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「―Elegie―」(2006/02/28 (火) 21:03:45) の最新版変更点
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<p>―Elegie―</p>
<p>流れていく。 貴方を思う雪洞の燭が空へと。<br>
水の上から流した小さな幸せは</p>
<p>小さな貴方<キミ>へ。</p>
<p>―Elegie―</p>
<p>「俺を忘れるな。」<br>
ジュンの代わりに、と立てた赤い鯉幟。<br>
―自分が長くないと知っていたから。―</p>
<p>
鯉幟は静かに、ただ静かに二人を守るように、ゆっくりと<br>
空を泳いでいた。</p>
<p>波の....風の音が蒼星石の耳へと入る。<br>
小さい終わりを告げる音が。</p>
<p>…自然と涙が流れていった。</p>
<p>
いつまでも結ばれるはずだったその紅い糸を手繰り寄せる。<br>
涙はそこを伝っていく。</p>
<p>「・・・・・・・・・・・・・。」</p>
<p>思いは言葉にならない。</p>
<p>外には悲しみの霧雨が淑々と降り注ぐ。</p>
<p>二人の思いを乗せ、一片、二片と散華をする。<br>
―オヤスミト言ウ言葉ト共ニ―</p>
<p>ぱたぱた。化粧の音。<br>
雪洞の仄かな明かりで蒼星石は化粧をした。<br>
―悲しみを忘れたいから。</p>
<p>少し立っただろうか。鏡に写る自分を見て<br>
初めて気づいた自身。</p>
<p>ワライカタモワスレタ。</p>
<p>無理をしている自分。―わかっているのに。<br>
待てど…いくら待てど、君は、―ジュンは戻らないのに。<br>
待つ僕は独り…。</p>
<p>思い出したかのように呟く言葉。</p>
<p>「ひとり。」</p>
<p>…仄暗い部屋にはその一言だけが響いた。</p>
<p>二人を導いた赤い糸。<br>
ずっと一緒だった。<br>
何があっても。</p>
<p>微笑み合いながら。</p>
<p>「いつまでも続くといいな。」<br>
蒼星石は屈託のない笑顔で微笑んだ。<br>
「ああ。」<br>
ジュンも同じように。</p>
<p>―そっと唇を重ね。</p>
<p>二人の時間がただ静かに通り過ぎ、<br>
煌々<キラキラ>と煌いていた。</p>
<p>点けた灯りに照らされ、姿を映し出したのは<br>
仲良く寄り添う二人と<br>
二つの影。</p>
<p>外には暗い、暗い帰り道。<br>
それでも歩いていけた。</p>
<p>二人の光を燈せば幸せがそこにはあったから。</p>
<p>二人の心には同じ景色が流れていた。</p>
<p>そして いつまでも風は吹く。</p>
<p> 心 任 せ に</p>
<p> 静 か に</p>
<p>木漏れ日が遊ぶように射し入る部屋。<br>
いつも一緒だった二人の影が―重ナル。</p>
<p>身を溶かすような熱さ。</p>
<p>葉擦れの音で消えた吐息。</p>
<p>時は流る。影が伸びるまで。<br>
折鶴は傾いた。<br>
木漏れ風<コモレカゼ>によって。</p>
<p><br>
うぃーん。</p>
<p>びき。</p>
<p>ばちばち。</p>
<p>ぐしゃ。</p>
<p>ふぃるむが燃える。</p>
<p>「僕は忘れてしまうのだろうか。」</p>
<p>呟いた言葉は、自分への悔恨。<br>
燃えた灰は固まり、解け、影へとこぼれていく。<br>
伸びていった影と。</p>
<p>マタ 涙ガ零レテキタ。</p>
<p>「シアワセニナルタメニ。」</p>
<p><br>
「幸せになろうよ!」<br>
そう告げた約束は、空へ溶けて薄れていく。<br>
揺れる送り火がささめきあう。<br>
約束事を溶かしていくように。<br>
ただただゆっくりと。</p>
<p>静かに。</p>
<p>揺れる木漏れ日。動かぬ君を運び、棺へ収める。<br>
―アキラメラレナイ―</p>
<p>「ねぇ…目を覚ましてよ!!!…!」<br>
叫ぶ声は脆い。そして儚い。<br>
「手を握り返してよ…ジュン君・・・っ!!」<br>
白く透けそうな手を握り締め、また泣いた。</p>
<p>
こんなにも綺麗で、苦しくなさそうな顔をしているのに、<br>
目を覚まさないなんて。</p>
<p>「…ジュン君…。」<br>
最後の言葉が、ぽつりと零れた。</p>
<p>一つだけ燈る明かりが、瞼に映る。<br>
それは少しずつ、静かに、静かに流れていく。</p>
<p>―それが歪んで見えた。―</p>
<p>遥かに続く大路<br>
一歩、一歩歩くたび<br>
認めたくない現実に押しつぶされていきそうになる胸の内。</p>
<p><br>
「何で…何でっ…!…………。」<br>
さめざめと、また泣いた。</p>
<p>埋めた日々を見つめ。</p>
<p>キミハ キエタ …ジュンクン。…オヤスミ。</p>
<p>どれくらいの月日が流れたか。<br>
蒼星石が気を持ち直し、昔のように笑うようになった頃。<br>
ぽつりと言った。<br>
「幸せの終わりに小さな花が咲いていたとする。僕にとってのそれはね…。」<br>
傍にいる、女の子にもったいぶるようにわざと間を空け乍ら喋る。<br>
「それは?」</p>
<p>首をかしげ気になっているらしい女の子。<br>
「…分かるよね?」<br>
蒼星石はそう言った。嬉しそうに微笑みながら。<br>
そうして、空を仰ぐ。ジュンが消えたはずの青空へ向かって呟いた。</p>
<p>
「もう君には逢えないと思っていた。…ジュン君。君の面影は、ぬくもりは、<br>
ちゃんとあったよ。」</p>
<p>空に舞う鯉幟は歪な形をしながら空を泳いだ。</p>
<p>「あ!わかった!ママは私のことが好き?」<br>
白髪<ハクハツ>の少女はケタケタと笑い乍ら、聞いた。</p>
<p>「うん。とっても。僕と、ジュンの愛だからね。」<br>
笑顔はその時間に閉じ込められたかのように暫く響いた。</p>
<p>―Fin―</p>