BADEND:

暁子side

ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい―・・・。

ただひたすらに哀願する。
そうしないと、押しつぶされそうで・・・。
何かに許しを乞わないと、もう自分が保てない。
私は沢山の人を何も知らないふりをして傷つけた。
それに気付いてしまった今、自分の身にそれらが一気に降りかかる。
誰か・・・それを償えるだけの罰を私に与えてください。
そして、どうか許してください―・・・。

~~~~~~~

もう誰もいなくなってしまった学校。
暗い室内。
響くのは私の身体から出る鈍い音だけ。

暁「ッぁ・・・ぐっ・・・・・・・・・」
リ「っはぁ・・・はぁ・・・」

ふと私の身体に幾度となく振り下ろされていた箒の動きが止まった。
恐る恐る顔を上げてみる。
少し動くだけで身体がズキリと痛む。

リ「・・・あなたが・・・」

ごく小さな声だったが、この静まり返った二人きりの教室内でそれを聞き取るのは容易なことだ。

リ「あなたが、悪いんです・・・!わ・・・私はっ・・・あなたが、あなたがどんなことをしてきたか、知ってる・・・」

搾り出すように声を出し、今にも泣き出しそうな彼女の顔。
その顔を見て悟った。
彼女は被害者だ。
彼女も・・・私が傷つけてしまっていた一人。
その上気付いてしまったんだ。
それじゃあ仕方がないな、なんて諦めているような納得しているような私がいた。

暁「・・・ごめんな、さい・・・・・・・・・」

そうしたら私に出来ることはただ一つ。
精一杯謝るだけだ。
どうか、許してもらえるように。
・・・―もちろん、それで許してもらえるなんて思ってもないけれど。

リ「~ッ!!!!」
暁「ッぅあ・・・!」

再度振り下ろされた箒。
彼女も、これで許そうなんて思ってなかったみたいだ。
良かった・・・、これで良いんだ。
私の罪は、何のお咎めもなしに消えるにしては大きすぎた。
だから、罰を与えて。
もう・・・身体は痛みなんて感じていない。
それよりも殴られるたびに心が軽くなっていく。
早く、私の罪を消し去って―・・・。



主人公side

冬も真っ只中。
さすがに日が落ちるのが早い、もう辺りは真っ暗だ。
ついつい羽生治と食堂で喋りこんでしまい、遅くなってしまった。
暗さに比例するように気温もどんどん下がる。
帰ろうとする頃には昼間よりも寒さが厳しく感じられた。

主「あ、いけね…」

外に出てその寒さを自らの身で感じ、マフラーを教室に置き忘れたことを思い出した。

羽「どした?」
主「教室にマフラー忘れた」
羽「ったく、ドジだな。まあ明日でもいいじゃん」
主「やだよ寒い。明日の朝だって冷えるだろうし」
羽「ご愁傷様」
主「俺取りに戻るわ」
羽「俺待ってたほうがいいか?」
主「どっちでも」
羽「んー…じゃ、寒いし先帰るわ」
主「何だよ、友達甲斐のない奴だなー」
羽「どっちでも良いっつったのお前じゃん」
主「しゃーねえな、今日は大目に見てやるよ」
羽「はは、何だよそれ。…うー、寒っ!そんじゃ俺帰るわ」
主「ああ、また明日な」
羽「おう、じゃーな」

寒そうに背中を丸め去っていく羽生治を少しだけ見送る。

(さてと…)

肌を刺すような寒さに震えつつも教室へと向かった。



羽生治と別れて一人になる。
肌を刺すような寒さ。
ふと思い出すのは彼女・・・暁子ちゃんのこと。
あの日以来・・・もう、まともに話すこともなくなってしまった。
本当は・・・今でも気になって仕方がない。
でも、俺は彼女に拒否された。
彼女の内側には入ることが出来なかった。
それは、仕方がないことだと思う。
もう、楽しく一緒に話すことも、目を合わせて微笑みあうこともない、ただすれ違う存在―・・・



真っ暗な校舎内、すぐに済むし電機のスイッチの位置を探すのも面倒くさいので、そのまま進む。
コツ、コツ、と自分の足音だけがやけ響く。
人の気配のない校舎内、きっと今この階に居るのは俺くらいだろう。
足早に教室へと向かう。

(……………?)

教室に近づくにつれ、何か音が聞こえてくるような気がした。
気のせいかとも思ったが、近づくにつれ大きくなるそれ。
確かにそれは教室の中から聞こえてくるのだ。
何の音かと聞かれれば、それは、分からない。
ただ、何か柔らかいものを殴るようなくぐもった衝撃音。
そして、喉から搾り出すような嗚咽とも呼吸音ともつかないほどの微かな息遣い。
そんな得体の知れない、聞きなれない音。
一体教室の中では何が起こっているのか。

(………………)

怖いのか不安なのか、それとも好奇心から来る期待なのか。
心臓が大きく鳴る。

教室の扉は閉ざされて入るものの、ほんの数センチ、隙間が開いている。
中を覗くには、十分すぎるほどの隙間。
そこから月明かりの光が細長く伸び、廊下を分断している。

ごくり。

緊張の所為か、いつの間にかカラカラに乾いた喉を、唾を飲み込み潤す。
足音が響かないようにと、ゆっくり、ゆっくり近づく。

(え………?)

その隙間から見えた光景に、思わず言葉を失った。
何も出てこず、ヒュ、と息を呑む。
一瞬、ここが何処だとか、今何をしているとか、何を見ているのとか、わけが、全てが分からなくなった。

その隙間から見えたもの、それは、
乱れた髪、汚れた制服、頭を庇うように抱え、這い蹲い、薄く笑みにも似た表情を浮かべた1人の少女と、
箒を握り、ただただそれを叩きつける、顰めた眉に、噛み締める唇、そして目には涙を浮かべたもう1人の少女。

(なん、で………)

そんな非日常的な光景に、悪い夢でも見ているのだ、と思い込もうとするも、その2人の少女の顔は、はっきりと現実で。
よく見知った顔。
そう、今日も、昨日も、一昨日も、ずっとずっとその前も見た、クラスメイトの茨暁子と灰塚リヨ。

(嘘…だろ…)

リヨさんの細い腕が綺麗な孤を描き振り下ろされるたび、暁子ちゃんの身体が鈍い音を立て小さく跳ねる。

(こ…んな…)

―カツッ

(…!)

思わず、まるで倒れこむように後ずさった瞬間、大きく足音が響いた。
その瞬間、リヨさんの視線がゆっくりとこちらへと向く。

目が、あった。

リ「ッ!?」

ガタンッ!

突然の大きな音。
多分、箒が放り出された音。
続いて、バタバタと足音がしたかと思うと、俺がいたのと反対側の扉が開いた。
遠ざかっていく足音。
暗い廊下に響いて消えていった。

ほんの30秒足らずの出来事だった。
いや、もしかしたらもっと短かったかもしれないし、長かったかもしれない。
とにかく俺はその間、ずっと放心状態だった。

(・・・っ、きょう、こ・・・ちゃん・・・!)

それでも何とか我に返ると、すぐに教室の中へと飛び込んで行った。

月の光の差し込む窓際で、蹲っている彼女。

主「きょう、こ・・・ちゃん・・・?」
暁「・・・・・・○○、くん?」
主「暁子ちゃん・・・!!」

急いで駆け寄る。
制服は着崩れ、暗いながらも所々腫れ上がっているのが分かる。
それが月明かりに照らされて、不気味なシルエットを作っていた。

主「暁子ちゃん・・・なんで・・・」



暁子side

ふいに身体に降りかかる衝撃が消えた。
気がつけば、そこにはいるはずのない○○くんの姿。

主「暁子ちゃん・・・なんで・・・」

なんで?
何がなんでなのだろう。

暁「…○○くん………」

ああ、そうか。
なんでなんて思うことじゃない。
私は○○くんにも沢山酷いことをした。
だから当たり前じゃないか。
○○くんが罰を与えに来るなんて。

暁「○○くんは…優しいね………」
主「何言って、…そ、そんなことより、手当て…!」
暁「ううん…」

違う…私がして欲しいのは手当てなんかじゃない。
また、心が痛み始めた。
ヅキヅキ、ヅキヅキ、どうしようもないほどに。

暁「…早く、痛みを消して………」
主「だから、手当てを…!」
暁「…違うの」

足元に転がった箒。
それを取り、○○くんに持たせてあげる。

主「え…?」
暁「それで…」
主「…………」
暁「それで………私を殴って?」
主「なっ…?!」
暁「早く…」
主「はっ、な、なんで、そんなこと…!」
暁「そうしないとダメなの。罪人には罰を与えなくっちゃ。…分かるでしょ、ね?」
主「何言って…」
暁「お願い、痛いの!ねえ、早く!!!」
主「ひっ…!」

あああああ痛い痛い痛いイタイイタイいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい…………

暁「ねえ、○○くん!ねえっ!!」
主「やめっ、…おかしい!、おかしいって…!」
暁「○○くん、どうしたのっ!?早く…早く、ねえっ!?」
主「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁ」

もう、痛いのは嫌なの。
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい………
だから、お願い、早くその手で痛みを止めて。
早く、早く、早く―…

私の、この罪が消えるまで―………

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最終更新:2008年09月10日 06:01