もんだいとこたえ

夜が開けかかっていた。
海沿いの向こうには少し陽が見える。
薄い陽の光が、一人の男と女を照らしていた。
片方はSWAT、と胸に書かれた、少しところどころがほつれているような隊員服を着ている男、レイジョーンズ。
片方は小柄なその辺にいそうなただの平凡な女子大生、平沢茜。茜が先行しながら、それにジョーンズがついていくかのように歩みを進めていた。
向かう先は、港。理由はない。ただ、ずっと外だと雨が降ったときなどに支障が出てしまう。たったそれだけの理由だった。

「…ジョーンズさーん!この辺で休もーよ疲れちゃった」

茜は突然振り返ると、ジョーンズに向かって口を開いた。振り返った時にウェーブのかかった茶髪が、ふわり、と揺れた。こう見れば単なる典型的な日本の女子大生。
だが、彼女は今の主催を倒すために動くジョーンズにとって、必要不可欠な存在なのだ。

ジョーンズは、歩みを止めると、肩にからっていたディパックを持ち直し、ファスナーをゆっくりと開けていく。

「…歩き始めて…大体30分くらいか」
「え?分かるの?」
「ま、体内時計みたいなものさ。俺が居た状況が状況だしな」

ジョーンズはそう言うとその場に座り込み、ディパックの中から水を取り出すとごくり、と喉音を立てながら一口つけ、元に戻す。
あの世界よりかは状況がマシだ。探さなくても最初から水と食料がある。
だが油断をしてはいけない。この物資が尽きることはありうる…。

そう肝に命じながら、地べたではなく、ジョーンズの近くにあったやや大きな石に茜はそっ、と座った。
すると髪の毛をくるくるといじりながら、そこから朝日の見える、海の方角をぼんやりと眺めていた。

「…茜。君は一体、どうしてこの殺し合いのシステムを知っているんだ」

突然、数分の沈黙のあと、ジョーンズが言った。茜は振り向くこともなく、ただ眺めながら、ぼんやりと、友だちに話すように、呟く。

「…ま、色々あったんだよね。といっても黙ってても無駄か。叫君や駆君がいたらいずれバレるし」

茜がそう言ったあとも、その見る方向を変えないままで。
茜は、自分の事を語る前に、一言付け足す事にした。
相変わらず、友達に話すような、軽い調子で。


「ドン引きしないでね?」

少し、茜の頬がつり上がったような気がした。
彼女は、ゆっくりと口を開く。

作り上げてきた「灰色の世界」のことを、終焉の世界の住人に。

────────────────────

この世界は平凡すぎる。
少なくとも、私にとってはね。

人の臓器を取り出す殺人鬼も頻繁にはいない。
そんな殺人鬼を見事に捕まえる探偵もいない。
または倒してくれるヒーローも、魔法少女も、軍隊も武士もいない。
ぜーんぶ、誰かの作った絵空事。
気づくのがちょっと遅かったなあー。

毎日平和に生きて平和に死んでいってさ。
事故とかで死ぬことはあるだろうけど少なくとも今の私のいる世の中は自分の命を危機を常に抱いている訳じゃない。
それがなーんか腹立ってきて。

私は人間が嫌い。そういう風に自分の命を軽く見ているから。
だからちょっと分からせてあげようって、中学の頃に考えた。



ある日、お父さんに頼んでそこらへんに歩いていた男女のカップルを連れてこさせた。
狭い部屋に二人を閉じ込めて、それぞれにのこぎり一本ずつ渡して、こう命令したの。

『今からこれで殺し合って、生き残った方はここから出してあげる。ただし、3時間以内に二人とも死ななかった場合には二人の首についている首輪が爆発して死ぬ。頑張ってね』

そしたら、二人は最初はお互いにくっさいセリフを吐いて、命よりも君を愛する気持ちはだのなんだの色々言ってた。
でも、これじゃ埒があかないなって思って私は色々デマカセを言ってみることにした。お父さんの情報力に感謝だね。
女の方が友達に彼氏の愚痴を言っていたこと。彼氏が彼女の事を尻軽だと考えていたこと。嘘七割真実三割でお話してあげた。

そしたら二人口喧嘩始めちゃった。馬鹿だよね。さっきまで愛を囁きあってた奴らがさ。ほんとに馬鹿げてる。

で、あとはもう分かるでしょ?先に手を出したのは女の方だった。意外にもね。
持っていたノコギリ男の首に振りかぶるとそこから上下させて男の首を切り落としちゃったの。
私そーゆーの初めて見たけど、びっくりした。女の人でもやれば人間一人切り落とせるんだーって。
そして、やっぱり最終的には愛よりも命が大切なんだなーって思いました。以上!

…え?その女の人?
出してあげたよ!約束だったからね。でもそうとう精神参っちゃったみたいだったから私の知り合いのお医者さんとこに送還してあとは知らない。
命の重さを分かった上で元気にしてるんじゃないかなーっては思うよー!

それから先はまぁー好き放題やったね。
次は倒産寸前の会社の人たちを集めて今回のチーム戦みたいに社員を部署ごとに分けて殺し合い、させたりしてみた。
生き残った部署を雇ってあげるっていう名目で。見せしめ誰だったっけ、社長だったわそういや。
もちろん、徒党を組んで挑む人だっていたよ?ジョーンズさんと私みたいにね。
だけど無駄だった。どうせそれも上手くいかない。糸が僅かなほつれから解けていくように───それは崩壊していって。
結局残ったのは営業部の二人。そのうちの一人は、まーだ私の定期的に開いてる地下闘技場に参加してるけど。剣崎っていう地味な人だったんだけどあれ以来人殺しにはまっちゃったとかなんとか。

その次は一つの小学校のクラスを誘拐して殺し合わせた。小学生は理解が早かったから案外会社員たちよりも早く終わったね。だけど、それは私のロリコン兄貴が開こうって言い出したヤツで、私はあんまり関わってないんだよね実は。まあいいけどさっ。
で、最近やったのがこの無差別に集めて殺し合いさせるやつ。今回の殺し合いみたいなね。
メンツは色々テキトーに選んだんだ。これも面白かったなぁー。またやりたいとも思ってるんだ実は。
っていうこと考えてたら私が巻き込まれちゃったのは、笑い話だけど───


…うん。まあ、そうだよね。そういう反応が普通だよジョーンズさん。
喉元にナイフ突きつけられるだなんて、まさか一日で2回経験するなんて私くらいじゃないのかな?ふふふ。
─────────────

「君がもし妄言を言っているサイコパス野郎だとしても、実際にそうであっても───君をここで生かしておくことは出来ない」

ジョーンズは、石に座っていた茜の元へ急な速度で、大きな歩幅で近づくと、今度は脅しではなくしっかりと茜の喉元スレスレのところに刃を向けた。
茜は何か悟ったような顔をして、ジョーンズの方を相変わらず見ていない。

「…そ。じゃあ何?私を殺すの?」

ジョーンズの返答はない。

「ふーん。そっか」

茜はそんなジョーンズのことを見向きもせず、興味も示さず、ただ少しばかり哀れみの表情すら浮かべているように、まるで独り言のように口を開いた。

「平行世界、って信じる?」
「…何だいきなり」

相変わらず声は警戒しているままだ。

茜はそんなジョーンズをあざ笑うかのように、かつどこか諭すように、けらけらと笑いを挟んだあと、言った。


「いいじゃーん。遺言だと思って聞いてよ。
ジョーンズさん。あなたのこと、私知ってたんだ。実は。マグワイヤー巡査だっけ。仲間の人。小太りでヒゲはやした」

強ばっていたジョーンズの顔に、やや動揺が伺えた。
この茜とは初対面のはず。ましてやなぜマグワイヤー巡査のことまで知っているのか。
つくづく不思議な少女だとも思いながらも、そのナイフは喉元に向けられている。

「なんでそれを知っている…君と俺は初対面だぞ」
「…私のいる世界では、あなたはメディアミックスの代表格ってことでいろんな媒体に出演してる人なんだ。私の世界のテレビに出てきたゾンビに備えるびっくり人間レイ・ジョーンズ。彼の特異性をモデルにしてアニメだの特撮だの漫画だの小説だの───いろんな作品にあなたは登場するようになった」

ジョーンズには、完全に茜が何を言っているのか分からなかった。
自分は自分である。世界?茜と自分がいる世界が違う?ましてや自分という存在が自分以外に存在する?それも、多く?
茜はそんな疑問に感じていたジョーンズをほっておくような姿勢を見せ、相変わらずジョーンズの方には見向きもしない。

「あなたは、終焉の世界のレイ・ジョーンズ…ってとこかな?かっこつけて言うと。『SWAT!!』ってアメリカのドラマ。私も数回しか見たことないけど…ストーリー言えるよ?」
「…じゃあ。質問だ。俺がアンデット化したマグワイヤーさんを殺した武器は」
「RPG-7?だっけ」
「俺がこのSWATの下に着ているアンダーウェアのブランドは」
「ユニクロ。その黒と赤のモデルの服、実際に売られてたよ。ダサくて買わなかったけど」
「…Jesus、その通りだよ。知る限り誰にも言ったことはないのに」

SWATの厚い防護服のわずかな隙間から、シャツの黒色の部分をジョーンズは見せる。

このブランドがユニクロ?なのかは知らないが同行していた日本人の持っていた服を拝借しているので、おそらく日本のブランドなのだろう。

「私は平行世界を知ってる。ほんの少し。あなたが作られた存在だってことも」

彼女の話が本当かどうかは、にわかには信じがたい。

ただ単に、自分のことをあらかじめ知っていただけかもしれない。

だが、やはり彼女をここで殺してしまうと、いかんせん目的が雲隠れしてしまうかもしれない。
彼女の言った話も妄想なのかもしれない。もし事実ならば、彼女は大悪人だ。サイコパスと化した暴徒ととも戦い、「人」を殺したこともあるジョーンズには、殺すことは大差ない。だが―――


「君を殺すのは…やはりよしておくとするよ。信じられない事ばかりで、疑ってはいるが否定することもできないからね」

ゆっくりと、ナイフを降ろした。
話の内容も、彼女自身も信用はしていないが、おそらく彼女はすべて話したわけではない。
もっと本質の目的を知っているはず。ここで殺してしまうとそれが聞けないのではないか。

単なる娯楽目的ではない、何か大きな目的が。

「俺もその…平行世界?か何か知らないが。つまりのところ、それが実在していたのならば、俺のいた平行世界にも君は居たということか」
「さぁね。居たかもしれないね。ジョーンズさんとは会ってないだけで」
「と、なるとだ。あのAKANEと名乗ったプログラムも平行世界の君であるかもしれないのか」
「…それも、肯定はできないかなぁー。ただ断言はできないけど、もしかしたらそうかもね」

突然話をうやむやにしだす茜。
彼女がそのことを話すのはまだ先だろう。
それまではゆっくりと見ていかなくてはならない。
ジョーンズは質問したい気持ちを抑え、「そうか」と返し、先ほどの荷物を置いた場所に戻り、座り込む。


「あー!話しすぎて疲れちゃった!あかねちゃんシリアスモードおしまいっ!次話すのは気が向いた時ね~」

それを見た茜は、先ほどのような暗い、冷たい口調ではない、あざ笑うかのような声で、ジョーンズに聞こえるような声の大きさで言い放つ。
返事がないのを察すると、茜はまた登り行く太陽へと、目を向けた。


「…君は、殺させないよ茜」

ジョーンズが呟くように、かつ、しっかりとした口調で、茜の方は向かず、ディパックの中にあった地図を広げながら口を開いた。

「君が何者か、何故そういったことを言うのか、それが憶測ではなく事実かどうか分かるまでは、死んでもらうわけにはいかないね」
「正義のヒーローみたいじゃん。ジョーンズさん。ファンになろっかな」
「そうかい。ファンクラブ会員第一号の座でも譲ろうか?」
「いらなーい」
「ま、そうだな…少し休んだらまた出発しよう」

かすかな陽が二人を照らしている。

行く先も知らない、不安定な二人を、包み込むかのように。

【H-6/坂/一日目/黎明】

【平沢茜@アースR】
[状態]:強気
[服装]:普通の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:主催を倒し、自らがこの殺し合いの主催になる
1:AKANEの元へ行く
2:ジョーンズには守ってもらいたい
3:叫、駆、嘘子の動向が気になる
[備考]※名簿は見てます

【レイ・ジョーンズ@アースEZ】
[状態]:困惑
[服装]:ボロボロのスワット隊員服
[装備]:スペツナズナイフ×4@アースEZ、小説『黒田翔流は動かない』@アースR、仮死薬@アースR
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:主催を倒す
1:一般人は保護
2:茜の話をもっと聞く。そのために今は茜を保護するのが先決か
3:マシロ、マグワイヤーが気になる
4:俺が作られた存在?
[備考]

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最終更新:2015年07月07日 20:15