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「―水無月の頃 その3―」(2006/07/26 (水) 20:25:32) の最新版変更点
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翠×雛の『マターリ歳時記』<br>
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―水無月の頃 その3― 【6月11日 入梅】<br>
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入梅。<br>
読んで字の如く、暦の上で梅雨に入る頃を指している。<br>
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だが、世の中では既に、六月初旬から梅雨が始まっていた。<br>
折角の日曜日だというのに、朝から雨のそぼ降る景色を見せられては、<br>
気力も意欲も急降下。一気に、倦怠感と脱力感に襲われる。<br>
翠星石も、カーテンを開いて窓に付く水滴を見た途端、二度寝モードに突入してしまった。<br>
<br>
<br>
カリッ……カリカリカリッ……。<br>
<br>
例によって、チビ猫が起こしに来たが、翠星石は瞼を閉じたまま、聞き流した。<br>
やがて、ドアを爪で引っ掻く音が止み、チビ猫も諦めたものと思いきや、<br>
今度はニャ~ニャ~と悲しげな声で鳴きだす始末。<br>
<br>
(うっ…………流石に、罪悪感を覚えるですぅ……いやいやいや。<br>
ここで起きたら、ヤツの思う壺です! 意地でも二度寝してやるですぅ!)<br>
<br>
すると、今度はトントンと階段を昇ってくる足音が響いてきた。<br>
<br>
「おや? 入れてもらえないのかい?」<br>
<br>
チビ猫の声を聞きつけて、祖父が様子を見に来たらしい。<br>
さて、これで祖父がチビチビを連れていってくれるのだろうと、<br>
安堵したのも束の間――<br>
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「どぉれ。じゃあ、儂が扉を開けてあげよう」<br>
<br>
などと、戯けたことを言い出したではないか。<br>
ちなみに、蒼星石と翠星石の部屋のドアには、鍵が付いていない。<br>
中学になる頃、祖父母は付けても良いと言ってくれたのだが、姉妹の方から、<br>
必要ないと断ったのだ。実際、今までは必要性を感じていなかった。<br>
今になって、後悔する日が来ようとは……。<br>
<br>
(……しゃーねぇです。これで静かになるなら、我慢してやるですぅ)<br>
<br>
チビ猫は直ぐに胸の上に乗ってくるので、息苦しいし暑苦しい。<br>
と言って、横臥していると髪の上に寝そべるから厄介なのだが……仕方がない。<br>
翠星石は、寝返りを打ってドアに背を向け、タヌキ寝入りしていた。<br>
<br>
――――すると。<br>
<br>
小走りに駆け寄ってくる猫の足音と、のしのしと床を踏み締める祖父の足音が、<br>
徐々に近付いてきた。時々、くくっ……と、祖父の含み笑いも聞こえる。<br>
<br>
(……おじじ、まぁた妙なコトを企んでやがるですか)<br>
<br>
顔に落書きだとか、前髪にミョーな寝癖を付けられたりとか、前科は幾つもある。<br>
出かける予定がないとは言え、おかしな悪戯をされては堪らない。<br>
翠星石は仰向けになって、パカッ! と瞼を開いた。<br>
<br>
緋翠の瞳に映ったものは、金ぴかのマスクに頭部を包んだ、祖父の姿だった。<br>
まさか、そんな被り物をしているとは思いもしなかったから、<br>
翠星石は咄嗟に枕元の目覚まし時計を掴んで、祖父に投げ付けていた。<br>
鈍い音を立てて、時計がトラに似た黄金のマスクに当たる。<br>
<br>
「なっ! なにバカやってるです、おじじ! <br>
年甲斐もなく牙狼の真似です? 恥を知れですぅ!」<br>
「いやぁ……商店街の福引きで、魔界騎士のマスクというのが当たったのでな。<br>
ちょっと翠星石を驚かしてやろうかと、思ったんじゃよ」<br>
「……ったく、しょーもねぇ老人ですぅ。さっさと外すですよ」<br>
「そうじゃな。このマスク、頭をすっぽり覆うから暑くて……? お……おお?」<br>
<br>
やおら、魔界騎士のマスクを撫で回して、祖父が狼狽えだした。<br>
異変に気付いた翠星石は、ベッドの上で居住まいを正して、様子を窺った。<br>
<br>
「どーしたです? まさか、脱げなくなった……なんてお約束じゃねーですよね?」<br>
「…………お約束じゃ。ファスナーに何か挟まって、動かん」<br>
「可愛い孫を脅かそうとするから、罰が当たったですぅ。確か、そんな伝説があったですね。<br>
嫁を脅かそうと鬼の面を被った姑の顔に、面が貼り付いて外れなくなるです。<br>
ああ、怖い怖い……ガクガクブルブルですぅ」<br>
「わ、儂が悪かった。謝るから、これを外すの手伝ってくれんか?」<br>
<br>
「しゃーねぇです」と重い溜息を吐いて、翠星石は肩を竦めた。<br>
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「私が聞いた伝説だと、改心して念仏を唱えたら、ポロッと外れたそうです」<br>
「念仏かい? 南無阿弥陀仏…………むむぅ……脱げんぞ」<br>
「きっと、方法が違うですよ。だから、外れないのは当然ですぅ。<br>
いいですか。まずは、アブラカダブラと三回唱えやがれです。<br>
それから三回廻ってジョジョビジョバァ! これで完璧ですぅ」<br>
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普通に考えれば、あからさまにウソだと解る話だが、溺れる者は藁をも掴む。<br>
祖父は疑いもせずに、翠星石の言った方法を、忠実に再現した。<br>
何やら、ワケの解らない身振りまで付けて。<br>
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「儂の中の、よからぬモノが……ジョジョビジョ、バァーッ!」<br>
「きゃはははははっ! おじじ、そこまでしろとは言ってねぇですぅ!」<br>
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翠星石は笑い転げるあまり、ベッドに寝転がっていたチビ猫を、背中で押し潰しそうになった。<br>
だが、そこは流石に敏捷な猫。素早く逃れて、にゃん! と文句を言った。<br>
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「ああ、ごめんですぅ、チビチビ~」<br>
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ひょいと抱き上げて、翠星石は柔らかな毛並みに頬ずりした。<br>
そのまま祖父のことなどすっかり忘れ、チビ猫と戯れる翠星石に、<br>
祖父が情けない声を出して纏わりついてくる。<br>
<br>
「むうぅ。やっぱり脱げんぞ、翠星石~」<br>
「あーもう……ホントに世話が焼ける老人です。今、おばばを呼んでくるですぅ」<br>
「っ!! ちょ、ちょちょちょっと待ったぁ!」<br>
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チビ猫を胸元に抱いて部屋を出ようとした翠星石の前に、<br>
老人とは思えぬ俊敏さで、祖父が立ち塞がった。<br>
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「マツに知られたら、こっぴどく叱られてしまうわい」<br>
「自業自得じゃねぇですか。私の知ったこっちゃねぇです」<br>
「ま、ま、そう言わずに。なんとか、ここで外す方法を、考えておくれ」<br>
<br>
泣きついて懇願するものだから、やむなく、翠星石は机の椅子に腰掛けた。<br>
「まずは、よーく見せてみるです」<br>
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祖父を床に座らせて、後頭部のファスナーを調べる翠星石。<br>
内側で、布の切れ端が挟まっていているらしく、ちっとも動かなかった。<br>
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「……む~」<br>
「どうじゃ、開きそうかのぉ?」<br>
「私の手には負えねぇです。もう、死ぬまで魔界騎士のままでいやがれですぅ」<br>
「そ、そんなぁ……これじゃあ飯も食えんのじゃ」<br>
<br>
言われてみれば、これは一大事。<br>
マスクが脱げなくなって飢え死にしたバカな爺さんと、祖父だけが嘲笑されるなら良い。<br>
だが、そうではない。<br>
祖母や、翠星石もまた、あの爺さんの身内だと後ろ指を指される事になるのだ。<br>
そうなったら、恥ずかしくって街を歩けなくなってしまう。<br>
<br>
(そりゃ拙いですね。ならば、この手の事が得意な助っ人を、呼ぶしかねぇです)<br>
<br>
翠星石は、机の上に置いてあった携帯電話を掴み、電話を掛けた。<br>
<br>
<br>
――――三十分後。<br>
玄関のチャイムが鳴るや、翠星石は階段を駆け下りて、祖母より早くドアを開いた。<br>
傘を差し、立っていたのは、眼鏡を掛けた青年――桜田ジュンだった。<br>
<br>
「待ってたですよ、ジュン! 雨の中、よく来てくれたです」<br>
「……お前、なんでパジャマのままなんだよ。人を呼び付けといて寝てたのか?」<br>
「気にすんなです。それよりも、早く上がって欲しいですぅ!」<br>
「ええ? うわっ、ちょっと待てって」<br>
翠星石に腕を引っ張られて、ジュンは久しぶりに、彼女の部屋を訪れた。<br>
<br>
「……まずは、こいつを見て欲しいですぅ」<br>
<br>
ドアを開いた翠星石が指し示す先を覗いたジュンは、<br>
やおら目の前に現れた黄金の魔界騎士と直面して、腰を抜かすほど驚いた。<br>
<br>
「うおわぁっ?! な、なんだぁ?」<br>
「落ち着けです。これは、おじじですぅ」<br>
「はあ? おい…………まさか、驚かす為だけに僕を呼んだのか?」<br>
「ち、違うんじゃ、ジュン君。詳しくは、儂が説明しよう」<br>
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話を聞き終えると、ジュンは翠星石に向けて、ふっ……と微笑みかけた。<br>
<br>
「孫娘への思いやりがあって、いい爺さんじゃないか、翠星石」<br>
「お世辞なんて必要ねぇですぅ。おじじはバカタレですから、甘やかすと付け上がるです」<br>
「バカタレ、とは酷い言われ方じゃのう」<br>
「言われて当然ですっ! これに懲りて、ちったぁ悪戯を控えやがれですっ」<br>
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ジュンは笑いながら、老人の後ろに回って、状況を確認し始めた。<br>
触れてみて、少し動かしてみる。<br>
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「うん……これだったら、ハサミで切らなくても、なんとか開きそうだ」<br>
「ホントです?」<br>
「まあ、任せておけって」<br>
<br>
ジュンの指が、器用に動いていく。さながら、優雅に舞う蝶の様に。<br>
<br>
神懸かり的な技に魅せられ、翠星石が我を忘れた刹那、<br>
<br>
「これで、よし……っと」<br>
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祖父の頭部を覆っていたマスクが、ジュンの手によって外された。<br>
さっきはビクとも動かなかったくせに、ファスナーは呆気なく開かれている。<br>
まるで魔法の指だと翠星石は思ったけれど、敢えて、口には出さなかった。<br>
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「おおっ! ありがとう! ありがとう、ジュン君っ」<br>
<br>
フルフェイスのマスクを被りっぱなしで、よほど暑かったのだろう。<br>
祖父は、顔中びっしりと汗をかいている。<br>
やっとの事で苦痛から解放された祖父は、喜色満面でジュンに抱き付き、<br>
容赦なく汗まみれの顔を擦り付けた。<br>
<br>
「ジュン君っ! 儂は……儂は、もう辛抱たまらなかったのじゃ」<br>
「う、うわあぁっ! ど、どうなってるんだよ、これ? 助けてくれえっ」<br>
「おじじが熱暴走したですっ! ジュン、いま、助けてやるですぅ!」<br>
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翠星石は、どこから持ち出したのか如雨露を振り上げ、祖父の頭を殴り付けた。<br>
それほど強くは叩いていないが、暫しの間、祖父の動きが止まる。<br>
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「今ですっ。早く逃げるですよ」<br>
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如雨露を放り投げてた翠星石は、ジュンの手を握ると部屋を飛び出し、<br>
一目散に階段を駆け下りて、玄関に向かった。<br>
そして、ジュンが靴を履き終えると、自分もサンダルを突っ掛け、見送りに出た。<br>
<br>
「ジュン……今日は、ホントに助かったです。あ……ありがと……ですぅ」<br>
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傘を差して、家路に就こうとするジュンの背中に届く、しおらしい台詞。<br>
ジュンは振り返って、梅雨空の鬱陶しさなど霞んでしまうほどの笑顔で、翠星石に応じた。<br>
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「別に、構わないよ。今日は、柏葉との約束も無かったからな。<br>
この程度のことなら、いつでも手を貸すさ」<br>
「…………そ、そんなの当ったり前ですぅ! <br>
私の頼みを断る権利なんて、お前には無ぇですよ」<br>
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照れ隠しのつもりが、ついつい、いつもの憎まれ口を叩いてしまう。<br>
習慣とは恐ろしいものだ。無意識の内に、口をついて出ているのだから。<br>
けれど、気心の知れたジュンは、怒るどころか陽気に笑い飛ばすと、<br>
「じゃ、またな」と別れの挨拶を告げて立ち去った。<br>
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「……ジュン」<br>
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雨靄の彼方に遠ざかる背中を見詰めている内に、唇が、彼の名前を紡ぎ出す。<br>
何年も前に棄てた筈の想いが、胸の奥底で燻りだす感覚。<br>
彼は最初から、翠星石を友人としか見ていなかったのに。<br>
<br>
(私……まだ、あんなヤローに未練があるです?)<br>
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胸中で自らに問いかけたと同時に、玄関のドアが静かに開き、祖父が顔を覗かせた。<br>
そして、六月の雨に煙る街を、じっと見据えている翠星石を眼にすると、<br>
穏やかな笑みを浮かべて問いかけた。<br>
「ジュン君は、もう帰ってしまったのかい?」<br>
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翠星石は、ジュンの去った方を向いたまま、無言でコクリと頷いた。<br>
すると、祖父は「そうか」と呟き、暫し黙った後、思い出したように口を開いた。<br>
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「なかなかの好青年じゃな、彼は」<br>
「…………あんなヤツ、箸にも棒にも掛からねぇです」<br>
「ほほう?」<br>
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吐き捨てるように呟く翠星石に、祖父の好奇に満ちた眼が向けられる。<br>
少々、ひねくれ者の孫娘は、想いや感情を、素直な言葉で表現しない。<br>
それを知っているから、祖父は彼女の言葉を、逆の意味に解釈していた。<br>
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「本当は……ジュン君が好きなのじゃな? もしや、もう付き合っておるのか?」<br>
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祖父は、戯けた口調で翠星石をからかった。<br>
だが、猛烈に反撥してくるものと構えていた祖父は、予期せぬ肩透かしを食らった。<br>
翠星石は癇癪を起こすどころか、溜息を吐いて、寂しげに目を伏せたのだ。<br>
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「私は…………あいつの彼女になんて、なれねぇです」<br>
「なんでまた、そんな弱気な事を言うんじゃ。強力な恋敵でも居るのか?」<br>
「まあ、そんなトコです」<br>
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彼女も、ジュンとは幼なじみ。立場は同じ。<br>
だけど……彼は、彼女を選んだ。翠星石ではなく。<br>
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屋根から落ちてきた雨だれが、風に流され、翠星石の目元に当たって砕けた。<br>
まるで、涙の粒みたいに頬を濡らしてゆく。<br>
翠星石は、パジャマの袖で雨に打たれた頬を拭うと、祖父に笑いかけた。<br>
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「なぁんちゃって。実は、もう恋敵ですらねぇのです。<br>
だって……高校生の時に…………私はフラれちまったですから」<br>
「なっ?! なんじゃとぉー!」<br>
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突然、叫んだかと思うや、わなわなと身体を震わせる祖父の豹変ぶりに、<br>
翠星石はビックリして息を呑んだ。<br>
優しい慰めの言葉でも掛けてくると思っていたから、不意を衝かれて驚かされた。<br>
一体全体、祖父は何故、猛烈に怒っているのだろうか?<br>
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「儂の可愛い孫を、フッたじゃと? 傷物にしおったのかっ!」<br>
「ちょっ……いきなり、ブッ飛んだコト言うなですっ」<br>
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翠星石の怒声には耳も貸さず、祖父はさっき外したばかりのマスクを、ぐいと被った。<br>
マスク越しに、くぐもった声が紡ぎ出されてくる。<br>
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「……あの小僧、ちょっと今から狩ってくる」<br>
「なななっ?! お、おじじっ! 落ち着けです。犯罪行為は止めるですぅっ!」<br>
「ええい、放せ! 乙女の純真を踏みにじった輩を狩るのが、魔界騎士の務めじゃあっ!」<br>
「ウソですっ! そんな話は聞いたコトねぇですぅーっ!」<br>
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それから、騒ぎを聞き付けて祖母が現れるまで、祖父の魔界騎士モードは静まらなかった。<br>
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雨降って地固まる――――という風には、そうそう巧くいかない。<br>
しとしと降り続く雨の下で、翠星石は、つくづく思い知らされるのだった。<br>
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『保守がわり番外編 着信アリかしらー!? その5』<br>
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蒼「金糸雀は、最も信頼してた人に裏切られたら・・・どうする?」<br>
金「迷わず復讐するかしら。目には目を・・・と、モーゼも十戒で言っているかしら」<br>
蒼「なんだってーっ?! ボク、ちっとも知らなかったよ。<br>
まあ、それは良いとして、やっぱり仕返しすべきなのかなぁ」<br>
金「そりゃあ、もう! 信頼を裏切った罪は、万死に値するかしら」<br>
蒼「・・・・・・なるほど。そう言われると・・・そんな気がしてきたよ」<br>
金(うふふふふ。よしよぉし、決闘フラグktkr~。<br>
対決になれば、どちらか一方が確実に・・・あわよくば共倒れかしらー)<br>
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蒼「姉さん・・・ボクを裏切った報いは、受けてもらうよ」<br>
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♪www♪<br>
翠「? 蒼星石からメールですぅ。何の用です?」<br>
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【やあ (´・ω・)<br>
突然だけど、このメールを読んだキミに、明日、死んでしまう呪いをかけたよ。<br>
ショックじゃないよね? だって、身から出た錆だもの。<br>
だから・・・ボクは呪いから逃れる、たった一つの方法を実行したんだよ。<br>
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うん、強引なのはわかっている。
地獄の沙汰もギブミーマネーって言うしね。<br>
謝って許しを請う気なんて、これっぽっちも無いから。じゃあね、姉さん】<br>
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翠「なっ・・・なんですか、これはっ!?<br>
信じらんねぇです・・・・・・一体、蒼星石に何があったです?」<br>
金(さぁ~て。次は、翠ちゃんを焚き付けるかしらー)<br>
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・・・反間苦肉の策かしら~。<br></dd>
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