそう。 これがきっと、ご主人様が良く言われている「親馬鹿」っていうものなんでしょうね。 ピチカートさんも得意げな歌いぶりで、なんだか二人の仲のよさを垣間見ることが出来た気がします。 野原の広がる公園に、ピチカートさんの声がひびいて広がります。 しばらく経って歌い終わると、他にも公園に来ていた人たちから、小さく拍手が送られました。 そして、金糸雀さんとピチカートさんと別れた帰り道。 ご主人様と並んで歩きながら、ふと考えます。 私は今まで色々なことを訓練で覚えてきましたが、ああいった芸は覚えていないなあ、と。 もしかして、私も何か面白い芸を覚えたら、ご主人様にもっと誉めてもらえるでしょうか。 頭をなでてもらえるでしょうか。 しかし、何をしたら良いのかまでは、とんと思いつきませんでした。 仕方がありません。それは今後の課題ということで、おいおい考えていく事にしましょう。 そうそう、数日後、ご主人様と一緒に見たテレビを参考に、 ためしに逆立ちなどやってみたのですが。 上手くいくかな、と思ったところでテーブルにぶつかって物を落としてしまいまして…… 怒られてしまいました。芸の道は一日にして成らず、ということですね。難しいものです。 そんなところで私の話はお仕舞いです。お楽しみいただけたでしょうか?

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