「【薔薇水晶と、雪華綺晶と、>>>>越えられない壁>>>>槐】」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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【薔薇水晶と、雪華綺晶と、>>>>越えられない壁>>>>槐】―薔薇水晶とジュン異聞、ゴメン、異聞の意味は俺は知らない―<br>
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それは、薔薇水晶たちが、ジュンと一緒に暮らしている家から、自分たちの家に帰る定例日のことだった。<br>
というより、定例日の日なら、いつもあることなのだが――<br>
「薔薇水晶、雪華綺晶」<br>
「なぁに、お父様?」<br>
「一緒のベッドで寝よう。出来れば裸ワイシャツ。もしくは若奥様!」<br>
「死ねよ、変態」<br>
「がふぅ」<br>
槐は親バカ(?)だったのだ!<br>
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「ひ、ひどいじゃないか、雪華綺晶。私はただ、親子のスキンシップを謀ろうとしただけなのに」<br>
殴られた頬を押さえ、槐は涙目だった。<br>
「字が違えよ、字が。っつーか、何で私がここに帰ってこなきゃいけないんだよ。ジュンのとこにもーどーりーたーいー!」<br>
「我慢してよ、雪華綺晶。私だって、ジュンと一緒に居たいんだから」<br>
「ジュン? 桜田ジュンか。私のかわいい娘たちを奪った、桜田ジュンのことか! ダメですよ、そんなのお父さん許しませんよ!<br>
っつーかあのクソガキのどこがいーんだよ、二人とも考え直せ、って、アレ、いや、ちょ、雪華綺晶さん、何をそんな怖い顔を、<br>
……いやああああ、何か白い世界が迫ってくるー!? な、何だこれは、ありえない、いやだけど、ちょっと雪華綺晶っぽくて少しだけしあわ――」<br>
「何で死なないんだよ……」<br>
雪華綺晶はため息をついた。むしろ殺す気だったのだろうか。<br>
「ダメだよ、雪華綺晶。殺さず、生かさず、だよ」<br>
「薔薇水晶、どーも、性格が黒いよ」<br>
「雪華綺晶から派生したからね。そのせいで、私までこんな性格に……う、ううう」<br>
「マジ泣きかよ!」<br>
「すいません、そろそろ、助けていただけると、」<br>
「「黙ってて」」<br>
「あ、すいません……」<br>
大体、こんな日常だった。<br>
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「っつーかさ、槐は、ジュンの悪口言うの、やめて」<br>
「そーだよ。お父様、ジュンの悪口言うなら、もうお父様と喋らない」<br>
「……く、ここまで洗脳がひどいのか。いったい、いったい、桜田ジュンは、どんな手を使ったというのか――!」<br>
「愛」<br>
「ときたま恋」<br>
「ジーザスッッッッ!」<br>
反った。何だかよく判らないけど、後ろに反った。哀憫の視線を雪華綺晶が送った。薔薇水晶は無関心だった。慣れたものだ。<br>
「っていうかさー、愛って安っぽく言うけどさー、なぁに、それ、あれだろ、あの年頃のガキは、愛より欲だろ、愛欲だろ?<br>
何せ私がそうだったからな! だから、あのガキはやめなさい、いいね?」<br>
「いや、お父様と一緒にされても」<br>
「でもまあ、愛欲がないこともない」<br>
「――何?」<br>
「こ、こら! 雪華綺晶!」<br>
「あ、やば」<br>
「今、なんて、言ったんだ、雪華綺晶」<br>
「あー、どうしよっかなぁ、うわぁ。メンドクサイなぁ」<br>
「ふ、ふふふふふふふふふふ、あのクソガキ、二人に手を出しやがったのか。あー、そうですか、そうですか。……殺して解して並べて揃えて晒してやるよ!」<br>
「いや、壮絶にキャラ違い――あ、ナイフ? うわ、とうとう変質者にしか見えなくなった!」<br>
「ぜ、ぜぜぜぜ絶対ぶち殺してやるぅ!」<br>
何故かヘタレオーラだった。<br>
「ま、どうでもいいけどね」<br>
くい、と雪華綺晶が指を曲げた。孔が空いた。<br>
「のおおおおおおおおおおおおお!?」<br>
「ごめんなさい、お父様。流石に、ジュンに手を出されるのは、ちょっと……」<br>
その薔薇水晶の言葉を最後に、槐の意識は途切れた。<br>
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「う、うう。何故、こんな仕打ちを……」<br>
目を覚ましたら、一人だった。何で。今日は、三人で幸せな日々を過ごす予定だったのに!<br>
……でも、テーブルに置いてあった肉じゃががあって、とても幸福だった。そんな自分が、槐は好きだった。<br>
「うう、おいしい……」<br>
でも泣きながら食べてたから、しょっぱかった。<br>
「くそ、桜田ジュンめ。いつか、いつかは二人を取り返して――」<br>
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瞬間のことだった。<br>
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「なぁに、槐。貴方、ジュンのこと、知っているわけ?」<br>
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槐は、世界が停められる感覚を、知った。<br>
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彼女は帰った。<br>
「すまない、槐」<br>
「……白崎か」<br>
「彼女が、どうしても、来たいと行ったんだ」<br>
「ああ、そうか。まだ、諦めてないのか。あの、クソガキのことを」<br>
「そうだよ。そうだとも。だから、……すまない、槐」<br>
それは、いろんな意味がある、謝罪だった。<br>
「いい。白崎は悪くない。そうだろ、“ラプラス”?」<br>
「…………すまない」<br>
彼はそれだけ言った。それだけだった。<br>
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「む……」<br>
彼も帰った。今度こそ、槐は雪華綺晶たちが作った肉じゃがを、堪能しようとして――<br>
「何だ、これは?」<br>
床に、薔薇の指輪が着いているネックレスが落ちていた。<br>
「忘れ物、……か?」<br>
それはとても綺麗で、とてもとても綺麗で――だから、槐は、自分の娘にやることにした。きっと喜んでくれるだろう、と思って。<br>
だけど、だけど、それは忘れ物で。誰の忘れ物か判らなくて。だから、忘れ物だってことも、忘れられて。<br>
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だから――それは、桜田ジュンの下に、渡る。<br>
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「ラプラス」<br>
「はい」<br>
「私、忘れ物をしたわ」<br>
「槐のところにですか」<br>
「ええ」<br>
「……それで、何を?」<br>
「いえ、いいわ。あのまま、忘れておきましょう」<br>
くすくす、と彼女は笑う。……まるで、置いてきたものが、どうなるのか、知っているようだった。<br>
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だから、おしまい。何が何だかよく判らないようにしたまま、終わる。<br>