11月:

礼「はーい、席についてー!」

先生が教室内に入ってくると、それまで騒がしかった教室内は一気に静かになる。

礼「それでは出席をとります」

毎朝の恒例だ。
出席番号順に、次々と生徒達が呼ばれ、返事をしていく。

礼「○○くん」
主「あ、はい」

俺も例に倣って返事を返す。

礼「…以上。欠席は垂髪さんだけですね」

あれ…返事がなかったからてっきりいつもの遅刻だと思ってたけど、休みなのか。

羽「あれ、めっずらしいこともあるもんだなー」
主「何が?」
羽「だって毎年皆勤賞の垂髪が休みなんだぜ?こりゃ明日は槍でも降るんじゃねーの?」
主「へえー…まあ、あいつ身体強そうだもんな」
羽「だろ?それに…」
礼「こら、そこ!静かにしなさい!」

話に花が咲いてきたところでストップがかかる。
俺と羽生治は顔を見合わせると姿勢を直し正面へと向き直した。



教室内、一つの空席をチラリと見る。
今日も垂髪は休み。
ちょうど4日目、普通の体調不良ならば回復している期間だ。

どうしたんだろうなー…。

そんなことをボーっと考える。
垂髪がいない所為か、このところとても静かだ。

鳥「それでさー、垂髪さんったらさー」
小「ねー、あれはいくらなんでもねー」

そのときタイミングよく垂髪の名前が聞こえてきた。
見ればすぐ傍で鳥越と有栖川が何やら話している。
なんとなく俺もその会話に参加してみることにした。

主「何々、垂髪がどうたって?」
鳥「あ、○○もちょっと聞いてよぉ!」
主「おお、聞く聞く」
鳥「あのさー、今垂髪さん休んでるじゃない?あれってさー、この前のイジメの話が原因なのよ!」

その意外な言葉に驚く。

主「え!?何、垂髪苛められてたの!!?」
小「ばーっか!そんな訳ないでしょ!」
鳥「そう、逆よ逆!」
主「逆ぅ?なのに何で…」
鳥「もー、にっぶい!」
小「立場が悪くなったからこれないに決まってるじゃない!」
鳥「ねー、先生どころかクラス中にまで知れ渡っちゃってねー、かわいそ!」
主「えー…でも俺全然気付かなかったけどなあ…」
小「あんたが鈍いだけじゃないの?」
主「いや、絶対知らない奴多いって!」

キョロキョロと辺りを見渡す。

主「な、暁子ちゃん!」
暁「え!?」

偶然その場を通りかかった暁子ちゃんに話をふってみる。

暁「えっと…?」
主「イジメ、あったって知らなかったよな?」
暁「あ…」

少し困ったように眉を顰めながら言葉を続ける。

暁「うん、こんなのって学級委員長失格かもしれないけど…」
主「あ、いや、違うって!そういうんじゃなくって…」
鳥「バカっ!」
小「サイテーね」
主「いや、だから…!」

リ「○○さん」

思いもよらなかった暁子ちゃんの反応に焦り、どうしようかと言葉を探していたところで名前を呼ばれた。
天の助けとばかりに振り向けば、そこには灰塚さんが立っていた。

主「あ…どうかした?」
リ「○○さん、数学のノートの提出がまだですよね?出していただけますか?」

数学のノート…数学のノート…あ、課題のやつ!

主「悪い!すっかり忘れてた…ちょっと取ってくるから」
リ「いいえ」
鳥「やばっ!そう言えば私もまだじゃん!」
小「あたしもだわ!」
鳥「ごっめーん、灰塚さんちょっと待っててー」
リ「あ、はい…」

暁「…………」
リ「…………」
暁「…灰塚さん、どうかした?」
リ「…茨さん、あなたは…ずるいです…」
暁「…そう…そっか…」



あ………。

昼休み。
そろそろ半分が過ぎ、昼食も食べ終えみんなが思い思いの行動をとる。
校庭や他のクラスに遊びに行ったのだろうか、現在教室内には極めて人が少ない。
白雪も先ほど青木先生に呼ばれたとかで美術室へ行ってしまった。
そんな中、一人自分の席に座っている暁子ちゃんが目に入る。
多分、白雪のことを話すなら今のうちだろう。

主「暁子ちゃん」
暁「あれ、○○くん?どうしたの?」

彼女は何か本を読んでいたようで、俺が声をかけると本を閉じこちらを振り向いた。

主「その…ちょっと相談したいことがあるんだけど…」
暁「ふふ、なあに?改まっちゃって」
主「いや、迷惑だったらいいんだけどさ…」
暁「ううん、私で力になれることがあれば協力するよ!」

にこにことした笑顔と優しい声で答えてくれる。
その声にほっとして話を続けた。

主「白雪のことなんだけど…」
暁「え?」

一瞬、彼女が眉を顰めるたが分かった。

主「あ…えっと…」
暁「どうしたの?続けて?」

がらりと変わった雰囲気に言いよどむ。
しかし暁子ちゃんが、まるでぺったりと張り付いたような笑顔と起伏のない声で話の続きを催促する。

主「その…」
暁「もしかして、青木先生との話?」
主「え?」

思いもよらない言葉。

主「いや…」
暁「○○くん知ってるよね、私が先生のこと好きだって」
主「え、ああ…」
暁「○○くん、ちょっと無神経だよ」
主「………」
暁「誰も私の気持ちなんて考えてくれないの…もっと、考えてよ…ッ」
主「だから…」
暁「もう、聞きたくないの…上城さんのことなんて…!」
主「違うって!」

白「○○くん?」
主「!?」

突如その場で聞こえるはずのない言葉が聞こえた。

主「白雪…?」

もしかして、今の会話、聞かれてた…?

主「あ…戻ってきたのか?」
白「はいです!ただいま戻りました!」

いつものように元気良く返事を返す白雪。
その態度に安心する。
良かった、そう多くは聞かれてなかったみたいだ。
多分、少なからず白雪が傷つくような内容だったから。

白「暁子ちゃん…?」
暁「○○くん、ごめんね?私、ちょっと用事あるから…」
主「え!?あ、ああ…こっちこそ、なんか、ごめん…」
暁「ふふ、、○○くんが謝ることないよ」

そういい残すと暁子ちゃんは教室から出て行った。

白「……………」



礼「それでは、出席を取ります」

いつものように出席番号順に名前が呼ばれていく。
そしてそれにそれぞれ返事を返していく。

礼「…以上、ですね。上城さんは、体調不良でお休みだそうです」

淡々と話す先生に、無関心なクラスメイトたち。
ちらりと横目でぽつりと空いた白雪の席を見た。

(また休みか…)

最近、白雪は前にも増して、よく学校を休むようになった。
理由は常に決まって体調不良だ。

(……心配、だな)



―キーンコーンカーン

本日の学校に終わりを告げるチャイム。
それを合図に生徒達は部活動、友達と雑談、帰宅などと思い思いの行動をとり始める。
その中で、未だ席から動こうとせずにぼんやりと外を眺める暁子ちゃんの姿。
目線の先には冬独特の白い空が広がっている。
それは、まるで今の暁子ちゃんの心を表しているようで。

(………………)

ここのところの彼女には、少し違和感がある。
なんとなく、ただ漠然とそう思う。
何かが変ったのかと聞かれれば、そうではない。
彼女が変ったというよりも、彼女の何かが喪失した、と言う方がしっくりくるだろう。
しかし、それが何なのか、それが、分からない。

今日は1日中使われることのなかった白雪の机。
それに目をやる。
やっぱり、関係してるのかな、と考えてしまう。

元々は親友同士だった二人。
それがいつの間にか、一つのことをきっかけにどんどん崩れ、今では言葉を交わしているところすら滅多に見ない。
そして日に日にと気まずくなる仲。
もしかすると、白雪が最近良く休む理由も…

(どうにか、ならないかな……)

もしも二人が、また以前のような関係を取り戻すことができたのなら。
そうは思うものの、本来まったく関係のない俺には口出しする権利も理由もないのが事実だ。

(いや、)

違う。
理由ならある。
俺が彼女を好きだということが理由だ。

そう自分に言い聞かせると、携帯を手に取る。
おもむろに席を立つと暁子ちゃんへと近づいた。

主「暁子ちゃん」
暁「え…?」

俺の呼びかけに、振り向く。

―パシャ

それと同時に起動させたカメラの撮影ボタンを押す。
目を丸くさせる暁子ちゃん。

主「はは、激写!」
暁「もう、いきなり…」

そう言うと、ぷうと頬を膨らませる。

主「悪い悪い」
暁「ううん、嘘。ちょっと、驚いただけ…」
主「それじゃ、今度は一緒に撮らない?」
暁「どうして?」
主「あ、いや…なんとなく?」
暁「…ふふ、いいよ。私なんかで良かったら」
主「サンキュ」

了承を貰うと、彼女に寄り添うように近寄った。
そうして携帯のカメラを自分達へと向ける。
それを通して液晶画面に映る自分達の顔。

主「ほら、笑って」
暁「あ、うん」

―パシャ

撮れたのは、どこか少しだけぎこちない笑顔の暁子ちゃんと俺。
ちゃんと映っているのを確認すると、すぐに保存する。

主「よし、良いの撮れた」
暁「そう?」
主「ああ、ありがと」
暁「うん」

携帯をたたむと、また自分の席へと戻った。

(よし、これで…)

再び携帯を開く。
新規メールを作成。
カチカチと文字を打ち込んでいく。

宛先:上城 白雪姫
件名:大丈夫か?
内容:体調不良だってな。早く良くなれよ。

そして最後に、先ほど撮ったばかりの写メールをつけて送信。

(完了、と)

とりあえず、今の俺にできること。
たったこれだけの些細なこと。
ただ、これが二人のきっかけになれば良いな、なんて思う。
少しだけ、胸に期待が膨らんだ。




暁「…あのさ、○○くんは、どうしてそんなに首を突っ込みたがるの?」
主「それは…」

顔を上げ、暁子ちゃんを見て、ああ、しまったと思った。
全てを拒絶するような笑顔。
途端、言葉に詰まる。

暁「…正直言って、困る」
主「ごめん」
暁「ううん、○○くんは良かれと思ってやってくれたんでしょ?謝るようなことじゃないよ」

そう言いながらも、謝罪の言葉に対し、よく出来ました、と言う風な表情。

(何が謝るようなことじゃないよ、だよ…)

そう思いつつも、彼女を見ていると本当に俺が悪いような気がしてくるから不思議だ。
いや、気じゃなくて実際に俺が悪いのか。
そんな葛藤している俺の考えに気付いたのか、彼女は面白そうに目を歪める。

暁「私ね、○○くんがこんなに私のこと思ってくれてるんだなって、すごく嬉しい」
主「暁子ちゃん…」
暁「でも私困るの、ね」

救い上げられたかと思えば一気に落とされた。

暁「だから、もうやめてくれるよね?」

有無を言わさぬ笑顔でこちらをチラリと見る。

主「分った…」

そう答えるしかなかった。

暁「ありがとう、○○くんならそう言ってくれると思ってたの」
主「ああ…」
暁「また、明日からもよろしくね。それじゃ」

それだけ告げると彼女は鞄を持ち、軽い足取りで教室から出て行った。
パタパタと足音が遠退いていく。

(明日からも…か)

もしも、さっきイエスと言わなければ、明日はどうなっていたのだろうか。
頭の中に湧き出始めた悪い想像を追い出すように軽く頭を振ると、俺も岐路へとついた。

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最終更新:2008年08月04日 04:12