「第二話 「か弱き歌姫ら」」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「第二話 「か弱き歌姫ら」」(2006/07/28 (金) 16:14:08) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
<p>第二話 「か弱き歌姫ら」<br>
<br>
<br>
隣の方の病室から聞こえてくる。<br>
病室で誰か歌ってるんだろうか?<br>
<br>
「お姉ちゃんまた歌ってるのねぇ。」<br>
<br>
・・・へ?<br>
<br>
「お姉ちゃんって・・?」<br>
「私の従姉妹のお姉ちゃんよぉ、ずっとこの病院に入院してるのよぉ。<br>
いつもあんな風に歌ってるのよぉ。」<br>
<br>
成る程、水銀燈の従姉妹なのですか。<br>
なんとなく会ってみたくなる。<br>
<br>
「会ってみるぅ?」<br>
<br>
心でも読まれたのでしょうか?<br>
<br>
「良いのですか?」<br>
「勿論いいわよぉ。」<br>
<br>
そう言うと私の手を取って水銀燈は廊下を進み始める。<br>
と言っても部屋に着くのは一分もかからず<br>
薔薇水晶の部屋から三部屋分離れた所にその人の病室はあった。<br>
</p>
<p>「ここよぉ。」<br>
「柿崎メグ・・・?」<br>
<br>
水銀燈がノックすると中からいいですよと声がかかる。<br>
水銀燈がドアを開けて中に入ると私もそれについて行く。<br>
・・・気のせいだろうか?歌声がまだ聞こえるきがするのですが・・・。<br>
<br>
「水銀燈、久しぶり。」<br>
「元気してたぁ?」<br>
「・・・死にたい。」<br>
「そんな事言わないのぉ。」<br>
<br>
水銀燈が彼女の肩を軽く叩きながら言う。<br>
この人は何なんでしょう?<br>
鬱病かなんかなのでしょうか?<br>
<br>
「そっちの子は・・?」<br>
「私の友達の雪華綺晶よぉ、妹が此処に入院してるのよぉ。」<br>
「そうなの。私は柿崎メグ、宜しくね天使さん。」<br>
<br>
・・・ホントに何なのでしょう?<br>
<br>
「て、天使・・?」<br>
「うん、天使。水銀燈が黒い天使ならあなたは白い天使。」<br>
<br>
・・・どう返事すればいいでしょう?<br></p>
<p>
「めぐぅ、いきなりそんな事言ったらとまどうでしょう?」<br>
「けどあなたも天使さん、そしてこの子も私の天使さんかもしれないわ。」<br>
「あなたの・・・天使?」<br>
「うんそう、私のような生きる意味の無いような私の命を喜んで頂いてくれる天使さん。<br>
水銀燈はやってくれないけどあなたは私を殺してくれるかもしれないわ。」<br>
<br>
満面の笑みで語りかけてくる。<br>
何を考えてるのでしょう?この人は・・・。<br>
<br>
「めぐ!」<br>
<br>
水銀燈が怒鳴る。<br>
<br>
「死にたいとか殺してとかそんな事言わないのぉ!」<br>
「何で駄目なの?私の命なのよ?あなた達にあげるのも私の自由よ。」<br>
<br>
相変わらず笑顔のまま喋ってくる。<br>
<br>
「はぁ・・・。御免ね雪華綺晶、こんな子なのよぉ。<br>
子供の時からずっと心臓病で入院してる内に死にたいだなんて<br>
言うようになったのよぉ。」<br>
「そ、それで・・・。」<br>
<br>
つまりは生きる希望を失ったという事なのでしょうか?<br>
入院患者には確かにそう思うような人はいると思うけど<br>
この人はまた変わった人だな・・・。<br></p>
<p>「そういえばさっきの歌はなんなのでしょう・・?」<br>
「知らない、名も知らない歌なのよ。<br>
けど良い曲、ずっとずっと昔に聞いた心に残る曲。」<br>
「成る程・・・。」<br>
<br>
確かに聞いてる限り良い曲だ。<br>
それに加え柿崎さんの良い声も合わさり<br>
相乗効果となっている。<br>
<br>
「そういえば・・・この歌がさっきダブって聞こえたのですが・・?」<br>
「んー?あれねーお向かいの人が影響されて歌ってるのよ。<br>
何でも最近事故にあったかなんかで入院してきた人なのよ。」<br>
<br>
確かに柿崎さんが歌うのを聞いたら自分も歌いたくなってくるだろうな。<br>
現に私もそうだ。少し聞いただけなのにもう影響されてしまってる。<br>
<br>
「名前も知らないのに色んな人が歌うっていうのもいいわねぇ。」<br>
<br>
確かに名前を全員が知らないなんて変だとは思うが<br>
かえってそれがいい気もする。<br>
<br>
「ふふ・・。あなたも歌ってみる?」<br>
「え・・・私ですか?」<br>
<br>
確かに歌ってはみたいけど何か恥ずかしい気もするし・・。<br>
</p>
<p>「恥ずかしがらなくてもいいですよ。」<br>
<br>
心を読まれたのか、私の思った事について言ってくる。<br>
しかしそれもそうだ、歌を歌うのに恥ずかしがる必要は無いですね<br>
<br>
「なら・・・私も歌わせて頂きますわ。」<br>
「ふふ・・・そうこないと。」<br>
「私も歌うわぁ。」<br>
<br>
水銀燈もそう言うので結果三人一緒に歌う事にした。<br>
<br>
「じゃあせーの、でいくわよぉ。」<br>
「わかりましたわ。」<br>
「うん、了解。」<br>
「せーの。」<br>
<br>
水銀燈がそう言うと同時に私達は歌いだす。<br>
歌詞も短いし一回しか歌を聴いてない私でも歌える。<br>
水銀燈は柿崎さんといつも歌ってるのか慣れてるようだ。<br>
・・・何となく歌ってる時に違和感を感じる。<br>
ああ成る程、向かいの病室の人も一緒に歌ってるからだな。<br>
そんな事を考えながら歌っているとあっという間に歌い終わる。<br>
<br>
「初めてなのに中々上手ね、白い天使さん。」<br>
「ええ・・そう言っていただけると嬉しいですわ。」<br>
<br>
やっぱりどうも天使さんというネーミングには慣れないな・・・。</p>
<p>「もうこんな時間よぉ。」<br>
<br>
腕時計を私達に見せながら水銀燈はそう言ってくる。<br>
気付くともう時間は面会時間終了の三十分前ぐらい。<br>
<br>
「もうこんな時間ですか。」<br>
<br>
歌をうたってる間にもう時間がかなり過ぎている。<br>
時を忘れると言うのはまさにこういう事なんだなと思った。<br>
<br>
「最後に少しばらしーちゃんに会ってきますわ。」<br>
「うん、妹さん大事にしてあげてね。白い天使さん。」<br>
「病院の玄関で待ってるわぁ。」<br>
「わかりましたわ、それでは。」<br>
<br>
軽く二人にウインクをして病室のドアを開けて出て行く。<br>
そして十秒ほど廊下を歩いて薔薇水晶の病室へと着く。<br>
<br>
「ばらしーちゃんただいま。」<br>
<br>
開けたドアを入った後閉めつつベッドで寝たままの<br>
薔薇水晶に声をかける。無論返事は無いが。<br>
<br>
「今日は変わった人に会いましたわ。」<br>
<br>
今日あった柿崎さんの話や向かいで歌っている人の話。<br>
みんなで一緒に歌った話など色々話していく。<br></p>
<p>
「ばらしーちゃんも・・・早く一緒に歌いましょうね。」<br>
<br>
面会時間終了5分前なので声をかけた後ドアを開けて出て行く。<br>
その後少し急ぎ足で玄関へと向かう。<br>
途中であった看護婦に面会時間終了のギリギリだと言われ<br>
少し反省をしつつ早歩きしていく。<br>
玄関には水銀燈の姿が見える。<br>
<br>
「もう少し早くした方がいいわよぉ。<br>
乙女を待たせてるんだからぁ。」<br>
<br>
自分の髪をいじりながら少し意地悪気味に喋りかけてくる。<br>
今度からこの人は待たせないようにした方がいいわ。<br>
そう頭に覚えさせながら向かっていく。<br>
<br>
「では帰りましょうか。」<br>
「そうねぇ。」<br>
<br>
そう言うと二人でもうすでに暗くなった道を歩いて帰っていく。<br>
冬のせいか夜になるのが早い、そして寒い。<br>
あー夏が早く来てくれると嬉しいわ。<br>
そんな事を考えるが夏が来たら逆の事を言うんだろうなと思い<br>
プッと笑ってしまう。水銀燈に一人で笑うと気持ち悪いわぁなんて言われてしまったが。<br>
<br>
「・・・すぐ目覚めてくれますよね。」<br>
「え・・・あ、そうねぇ。」<br>
「きっとその内いきなり起きて驚かせてくれるに違いありませんわ。」</p>
<br>
<p>「雪華綺晶・・・。」<br>
「突然こんな事いって御免なさい。」<br>
<br>
そう言う雪華綺晶の目には涙が流れている。<br>
自分では気付いてないみたいだ。<br>
水銀燈がバッグからハンカチを出すと頬を伝う<br>
涙を拭き出す。<br>
<br>
「・・・泣いていたんですか?私。」<br>
「・・・ええ。」<br>
<br>
涙を拭きながらそう言う。<br>
涙は拭いても拭いても流れ出てくる。<br>
何時の間に泣いていたんだろう・・。<br>
<br>
「・・・悲しかったら私でも誰でもいいわぁ。<br>
たまには泣きつきなさぁい。」<br>
「・・・はい。」<br>
<br>
泣きながら水銀燈の胸へと頭をうずめる。<br>
悲しい、悲しい、悲しい。<br>
けど・・・それを癒やそうとしてくれてる水銀燈。<br>
ほんとにほんとに。<br>
<br>
「感謝しますわ・・・。」<br>
<br>
ありがとう。<br></p>
<p>その後は水銀燈に家まで送っていってもらうと<br>
すぐに会社へと電話した。<br>
有給休暇の申し出だ。まだ確か一週間程残っているはず。<br>
そう思い電話する。<br>
いきなり課長は有給休暇を全部使うなんて言うから<br>
驚く上に怒ってくる。しかしそれに反抗する事15分。<br>
ようやく課長は納得してくれたのか休暇を許可してくれた。<br>
短い休暇だがそれでもばらしーちゃんなら・・・ばらしーちゃんならきっと<br>
その間に目覚めてくれる・・!<br>
そう信じて今日は寝る事にした。<br>
が、その前に・・・。<br>
そう思うと寝室の横にある和室へと行く。<br>
暗くて何も見えない、なので電気を点ける。<br>
電気を点けると真ん中に仏壇が見えた。<br>
黙ってそこに向かうと扉を開け仏様に向かって手を合わせる。<br>
<br>
「お母様・・・ばらしーちゃんは・・・死なせないでくださいね。」<br>
<br>
5分ぐらいずっとそれを呟きながら祈っていた。<br>
周りから見られたら相当危ない人だろう。<br>
ぶつぶつ5分も喋りながら祈ってるのだから。<br>
しかしそんな事は関係ない。<br>
ばらしーちゃんの目覚めを信じるのに関係ない。<br>
そう思うと仏壇の扉を閉める。<br>
そして今日は眠りにへとついた。<br></p>
<p>此処は昨日と同じく病院。<br>
有給がある間は朝からずっと居るつもりなので<br>
早々と家を出て走ってここまで来た。<br>
しかしはやく来すぎて病院に入れてもらえないので<br>
病院の入り口にたたずんでいる。<br>
あー早くして欲しいですわ。<br>
そんな思いは面会開始時間までの10分間通じない。<br>
ずっと開け開け開けゴマなんて考えてると人影が来る。<br>
<br>
「うゆー?雪華綺晶早いのー?」<br>
<br>
あれは雛苺でしょうか?<br>
<br>
「何故あなたが此処に?」<br>
「うゆー。みんなで交代で雪華綺晶と一緒にいてあげる事にしたのー。<br>
雪華綺晶は大変だからたまには泣きついてなのー。」<br>
<br>
泣きついてなのーと言う辺り恐らく水銀燈が昨日提案してくれたのだろう。<br>
そんな事まで言って本当におせっかいな人ですね・・・。<br>
けど・・・。<br>
<br>
「感謝しますわ。」<br>
<br>
本当にありがとう。<br>
雪華綺晶がそう言い終えるとようやく時間になったので病院に入る。<br>
</p>
<p>
「うゆー。そういえば昨日から金糸雀だけ見かけないのー?」<br>
「何故でしょうね?」<br>
<br>
いや、ちょっと待て。<br>
昨日そういえばばらしーちゃんの部屋にあの子は居た筈ですがいつの間にか居なくなってましたわ。<br>
一体・・・どういう事なのだろう?<br>
<br>
「急いで病室へ行きますわ。」<br>
「うゆー。」<br>
<br>
小走りで薔薇水晶の病室へと向かっていく。<br>
5分ほどすると着く。<br>
隣にあった私の病室のドアに書かれていた私の名前は消えている。<br>
恐らく退院の手続きを水銀燈がしてくれたのだろう。<br>
本当に何から何まで感謝しなくては。<br>
<br>
「金糸雀いるのー?」<br>
「かしらー!!!!」<br>
<br>
雛苺がドアを開けて声をかけると即座に返事が返ってくる。<br>
そして雛苺に抱きついてきた。それも泣き顔で。<br>
<br>
「怖かったかしらー!」<br>
「まさちゅーせっつなのー!」<br>
「とりあえず落ち着いて静かにしてくださいね。」<br>
<br>
二人にそう声をかけるとようやく落ち着く。<br></p>
<p>
話を聞いた所金糸雀は昨日ふと起きると周りに寝たままの薔薇水晶しか<br>
居ない事に気付いて私や水銀燈を探そうとしたらしいのですが<br>
その前にトイレに入った時に歌が聞こえてきて<br>
それを聞いてる内に眠くなってトイレで寝てしまったと。<br>
道理で居なかったはずですわね。<br>
子守唄の要領で寝てしまったのですかね?<br>
そして寝覚めたのが夜。<br>
面会時間もとっくに終わりドアは鍵を閉められ出られない。<br>
ナースコールを鳴らせばいい話なのだが怒られるのが怖くて無理で<br>
薔薇水晶の部屋にずっと居たみたいで。<br>
昼にずっと寝ていたせいで夜は眠れなく<br>
しかも時々足音が聞こえたりで怖かったと。<br>
<br>
「・・・・。」<br>
<br>
なんて声をかけてらいいのだろう。<br>
<br>
「ご、御免なさいかしらー。」<br>
<br>
呆れて物が言えないとはまさにこの事なのだろうか。<br>
<br>
「うゆー、今度からはドジしないのー。」<br>
「き、気をつけるかしらー。」<br>
<br>
学生時代からずっとそうは言ってるが直る気配は無いのですがね。<br>
そんな事を考えながら薔薇水晶のベッドへと向かっていく。<br>
</p>
<p>「ばらしーちゃん、寂しかったですか?」<br>
<br>
昨日私が帰った後誰も居な・・・。<br>
<br>
「・・・金糸雀が一緒にいてくれたから寂しくは無かったでしょうね。」<br>
<br>
長い髪を撫でながら喋りかける。<br>
その後はずっと薔薇水晶の髪を手入れしたりしてたが<br>
暫くするとそれをやめじっと見つめていた。<br>
そんな中雛苺が何かを言い出す。<br>
<br>
「うゆー、雪華綺晶ごめんなのー。ちょっと行かなければならない所があるのー。」<br>
「一体どこにでしょうか?」<br>
「親戚のお姉ちゃんが入院してるのー。だからそっちもお見舞いしたいのー。」<br>
<br>
成る程、この子も大変なんだな・・・。<br>
<br>
「勿論いいですわ、こちらこそすみませんですわ。わざわざ・・・。」<br>
「うゆー、友達の見舞いに来るのは当然なのー。」<br>
<br>
この子も本当に優しい、本当にいい人だ。<br>
本当にありがとう。<br>
<br>
「じゃあ行ってくるのー。」<br>
「行ってらっしゃいかしらー。」<br></p>
<p>雛苺を病室の入り口まで見送る。<br>
すると雛苺は走り出す。<br>
しかしそれも3秒で終わる。<br>
<br>
「近いかしらー。」<br>
「うゆー。」<br>
<br>
本当に近い、三部屋分しか離れていない。<br>
三部屋・・・?<br>
考えてると二つの部屋から歌が聞こえてくる。<br>
<br>
「また歌ってるのー。」<br>
<br>
そう言うと病室に入っていった。<br>
三部屋というとあそこは・・柿崎さんの部屋。<br>
そしてその向かいの部屋へと雛苺は入っていった。<br>
向かいの部屋の人は知り合い・・?<br>
気になり廊下を歩いていく。<br>
相変わらず柿崎さんの部屋から歌が聞こえる。<br>
そしてもう一つの歌声が聞こえる部屋。<br>
向かいの部屋の名前を見た。<br>
<br>
オディール・フォッセー<br>
<br>
そう書かれていた。<br></p>