3章

礼「それでは、出席を取ります」

いつものように出席番号順に名前が呼ばれていく。
そしてそれにそれぞれ返事を返していく。

礼「…以上、ですね。上城さんは、体調不良でお休みだそうです」

淡々と話す先生に、無関心なクラスメイトたち。
ちらりと横目でぽつりと空いた白雪の席を見た。

(また休みか…)

最近、白雪は前にも増して、よく学校を休むようになった。
理由は常に決まって体調不良だ。

(……心配、だな)



―キーンコーンカーン

本日の学校に終わりを告げるチャイム。
それを合図に生徒達は部活動、友達と雑談、帰宅などと思い思いの行動をとり始める。
その中で、未だ席から動こうとせずにぼんやりと外を眺める暁子ちゃんの姿。
目線の先には冬独特の白い空が広がっている。
それは、まるで今の暁子ちゃんの心を表しているようで。

(………………)

ここのところの彼女には、少し違和感がある。
なんとなく、ただ漠然とそう思う。
何かが変ったのかと聞かれれば、そうではない。
彼女が変ったというよりも、彼女の何かが喪失した、と言う方がしっくりくるだろう。
しかし、それが何なのか、それが、分からない。

今日は1日中使われることのなかった白雪の机。
それに目をやる。
やっぱり、関係してるのかな、と考えてしまう。

元々は親友同士だった二人。
それがいつの間にか、一つのことをきっかけにどんどん崩れ、今では言葉を交わしているところすら滅多に見ない。
そして日に日にと気まずくなる仲。
もしかすると、白雪が最近良く休む理由も…

(どうにか、ならないかな……)

もしも二人が、また以前のような関係を取り戻すことができたのなら。
そうは思うものの、本来まったく関係のない俺には口出しする権利も理由もないのが事実だ。

(いや、)

違う。
理由ならある。
俺が彼女を好きだということが理由だ。

そう自分に言い聞かせると、携帯を手に取る。
おもむろに席を立つと暁子ちゃんへと近づいた。

主「暁子ちゃん」
暁「え…?」

俺の呼びかけに、振り向く。

―パシャ

それと同時に起動させたカメラの撮影ボタンを押す。
目を丸くさせる暁子ちゃん。

主「はは、激写!」
暁「もう、いきなり…」

そう言うと、ぷうと頬を膨らませる。

主「悪い悪い」
暁「ううん、嘘。ちょっと、驚いただけ…」
主「それじゃ、今度は一緒に撮らない?」
暁「どうして?」
主「あ、いや…なんとなく?」
暁「…ふふ、いいよ。私なんかで良かったら」
主「サンキュ」

了承を貰うと、彼女に寄り添うように近寄った。
そうして携帯のカメラを自分達へと向ける。
それを通して液晶画面に映る自分達の顔。

主「ほら、笑って」
暁「あ、うん」

―パシャ

撮れたのは、どこか少しだけぎこちない笑顔の暁子ちゃんと俺。
ちゃんと映っているのを確認すると、すぐに保存する。

主「よし、良いの撮れた」
暁「そう?」
主「ああ、ありがと」
暁「うん」

携帯をたたむと、また自分の席へと戻った。

(よし、これで…)

再び携帯を開く。
新規メールを作成。
カチカチと文字を打ち込んでいく。

宛先:上城 白雪姫
件名:大丈夫か?
内容:体調不良だってな。早く良くなれよ。

そして最後に、先ほど撮ったばかりの写メールをつけて送信。

(完了、と)

とりあえず、今の俺にできること。
たったこれだけの些細なこと。
ただ、これが二人のきっかけになれば良いな、なんて思う。
少しだけ、胸に期待が膨らんだ。



白雪姫side

学校にも行く気になれず、今日もまた一日を家で過ごした。
身体の弱い私だから、体調不良とさえ言えば理由なんてどうにでもなる。
明日はどうしよう…なんて思いながら、ふと窓の外を眺めてみた。
空は澄んでいて、とても綺麗だ。

~~~~♪(着信音)

突然音の鳴った携帯。
誰だろう、なんて思ってみるも、私に連絡してくるような人なんてあの人しかいない。
携帯を見れば、受信したメールに予想通りの名前。
メールを開いてみると私のことを気遣った言葉が一言二言。
それに添付された写メール。

白「・・・・・・・・・」

それを目にし、携帯を放り投げた。

いけない、期待しちゃいけないんだ。
そんなこと、あるはずがない。

そス自分に言い聞かせるが、身体のほうはいても経っても居られない。

立ち上がると、作りかけの彫刻に手を伸ばした。

私の心の拠り所は、いつだってこんなちっぽけなもの。
いつもいつもこれ見せたら、暁子ちゃん驚くかな。
とか喜んでくれるかな、なんてありもしないことを一人考える。
そんなこと一度もないのに………。

白「暁子、ちゃん………」

一体何処で間違ってしまったのか。
…もう、あの頃には戻れないのか。



―ガラッ

犬「おっはよう!」
驢「おはようなんだな~」
主「はよー」

始業10分前、教室内にはもうすでに半分以上の生徒が登校してきていた。
ガヤガヤと騒がしい室内を横切って自分の席につくとどっかりと鞄を下ろす。

主「ふう…」
白「○○くん、おはようです!」
主「あ、おはよう」

一息ついたところで白雪に声をかけられた。

主「もう平気なの?」
白「はいです、おかげ様で!」
主「そっか」

そういう彼女は確かに顔色も良い。
やはりもう全開したのだろう。

白「その、メールありがとでした」
主「あ…ああ、メール、な…」
白「えっと、暁子ちゃんも…」
主「え…あ、そうそう!暁子ちゃん!うん、暁子ちゃんも心配してたからさ…」
白「ホントですか!?」
主「う、うん、もちろん!」

ぱっと輝いた白雪の顔に罪悪感が募る。
本当は暁子ちゃんは何にも言ってない。
ただ、白雪が喜んでくれるかと思って、さも二人で心配してますといった風に俺が勝手に写メを添付しただけなんだから。

白「へへー、嬉しいですー」
主「ああ…良かった、な」

それでも俺は、また彼女が元気に学校へきてくれたことが嬉しかったし、何よりこの嬉しそうな彼女の表情を見ていると何も言えなかった。



送信者:上城白雪姫
件名:
内容:見せたいものがあるので、美術室まできてください

パチリと携帯をとじてポケットの中へとしまった。
美術室の扉の前、一呼吸置いてから手をかけ開く。

―ガラッ

白「あ、●●くん!待ってました!」

少し重い扉を開くと、白雪が笑顔で出迎えてくれた。
招き入れられるままに中へと入る。

主「で、見せたいものって?」
白「ふふふー、何だと思いますかぁ?」

やけにニコニコと上機嫌の白雪。
まるでなぞなぞを出す子供の様な、少し得意げな口調で尋ねてくる。

主「んー…わざわざ美術室に呼び出したわけだしなー…あ、新しい絵が出来た、とか?」

とりあえず思いついたものを口にする。

白「ぶー!ハズレ、です!正解は、ですねぇ…」

してやったりと言った顔で、机の下から何か塊を取り出し見せる白雪。

(これは…)

主「彫刻…?」
白「はいです!正解ですう!」

パチパチと心底嬉しそうに拍手を送る彼女。
机の上に置かれた、その気で出来た造形物は人をかたどっている。
所謂胸像と言うものだろうか。
そして、その形には見覚えがある。

主「…暁子、ちゃん?」
白「わあ、またまた正解です!」

おそらく、彼女を知っている人物なら誰しもが分かるだろう。
本当に器用なものだと、つくづく感心してしまう。

主「やっぱり…白雪は才能あるな」
白「えへへ、です…何だか、そんなに褒められると照れちゃいます。…でも、嬉しいです」

少しだけ頬を赤く染める。

白「でも、彫刻って凄いですよね…」
主「ん?」
白「初めはただの木の塊だったのに、自分で手を加えればその通りに形になって…」
主「……………」
白「頑張れば頑張るほど、思いどおりの形になっていく…みんな、全部が全部、そんな風だと、良いのに…」

ポツリと、まるで独り言のように呟く。
その瞳は寂しさを称えている。

白「もし、そうなら…白雪が頑張れば頑張っただけ、また、暁子ちゃんと仲良くなれるのに…」
主「白雪………」
白「………なんてね、です。ちょっと、おセンチさんになっちゃいましたね、ごめんなさいです…」
主「あ、いや…」

眉を八の字に下げ、少し困ったように笑う白雪。
本当に暁子ちゃんのことを思っているんだな、とつくづく感じ、少し切なくなる。

願わくば、この白雪の気持ちが暁子ちゃんに届きますように。
そう心の中で祈る。
この二人が、もう一度昔みたいに仲良く居られるようにと。
ただただそれだけを思った。

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最終更新:2008年09月10日 14:44