BADEND.

あれから冬休みも始まり、俺は垂髪の家にも行くことはなかった。
むしろ、行く気はなかった。
もう、彼女のことは忘れようと思った。
忘れなきゃいけないんだ。
実際、これから上手くやっていく自身なんてないし、愛情もほとんど残っていない。
あるとすれば、それはもはや同情だけだ。

今日から、また新学期が始まる。
はっきり言って憂鬱だ。
それは休みが恋しいからとか、めんどくさいからとか言った理由ではなく、きっと今の俺自身が不安定な位置にいるから。
何が不安定なのかといえば、心の中でもそうだし、学校での立場もそうだ。
恋人と親友を両方なくしてしまったようなものだから。
でも、失くしてしまったものはまた作れば良い。
多分、元恋人は今日も休みだし、元親友はサボリ癖があるのでほぼ学校にはいないだろう。
また今日から再スタートだ、そう意を決し、学校へと向かった。



休み前と変わらない学校、生徒、教師たち。
しばらく来ていなかった分、どこか懐かしいような感じがする。
ゆっくりと自分達の教室まで行きドアを開いた。

ガラリ

主「…………」

いつも通りのありふれた風景の教室内。
黒板、机、椅子、生徒、全てが休み前から何も変わっていない。
が、その中で何か微かな違和感を捉えた気がした。

主「………?」

いや、きっと気のせいだろう。
そう軽く頭を振り、ゆっくりと自分に席についた。

ち「…おはよう、○○」
主「!?」

突然聞こえたその声に振り向く。

主「…垂髪………」
ち「んー?どうしたの、そんなに驚いた顔しちゃって!まるであたしが学校にきちゃいけないみたいじゃない!」
主「い、いや…そんなことは…」
ち「変な○○!」

そう言うと、彼女は自分の席へと戻っていった。
正直、吃驚した。
彼女が、また学校に復帰するなんて、以前と変わらない態度で話しかけてくるなんて思っても見なかったから。

主「……………」

感じた違和感、それは、この所為なんだろうか。



主「あれ………?」

休み時間、トイレから帰ってきたときにそれは起こった。
机の上に置いておいたはずの筆箱が、ない。

主「……………」

落ちたのかもしれないと、周りの床を探してみてもそれらしきものは見当たらない。

主「っかしーな…」
犬「どうしましたか?○○くん」
主「あ…いや、ちょっと筆箱が…な」
驢「なくしちゃったんだなあ?」
主「え…あ、うん、まあ」
犬「おやおやそれはご愁傷様ですねえ」
驢「可哀相に、なんだなあ」

(あれ………)

ふと、また違和感を感じた。

―キーンコーンカーン…

その時、休み時間終了のチャイムがなった。

犬「おっと、チャイムが鳴ってしまいましたね。それでは僕たちはこれで。」
驢「真面目に授業受けるんだなあ~」

(………………)

授業が始まっても、俺の筆箱はないのだから当然のようにノートが取れるわけもない。
隣の席の白雪は今日は休みだし、かと言って………

ちらりと後ろの席を見やる。
羽生治とは、あれからずっと気まずくて、あちらから話しかけてでも来ない限りめったに口を利くことなんてなくなってしまった。

(…1時間くらい…………)

もうこの授業でノートを取るのは諦めるより他はなかった。



ちさ菜side

(あ、困ってる………)

少し離れた○○の席、ここからでもそれが用意に理解できた。
やっぱり羽生治が上手くやってくれているようだ。
無駄に顔広いもんなあ、あいつ…なんて少し感心してみる。
手回しなんてお手の物だろう。

(もう少し、あとちょっと、だ………)

心が痛まないなんて言ったら嘘になるかもしれない。
でもそれ以上に私は○○が必要なんだ。



犬「筆記用具を貸してくれ?すいませんねー、今丁度予備を持ってなくて」
驢「僕もなんだなー」
小「あんたになんか貸すはずないでしょ!」
鳥「ねー?」
音「その通りですわ」
暁「ごめんね?」
日「僕も、ちょっと………」
リ「他を…当たって下さい」

主「…………………」

なんだよ、そういうことかよ。
ゴミ箱の中、自分の筆箱を見つけたときに全てが分かった。

主「………くそっ」

そもそもなんで俺なんだ。
こんなことして、バカバカしい………

ガンッ

ゴミ箱を蹴り上げれば、放課後の誰もいない教室に響く。
空しさだけがこみ上げてきた。



ちさ菜side

ガンッ!

廊下にまで響いてきたその音。
気になり教室を覗いて見れば、そこには彼の姿。
どうやら、今自分がどういう状況に置かれているのかやっと気付いたようだ。

ち「……………」

自分でも口元がにやけているのが分かる。
ああ、いつから自分はこんな嫌な人間になったのだろう。
それでも今は嬉しさの方が勝っている。

…でもまだだ。
まだ、そのときじゃない。

彼はまだまだ追い詰められないと。
そうして本当にギリギリまで来たところで救ってあげるんだ、あたしが。

ち「…ふふっ」

彼がもう私を、他の誰も惑わせないように。
今度は私が惑わしてやるんだ。
私以外に救いのない状況で、いつ捨てられるか分からない不安。
今度は○○が味わう番なんだ。

ち「ふふふふふふっ」

でも、大丈夫。
私は○○を捨てたりなんてしないよ。
だって大好きだから。
愛してるから。

ち「あははははははははっ!」

○○が私に落ちていくところを想像するだけで笑いが止まらない。

ち「○○………」

早く、○○が私のものになりますように。
今はその時をただひたすらに待つばかり……………

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最終更新:2008年09月10日 13:40